北海道 こだわり生乳脚光 放牧・非GM飼料・飼養管理
2019年07月20日

放牧や非GM飼料といった生産にこだわる石黒さん(北海道幕別町で)
取引5年で4割増 乳価に加算、活用進む
北海道で酪農家の「こだわり」を乳価に加算する「特色ある生乳のプレミアム取引」の活用が進んでいる。アニマルウェルフェア(快適性に配慮した家畜の飼養管理)や非遺伝子組み換え(GM)飼料給与といった生産管理などに一定単価を上乗せするもの。取引に参加する乳業メーカーは増え、2018年度の取扱乳量は5年前比4割増。農家のこだわりを評価しながらマーケットイン(需要に応じた生産・販売)を目指している。
十勝地方にあるJA忠類管内の幕別町忠類地区で、乳牛約90頭を飼育する石黒和彦さん(54)は、よつ葉乳業の「よつ葉放牧生産者指定 ノンホモ牛乳」(よつ葉乳業共同購入グループへの限定販売)に使う生乳を出荷する。この生乳は、JA管内で①放牧②非GM飼料③アニマルウェルフェアの順守──に取り組む5戸が出荷し、プレミアム取引の対象だ。こだわった生産管理でコストがかかった分、一定の上乗せがあり、石黒さんは「生産のモチベーションが上がる」と評価する。
また同社は、十勝地方で非GM飼料を使う酪農家の牛乳を商品化する。その生乳の安定確保に向けプレミアム取引を活用。非GM飼料を使う牛乳の販売は好調で、一般消費者向けの18年度の売上数量は6年前から8割以上増加。付加価値のある生乳の確保で売り上げ増につなげている。
帯広市で乳製品を製造販売する十勝ミルキーは今年から、非GM飼料でジャージー牛を育てる酪農家とプレミアム取引を始めた。年間60~70トンの生乳を取引する計画で「搾りたて十勝ジャージー牛乳」などの商品に使う。乳脂肪分が高く濃厚で滑らかな味わいが特徴。消費者の健康志向に応える。同社の従業員は約10人。加藤祐功社長は「大手メーカーとの差別化には、特徴ある商品が重要」とプレミアム取引を通じて新商品開発を目指している。
取引を仲介するホクレンによると、プレミアム取引に参加するメーカーは年々増えている。生乳量ベースで18年度1万9660トン。全体の生乳量の1%に満たないが、5年前に比べ4割増えた。ホクレンは「今後も差別化に向けた製品開発は進むだろう。共同販売を母体にメーカーから希望があればプレミアム取引を拡大したい」とする。ホクレンの中期計画の「マーケットインを踏まえた生産・販売体制の強化」の一環で推進する構えだ。
<メモ>
「特色ある生乳のプレミアム取引」はプール乳価に加え、一定の単価を上乗せする仕組み。北海道では、ホクレンが生産者とメーカーの申し出を受け、各地区JA代表でつくる生乳受託販売委員会の意見を踏まえ、対象とするか決める。乳牛の種類や生乳の生産管理の方法、乳質の規格などの「こだわり」を見て判断する。単価はJA・生産者とホクレン、メーカーが、「こだわり」に対し、必要なコストと付加価値を算出する。現在、乳業メーカー4社が参加する。
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2019年12月11日

農水補正予算5849億円 政府・与党 和牛倍増へ奨励金
政府、与党は12日、2019年度農林水産関係補正予算案を固めた。総額は5849億円で、18年度に比べ152億円(2・5%)減。このうち来年1月に発効する日米貿易協定などの国内対策費は3250億円。目玉となる和牛生産の倍増に向けた「増頭奨励金」は、中小規模の農家への支援を手厚くするため、飼養頭数が50頭未満の繁殖農家に1頭当たり24万6000円を交付する方針だ。
増頭奨励金の交付単価は、50頭以上の農家が同17万5000円、都府県の乳用後継牛が同27万5000円とする。
奨励金を含む和牛・乳用牛の増頭・増産対策には243億円を計上。日米協定での牛肉輸出枠の拡大や中国への輸出解禁をにらみ、35年までに和牛生産を30万トンに倍増させる計画だ。
畜産地帯での機械や施設の整備を支援する畜産クラスター事業には409億円を充てる。規模要件を緩和し、中小農家の規模拡大を後押しする。
産地生産基盤パワーアップ事業(旧・産地パワーアップ事業)は348億円。流通拠点やコールドチェーンの整備に加え、中小・家族経営の継承の円滑化や堆肥を使った全国的な土づくりにも支援する。
