[震災10年 復興の先へ] 「酪農復興」誓い前へ 800頭規模に成長 福島の牧場「フェリスラテ」
2021年01月23日

牛をなでながら福島の復興について語る田中代表(右)と丸森さん(福島市で)
東京電力福島第1原子力発電所事故で多大な被害を受けた福島県の酪農。復興を胸に誓い、被災者5人で立ち上げた福島市の復興牧場「フェリスラテ」は、飼養頭数800頭と東北トップクラスの規模に成長し、繁殖から子牛の育成、搾乳までの一貫生産体制を整えた。被災地の酪農をけん引し、完全復興に向けて歩みを進めている。(高内杏奈)
福島駅から車で約20分。市街地から西に進み、桃やブドウの果樹園を抜けると、3・6ヘクタールの広大な敷地に白く輝く牛舎がそびえ立つ。牛舎はフリーバーンで、牛は自由に歩き回り、ゆったりとわらをはむ。パーラーは一度に40頭搾乳でき、1日の出荷乳量は15トン。飼料作りは国内最大級のミキサーを使う。
「嘆き悲しむだけじゃ変わらない。酪農に関わり続けるため必死に築いた」と話すのは田中一正代表。牛舎の設計から携わった。
2014年に設立したフェリスラテは、福島県酪農業協同組合が事業主体。田中代表ら被災した酪農家に呼び掛け、5人が役員として運営。19年には分場をして、震災後は酪農が途絶えていた飯舘村で乳牛の育成を始めた。もと牛の育成に限定した牛舎で200頭を飼う。県内で繁殖から育成、搾乳までの生産システムを整えた。「道のりは長かった。福島の酪農を再建したい、その思いだけでやってきた」(田中代表)。
事故当時、県酪農協の組合員のうち3割が浜通り地区におり、その大部分が避難指示区域になった。区域外への流出・餓死・事故死した牛は約2500頭に上り、同県酪農の基盤が大打撃を受ける事態になった。
飯舘村にいた田中代表も、当時飼っていた乳牛50頭の半数を殺処分せざるを得なかった。「何が何だか分からない状況。牛をと畜場に運ぶ家畜車が自分の所に来た時は、悲しみと牛に対しての申し訳なさでいっぱいだった」と振り返る。
関東の大規模牧場で経験を積んだ田中代表は01年、同村長泥地区を経営の場に決めた。“俺の牛舎だ”と胸を張って見上げた時の牛舎の香り、優しい風、期待感を今でも覚えている。ただ牛が好きだった。
そんな思い入れのある村から避難を強いられ、知り合いを頼りに隣県の牧場で働いた。「やっぱり出発点の福島で、もう一度酪農をしたい」。県酪農協から打診があったのはそんな時だった。
フェリスラテの従業員約30人のうち、7人はまだ20代だ。田中代表はマニュアル化や月1回の勉強会を通して次世代育成に取り組む。
搾乳担当の丸森成美さん(23)はテレビ番組でフェリスラテを知り、短大卒業後に就職した。「若手の意見を尊重してくれる。福島の復興に向け、もっと戦力になりたい」と笑顔を見せる。
長泥地区は今も避難指示が解除されていない。田中代表が考える完全復興は、出発点だった長泥地区でもう一度酪農ができるようになることだ。「ハード面の復興は進んだが、『時間が進んでいない場所』がある現実を無視できない」と強調する。
今後は和牛肥育を拡大する予定だ。完全復興のその時まで、フェリスラテの挑戦は止まらない。
一貫生産体制整える
福島駅から車で約20分。市街地から西に進み、桃やブドウの果樹園を抜けると、3・6ヘクタールの広大な敷地に白く輝く牛舎がそびえ立つ。牛舎はフリーバーンで、牛は自由に歩き回り、ゆったりとわらをはむ。パーラーは一度に40頭搾乳でき、1日の出荷乳量は15トン。飼料作りは国内最大級のミキサーを使う。
「嘆き悲しむだけじゃ変わらない。酪農に関わり続けるため必死に築いた」と話すのは田中一正代表。牛舎の設計から携わった。
2014年に設立したフェリスラテは、福島県酪農業協同組合が事業主体。田中代表ら被災した酪農家に呼び掛け、5人が役員として運営。19年には分場をして、震災後は酪農が途絶えていた飯舘村で乳牛の育成を始めた。もと牛の育成に限定した牛舎で200頭を飼う。県内で繁殖から育成、搾乳までの生産システムを整えた。「道のりは長かった。福島の酪農を再建したい、その思いだけでやってきた」(田中代表)。
原点の地でもう一度
事故当時、県酪農協の組合員のうち3割が浜通り地区におり、その大部分が避難指示区域になった。区域外への流出・餓死・事故死した牛は約2500頭に上り、同県酪農の基盤が大打撃を受ける事態になった。
飯舘村にいた田中代表も、当時飼っていた乳牛50頭の半数を殺処分せざるを得なかった。「何が何だか分からない状況。牛をと畜場に運ぶ家畜車が自分の所に来た時は、悲しみと牛に対しての申し訳なさでいっぱいだった」と振り返る。
関東の大規模牧場で経験を積んだ田中代表は01年、同村長泥地区を経営の場に決めた。“俺の牛舎だ”と胸を張って見上げた時の牛舎の香り、優しい風、期待感を今でも覚えている。ただ牛が好きだった。
そんな思い入れのある村から避難を強いられ、知り合いを頼りに隣県の牧場で働いた。「やっぱり出発点の福島で、もう一度酪農をしたい」。県酪農協から打診があったのはそんな時だった。
フェリスラテの従業員約30人のうち、7人はまだ20代だ。田中代表はマニュアル化や月1回の勉強会を通して次世代育成に取り組む。
搾乳担当の丸森成美さん(23)はテレビ番組でフェリスラテを知り、短大卒業後に就職した。「若手の意見を尊重してくれる。福島の復興に向け、もっと戦力になりたい」と笑顔を見せる。
長泥地区は今も避難指示が解除されていない。田中代表が考える完全復興は、出発点だった長泥地区でもう一度酪農ができるようになることだ。「ハード面の復興は進んだが、『時間が進んでいない場所』がある現実を無視できない」と強調する。
今後は和牛肥育を拡大する予定だ。完全復興のその時まで、フェリスラテの挑戦は止まらない。
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新型コロナウイルス禍による牛枝肉・肉用牛の価格下落を受け、農水省は2021年度の家畜共済に特例措置を講じる。肉用牛の評価基準について、コロナ禍で下落する前の……
2021年02月19日
国連食料サミット 国民合意の日本提案に
国連食料システムサミットが9月、米国ニューヨークで開かれる。新型コロナウイルス禍で脆弱(ぜいじゃく)性を露呈した食料の生産供給網の再構築や、気候変動対応などがメインテーマになる。今後の貿易ルールに影響を及ぼすことが考えられる。日本は国民合意の提案を策定し、積極的に関与すべきだ。
同サミットは持続可能な開発目標(SDGs)を2030年までに達成するための「行動の10年」の一環。グテレス国連事務総長が主催する。各国の首脳や閣僚、有識者、科学者、市民代表らが参加する。
SDGsには17の目標があるが、「貧国をなくす」と「飢餓の撲滅」はコロナ禍で達成が危ぶまれる状況だ。飢餓人口は増加に転じた。国連は同サミットを「全てのSDGsを達成するための世界の旅の分岐点になる」と協力を呼び掛ける。
主な課題は①量・質両面からの食料安全保障②食品ロスの削減など食料消費の持続可能性③環境に調和した農業生産の推進④農村地域の収入確保⑤食料供給システムの強靭(きょうじん)化──だ。それぞれでゲームチェンジャー(状況を変える突破口)となる提案を各国に求めている。日本は現在、農水省が「みどりの食料システム戦略」の取りまとめ作業を進める。夏にローマで開かれる準備会合に向け、5月の策定を目指す。
多岐にわたる課題の中で、特に注視すべきなのは環境対応だ。地球温暖化の国際ルール「パリ協定」と連動する形で、農業・食料分野での積極的な貢献を意識した議論になりそうだ。米国の同協定復帰や日米の温室効果ガス「2050年実質ゼロ」表明により弾みがつき、その波は農業にも及ぶとみるべきだ。世界の同ガス排出量の4分の1を農林業関連が占めている。
気候変動対応で世界をリードする欧州連合(EU)の動きが出色だ。昨年5月、「農場から食卓へ(Farm to Fork)」と題した新戦略を打ち出した。肥料農薬の使用抑制や畜産飼料の脱輸入依存、有機農業の拡大などで数値目標を設定、一段と環境重視型農政にかじを切った。「地球の健康を守りながら食の安全を保障する新しいシステム」(欧州保健衛生・食の安全総局)とし、市民の支持を得られると自信を見せる。
