知性のバロメーター 質問力がえぐる本質 思想家・武道家 内田樹

内田樹氏

 東京新聞の望月衣塑子(もちづき・いそこ)記者と対談する機会を得た。望月さんが今度出す本の中に対談(と言うかインタビュー)を収録していただくことになったのである。

 テレビ画面で見ると、大変迫力のあるジャーナリストだけれど、実際の望月さんは小柄で(身長は僕の肩くらいまで)、質問をすると、後はずっと聞くことに集中する「聞き上手」の記者だったのに驚いた。
 

「聞き上手」たれ


 でも、考えてみれば当然のことだ。新聞記者に求められる最優先の資質は「聞き上手」だということだからである。ジャーナリストは自分の意見を述べるのが仕事ではない。自分が見聞きしたことを、主観的バイアスをできるだけ排除して読者に伝える。それが第一の仕事である。

 「聞き上手」は二つ特徴がある。一つは「思いがけない質問」を向けることである。何度も聞かれていることをまた聞かれると、こちらは答える意欲が低減する。インタビュアーは「答えやすい」質問をして気を使っているつもりかも知れないけれど、聞かれる方としては「知ってるなら聞くなよ」といういささかとがった気分になる(ことがある)。それよりは「それまで考えたことのないこと」について問われた方が私はわくわくする。

 だから、「聞き上手」の第二の特徴は「忍耐強い」ということになる。こちらは「それまで考えたことのないこと」について自分自身の中を探り、浮かび上がってきた思念の輪郭を探り、言葉を選びながら出力するという複雑な作業に従事しているわけであるから、答えをせかされたり、あるいは「……ということですか」というふうに定型的な答えに回収されると、「だったら聞くなよ」という気分になる(よく怒る人間である)。
 

逸脱も楽しんで


 でも、「忍耐強い」インタビュアーは出て来た答えがどれほど「期待の地平」から逸脱したものであっても、それをしぶとく追いかけてきてくれる。この点については経験的に言って、女性に一日の長があるように思う。

 男性の記者はしばしば取材に来る前に既に自分が書く原稿のあらましを頭の中で仕上げて来る。だから、その予定表から外れる話をこちらが始めるとそれを遮って、「雑談はそれくらいにして」というような信じがたい言葉を口にしたりする。女性記者や編集者の多くはむしろ逸脱を面白がる。

 望月さんのような「聞き上手」のインタビュアーに質問されても、わが国の官房長官は毎度木で鼻をくくったような答えしかしないでいたが、ここに及んでついに「あいつには質問させるな」という要望書まで送り付けてきたらしい。

 思いがけない質問と忍耐強い聞き手が嫌いというのは、要するに自分の知性が発動することが嫌いだということである。変わった人である。 

 うちだ・たつる 1950年東京生まれ。思想家・武道家。神戸女学院大学名誉教授、凱風館館長。専門はフランス現代思想など。『私家版・ユダヤ文化論』で小林秀雄賞、『日本辺境論』で新書大賞。近著に『日本戦後史論』(共著)、『街場の戦争論』。

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