担い手育成対策などには64億円を計上。40歳前後の就職氷河期世代に就農準備交付金を支給する他、50代の就農研修にも助成する。
棚田地域振興法の制定を受け、棚田・中山間地域対策に282億円を盛り込む。
公共事業費は2991億円。うち農地の大区画化・汎用化に270億円、水田の畑地化などに566億円を計上する。台風19号などの復旧対策は公共、非公共合わせて2144億円。
危害分析重要管理点(HACCP)に対応した輸出施設整備などに108億円、豚コレラ(CSF)やアフリカ豚コレラ(ASF)などの家畜伝染病予防費に57億円、先端技術を活用したスマート農業技術の開発・実証プロジェクトに72億円を計上する。
農林水産関係補正予算案は同日、農水省が自民党農林合同会議に示し、了承された。政府は13日にも補正予算案を閣議決定し、年明けの通常国会に提出する。
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2019年12月13日
ながら運転厳罰化 年末へ 気引き締めよう
社会問題化した「ながら運転」が厳罰化された。政府は「あおり運転」でも予定する。ルール違反はあってはならない。交通事故は被害者だけでなく加害者にもなり得る。しかも人生を狂わせかねない。慌ただしい年末年始、農村では自動車が生活に欠かせない。気を引き締めてルールの順守を徹底しよう。
自動車の運転中にスマートフォン(スマホ)などを持って通話したり、画面を操作したりする「ながら運転」。同運転が原因の交通事故は増加の一途にある。警察庁によると2018年は2790件で、13年の約1・4倍になった。
ドライバーがメールの確認に意識が向かい横断中の歩行者に衝突、また携帯電話の着信に気を取られて路肩を走る自転車をはねた死亡事故の事例がある。高速道路を運転しながらスマホで読んでいた漫画に気を取られ、前方を走るバイクに追突して犠牲者が出たケースもある。
自動車の運転中に2秒間スマホに見入った場合、時速40キロなら22メートル、60キロなら33メートル進む。その間、画面に意識が集中して周囲の危険を発見できなくなる。「直線道路だから」「一瞬だけ」といった考えで運転中にスマホなどを操作すると、重大事故につながりかねない。事故防止に向けて12月から厳罰化され、違反点数は3倍、反則金も高額になった。事故を起こした場合には一発免停の場合もある。
「あおり運転」も厳罰化の動きが進む。同運転に罰則を設けるため政府は、来年の通常国会に道路交通法改正案を提出する予定だ。通行を妨害する目的で車間距離保持義務や、急ブレーキ禁止などに違反し交通の危険を生じさせた場合を「あおり運転」と定義。違反点数は15点以上で即、免許取り消しとなる。
厳罰化で事故抑止に効果があるか。それは飲酒運転で示されている。東名高速で飲酒運転のトラックが乗用車に衝突して、幼児2人が亡くなるなどの事故が発生。危険運転致死傷罪の創設や、飲酒運転とその助長行為の厳罰化などが講じられた。その結果、飲酒運転による死亡事故は1998年の1268件から、18年には198件まで減っている。
また警視庁は今月、「ながら運転」で摘発されながら、出頭要請にいつまでも応じなかった38人を逮捕したと発表した。
ただ、「ながら運転」の罰則強化について、警察庁や政府広報が特設コーナーをホームページに設置して啓発しているが、ドライバーに周知されているか疑問だ。摘発するだけでなく法制度の変更を知ってもらい、「駄目なものは駄目」と強く訴える仕掛けが必要だ。
トラクターやコンバインに乗って農作業をする場合はどうか。田畑は公道でないため道路交通法の適用は受けない。しかし、スマホを凝視するような使い方は、周囲への注意を散漫にし転落などのリスクを高めるので控えるべきだ。
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2019年12月15日

[活写] こんがりきつね色
北海道滝上町の農家6戸がつくる「滝上町七面鳥生産組合」で、クリスマス向けの薫製作りが最盛期を迎えている。
各農家が7カ月ほど育てた七面鳥の半身を、ハーブや塩などが入った調味液に約2週間漬けて、蒸した後に桜のチップで約3時間いぶす。作業場には、きつね色に仕上がった七面鳥が並ぶ。
同組合の農家は畑作や酪農が経営の中心で、約30年前に冬の仕事として七面鳥の薫製を作り始めた。今では町の名物になり、全国から注文が入る。今年は今月6日に作り始め、18日までに約1800個を仕上げる予定。
