WTO改革 持続可能な経済目指せ

 通商推進の司令塔・世界貿易機関(WTO)は発足から25年を経たが、機能不全が続く。8日には新事務局長の立候補を締め切る。食料安全保障の担保など、新型コロナウイルス禍の教訓を生かした改革を早期に進め、指導力を回復すべきだ。

 WTOは存亡の危機に立っていると言っていい。深刻な機能不全に陥った背景には、「新冷戦」とも称される米中経済紛争の影響が大きい。新型コロナで打撃を受けた世界経済の回復には、国際的な視野に立ったWTOの指導力が欠かせない。

 日本やカナダなど、WTO改革に前向きな13カ国・地域による先月の共同声明に注目したい。コロナ禍を受け、農産物貿易に悪影響がある緊急措置の撤回や、同貿易を改善するための分析・検討などを打ち出した。輸出規制に踏み切る国があり、食料安保の危うさが浮き彫りになったことを直視すべきだ。

 米中対立の中でコロナ禍が襲い、世界の貿易秩序は乱れる一方である。自国最優先の保護主義や管理貿易の防波堤となるべきWTOの責務は、二つの側面で一段と重くなる。

 一つは世界共通の通商ルールを築く「立法」である。その中心であるドーハ・ラウンド(多角的貿易交渉)は先進国と途上国の対立で漂流を続ける。そこで2国間や複数国間の自由貿易協定(FTA)が相次ぐ。環太平洋連携協定(TPP)のルールを世界に広げ、WTO機能を代替させるとの考えもある。だが本末転倒な議論だろう。TPPもFTAの一種にすぎない。

 いま一つは貿易紛争を解決する「司法」である。直近の動きでは、日韓紛争に伴い韓国が日本の輸出管理を不当だとして裁判の一審に当たる紛争処理小委員会(パネル)の設置を求めた。協議中の案件で、韓国の態度は一方的と言わざるを得ない。だがWTOは「司法」の役割も果たせない状況だ。最高裁に当たる常設上訴機関の上級委員会で、米国が次期委員の選出を拒み機能停止となっている。

 まず指導力を備えた新事務局長の選任が、WTO再起動の鍵を握る。辞任するアゼベド事務局長はブラジル出身で、中国など新興国の支持を得て7年前に就任した。しかしドーハ・ラウンドはその後も難航を極め、目立った成果は出せなかった。コロナ禍の今、国際機関への中国の過度な影響力に警戒が強まっている。今回の事務局長選でも水面下で米中の対立が続く。 

 WTOの立て直しは、持続可能な世界経済に向けた国際秩序を形成する機会でもある。WTO改革に日本は積極的に関与し、存在感を示す必要がある。

 その際、WTO農業交渉日本提案で掲げた哲学「多様な農業の共存」を踏まえるべきだ。同提案では、食料安保の観点から輸出規制の輸出税への転換を主張した。先のガット・ウルグアイラウンドで輸入制限を関税化しており、不公平な農産物貿易ルールを正す一環である。
 

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