豚熱被害農家苦境に 手当金「足りない」 まだ支払い半数課税負担も増加

直売所で、仕入れた豚肉を確認する松葉さん。豚熱被害以降、精神は安定せず「マイナス思考に陥り、なかなか前を向けない」と苦悩する(三重県いなべ市で)

 豚熱の被害に見舞われた養豚農家が、経営再建に向かう中で苦境に立たされている。殺処分に伴う手当金は課税対象となっている上に、その金額が農水省と折り合わないなどの課題がある。母豚を導入しても、分娩(ぶんべん)を経て収入が得られるまでは1年近くかかる。収入が途絶え、経営再開しても従業員への給与や衛生管理に伴う借金がのしかかる。経営安定までの支援を求める切実な声が上がる。

 豚熱の発生は全国58。手当金は家畜伝染病予防法に基づいて支払われる。農水省によると、手当金が振り込まれたのはおよそ半分の農家にとどまる。手当金は殺処分した頭数に対し、飼育期間に応じて市場価格をベースに経費などを踏まえて算出する。経費は農場ごとに違い、手当金額は農家によって異なる。このため、発生順ではなく、書類を整え国と合意した農家から支払われる。

 同省は手当金の算出に当たり、殺処分時点の豚の評価額について、ソーセージ加工など付加価値を高めた利益までは認めていない。さらに豚の日齢ごとに経費を算出するため、子豚ほど経費が少なくなり、手当金は減る。被害農家からはこうした算出方法に不満の声が相次ぐ。また、2010年に発生した宮崎県の口蹄(こうてい)疫で家畜を殺処分した農家の手当金は議員立法で免税になったにもかかわらず、豚熱は課税対象だ。養豚農家からは「深刻な負担だ」との声も上がる。

 20農場で豚熱が発生した愛知県田原市は、多くの被害農家が増える支出に苦悩する。JA愛知みなみ養豚課の牧野健司課長は「手当金は豚を殺処分した農家の資産に対する補償にすぎない。経営再建は非常に厳しい道のりだ。経営が安定するまで、農家に寄り添う国の支援が必要だ」と訴える。

 岐阜県山県市の養豚農家、武藤政臣さん(40)は昨年5月下旬に殺処分した2050頭の手当金が、ようやく2日に振り込まれた。算出方法に疑問は残るが、「経営資金が底を突くので、もうどうしようもなかった」と受け入れ、再開を模索する。母豚はまだ導入できず、シャワー施設など衛生管理に向けた工事を進める。「自己資金が減る一方で、再開に向けての支援が欲しい」と切望する。

 同省は「農家の声は承知しているが家畜伝染病予防法の理念に基づき対応している」とする。
 

希望と2000万円差 三重県いなべ市加工手掛ける法人


 三重県いなべ市の養豚場と、精肉や加工品の直売所を経営する松葉ピッグファーム。昨年7月末に4200頭を殺処分した。代表の松葉泰幸さん(39)は「苦しい日々だった。今もしんどい」と振り返る。

 松葉さんは昨年11月に母豚82頭を導入し、経営を再開した。直売所の売り上げはあるが、来年9月の子豚出荷まで農場分は無収入。昨年11月から今年3月末まで従業員3人は基本給を保障し、他の畜産農家で働いてもらっている。

 農水省からの手当金は昨年末に振り込まれた。発生から3カ月間、松葉さんはほぼかかりきりで過去の領収書、請求書など書類、データを洗い出す膨大な作業に明け暮れた。最終的に書類の山を積み上げると高さ1メートル近くになった。手当金の算出には、豚の3分の1を自社の直売所に出荷して高めた付加価値を反映させたかったが、農水省との交渉は不調。希望する金額と振り込まれた額には、2000万円もの差があった。だが、年内に現金が入らなければ会社資金が枯渇するため、受け入れざるを得なかった。現状は、4月に戻る従業員3人の給与をどう捻出するかという問題に直面する。

 人生はいつも豚と共にあったという松葉さんに、離農は考えられない。「従業員、再開を応援してくれる地域や仲間の養豚農家、親身になってくれた県の担当者が心の支えで、ぎりぎりの状況を踏ん張ってきた。再開前の規模には戻したい」と語る。
 

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