EUはこうした規律を2国間貿易協定などに適用する姿勢だ。これに対し米国は「農業生産を低下させ小売価格の上昇をもたらす」(農務省)と批判、さや当てが始まっている。日本も「諸外国が環境や健康に関する戦略を策定し、国際ルールに反映させる動きが見られる」(農水省)と注視。みどりの食料システム戦略づくりを急ぐ。
その際重要なのは、国民の関心の高まりだ。政府は農業者、消費者、企業、市民社会を巻き込んで、望ましい食料生産流通の将来像について合意形成に尽くすべきだ。それでこそ日本の提案に「魂」が入るだろう。
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2021年02月23日
きょうは茂吉忌
きょうは茂吉忌。医者にしてわが国を代表する歌人である。斎藤茂吉の代表作は「死にたまふ母」の連作であろう▼〈みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞただにいそげる〉。山形県の農家の三男に生まれ、早くして養子に出された。東京で精神科医として名を成したが、母への思慕はやみ難い。母危篤の知らせを受け詠んだ歌である。死の床にある母への絶唱歌は〈死に近き母に添寢のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる〉。カエルの鳴き声は茂吉の慟哭(どうこく)である▼コロナ禍で、親の死に目にも会えない人の心中はいかばかりか。茂吉は若い頃、スペイン風邪にかかった。発熱や肺炎に加え、せきや倦怠(けんたい)感の後遺症に悩まされた。同郷の歌人に宛てた手紙は医者らしい予防策をつづる。「直接病人に近づかざること」に始まり、マスク着用、塩水うがいなどを列挙。熱が出たら絶対安静とある▼茂吉のもう一つの顔が旺盛な食欲。作家の嵐山光三郎さんは「もの食う歌人」と称した。大のウナギ好きで知られた。病院の焼失、夫婦関係など私生活では苦労が絶えなかった。嵐山さんは、食べることを生きる力に変えたと書く▼〈あたたかき飯(いい)くふことをたのしみて今しばらくは生きざらめやも〉。食べて生きて歌に昇華させた70年の人生だった。
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2021年02月25日
鶏卵価格上げ基調 10カ月ぶり200円台 鳥インフル影響
鶏卵価格が上げ基調だ。18日のJA全農たまごのM級基準値(東京)は、前日比10円高の1キロ200円。巣ごもりによる特需があった昨年4月以来10カ月ぶりに200円台に乗せた。高病原性鳥インフルエンザの影響による供給減に、大手ファストフードチェーンでの卵を使ったメニューの開始に伴う需要の高まりが重なり、不足感が強まっている。……
2021年02月19日

広島菜漬 きざみ 広島・JA庄原
広島県のJA庄原が、生産者が育てた広島菜を浅漬けにし、丁寧に手作業で刻み、袋詰めした。包丁を使う手間が省ける。
JA管内で栽培された肉厚で風味豊かな広島菜の外葉を中心に使う。着色料、保存料を使わず、広島菜特有のしゃきっとした歯応えが特徴。お茶漬けやチャーハン、パスタの具材としても楽しめる。
広島県をイメージしたパッケージが目を引く。100グラム入り240円。広島市の「JA交流ひろば とれたて元気市」、東広島市の「JA交流ひろばとれたて元気市 となりの農家店」、県内のAコープ店などで販売する。
問い合わせはJA庄原広島菜加工場、(電)0824(72)4661。
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2021年02月19日
地域の新着記事

豪雪地帯の除雪ボランティア コロナ乗り越え作業 新潟県「スコップ」
日本海側を中心に記録的な豪雪に見舞われている日本列島。例年なら全国から多くの除雪ボランティアが駆け付けるが、今冬は新型コロナウイルス禍を受け、思うように動けない状況が続く。「除雪に来てくれるのは本当にありがたいが、一方で感染の不安もある」と、受け入れ側もジレンマを抱える中、都市と農村をつなぐ善意の活動をつなげようと奮闘する地区もある。(雫石征太郎)
もっと活動したいが…