組合長の畑作農家、佐々木渉さん(54)は「脂がのっておいしく仕上がった。クリスマスに家族で楽しんで」と勧める。値段は1キロ3000円。(富永健太郎)
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2019年12月12日
集落営農の持続性 広域連携と再編が鍵に
JA全中が開いた全国集落営農サミットは、これまでで最高の140人が参加した。存続の岐路に立つ集落営農組織の危機感を反映したものだろう。同サミットでの先進事例に学び、持続可能な地域農業確立へ広域連携と組織再編を急ぐべきだ。
第4回となる同サミットのキーワードは「広域化」「連携」「再編」の三つだ。総活役を務めた広島大学大学院の小林元助教は「生産基盤が大きく揺らいでいる。集落営農はあくまで手段。持続可能な地域に向け、今こそ知恵を絞る時だ」と強調する。JAグループは、今春の第28回JA全国大会で「集落営農組織間の広域連携、再編などによる規模拡大を支援する」と決議した。背景には、高齢化が進む中で地域農業の地盤沈下に歯止めがかからない実態がある。集落営農は「地域丸ごと」で農業を支える仕組みだ。だが、今の経営単位では存続が難しくなっている。
同サミットを肱岡弘典全中常務は「高齢化が進む中で集落営農組織は構造的課題を抱えている。米価変動リスクも高まる中で、情報交換を通じ今後の組織の在り方を考える大きな契機だ」と位置付ける。関係者に改めて衝撃を与えたのは、日本農業新聞の1面連載「ゆらぐ基 危機のシグナル」の10月4日付「集落営農の解散」だ。採算が悪化し集落営農組織の解散が増えている。今年2月現在の集落営農数は約1万5000で、前年より1%減った。組織が倒れたら、引き受けた農地が耕作放棄地になりかねない。
同サミットで発表された事例は、広域化、組織合併、あるいは地元JAと連携し別組織で試練に対応した。1集落単位では採算が取れず、コスト低減にも限界がある。最も深刻なのは、高齢化が進み、組織のリーダーやオペレーターの人材不足だ。
広島県東広島市高屋町の農事組合法人重兼農場は世代交代を一気に進め持続可能な集落営農を実践する先進事例と言えよう。同農場は設立から30年。発足時に生まれた30歳の山崎拓人さんが組合長を務める。前組合長は79歳。世代交代は、地域農業を守り次代につなぐ組織を最優先した結果だ。さらに個人―集落営農―共同組織の「3階建て」から成る広域連携の仕組みを作った。昨年、同農場を含めた地域内の5集落営農組織と地元JAで共同出資会社・ファームサポート広島中央を設立。その結果、より広域な農作業受託が可能となり、市内全域の農地維持が進む。
中山間地の岐阜県白川町にある農事組合法人ファーム佐見は3組織を合併した全国でも珍しい事例だ。組合員の意思統一や合併手続きでの曲折などは、再編による今後の新組織立ち上げの大きな参考になる。
今、重要なのは集落間連携による集落営農の新たな展開である。先進事例を参考に、地域の身の丈、サイズに合った地域農業の再生に知恵を絞りたい。
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2019年12月13日
地域の新着記事

[活写] 真の白でお正月
静岡県浜松市で正月飾りなどに使われる「ウラジロ」の収穫がピークを迎えている。ウラジロ科のシダ植物で、その名の通り葉の裏が白い。JA遠州中央の「遠州・山の香部会」に所属する農家のうち10戸が出荷に携わり、各自が所有したり借りたりする山の斜面の草を刈り、自然に生えたものを収穫する。
農家は持ち帰った形の良い葉を大きさで4段階に選別。「大」は50枚、他は100枚ずつ箱詰めし、東京・大田市場や豊洲市場に送り出す。
今季は、昨シーズンの731ケースを上回る1000ケースの出荷を目指し、来年1月まで収穫を続ける予定。同部会役員の金指勝郎さん(44)は「最近はプラスチック製の葉を料理に添えることも多いが、お正月には本物で彩ってほしい」と話す。(釜江紗英)
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2019年12月15日

良い年純国産で 「大門のしめ縄」最盛 愛知県岡崎市
