トヨタの豊田章男社長が強調する「100年に1度の大変革の時」を肌で感じた
2019年11月15日
トヨタの豊田章男社長が強調する「100年に1度の大変革の時」を肌で感じた。今回の東京モーターショーは、近未来の姿が見える▼工業製品で〈愛〉が付く唯一で特別な存在だった。〈愛車〉の名に代表され日常生活に欠かせない自動車が、これまでとは違う道を行く。ネットとつながり、自動運転、共有(シェア)、そして電動化が進む。これらは〈ケース〉と読む英頭文字〈CASE〉に象徴される。排ガスゼロで環境に優しく、AIも駆使しながら利便性を増す▼電気自動車を示すEVは、ノーベル賞や相次ぐ災害対応とも絡む。リチウム電池開発でノーベル化学賞に輝いた吉野彰さん。走行距離とコストを左右する電池の進化は、今後のEV普及の鍵を握る。気象災害で停電が復旧の大きな足かせになった。EVを電源にすれば、万が一の停電でも家庭の電気を補える▼日本各社のブースには、市販する最新EVが勢ぞろいし世界初お目見えの車もあった。従来の新車展示重視から一変し、電気や通信など異業種の参加も目立つ。日本の近未来を一目見ようと、入場者は前回の7割増、130万人を超えた▼1次産業でも参考になる。技術革新を伴うスマート農業も似た動きだろう。自動車の地殻変動を農業の視点からも読み解き活用したい。
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「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」。78年前のきょう、太平洋戦争が始まったことを国民はラジオで知った▼歌人の斎藤茂吉はこう詠んだ。「たたかいは始まりたりというこえを聞けばすなわち勝のとどろき」。国民の多くが高揚していたという▼1931年9月18日、満州事変の勃発が世論の転機となる。近現代史作家の半藤一利氏は、戦争回避へ歴史を逆転させるチャンスが「(翌)十九日夜を起点とする二十四時間にあった」、鍵は「世論がどう動くかであった」(『戦う石橋湛山』)と書く。陸軍は警戒したが、新聞が号外戦を繰り広げ「マスコミは争って世論の先取りに狂奔」▼議会も翼賛化した。38年の国家総動員法の成立には抵抗を示したが、2年後には「反軍演説」を行った斎藤隆夫を除名。「議会は議論、討論する場であり、それを失っては国家はその骨格を失ってしまう」。ノンフィクション作家の保阪正康氏が『昭和史の教訓』に記す▼安倍政権は集団的自衛権の行使を認め、それを可能とする安保法制を強行、戦争に巻き込まれるリスクが高まった。いま海上自衛隊を中東に派遣しようとしている。報道と国会。権力監視の力が弱まれば歴史は繰り返す。次も悲劇として。肝に銘じたい。
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2019年12月08日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 受託田の水管理住民がサポート
JA岡山西は、JAの作業受託組織を住民が支援する「稲作りサポーター」制度を導入し、JAと地域住民で農地を守る体制を整えた。条件不利地や飛び地などの農地は受託が難しいが、日常的に必要な水管理をサポーターが担うことで、受託能力を高める。2019年は7人が、サポーターとして約5ヘクタール分の管理を担う。
サポーター制度を取り入れたのはJAの子会社として13年に設立した岡山西アグリサポート。19年度は水稲24ヘクタール、タマネギ1ヘクタールを栽培する。
倉敷市を中心に農地中間管理機構(農地バンク)を通じて、高齢で農作業が難しい生産者らから農地を預かるが、受託地は170カ所に分散され、面積拡大にも限界が出ていた。対策として16年から、地元農家から「稲作りサポーター」を募集。水管理の委託を始めた。
赤木稔さん(76)は、同市で水稲80アールを栽培しながらサポーターとして80アールの水管理を請け負う。6月の田植え時期が最も忙しく、地区によってはポンプで水路から水をくみ上げる水田も多く、機械を運搬するため体力もいる。赤木さんは「耕作放棄地を見るのは残念。みんなで助け合い農地を守りたい。体力が続く限り稲作りサポーターを続ける」と話す。
同社の阿部晃治生産部長は「サポーターのおかげでよく水管理ができ、草も生えにくいため、米の品質が上がった。協力して地域農業を守っていきたい」と頼りにする。
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2019年12月07日

ビワ大産地 台風15号3カ月 復旧「素人には無理」 倒木、落石、通行止めもまだ… 千葉県南房総市
台風15号の被災から9日で3カ月。全国屈指のビワ産地、千葉県南房総市では農道や園地を覆った倒木、落石が片付けられず復旧が思うように進んでいない。急斜面の園地も多く撤去には危険が伴うため「素人には不可能だ」と話す農家もいて、行政などの支援を強く求めている。(関山大樹)
行政支援を切望
千葉県は、産出額8億円(2017年度)を誇る全国2位のビワ産地。だが9月の台風15号の強風で、木が倒れるなどの被害が出た。県によると、20年の見込み被害額は5億9000万円に及ぶ。
同市の沿岸部にある南無谷地区は、地域の山の多くがビワ山だという。「園地を見ると心が折れる」。ビワ農家の木村庸一さん(58)が落ち込んだ表情で話す。60アールのビワ園は、来シーズン半分以上が収穫できなくなった。
山中にあるビワ園は曽祖父の代から守り、かつては皇室に献上するビワも生産した。ビワは花や幼果が寒さの影響を受けやすいため、冬に風が吹いて霜が降りにくく、寒さが滞らない山の急斜面で栽培される。
台風の強風で、山中のビワの半分以上が折れたり、根こそぎ倒れたりした。急斜面のため現在も、石や折れた木が落ちてくる可能性がある危険な状態だ。
木村さんは、チェーンソーで一部倒木の除去や倒れた木を元に戻すなど尽力したが、19、21号と続いた台風で、修復しても元に戻る“いたちごっこ”の状態が続いた。
険しいビワ山を通る農道も、50年ほど前から農家らが協力して作り、コンクリートで舗装し管理してきた。台風直後は、強風や大雨による倒木や落石で通れなくなり、今も山奥に行くにつれ倒木が手つかずの場所もあり、一部のビワ園は立ち入れない。
木村さんは「山中での作業なので撤去は危険が伴う。安易に除去できない木もあり、全ての倒木や落石の除去は素人には不可能だ」と訴え、倒木や落石の撤去などへの行政支援を訴える。
房州枇杷(びわ)組合連合会が、66人の組合員に行った台風被害調査によると、被害額は10月末時点で1億648万円、来年の売り上げは3億円減少する見込みとなった。連合会によると、実際の被害金額はさらに多い見通しだ。
連合会会長で、南房総市のビワ農家、安藤正則さん(63)も園地半壊の被害を受けた。安藤さんは「このままの状況だと復興は1、2年じゃ到底終わらない」と危機感を募らせている。
ビワは苗木を植えてから収穫まで、5年ほどかかる。園地の再建について高齢農家ほど意欲に陰りがあるとし、「気持ちの面で立ち直れない人もいる。園内の倒木撤去や整理の他、所得補填(ほてん)などさらなる支援が必要だ」と要望する。
自身もビワ農家であるJA安房の笹子敏彦常務も「まだ山中に入れないビワ農家も少なくない。特に雨が降った後などは危険度が増す」と話し、復旧への道が険しいことを強調する。
15、19、21号 38都府県被害 農林水3900億円
農水省は6日までに、台風15号の農林水産関係の最新被害額が5日午後4時時点で815億円に上ると発表した。19・21号の被害額(3082億円、2日午後1時時点)と合わせると、総額3897億円に上る。
15、19、21号の被害は38都府県が報告。被害額は、2018年の西日本豪雨の被害額3409億円を超えた。
内訳は農地の損壊が2万6273カ所で被害額746億6000万円。用水路や農道といった農業用施設などが、2万4130カ所で被害額1226億4000万円。作物被害は3万6459ヘクタール、被害総額265億3000万円。農業用ハウスなどの被害は、2万9336件で被害額503億1000万円だった。同省によると、今後も被害額は増える見込み。
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2019年12月07日

和子牛高騰「利益出ぬ」 家族経営にも「支援拡充を」 畜酪対策で佐賀の農家