新潟県糸魚川市の市街地から山あいに沿って車を30分ほど走らせると、次第に雪景色が広がる。23戸が暮らす柵口(ませぐち)集落に着く頃には、2メートル超の雪の壁が道路両脇にそびえ立つ。周辺に温泉やスキー場があり、場所によっては積雪3メートルを超える。
近年は高齢化が進んで住民だけで除雪するのは難しく、雪で倒壊する空き家も増えてきたという。
山梨県の石川宏さん(67)ら除雪ボランティア「スコップ」のメンバーは22日、集落の高齢者宅周辺の除雪作業に汗を流した。感染対策を徹底し、マスクを着けながらの作業となった。「息苦しいけど、困っている人の助けになればうれしい」。石川さんらは、木造家屋におしかかる雪をスノーダンプやスコップを使って手際よく片付けていった。
新潟県が事務局を務める「スコップ」は、除雪や都市との交流拡大などを目的に、1998年度から活動を始めた。登録者数は2021年1月時点で2134人に上り、6割が県外在住だ。特に東京都など関東圏が半数を占める。記録的少雪だった19年度の活動実績はないが、18年度は6市町(7地域)で10回行い、延べ174人が参加した。
大雪となった20年度はコロナ禍を受けほとんどが受け入れを中止し、柵口集落が初の活動となった。緊急事態宣言が発令された地域や感染者が多い地域のメンバーは対象外とし、石川さんを含め県内外の11人が参加した。県地域政策課の安藤由香主事は「毎年受け入れている地域もあり、今年も除雪の需要はあるはず。ボランティアをきっかけに土地のファンになったという都市住民もいるだけに残念だ」と話す。
「スコップ」は地域住民との交流も活動の一環と位置付ける。しかし柵口集落では“密”になる懇親会は行わず、メンバーは、前日の21日に屋外で開かれる地域のイベント「かまくら祭り」に参加。道路脇の雪の壁に穴を開けて明かりをともす「キャンドルロード」の設営も手伝い、イベントに花を添えた。
同集落区長を務め、水稲を2ヘクタールで栽培する土田茂さん(64)は「スコップに来てもらったのは3回目で、ボランティアの力は本当にありがたい。コロナ対策など慣れない部分はあったが、受け入れることができてほっとしている」と、安堵(あんど)の表情を見せた。
高齢化深刻 交流事業は不可欠
国土交通省によると、糸魚川市を含む全国201市町村が特別豪雪地帯に指定されている。
同地帯の人口を1965年と2015年で比べた場合、32・8%減少している(全国では同28・1%増)。高齢化率も33・1%(2015年)と右肩上がりで、全国の26・6%に比べ深刻だ。
新潟県内の除雪作業中の死傷者は、今冬は242人に上る(22日現在)。うち65歳以上が146人と半数以上を占めた。土田さんは「除雪は高齢者にとって負担が大きいが、過疎化で作業の担い手は減る一方」と指摘。地域のにぎわいのためにも、コロナ禍が終息するよう願っている。
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2021年02月25日

都市農業の今 映像化 一橋大・農林中金寄付講義 現地へ行けない学生向けに
東京の都市農業の魅力を映像化しインターネット上で公開するプロジェクトに、農業関連ウェブメディアの運営会社「ぽてともっと」(東京都国立市)が取り組んでいる。新型コロナウイルス禍でフィールドワークができない大学生に、都市農業の現状を伝えるのが目的だ。新規就農者やベテラン農家、JA関係者のインタビューを中心とした動画を公開し、一般の人にも農業への理解を深めてもらう。
農家ら取材 魅力深掘り ネットでも広く発信
動画作成は、同社代表の森田慧さん(25)の母校でもある一橋大学の経済学研究科で行われている、農林中央金庫の寄付講義「自然資源経済論」のプロジェクトから相談されたことがきっかけ。5分半~8分の動画を計8本作成した。
コロナ禍の影響で、学生は農業現場のフィールドワークができない状況が続いていた。プロジェクトの担当者から「学生に現場を知ってもらう手段はないか」と相談され、映像で伝えることを提案した。