愛知県岡崎市大門地区で作られる工芸品「大門のしめ縄」の生産が、最盛期を迎えている。鮮やかな青色の稲わらが特徴で、夏に専用品種を青田刈りして年末需要に備えてきた。地域に根差し、需要は堅調。今年は「地域団体商標」の登録も受けて、しめ縄産地のブランド維持に努める。
大門のしめ縄は明治時代に生産が始まった。いまは5戸で構成する大門〆縄(しめなわ)協同組合が、年間30万本を生産する。12月にピークを迎え、近隣のスーパーやホームセンターに並ぶ。
水稲は、しめ縄専用に品種「東海千本」または黒穂(古代米)を作付けし、7、8月に青刈りをする。大小さまざま25種類あるしめ縄に使うため、高さ1メートルほどで刈った後、追肥して再び50センチほどに伸ばして二番刈り、また三番刈りもして、多様な長さの稲わらを用意する。収穫後はすぐに乾燥させて、年末まで保管する。
組合の代表を務める蜂須賀政幸さん(62)は「暑い盛りに収穫するのは大変だが、きれいな青色を維持するために必要な作業だ」と話す。最盛期には約40戸のしめ縄農家がいたが、徐々に減少。それでも需要は堅調で、正月飾りとして、多くの住民が買い求める。
今年5月には、特許庁の地域団体商標に登録された。輸入品に押される中、稲わら生産からしめ縄作りまで一貫して行う“純国産”をアピールする。蜂須賀さんは「近年は需要に生産が追い付かないほどで、地域の正月には欠かせないもの。作り続けたい」と話す。
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2019年12月14日

台風19号から2カ月 復旧から復興へ 農業の未来どう描く
河川が氾濫し、大きな浸水被害が出た台風19号から2カ月。福島、宮城両県の被災地では農機が水に漬かって使えず、将来への不安を抱える農家も少なくない。農作業の受委託や機械の共同利用、高台への集団移転など対応策を探る動きも出ているが、地域農業の今後についての話し合いは、始まったばかりだ。(音道洋範)
機械共同利用を模索 福島県鏡石町
「来年、代わりに植えてくれないかという話がいくつか来ている」と語るのは福島県鏡石町の農業、圓谷正幸さん(51)だ。台風19号では町内を流れる阿武隈川の堤防が決壊。圓谷さん宅のある成田地区は川沿いの平たん地のため、80世帯のほとんどが被災した。
地区では各農家が、トラクターから精米機までをそろえて作業していたが、水没で多くが利用できなくなっている。現在、圓谷さんには水稲2ヘクタールの作付け依頼がある。被災をきっかけに離農も心配されている。
圓谷さん自身、自宅は床上浸水し、キュウリ栽培のビニールハウスも流された。トラクターやコンバインなどほぼ全ての農機具も全損し「損害額は3000万円以上」と話す。例年2月には促成キュウリの栽培が始まるが、ハウスや暖房器具の再建はこれからだ。
圓谷さんは、国の支援事業などを活用しながら再建を目指しているが、「今後はライスセンターの整備をはじめ、地域で機械の共同利用を行うなど地域農業の在り方を考えなければならない」と話す。
同地区は川が運んだ豊かな水と土で良い作物が取れる半面、約30年前にも住宅再建が必要なほどの大規模水害が起こっている。農家の中には将来への不安や「何回も支援を受けて再建するのはどうか」と苦しい胸の内を話す人もいるという。
台風19号による鏡石町の農業被害額は約11億7900万円に及ぶ。町は「農家からは住居や農業施設などの高台への移設を要望する声も上がっている」(産業課)とし、復興策について住民との話し合いを加速させたい考えだ。
集団移転の議論始動 宮城県大郷町
河川の堤防決壊を受け、集団移転への議論を始めた地区もある。
宮城県大郷町では吉田川が決壊し、床上・床下を合わせて204戸の住宅が浸水被害を受けた。町では川沿いの地区を、川から離れた場所へ移転させる“集団移転”に向けた議論が始まった。
町は11月、被害の大きかった中粕川と土手崎・三十丁の2地区の住民143世帯を対象に対面アンケートを実施。118世帯から回答を得た。
このうち、中粕川地区では、集団移転について「条件次第(受動的)」との回答が29・5%と最多。一方で全壊世帯に限ると「推進」が29・4%と最も多く、「条件次第(積極的)」と合わせると47%と半数近くが移転に前向きであることが分かった。
町の千葉伸吾参事は「住民の意向を復興政策に反映させていきたい」とコメントするが、話し合いは始まったばかりだ。町は12月22日にも復興基本方針を住民に説明する予定だ。
