種苗法 農産物検査法改定 食料 「囲い込み」懸念 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏

 種苗法の改定で終わりではなかった。国・県による米などの種子の提供事業をやめさせ(種子法廃止)、その公共種子(今後の開発成果も含む)の知見を海外も含む民間企業に譲渡せよと命じ(農業競争力強化支援法)、次に、農家の自家増殖を制限し、企業が払い下げ的に取得した種を毎年購入せざるを得ない流れができた(種苗法改定)。

 これに、さらに農産物検査法改定が加わろうとしている。産地品種銘柄(都道府県が指定して検査体制を確保し、米の産地・品種・産年が表示できるようにする仕組み)を廃止し、自主検査を認め、未検査米に対する表示の規制を廃止するという。

 米等級の廃止は、カメムシ斑点米対処のネオニコチノイド系農薬の削減につながる利点がある。一方、米検査の緩和は、さまざまな米の流通をしやすくする側面はあるが、品質保証に不安が生じるだけでなく、輸入米の増加(安田節子氏)や民間企業による米生産・流通の「囲い込み」の促進につながる懸念(印鑰智哉氏)も指摘されている。

 農家の自家増殖制限と米検査の緩和が相まって、企業が主導して種の供給から米販売までの生産・流通過程をコントロールしやすい環境を提供する。種を握った種子・農薬企業が種と農薬をセットで買わせ、できた生産物も全量買い取り、販売ルートは確保するという形で、農家を囲い込んでいくことが懸念される。

 都道府県とJAが産地品種銘柄を中心に主導する米流通は崩されていく可能性がある。そういう中で、積極的に、企業と農家との中間にJAが入ることによって、JAも集荷率を維持し、農家の不利益にならないような取引契約になるよう踏ん張れる側面もあるかもしれないが、種も肥料も農薬も指定された契約になると、「優越的地位の乱用」を許し、従属的関係に陥る危険もある。

 本来、農協は共販によって取引交渉力の強い買い手と対峙(たいじ)して農家(ひいては消費者)の利益を守るためにあるが、各JAが企業主導の生産・流通に組み込まれてしまうと、そうした農協の役割が地域レベルでも、全国レベルでも、そがれてしまうリスクがある。

 これは、農家・農協だけでなく、地域の食料生産・流通・消費が企業の「支配下」に置かれることを意味する。農家は買いたたかれ、消費者は高く買わされ、地域の伝統的な種が衰退し、種の多様性も伝統的食文化も壊され、災害にも弱くなる。予期せぬ遺伝子損傷などで世界的に懸念が高まっているが、わが国では表示もなしで野放しにされたゲノム編集も進行する可能性が高く、食の安全もさらに脅かされる。

 JAとしての対応が問われるとともに、生産から消費まで、国民全体の食料安全保障の在り方が問われている。 

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