2020年度の畜産・酪農対策を巡り、家族経営への支援策が焦点になっている。和牛子牛相場が高止まりする中、資金に余裕がない中小の肥育農家は経営改善に向けた新たな投資に踏み出しにくいのが実情だ。安定的な和牛生産を続けるため、家族経営でも利用できる支援の拡充を求めている。
肥育だけでは…慣れぬ繁殖も
佐賀県伊万里市で、家族と共に肥育経営をしてきた田口敬一郎さん(63)は、17年に繁殖雌牛を導入して一貫経営に乗り出した。肥育一本で生きてきた田口さん。繁殖の知識は少なく不安も大きかったが、踏み出したのは「市場で良い子牛を買えないからだ」と明かす。
田口さんが仕入れに行く長崎県や大分県の市場の子牛価格はここ数年、80万円以上で推移することが多かった。その相場で導入した牛を田口さんは現在、125万円ほどで出荷している。餌代や光熱費、資材費などを差し引くとほとんど利益が残らない計算だ。
このままでは経営が危うい──。田口さんはそんな思いで一歩を踏み出した。自家繁殖すればせりで買うより、コストを半分近くまで抑えられるからだ。2棟あった肥育用牛舎の一つを、部分的に繁殖用に改築した。
肥育経営が順調とはいえない中で数百万円がかかり、資金の捻出に苦労したという。「中小の肥育農家ほど一貫経営に乗り出すべきだが、使えるお金は少ない」と指摘する田口さん。家族経営の規模でも維持・増産を目指せるような支援策の必要性を訴える。
クラスター事業 要件緩和を要請
国はこれまで、畜産クラスター事業で畜産の生産基盤の維持・拡充を進めてきた。ただし一般的な施設整備の場合、対象となるのは地域の平均規模以上に飼養頭数を増やすことや、生産効率を向上することが条件。余力のない中小経営は手を出しにくい例が多かった。
JA全中は20年度畜産・酪農対策の重点要請で、地域全体の生産力の底上げにつながるよう、畜産クラスター事業の規模拡大要件の緩和を求めている。この他、肉用子牛の高騰が続いているため、家畜の導入などへの支援拡充を提起。経営を継承した際の支援なども必要とする。
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2019年12月08日
世界の都市農業事情 経済より共感と協働 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
ニューヨーク、ロンドン、ソウル、ジャカルタ、トロントの5都市が参加した「世界都市農業サミット」が、東京・練馬区で開かれ、先進事例から都市農業の未来までが熱く語られました。
ニューヨーク市では、550のコミュニティ農園(40ヘクタール)に2万人のボランティアが関わり、低所得者層の多い公営住宅では、農園管理を若者の職業訓練につなげて成果を上げています。屋上菜園も盛んで、NY産野菜はブランドになっています。
ロンドンでは、2012オリンピックを前に2012の市民農園が作られ、今では3000を超えています。ジャカルタでは、路地を活用した垂直農業で、人口密集地の食を支えていました。
どの都市にも共通していたのは、「コミュニティ農園」という切り口です。住民が生産と消費の両方に関わることで、絆や意欲が強まり、貧困、心身の不健康、教育、雇用など、あらゆる格差の解消につなげています。行政やNPOも大きく関わっていました。
参加して感じたのは、なぜ世界中の都市はこんなにも「農」を求めるのか、という驚きと、もしかしたら今の「農業の多面的機能」という認識では表現しきれないのではないか、という農の可能性です。
練馬区は、練馬方式と呼ばれる体験農園や、大根引っこ抜き大会、農の学校や農のサポーターで、住民が農業を支えています。中でも、子ども食堂の野菜を体験農園と連携して作る仕組みは包括的で、全国展開を期待したいものでした。
各国でCSA(地域コミュニティの買い支え)が見直されている通り、近隣住民は、野菜を買う客であるだけでなく、一緒に考え、農地を活用する仲間なのです。
2015年に都市農業振興基本法が制定されましたが、世界の事例と比べると、国内の都市農業は、その使い道を、農家の判断に任せてきたように思えます。今こそ、JAが本領を発揮するときです。行政とも力を合わせ、都市の農地を街の資産として運用すれば、シビックプライド(街への愛着)も築けます。