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2019年12月14日

ドローンで空輸 できたらいいな 取れたて野菜 即店頭へ 秋田県仙北市が試験
秋田県仙北市は国家戦略特区の認定を生かし、ドローン(小型無人飛行機)を使って青果物を運搬する実証試験に乗り出した。輸送条件の良くない中山間地域での青果物の運搬に、ドローンが使えるかどうかを確かめる。農薬散布など農業への利用が広がる中、運搬用には法規制などもあり乗り越えるべき壁はまだ多いが、人手不足が深刻な中山間地域でのドローンへの期待は大きい。(音道洋範)
ホウレンソウが空を飛ぶ──。11月中旬、市内の中山間地域で行った実証実験では、農家民宿から収穫したてのホウレンソウと焼きたてのおやき約2キロを、2・8キロ先の直売所に向けて運搬した。
中山間 3キロ10分で到着
民宿の裏庭から飛び立ったドローンは、上空50メートルほどまで上昇した後、あらかじめ設定しておいた経路に沿って直売所まで飛行した。10分ほどで直売所近くの広場に到着し、すぐさま店頭に商品が並んだ。
実験に協力した農家民宿「星雪館」の代表、門脇富士美さん(48)は4カ所の直売所で野菜などを販売する。輸送に往復1時間近くかかる場所もあるため「ドローンに運搬を任せることができれば、空いた時間で他の仕事をできるようになる」と期待する。
法律、価格、天候 壁高く
仙北市では2015年に国家戦略特区の認定を受け、ドローンの活用に取り組んでいる。市内では既に農薬散布用のドローンは実用段階に入った。市農業振興課によると、農家が市の助成事業を活用して7台を購入。来年度はさらに10台近くが増える見通しだ。担当者は「年齢や法人、個人を問わず、幅広い場所で使われ始めている」と説明する。
ドローンの運行を担当した東光鉄工(秋田県大館市)によると「自律飛行は技術的に可能なレベルに到達している」が、法律上の規制が運搬用途での実用化に向けた課題になっているという。
国土交通省が今年8月に公表したガイドラインでは、ドローンを飛行させるには、原則として目視による確認が必要。今回の試験では複数の補助者が配置され、飛行ルートと並行する鉄道会社の職員も監視するなど、警戒態勢が取られた。そのため、「現状では車を使って輸送する方が効率的」との声も上がる。
価格面も課題だ。門脇さんは「1台10万円くらいなら手が届く」と話すが、物資運搬が可能な大型機は100万円を超えることがほとんどで、手軽に購入することはまだ難しい。また、試験時の天候は雨交じりで「強い雨の中では電気回線に不具合が出る可能性がある」として直前まで飛行が危ぶまれた。
市地方創生・総合戦略室の藤村幸子室長は、目視外飛行への法規制などさまざまな課題があるとしつつ「ドローンは人手不足が深刻な中山間地域にとっては有効な手段。実証試験を繰り返して課題を克服し、将来的な実用化につなげたい」と話している。
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2019年12月12日

みんな二度見!? オート三輪 走る広告塔 茨城県常陸太田市の椎名理さん
茨城県常陸太田市で「てるちゃんぶどう園」を営む椎名理さん(59)の愛車は、昔懐かしいマツダのオート三輪。手直ししてピカピカに磨き上げ、現役で農作業に使っている。車体にはぶどう園のPRロゴを入れ、走る広告塔としても役立てている。
椎名さんは1・3ヘクタールの園で「巨峰」や「常陸青龍」「シャインマスカット」を栽培するブドウ農家。若い時から車好きで20代前半にMG・ミジェットを手に入れて古い車の面白さに目覚め、今では倉庫にオールドカー10台ほどを所有する。
オート三輪を手に入れたのは10年ほど前。県内の倉庫に眠るオート三輪があると知人に紹介され見に行くと、珍しいマツダのT1500だった。1971年製で比較的状態も良く、トラックなので農業に使えると思い、譲ってもらった。
手を入れて乗り始めたが、古い車両のため故障はつきもの。部品もなく親しい修理工場に頼んで直してもらっている。維持費は掛かるが苦にはならない。運転していると、対向車から注目され、工事の人が手を休めて見入ることも度々。駐車していると、懐かしがって話しかけてくる中高年も多いという。