取材には昨年秋から取り掛かり、生産緑地で新規就農した東京都日野市の川名桂さんや、八王子市で酪農を営む磯沼ミルクファームの磯沼正徳さんら農家を当たった。東京の地場産野菜の集荷・販売を手掛ける国立市の「エマリコくにたち」や、販売・購買・指導など事業が多岐にわたるJA東京むさしも取材した。
農家の車に1日同乗させてもらって話を聞いたり、JAや流通関連会社に1週間かけて取材・撮影したりした。現場の様子を深く知ることができたという。
同大では昨年末、動画を基に学内でシンポジウムを開催。森田さんも交えて都市農業について理解を深めた。
動画は同社制作の都市農業をテーマにしたサイト「モリタ男爵の農業まるごとリポート」でも、1月下旬から公開している。
以前から日本の農業に関心があり「今後は全国の農業現場を映像に残すことに取り組みたい」という森田さん。「農家の話を聞き、撮影することで、立体感のある記録として残せる」と、映像の持つ効果を生かして次の世代に農業を引き継いでいきたい考えだ。
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2021年02月23日
二地域居住推進へ全国協 600自治体 事例共有 国交省
国土交通省は、地方と都市に二つ以上の生活拠点を持つ「二地域居住」を全国規模で推進するため、自治体や関係団体などが参加する協議会を3月に設立する。601の自治体と29の関係団体・業者が既に参加を決めている。農村を含め地方の人口減少に歯止めがかからない中、有効な施策の検討やノウハウの共有を進め、新たな人口を呼び込む契機を各地で作りたい考えだ。
「全国二地域居住等促進協議会」として発足する。36都道府県と565市区町村に加えて、移住推進や空き家バンクの運営組織など29団体が参加を決めている。会長に長野県の阿部守一知事、副会長に和歌山県田辺市の真砂充敏市長と栃木県那須町の平山幸宏町長が就く予定だ。
「二地域居住」を通じ、地方移住や関係人口増加を促す。居住者には農村の伝統行事や、地域の清掃活動などにも参加を促し、地域コミュニティーの活性化につなげたい方針だ。
協議会ではまず、先行して二地域居住が増えている自治体のノウハウ共有を進める。具体的には3月中にホームページを立ち上げ、関連施策や先進事例を紹介する。二地域居住を望む人が住宅を確保できるよう、空き家バンクの有効な活用方法などを発信する。
意見交換の場としても活用する。地域外からの居住者と地元住民がどう関係を深めていくかなど、二地域居住を推進・拡大していく上での課題と対応方法などを参加自治体、組織が話し合うことも想定する。
新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入する企業が増え、都市部に拠点を置きながら地方暮らしを検討する人が多くなっている点に着目。同省は、「二地域居住の潜在的な需要は高い」(地方振興課)とみている。
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2021年02月23日
ガソリン携行缶 扱い注意喚起 国民生活センター
国民生活センターは、農機具用などのガソリンを入れる携行缶の取り扱いを誤ると、ガソリンが漏えいや噴出し、引火・爆発事故が発生する危険があり死傷者も出ているとして注意を呼び掛けている。ガソリンは引火性が高く、小さな火種でも引火する危険性がある。
同センターによると、……
2021年02月21日

[活写] 丹精5色 敷き詰めて
福井市美山地区で、地元産の野菜を使ったカラフルな「かき餅」の乾燥作業が進んでいる。
かき餅は北陸地方で農家などが冬に作る保存食。薄く切った餅を寒風で乾燥させて作る。これを、地元産の野菜でアレンジしたのが、同地区の主婦7人でつくる加工グループ「美山そば工房木ごころ」だ。使う野菜は全て地元産で、5種の味を開発。赤色は地域の伝統野菜「河内赤かぶら」の粉末を練り込んだ。緑色はヨモギで黄色はカボチャ、ゴマ、トウガラシもある。
通常、ひもでつるして干すかき餅を、同グループは、乾燥時の割れや曲がりを防ぐため、乾燥台に並べて干す。
代表の田中康子さん(74)は「昨年はイベントの中止が相次ぎ販売に苦戦した。今年はコロナが落ち着いて多くの人に食べてほしい」と話している。