作る人と買う人という経済の関係から、次の段階にあるのは、地域にある農業を、自分のこととして育んでいく「共感」と「協働」ではないでしょうか。
都市における農を教育の場、理解や心を養う場と考えれば、それは本格農業や農的な暮らしへの玄関口、出発点になります。都市に農があってよかったと、地方にも歓迎される発信拠点になれるはずです。
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2019年12月10日
四季の新着記事
問題 次の文はある国会議員の雑誌への寄稿である
問題 次の文はある国会議員の雑誌への寄稿である。Aは誰か。「政府答弁のうちでも、総じてA首相の答弁が不親切で、しかも抽象的である。歴代首相でこれくらい答弁に誠意を欠き~」▼答えは吉田茂。議員は河野一郎である。寄稿では、衆院予算委員会での質問にまともに答えようとしなかった吉田を批判。経緯はこう。1953年7月、河野は、米国への日本の貸金約200億円がいつまでも返済されないことを「(政府の)怠慢」と非難した。お金は、米国が朝鮮に送った物資の代金。日本が立て替えた。吉田は交渉中だと反論し、詳しい説明を避けた。『忘れられない国会論戦』(中公新書)で知った▼「無い無い尽くし」のまま臨時国会が9日、閉幕した。日米貿易協定は、野党が求めた資料は出ず熟議もなしで承認。「桜問題」は名簿がなく、政権に疑惑を晴らす気もなく持ち越した。安倍首相は一問一答の委員会から雲隠れした▼河野は寄稿にこうも記した。「最高審議機関である国会が、茶番的な論議や政府のごまかし答弁ですむようなことは(中略)国政が腐敗するもと」▼河野は当時、鳩山一郎と共に吉田と凄(すさ)まじい権力闘争中だった。とはいえ、農相や副総理を歴任した自民党の大先輩。その言葉を首相はどう受け止めるか。
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2019年12月10日
「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」
「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」。78年前のきょう、太平洋戦争が始まったことを国民はラジオで知った▼歌人の斎藤茂吉はこう詠んだ。「たたかいは始まりたりというこえを聞けばすなわち勝のとどろき」。国民の多くが高揚していたという▼1931年9月18日、満州事変の勃発が世論の転機となる。近現代史作家の半藤一利氏は、戦争回避へ歴史を逆転させるチャンスが「(翌)十九日夜を起点とする二十四時間にあった」、鍵は「世論がどう動くかであった」(『戦う石橋湛山』)と書く。陸軍は警戒したが、新聞が号外戦を繰り広げ「マスコミは争って世論の先取りに狂奔」▼議会も翼賛化した。38年の国家総動員法の成立には抵抗を示したが、2年後には「反軍演説」を行った斎藤隆夫を除名。「議会は議論、討論する場であり、それを失っては国家はその骨格を失ってしまう」。ノンフィクション作家の保阪正康氏が『昭和史の教訓』に記す▼安倍政権は集団的自衛権の行使を認め、それを可能とする安保法制を強行、戦争に巻き込まれるリスクが高まった。いま海上自衛隊を中東に派遣しようとしている。報道と国会。権力監視の力が弱まれば歴史は繰り返す。次も悲劇として。肝に銘じたい。
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2019年12月08日
「月とスッポン」は非常に違いがあることの例えだが、月がスッポンの成長促進剤だとしたらどうだろう