そこで、「てるちゃんぶどう園」のロゴを入れた。それからはさらに目立つようになり、ブドウ園の名も知られるようになったという。今は「おいしいよ常陸太田のぶどう」や「だいすき常陸太田」のロゴも入れ、地域のPRにも一役買う。
椎名さんは「道の駅にわざと寄ったりして楽しんでいる。大切に乗り続けていきたい」と話している。
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2019年12月10日
気候非常事態 長野県が宣言 都道府県で初
長野県は6日、世界的な気候変動への危機感と地球温暖化対策への決意を示す「気候非常事態宣言」を都道府県として初めて発表した。2050年までに県内の二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにすることを目指す。
県議会が同日、台風19号被害やスペインでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)開催などを背景に、宣言を出すよう県に求める決議を全会一致で採択。これを受けて県が宣言を発表した。宣言では、国内で頻発する気象災害と世界的な異常気象、気候変動に触れ、「この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできない」と強い危機感を示した。
県は、太陽光発電や小水力発電といった再生可能エネルギーの拡大、省エネ対策の強化などで、CO2排出量の実質ゼロを実現したい考え。阿部守一知事は会見で「広く県民一丸となって気候変動対策を進めていきたい」と強調した。インターネット中継で阿部知事と会談した小泉進次郎環境相は「台風で大きな被害を受けた長野県が宣言したことは象徴的。来週参加するCOP25で発信したい」とエールを送った。
宣言は、地球温暖化対策を加速させようと欧米諸国を中心に広がっている。欧州連合(EU)の欧州議会が11月に採択した他、国内では長崎県壱岐市、長野県白馬村などが宣言している。
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2019年12月07日

ビワ大産地 台風15号3カ月 復旧「素人には無理」 倒木、落石、通行止めもまだ… 千葉県南房総市
台風15号の被災から9日で3カ月。全国屈指のビワ産地、千葉県南房総市では農道や園地を覆った倒木、落石が片付けられず復旧が思うように進んでいない。急斜面の園地も多く撤去には危険が伴うため「素人には不可能だ」と話す農家もいて、行政などの支援を強く求めている。(関山大樹)
行政支援を切望
千葉県は、産出額8億円(2017年度)を誇る全国2位のビワ産地。だが9月の台風15号の強風で、木が倒れるなどの被害が出た。県によると、20年の見込み被害額は5億9000万円に及ぶ。
同市の沿岸部にある南無谷地区は、地域の山の多くがビワ山だという。「園地を見ると心が折れる」。ビワ農家の木村庸一さん(58)が落ち込んだ表情で話す。60アールのビワ園は、来シーズン半分以上が収穫できなくなった。
山中にあるビワ園は曽祖父の代から守り、かつては皇室に献上するビワも生産した。ビワは花や幼果が寒さの影響を受けやすいため、冬に風が吹いて霜が降りにくく、寒さが滞らない山の急斜面で栽培される。
台風の強風で、山中のビワの半分以上が折れたり、根こそぎ倒れたりした。急斜面のため現在も、石や折れた木が落ちてくる可能性がある危険な状態だ。
木村さんは、チェーンソーで一部倒木の除去や倒れた木を元に戻すなど尽力したが、19、21号と続いた台風で、修復しても元に戻る“いたちごっこ”の状態が続いた。
険しいビワ山を通る農道も、50年ほど前から農家らが協力して作り、コンクリートで舗装し管理してきた。台風直後は、強風や大雨による倒木や落石で通れなくなり、今も山奥に行くにつれ倒木が手つかずの場所もあり、一部のビワ園は立ち入れない。
木村さんは「山中での作業なので撤去は危険が伴う。安易に除去できない木もあり、全ての倒木や落石の除去は素人には不可能だ」と訴え、倒木や落石の撤去などへの行政支援を訴える。
房州枇杷(びわ)組合連合会が、66人の組合員に行った台風被害調査によると、被害額は10月末時点で1億648万円、来年の売り上げは3億円減少する見込みとなった。連合会によると、実際の被害金額はさらに多い見通しだ。