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2021年02月21日

農系ポッドキャスト盛り上がり 全国で25以上の番組配信 若手農家中心 熱い思い伝えたい
インターネットでラジオのように音声を配信するポッドキャスト=<ことば>参照=を使い、農家らが番組を発信する“農系ポッドキャスト”が盛り上がっている。自らの思いや挑戦、日常の出来事を発信する道具として若手農家中心に注目され、全国で25以上の番組が配信されている。昨年末には配信者らで総会議を開き「農系ポッドキャストの日」を決定。農家同士や消費者とのつながりにも役立っている。
毎月1日が記念日 エピソード配信、SNS投稿
「農系ポッドキャスト」は農業に関わる人が配信する番組の総称で、一つのジャンルとして認知度を高めている。福岡市の農家3人で2014年から番組を配信し、農系ポッドキャストの中心的存在である「ノウカノタネ」の鶴田祐一郎さん(34)は「農作業中にラジオを聞く人が多く、なじみやすいメディア。農業に興味のある消費者もリスナーとして増えている」と話す。
昨年末には鶴田さんの主導で、配信者が集まった総会議をウェブ上で開いた。委任状を含め17番組の代表者らが参加。緩やかなつながりや既存のリスナーが他の番組を知るきっかけをつくるため、毎月1日を「農系ポッドキャストの日」とすることを決めた。1日に合わせ各番組でエピソードを配信したり、ツイッターなどのインターネット交流サイト(SNS)でハッシュタグ「#農系ポッドキャストの日」を付けて投稿したりと盛り上げている。
鶴田さんは「雑談の中で、農家もいろいろ考えていると知ってもらうきっかけになり、番組を通じたつながりも広がっている。ぜひ農家は始めてみてほしい」と呼び掛ける。
挑戦テーマ、共感獲得 三重県四日市市 おみそしるラジオ
「おみそしるラジオ」は三重県四日市市のキュウリ農家の阿部俊樹さん(39)、ナス農家の堀田健一さん(34)、会社員の住田良平さん(33)の3人がパーソナリティーを務める。「挑戦リアリティポッドキャスト」をテーマに、それぞれの挑戦を話題に語り合う。
番組名には、それぞれの挑戦を具材に見立て「みそ汁のような熱い栄養を届けたい」という思いを込めた。阿部さんは「失敗も含めて等身大の自分たちを発信している。聞いた時に頑張ろうと思ってもらえる番組にしたい」と話す。
魅力の一つは自ら“公開作戦会議”と言うほどのオープンさ。2月上旬の配信では、阿部さんと堀田さんが小学6年生向けに行った出前授業の内容について、多くの人にも聞いてもらえるよう配信方法などを相談した。
2019年1月に番組を始め、これまでに70本以上を配信。週1回、午後8時ごろに阿部さんの自宅倉庫に集まり収録している。固定リスナーは300人、総ダウンロード数は約4万に上る。「みそなー」と呼ぶリスナーからの便りは週10通ほど届き、阿部さんや堀田さんの野菜を購入する「みそなー」も出てきた。
「消費者とのつながりが目に見えて新鮮だった」と堀田さん。農家同士のつながりも生まれ、住田さんは「農系の仲間として応援してもらっている」と実感する。
<ことば>ポッドキャスト
インターネット上に音声を配信する方法の一つで、ウェブサイトやスマートフォンアプリを通じて無料で聞ける。音声データをダウンロードしてオフラインで聞くこともできる。録音・編集環境があれば誰でも取り組め、ニュースや教育、ビジネス、歴史など多様なジャンルの番組がある。
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2021年02月20日

救え忙殺の保健所 コロナ感染の子ども観察 注目集める「静岡市方式」
JA静岡厚生連静岡厚生病院(静岡市)の小児科診療部長、田中敏博医師は、新型コロナウイルスに感染して自宅やホテルで療養する中学生以下の子どもに対し、保健所に代わり電話で診察している。静岡市保健所などによると、同様の取り組みは全国で同病院が唯一。子どもや保護者らの不安を取り除くとともに、感染者への対応で多忙を極める保健所職員の業務軽減の一助になっている。(前田大介)