「月とスッポン」は非常に違いがあることの例えだが、月がスッポンの成長促進剤だとしたらどうだろう▼月のリズムで餌を与えると早く育つことを、自動車部品大手トヨタ紡織新領域開拓部の田畑和文グループ長に教わった。卵からかえって3カ月後のスッポンに、24時間ごとと24・8時間ごとに餌を与え3カ月間育てた。すると前者では体重が3倍に、後者では4・1倍に▼24・8時間は月が次の日に同じ方角に見えるまでの時間。地球の周りを月は地球の自転と同じ方向に回っている。なので1日よりも長く時間がかかる。月が潮の満ち引きを起こす力「起潮力」が影響しているのではないかという▼月のリズムとは起潮力の変化の周期。植物工場でのレタスの実験でも月のリズムに合わせて光を調節すると収量が増えた。起潮力の影響は車のドアの材料となる植物の生育を早める研究で発見した。名古屋大学と共同研究も行う。持続的な食料増産など「社会貢献」(田畑さん)を目的にしている▼内閣府は、農作業の完全自動化など挑戦的な技術を「ムーンショット(月を撃つ)」と名付け研究開発を後押しする。温室効果ガスの排出削減策を話し合うCOP25がスペインで開催中だ。“月を生かす”といった、地球にやさしい技術を目指す研究にも期待したい。
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2019年12月07日
街を歩けば、掲示板の何と多いことか
街を歩けば、掲示板の何と多いことか。標識、標語、宣伝。つい見てしまうのが、お寺の掲示板である▼近くの寺は、ほぼ毎月、更新する。「自分が変われば相手も変わっていく」「実践こそ現状を変える」。説教臭くもあるが、妙にしみる時もある。気になる存在だと思っていたら、なんと「輝け!お寺の掲示板大賞」なるものがあった▼仕掛け人は、仏教伝道協会の江田智昭さん。聞けば、昨年7月、お寺の掲示板の写真の投稿を呼び掛けたのが始まり。4カ月で約700作品が集まった。2018年の大賞は「おまえも死ぬぞ」。お釈迦(しゃか)様こと釈尊の教えだとされる。生と死の本質に迫り、インパクトは絶大。これで認知度が高まった▼掲示板の言葉は、仏の教えから人生訓、著名人の名言までさまざま。寺の個性がにじみ出る。「掲示板はお寺と一般の人の境目にあり、双方をつなぐ存在」と江田さん。今年は925作品が寄せられた。5日に発表された大賞は「衆生は不安よな。阿弥陀動きます」。松本人志さんの「後輩芸人たちは不安よな。松本動きます」をもじったもの。全ての生き物の身を案じた阿弥陀仏の教えを伝えた▼衝撃を受けたのは、大分の寺に掲げてあった一言。「ばれているぜ」。深くて怖い。官邸前に張り出したい。
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2019年12月06日
テレビドラマ「水戸黄門」で、悪代官役を演じた俳優の訃報に触れ、名場面がよみがえってきた
テレビドラマ「水戸黄門」で、悪代官役を演じた俳優の訃報に触れ、名場面がよみがえってきた▼白ひげをたくわえ、好々爺(や)然とした黄門さまが、助さん、格さんを従え、諸国を巡りながら悪事を懲らしめていく。決めぜりふは「この紋所が目に入らぬか」。言わずと知れた徳川家の家紋が入った印籠である。悪人たち、一斉にひれ伏し一件落着と相成る。さしずめ今なら「安倍官邸」の紋所が、絶大な威光を発揮する印籠か▼黄門さまこと水戸藩第2代藩主・徳川光圀には、逸話や俗説が多い。「恐れ多くも先の副将軍」というのはドラマ上の設定。諸国漫遊というが実は関東近県しか歩いていないとも。これは『大日本史』の編さんで家臣を各地に派遣したことから尾ひれがついたようだ▼光圀は子孫のために9カ条の訓戒を残した。1条は「苦は楽の種、楽は苦の種としるべし」。ドラマ主題歌の冒頭〈人生楽ありゃ苦もあるさ〉はここから来たのだろう。「主人と親は無理を言うものと思え」。これも納得。主人をトランプさんに置き換えればよく分かる。「おきてを恐れよ」は、決まり事や法令を守れとの戒めである▼あすは黄門忌。現代によみがえれば忙しかろう。ぜひとも「令和の不平等条約」に喝を入れてもらいたい。「国益を一体何と心得る」
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2019年12月05日
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2019年12月04日
ヒット中の映画を見に行った
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2019年12月03日
暑さを逃れる生き物が大移動する