連合会会長で、南房総市のビワ農家、安藤正則さん(63)も園地半壊の被害を受けた。安藤さんは「このままの状況だと復興は1、2年じゃ到底終わらない」と危機感を募らせている。
ビワは苗木を植えてから収穫まで、5年ほどかかる。園地の再建について高齢農家ほど意欲に陰りがあるとし、「気持ちの面で立ち直れない人もいる。園内の倒木撤去や整理の他、所得補填(ほてん)などさらなる支援が必要だ」と要望する。
自身もビワ農家であるJA安房の笹子敏彦常務も「まだ山中に入れないビワ農家も少なくない。特に雨が降った後などは危険度が増す」と話し、復旧への道が険しいことを強調する。
15、19、21号 38都府県被害 農林水3900億円
農水省は6日までに、台風15号の農林水産関係の最新被害額が5日午後4時時点で815億円に上ると発表した。19・21号の被害額(3082億円、2日午後1時時点)と合わせると、総額3897億円に上る。
15、19、21号の被害は38都府県が報告。被害額は、2018年の西日本豪雨の被害額3409億円を超えた。
内訳は農地の損壊が2万6273カ所で被害額746億6000万円。用水路や農道といった農業用施設などが、2万4130カ所で被害額1226億4000万円。作物被害は3万6459ヘクタール、被害総額265億3000万円。農業用ハウスなどの被害は、2万9336件で被害額503億1000万円だった。同省によると、今後も被害額は増える見込み。
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2019年12月07日

地元でもやりたいことできる “Uターン組”食で催し 新潟県糸魚川市
新潟県糸魚川市にUターンした若者らが、「つなぐKitchen Project(キッチンプロジェクト)」のメンバーとして、食を題材にしたイベントを企画・開催している。プロジェクトを通して、糸魚川を離れた若い世代に「糸魚川でも自分たちのやりたいことができる」ということを伝えていく。
メンバーは市役所職員の杉本晴一さん(26)、イタリアンシェフの渡辺光実さん(28)、米や果実などを栽培する生産者の横井藍さん(28)と、JAひすい営農指導員の小野岬さん(24)。
市の広報紙の取材で若手Uターン経験者として杉本さん、渡辺さん、横井さんが集まり、3人で意見を交わす中で「それぞれのやりたいことが3人ならできる」と意気投合し活動を始めた。
その後、女子メンバーが欲しいという横井さんの希望で、巡回で来ていたJAの小野さんが仲間に加わった。プロジェクトチームの名前には「糸魚川のいろいろなところで人・物・事をキッチンでつなぐ」という願いを込めた。
職種の異なるメンバーが、それぞれの得意分野を生かしながら活動。7月には「ハヤカワ夏のピザまつり」を開いた。親子連れ30人が参加し、夏野菜をトッピングしてピザを作った。11月には「ハヤカワ秋のイモまつり」を開いて親子20人が焼き芋などを楽しんだ。
補助金を頼りにせず、全てを参加費で賄えるよう工夫して企画・運営している。メンバーは7月のイベントに合わせて動画投稿サイト「ユーチューブ」を参考にピザ窯を手作りし、11月のイベントでも大活躍だった。
横井さんは「畑で作られた野菜を味わって土に触れる感動を子どもたちに伝え、食を通して農を知ってもらえるような活動をしたい」と意欲を見せた。今後は小学校で取り組む「キャリア教育」などを通して農業の現場と教育の現場をつなぐとともに、イベント依頼などに積極的に対応していく。
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2019年12月07日

ハトムギで健康長寿に “お墨付き”チョコ商品化 知名度アップ狙う 栃木県小山市
栃木県小山市で、特産のハトムギを使ったチョコレートが開発され、11月から市内の「道の駅思川」で販売が始まった。生活習慣病の予防など、市はハトムギの摂取によって市民の健康長寿を目指しており、新たなスイーツで消費拡大を目指す。ハトムギの生産量も増えていて、農家は「栽培の追い風になる」と期待する。(中村元則)
全国ハトムギ生産技術協議会によると、2018年の全国のハトムギの生産面積は1122ヘクタール、生産量は1541トン。茶などで使われ、生産面積は年々、増加傾向にあるという。同市は水田転作の一環で、1991年に農家2戸で栽培がスタート。18年時点で、約10戸が作付面積80ヘクタールで188トンを生産し、国内有数の産地だという。
