豚コレラ感染拡大 業界衝撃 対策早急に 「胸つぶれる」殺処分に悲痛 防止策徹底も「終わりない」 「風評が怖い」正確な情報を

 家畜伝染病・豚コレラの感染が5府県に広がっていることを受け、野生動物の侵入防止や消毒など懸命に防疫対策を続けてきた養豚農家や業界団体に衝撃が走った。「胸がつぶれる思い」「終わりのないマラソン」などと訴え、感染の拡大に危機感を募らせる。人にうつることはなく、感染した豚肉を食べても影響はないことから、正確な情報発信を求める声が続出。ワクチン接種の必要性を主張する意見も出てきた。

 岐阜県養豚協会会長で、高山市と中津川市で母豚530頭の一貫経営を営む吉野毅さん(58)は「どこの農場もバイオセキュリティーを高め、県、養豚協会と共に防疫に努めていた中で豚コレラが発生してしまったことは本当に悲しい。今まさに殺処分のさなかだが、経営者やその家族のことを考えると胸がつぶれる思い」と悲痛な気持ちを口にする。

 豚コレラの拡大について「もうどこで発生してもおかしくない状況だ」と危機感をあらわにする。政府に対し、「もっと早く対策が取れたのではないか」と疑問を投げ掛ける。「清浄国ということに重点を置くのではなく、今起きているこの状況から判断してほしい。被害が大きくなってから全頭殺処分することによる損害を考えると、ワクチン接種による防疫は必須だ。国には一刻も早く、接種に向けて動いてほしい」と要望する。

 長野県養豚協会会長を務め、千曲市で母豚120頭規模の一貫農場を経営する中村秀司さん(52)は「野生イノシシによるウイルスの拡散が指摘されている中で、これまで岐阜県内の発生にとどまっていたのは奇跡的だった」としつつも、「長野県内での発生は、本当に残念でならない」と肩を落とす。昨年の岐阜県での発生以来、消毒や野生生物の侵入防止などの対策をこれまで以上に徹底してきた。「終わりのないマラソンを走っているようなもの。いつまでこの緊張感を保てるだろうか」と生産者の心労を指摘する。

 発生農場のある長野県宮田村を管内に持つJA上伊那は6日、家畜防疫対策本部を立ち上げ、情報収集や防疫措置への職員派遣などの対応を進めている。管内の生産者には、改めて防疫対策の徹底を呼び掛けた。JA畜産課の堀内実課長は「農家はこれまでも防疫対策を取ってきた。どれだけやれば防げるのかと心配が尽きない」と生産者の声を代弁する。さらに、「風評被害が生じないよう強く願う」と話し、正確な情報発信や冷静な対応を求める。

 ワクチンの使用は、農家の間で賛否が分かれる。大阪府泉佐野市で約1000頭の豚を育てる関紀産業の川上幸男代表は府内での豚コレラの確認を受け「ワクチンをやらなかったから起きた。起こるべくして起きた行政による人災だ。拡大防止に向け行政は努力すべきだ」と語気を強める。

 防疫対策として、同社は食肉処理場へ行き来する車両は徹底的に洗浄し、豚舎から離れた場所に停車する。また外出する靴と豚舎内の靴の置き場を離すなど対策を取る。ブランド豚「犬鳴豚」を生産するだけに「風評被害は少し気になるが、国産豚は食卓に届くまで徹底して検査をする」と話す。

 愛知県田原市で母豚280頭の一貫経営を行う瓜生陽一代表は「ついに来たか」と無念そうに話す。野生のイノシシの侵入を防ぐ柵などは、県からの補助金制度を利用して設置する考えだったが、4月以降の申請になっていて設置のめどは立っていないという。

 「畜舎の建物から一歩でも外に出たら、豚コレラに限らず、ウイルスがあるという意識を持って防疫に努めるしかない」と強調。「今後の輸出に向けて、清浄国を守りたいという国の気持ちも分かるが、まずはここまで広まってしまった豚コレラの感染拡大を止めるのが先だ」とワクチン接種の必要性を訴える。

 一方、同県の生産者の一人は政府には「感染経路、感染原因の早期解明を期待する」とした上で、ワクチンに「接種することで、ウイルスに感染したのか、抗体によるものなのかが分からなくなる。労力やコストの面から、接種できない人も出てくるかもしれない」と慎重な議論を求める。
 

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