暑さを逃れる生き物が大移動する。そんなSF小説のような現象につながる前兆かもしれない▼地球温暖化に伴う異変である。ヒートアップした地球上で異常気象が相次ぐ。南半球のオーストラリアでは、空気が乾燥した南東部を大規模な森林火災が襲った。北半球でも、経験したことのない大雨や高温に悩まされている。日本が頼る農産物が気に掛かる▼“ゆでガエル”の例えでもないが、金もうけに忙しい指導者の危機感は高まらない。国連の報告書では、昨年の温室効果ガス排出量はCO2換算で、過去最高だった。このペースで出し続けたら「破壊的な影響」が出ると警告する。にもかかわらず、米国は温室効果ガスを減らす「パリ協定」から離脱すると通告した。トランプ大統領の気が知れぬ▼楽観できないのは日本も同じ。今世紀末には、温暖化のスピードに生物の移動が間に合わず、絶滅の可能性が高まる。長野県環境保全研究所や国の農研機構等の試算で分かった。気候変動は全国平均で年249メートルの速さで進むが、年間移動がせいぜい40メートルの植物は適応できないという。野菜や果樹の産地地図ががらりと塗り替わることも考えなければならないのだろう▼既に米に高温障害が目立ち始めている。「飽食ニッポン」。うかうかできない。
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2019年12月02日
どっちを向いているかを若者は敏感に感じ取る
どっちを向いているかを若者は敏感に感じ取る。政権を担うものは顔の向け方に気を付けなればならない▼観光都市香港で繰り広げられる反政府運動はどうなるのか気に掛かる。発端となった犯罪容疑者の中国本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」は撤回されたが、学生や市民の怒りは収まらず、区議選では民主派が圧勝した。「一国二制度」が踏みにじられているのに“北京”の顔色をうかがう香港政府への不信は根深い▼半世紀ほど前の日本にも同じような光景があった。日米安保問題で米国の顔色をうかがう政府に若者が反発した。学生運動は燃え上がり、東京の新宿駅では騒乱罪が適用された。評価はいろいろだが、政治を正そうとするエネルギーはみなぎっていた▼その頃に人々の心を捉えたのが渥美清主演の『男はつらいよ』(山田洋次監督)である。第1作が出て今年でちょうど50年。50作目の『男はつらいよ お帰り 寅さん』が完成し、先日、試写会があった。寅さんのおいで作家となった満男を軸に、昭和と現代が交差する。はちゃめちゃな寅さんの小気味よい言いっぷりに、胸のつかえが吹っ飛ぶ。今月27日に全国で封切りされる▼そろそろ物言う若者が現れても良い頃だろう。政権が海の向こうに顔を向けっぱなしなのだから。
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2019年12月01日
人には思春期ならぬ思秋期があるという
人には思春期ならぬ思秋期があるという。40~60歳あたりの老人になる手前のことを指す。この過ごし方が老後を左右する▼精神科医和田秀樹さんの『「感情の老化」を防ぐ本』(朝日新聞出版)で知った。気が付かずに物事への意欲を失う「感情の老化」が始まり、どんどん加速する。知力や体力は意外と衰えないが、感情が老けると身も心も見た目も一気に老け込む▼同著には「感情老化度」を測るテストがある。試しにやってみると実年齢を10も上回ってしまった。あわてて若さを保つ秘訣( ひけつ)を探ると、脳の前頭葉を刺激することだという。いろいろな方法があるが、「食べる幸福」はその一つ。105歳で亡くなった医師の日野原重明さんは100歳を過ぎても週2回は肉料理を楽しんでいたという▼恋もいいらしい。きょうは「シルバーラブの日」。71年前のこの日、68歳の歌人川田順が30近くも年下の教授夫人と駆け落ちしたことにちなむ。川田が詠んだ「墓場に近き老いらくの恋は、怖(おそ)るる何ものもなし」から「老いらくの恋」が流行語となった。とてもまねできそうもないが▼戦後政治の総決算を掲げた中曽根康弘元首相が101歳の長寿で亡くなった。人生の総決算が豊かなものになるように、それぞれの思秋期をうまく乗り越えたい。
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2019年11月30日