やくみつるさん(漫画家) 尽きない食への探求心

やくみつるさん

 子どもの頃はとにかく偏食だったんですよ。どうにも苦手なものがたくさんあって、小学校の給食では大変な思いをしました。

 当時、給食は残さず食べなさい、と。最後のひとかけらを食べ終えないうちは、給食の時間が終わっても、5時間目でも6時間目でも食べさせられたんですね。
 

苦手だった給食


 とんかつのへりについている脂身が一番大変でした。チョビチョビと小さく切って、牛乳で流し込むという作業をするんです。当時はまだ脱脂粉乳もありました。脱脂粉乳は今もとやかく言われますが、私にとっては苦手なものを流し込むための貴重なツールでありました。牛乳ないしは脱脂粉乳が尽きてしまうと、もう手に負えません。どうしても脂身を全部は食べられなくて、ハンカチに包んで机の中に隠したことがあります。でも先生にばれてしまい、ひどく叱られました。

 6時間目を終えても食べ切れなかった時は、一人で食器を給食室に返すことになります。子ども心にも罪なことをしているという意識がありますから、渡り廊下の人目につかない所に隠してしまうとか、あるいは返すにしても自分が代表して持って来ました的に振る舞うとか。今思えば、給食のおばさんは「残したのは君だろう」と分かっていたでしょうけど。

 ところが長じて今は、嫌いなものがほとんどなくなりました。あれだけ嫌いだった脂も食べます。脂身と赤身が半分ずつある豚の角煮も、脂身だらけのチェーン店の牛丼も大好物です。

 私は生まれ育った土地から移っていないので、年がら年中、小学校の同級生とつるんで飲んでいます。そのたび「畠山君(本名)、なんでも食べられるようになって良かったね」と言われます。ですから、残さず食べることを強要したあの頃の教育ってなんだったんだろうと感じたりもします。

 海外、それもアフリカや南米の辺境に行くのが好きで、向こうの料理をなんでも食いたくなるんです。野生動物の肉とかネズミとか、むしろ好んで食べる。そんな人間になってしまっているんですね。
 

知識「披歴」が大事


 食べたことのない食材への興味が強いので、国内にいても新顔の野菜などを見ると、それが何か知りたくなり、食べてみたくなります。レストランで、向学心のため聞いてしまうことも。「すみません。これは何という種類なんでしょう?」と。旅館でのご飯でも、あらかじめお品書きが置いてありますよね。その中でよく分からないものがあると、逐一尋ねます。

 この間デパートの食堂で食事をした折、料理の中に珍しい野菜がありました。

 実はその野菜は、直前に見たテレビで紹介されていたんですね。それで「これはプチヴェールではありませんか?」という聞き方をしたんです。そうしたらウエートレスの方が、厨房(ちゅうぼう)まで確認に行きました。申し訳ないなという気持ちもありますし、「プチヴェールについて聞くなんて、ただの客ではないな」と思わせるちょっとややこしい客になってしまったと、少し後悔もしました。

 でも知らないものについては、聞かないと気が済まぬたちで。そうやって、物事を覚えていくわけですから。

 食べ物に限らず、知識を定着させるには、繰り返し言ったり聞いたりすることが大事。自分で披歴して初めて、定着するんです。真摯(しんし)に食べ物に向き合うためには、必要なことだと思いませんか。(聞き手=菊地武顕)

 やく・みつる 1959年東京都生まれ。早稲田大卒。81年、はた山ハッチ名義でデビュー。プロ野球や時事を風刺した4こま漫画で人気を博す。96年文藝春秋漫画賞受賞。本紙をはじめ、連載執筆多数。ラジオのコメンテーターとしても活躍する他、日本昆虫協会副会長、ユーキャン新語・流行語大賞選考委員も務める。
 

おすすめ記事

食の履歴書の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは