地域おこし協力隊 自治体7割が「好影響」 農業関連目立つ 制度10年で総務省調査

 総務省は27日、都会から農山村などに移住し地域活性化の取り組みを進める地域おこし協力隊の10年間の活動状況を初めてまとめ、公表した。受け入れてきた1121自治体のうち74%が「地域に良い影響があった」と回答。任期中の活動は、農林水産業への従事が最も多く、協力隊が全国各地に浸透し、農業や農村の活性化に大きく関わっていることが分かった。

 協力隊制度は、おおむね1~3年間、その地域に居住して地域おこしの活動をしながら定住や定着を目指す。2019年度の隊員数は前年度から10人減の5349人と09年度の制度開始以降、初めて減少した。総務省によると「大量に受け入れてきた自治体が一人一人と向き合うために採用数を減らしている」「マッチングを重視している」などが背景にある。受け入れ自治体は前年度より10増え、過去最高の1071だった。

 協力隊の委嘱が可能な1434自治体に調査(18年度末時点)したところ、過去10年で78%の1121自治体が協力隊を受け入れたことがあるとした。このうち、協力隊の導入で、「地域にとても良い影響」との回答は184、「良い影響」は646で合わせて74%が好影響を実感していた。「ご近所同士のつながりを深めるきっかけになった」「完成度の高い田んぼアートを仕上げ、飛躍的に来訪者が増えた」などの意見があった。一方で、「隊員を受け入れる前に自分たちで活性化していかなければならない」との回答もあった。

 受け入れてきた自治体のうち80%が「今後も協力隊制度を活用したい」と回答した。理由として、「想像もしていなかった取り組みが生まれるなど外からの視点で地域が良くなった」などがあった。

 隊員を退任した5693人について自治体に調査したところ、37%が女性で4分の3が20、30代だった。任期中の主な事業は農林水産業の従事が897人と最も多く、地域コミュニティー活動が885人、特産品開発が534人と続き、農業関連の回答が目立った。任期終了直後は65%の3677人が同じ地域に居住し、現在でも55%が定住していた。
 

集落に残る?離れる?…岐路に立つ 「まずは話し合って」


 「人数」重視ではなく、若い視点で地域に好影響をもたらす「個」として、隊員に向き合う自治体が増えている。隊員が任期を終えた時にも、同制度は課題に向き合う。地域に定住するかどうかという岐路だ。受け入れる地域、隊員本人それぞれにとって切実な問題で、専門家は「地域と隊員が定住に向けた課題を任期中にしっかりと話し合うことが重要だ」と指摘する。
 
地域おこし協力隊の廣岡さん(右)にシイタケの乾燥作業を教える古澤さん(大分県豊後大野市で)
 

大分の農家 一人一人の人生応援


 山に囲まれた山間部、56人が暮らす大分県豊後大野市の平石集落。7ヘクタールで米やシイタケなどを栽培する農家の古澤正義さん(65)が、地域おこし協力隊の廣岡陵さん(32)にシイタケの乾燥手順や選別方法を教える。古澤さんは「本当は柵をして廣岡君を地域に囲いたいくらいだけれど、そういうわけにもいかない」と冗談を言う。

 集落に若者や子どもが少ない中、廣岡さん一家4人の笑い声が響くことで地域は明るくなる。何より素直な人柄を住民は歓迎しているという。

 廣岡さんは2年間、協力隊として同集落に住んだ今、心の中で定住を決めている。元は料理人で、任期後は飲食店を開業して生計を立てるつもりだ。集落内の空き家も購入することにした。

 普段は集落外のゲストハウスに通い、運営支援に携わる。移住後1年たった頃から、古澤さんら地域のリーダーだけでなく、多くの人と軽トラックですれ違う時にあいさつし合うようになった。「集落の人に仲間だと受け止めてもらっている」とうれしく思う。

 草刈りやシイタケの収穫など農作業の依頼も多く、廣岡さんは「地域の人が気にかけて、山を切り開いて桃畑を一緒にやろうとか、仕事をつくってくれる。料理人をやりながらプラスの仕事をすれば十分に暮らせる」と見通す。

 廣岡さんには、同集落に24年前に東京から夫婦で移住し、今では自治会長になった臼田朗さん(54)の存在が支えになる。自分たちで家を造り、パン屋を中心に生計を立て子育てした臼田さん。山間部にあってもパン屋は超人気店で、県内外から注文がある。臼田さんは「移住を断念する人もたくさんいて、一概に定住は勧めない。でも、最低限のルールを守り地域に入る若者に、地域の人は仲間だと受け止めてくれるよ」と廣岡さんを応援する。

 一方、集落を離れた協力隊もいる。同市に隣接する竹田市の地域おこし協力隊だった男性は、古澤さんから田んぼを借りて米を作っていた。しかし、イノシシの被害で作付けを断念。今は関東に戻っている。

 それでも古澤さんはこの男性のことを、今でも心の中で応援する。男性はたまに遊びに来ることもあるという。古澤さんは「協力隊や移住者をひとくくりにしても、地域をひとくくりにしても駄目だと思う。隊員一人一人と向き合うことが大切で、定住するか離れるかはその先の問題。地域にとっては定住してほしいけれど、それぞれの人生」と考える。
 

本音は残ってほしいが… 任期後の定住は6割


 協力隊は3月に任期を終える隊員が多く、定住か、離れるかの選択に迫られる。総務省によると、およそ6割が任期後も同じ地域か近隣に定住し、農林業や起業などに励む。

 協力隊を多く受け入れてきた西日本の自治体担当者は「定住するかは一つの成果の物差し。協力隊時代にどんな目立つ活動をするかより、定住してほしい」と本音を明かす。離れ際にしこりを残す隊員もいることから、受け入れには悩みが尽きないともいう。

 一方、3年の任期を終えて今春に赴任地の九州を離れる協力隊は「応援してくれたのに離れて申し訳ない。役場や地域の人に、引っ越しすることを打ち明けた時、空気が凍り付いた気がする」と悲しそうに話す。ただ、今後も赴任地の自治体と関わり続けたいと考えている。

 定住か、離れるのか。隊員の受け入れ自治体増加に伴い、この問題が各地で表面化する。地域活性化センターの椎川忍理事長は「定住だけが目的ではないし、定住しなかったからといって失敗ということでは決してない。ただ、定住してほしいという地域側の願いは当然ある」と説明する。

 その上で「地域と隊員が互いに定住するかどうかも含め任期中にしっかりと話し合い、関係づくりに向け歩み寄ることが重要だ」と指摘している。
 

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