診察のきっかけは昨年8月、市が地元の医療関係者らと、日本小児科学会の考えに準じて、新型コロナに感染した子どもは比較的軽症なため、原則「自宅などで療養する」と申し合わせたことだ。
ただ、自宅療養になれば相談できる主治医が周りにいないことになる。田中医師は、子どもらの不安を拭うためにも「電話などで対応できる臨時の主治医が必要」と提案、自ら診察を買って出た。
昨年10月から診察が本格始動。2月17日現在、新生児から15歳までの55人(濃厚接触者含む)と、保護者ら52人(同)を診察した。
まず対面で初診した後、療養する自宅などに田中医師が連絡し、体温、心拍数、酸素濃度、病状などを確認した上で、今抱えている悩みなども聞く。時間は午前9時ごろと午後5時ごろの1日2回で、結果は保健所に報告する。現時点で症状が悪化して入院した例はないという。
田中医師は、この診察を市内の公的機関などと連携して構築したことから「静岡市方式」と命名。「どうやってやるのか」などと、県外から問い合わせが来ているという。「保健所の負担が減るこの方式が全国に広まればうれしい」と力を込める。
市保健所はこの動きを歓迎する。同保健所は、新型コロナ関連(患者、濃厚接触者)で1日最大約600人の健康観察をしている。1人につき確認事項が10以上あり、10分程度要することもある。保健師数人で対応しているため、1人ずつ丁寧に向き合うのは至難の業だという。
加治正行所長は「業務が軽減し助かっている。通常は保健師が聞き取るが、小児科の医師が診察するだけに、子どもや保護者の安心感が違う」と話す。
全国の保健所の業務に詳しい浜松医科大学(静岡県浜松市)の尾島俊之教授によると、コロナの影響で患者が多い地域では業務が逼迫(ひっぱく)し「労働時間が過労死ラインを超える職員が目立っている」という。
保健所数が多い時に比べ半減していることにも触れ「行財政改革などで保健所の数を減らし、職員数も減ったことが、この事態の一因」と指摘。その上で「臨時で主治医を買って出る医師がもっと増えてほしい。小児科に限らず、高齢者にも対応できる医師が出てくれば、全国的な業務軽減につながるはずだ」と期待する
<メモ>
厚生労働省の統計(速報値)によると、国内の10代以下の新型コロナ感染者は、10日現在で3万8226人。感染者全体(41万3495人)に対する割合は9%となっている。死者は1人も確認されていない。
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2021年02月19日
手探りの不安熟練者が解決 ネット相談サイト立ち上げ 長野県佐久市・井上隆太郎さん
長野県佐久市でイチゴ園などを経営する井上寅雄農園代表の井上隆太郎さん(28)は、新規就農者や家庭菜園を楽しむ人と経験豊富な農家を結び付けるサイト「アグティー」を立ち上げた。ビデオ通話やチャットを通じて経験……
2021年02月19日

復興の地に力強く 福島産フキのとう 市場で好評
春を告げる山菜のフキのとうで、福島産が高い評価を得ている。JAの部会が一丸となった取り組みで生産量を維持しており、東京市場ではトップシェアを誇る。東日本大震災にも負けず、高品質な産品の出荷を続けている。
東京都中央卸売市場の昨シーズン(2019年11月~20年6月)の福島産フキのとうの出荷量は15トンで全国1位。市場占有率は震災後に11ポイント上昇し、現在は29%になる。1キロ単価は3549円となり、市場平均を22%上回るなど全国でもトップクラスの産地だ。
今シーズンもコロナ禍の中、1パック(100グラム)360円前後と前年並みの取引が続く。首都圏の市場関係者は「業務関係の引き合いは弱いが、春らしさを彩る商材としてスーパーでの売り場が広がっている」とみている。
震災以降、福島産の栽培フキのとうは、出荷前に圃場(ほじょう)ごとに放射線量の検査を受け、安全性を確認した上で出荷している。
東京市場では高齢化などもあり10年で全体の入荷量が3割落ち込む中、福島産は入荷量を維持し続けている。