同市のハトムギは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「次世代農林水産業創造技術」の開発研究に選定された。そこで市などは18年、ハトムギの摂取が人間の体に与える影響を調べる実証実験を行った。
20~64歳の健康な市民114人にハトムギ茶や麦茶を500ミリリットル、8週間、毎日飲んでもらい血液や尿を検査した。その結果「ハトムギには動脈硬化などの生活習慣病の予防効果が示唆された」(市農政課)という。
市はハトムギの摂取を進めようと、新商品の開発を促す「アグリビジネス創出事業」を実施。ハトムギのチョコレートは、食品加工品を販売する、ラモニーヘルス(同市)が同事業を活用して、半年前から商品開発を手掛けた。
同社の篠原裕枝代表は「ハトムギを高齢者も若い人も、誰もが食べやすいものにしようと考えた時、チョコレートを思い付いた」と話す。
同社は11月中旬の2日間、東京都墨田区の商業施設「東京ソラマチ」の中にある栃木県のアンテナショップ「とちまるショップ」で試験販売をした。その後、11月下旬から道の駅思川で本格販売を始めた。
商品は「はとむぎチョコ マンディアン」と名付けられ、ハトムギを3%配合したノンシュガーのチョコレート生地に、無添加ドライフルーツを載せている。チョコレートの優しい味わいとともに、かめばかむほどハトムギの香ばしい香りが広がるのが特徴だ。
市農政課は「来年2月のバレンタインデーに健康食品として参戦する」と強調。チョコに期待を掛けている。他にもハトムギを使った商品は、ふりかけなども開発され、多様化している。
相次ぐ商品化に栽培農家も期待。ハトムギを4ヘクタールで栽培する小山はとむぎ生産組合の福田浩一組合長は「小山のハトムギの知名度が増す良い機会になる。これを契機に新規就農者を増やし、生産量を増やしたい」と意気込む。
「はとむぎチョコ マンディアン」は、ビターとミルクの2種類あり、どちらも1箱3個入り(100グラム)で1500円。
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2019年12月06日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 農業も登山も全力投球 倉敷市の小原正義さん
岡山県倉敷市の小原正義さん(40)は、米の生産と餅加工で年間2300万円を売り上げるコアラファームの代表と、登山ガイドの二足のわらじを履く。今秋には、県内の農業振興や農村の活性化に貢献する青年農業者に贈られる「矢野賞」を受賞した。
実家は水稲農家で農業や自然への関心が高く、大学卒業後は8年間、長野県の奥穂高岳の山小屋で働いた。「農業だけでは生活ができないと考え山登りも仕事につなげようと思った」と小原さん。2010年に日本山岳ガイド協会の登山ガイドの資格を取得した。
同じ年に親元就農した。米で収益を上げるビジネスモデルを模索し、生産・販売から餅加工を一体的に行う経営に行き着いた。餅は年間15・9トンを製造。自家栽培の特別栽培米「ヒヨクモチ」を使って、「倉敷・八十八俵堂」の独自ブランドで販売している。
JA岡山西直売所の出荷仲間の紹介などで地道に顧客を増やし、倉敷市のふるさと納税返礼品に採用されている他、JA直売所や県内スーパー、インターネットなど多方面に販路を拡大。売り上げの9割を占める経営の柱になった。
小原さんは「登山も農業も自給自足が原則。通じるところが多い」と話す。山小屋勤務での接客や大工仕事、道路の舗装、水道工事などの経験が、農業経営に役立っているという。
経営が安定した15年からは、農閑期の7、8月に北アルプスや大山などで月10日程度の山岳ガイドも務める。19年は大山ガイドクラブ代表に就任し、山小屋の経営を始めた。
「日常を幸せにする農業、非日常を楽しむ登山」と、どちらも全力投球する。「20代は山、30代は農業に打ち込み、土台を作れたと思う。農業者、登山家として一層レベルアップしたい」と話し、40代を楽しむ。
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2019年12月05日