主産地の一つ、JA福島さくらたむら地区では、57人の生産農家が約5ヘクタールで栽培する。JAの担当者は「新たに始める生産者が毎年出ており、10年間近く生産量を維持できている」と説明する。
中心となったのは11年に発足したJAフキのとう部会。目ぞろえ会や栽培技術の共有を続け、新たに取り組みやすい環境を整えてきた。
福島県田村市の白岩邦雄さん(83)も、10年ほど前から葉タバコに替わりフキのとうの栽培を始めた。「一つ一つが軽く、冬場の収入にもなる。体の動くうちは続けていきたい」と話す。
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2021年02月19日
群馬県警 果実窃盗団を逮捕 ベトナム国籍6人「母国に仕送り」
全国各地で農産物盗難が相次いでいる問題で、群馬県警は17日、同県高崎市の果物農園から梨を盗んだり販売したりしたなどとして、同県などに住む20~38歳のベトナム国籍男女6人を窃盗や盗品の処分あっせんなどの容疑で逮捕したと発表した。6人のうちインターネット交流サイト(SNS)を通じ梨を売っていた派遣社員の女(29)は動機について「母国にいる病気の母親に仕送りするお金が欲しかった」と供述している。
逮捕されたのは①窃盗容疑の20~31歳の男3人=前橋地検が起訴済み②この3人が盗んだとされる梨約90個(約3万5000円相当)を販売目的で譲り受けた盗品等有償譲り受け容疑の派遣社員夫妻③窃盗容疑の3人と夫妻を仲介した盗品等処分あっせん容疑の派遣会社員の38歳男。
県警高崎署員が昨年10月下旬、果実の盗難被害が相次いでいた高崎市内を警戒中、不審車を発見。近くの農園で梨197個がもぎ取られていたことが分かり、男3人を窃盗容疑で逮捕した。県警は被害品を密売するグループが他にいるとみて捜査。他3人を突き止め、17日朝、同市内などの自宅にいるところを逮捕した。同日逮捕した3人のうち男2人は容疑を否認、女1人(夫妻のうち妻)は認めている。
6人のうち仲介役の男は永住権を取得しており、県警は事件の中心的な役割を果たした可能性があるとみて、余罪がないか慎重に調べている。昨年1年間に群馬県内で梨の盗難被害届があったのは約5600個分(113万円相当)だった。
実行と密売 役割分担 仲介役の男 面識ない5人つなぐ
梨窃盗事件で群馬県警捜査3課が逮捕したベトナム国籍の男女6人のうち、窃盗の実行グループとされる男3人と、SNSなどを通じて販売していたという夫妻とは面識がなかった。両者をつないだのが仲介役の派遣会社員、グエン・トゥワン・アイン容疑者(38)とされ、どちらか一方の逮捕だけでは窃盗・密売グループの全体像にたどりつけない構図だった。
昨年から北関東で相次いだ豚の盗難事件に関連し、豚の解体や豚肉の販売などをしたベトナム国籍の男女約20人が相次いで逮捕された。しかし容疑者らは豚の入手先について「頼まれただけ」などと供述。盗まれた840頭の行方は分かっていない。
梨窃盗事件について県警は、窃盗容疑で逮捕した3人の他、販売や両者を仲介した別のグループがいるとみて3人の逮捕事実を公表しないまま捜査を続けていた。
一方、事件の中心的な役割を果たしたとみられているグエン容疑者は「私に関係のある話ではない」と容疑を否認している。
高級品が標的に
果実や野菜が盗まれる事件は2020年、全国各地で相次いだ。日本農業新聞のまとめでは、最大の標的となったのは高級果実のブドウ「シャインマスカット」や梨で、出荷時期の8、9月にかけて山梨や長野、群馬などの主要な産地で起きていた。警察に届け出のあった被害の総額は数千万円に上るとみられる。
北関東を中心に約1000頭が盗まれた豚や牛などの家畜盗難と異なり、農産物窃盗は犯人や犯行グループが各地に点在しているとみられ、被害届を受けた県警などがそれぞれ捜査している。
事件の背景として、新型コロナウイルス禍に伴う不況との関連が指摘されているが、収穫を前にした農産物の被害は毎年各地で確認されている。ただ、被害に気づかない場合や、警察に届けないケースも多く、被害の全体像は不明だ。
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2021年02月18日