久住昌之さん(漫画家) 「普通」が一番のごちそう グルメのこだわりない

久住昌之さん

 はよく「食べることが好きでしょう?」と言われるんです。漫画『孤独のグルメ』の作者だからでしょう。でもそれほどじゃないんです。食も細いし。

 食べ物そのものよりも、人が食べる時に頭の中で考えていることが、滑稽で面白いと思うんです。『孤独のグルメ』も、タイトルに「グルメ」なんて入っていますが、おいしい料理を紹介する漫画ではありません。ほとんどが食べ物を前にしたときのモノローグですよね。

 1981年、22歳の時に『かっこいいスキヤキ』という漫画でデビューしたんです。それも、一人の男が夜行列車で幕の内の駅弁を食べる順番を考えているというだけの話で。その駅弁の何がうまいとかは描いていない。

 僕は、例えばカレーライスを食べる時、最後にルーだけ残るとか、逆にご飯だけ残るとかならないように、注意深く食べるんですよ。若い時からね。自分がやっていることが滑稽に思う。ばかだなあと思う。そういう心の中を、ただただ淡々と描いていくんです。

 食べ物そのものに対するこだわりがないから、普段は仕事場の近くで、いつも行く店に入り、いつも同じようなものを頼んで食べています。

 も、旅行に行った時は、街を歩いていろいろ店を探します。

 強いていえば、普通のものが好きなんです。普通のカレーとか普通のラーメン。今、そういうのってなかなかないでしょう。本格なんとかって感じで。街の食堂、街の中華屋がどんどんなくなっていると感じますね。そばでいえば、手打ちの本格派か立ち食いという両極端になって、出前をするような普通のそば屋がなくなってきましたね。

 地方でも、そういう普通の店は減っていますよ。郊外に大型店舗ができて、駅前がシャッター通りになっちゃってます。ほんとに寂しいですよね。そういう状況だから、逆に一生懸命歩いて普通の店を探すんです。

 普通の店でも長く続いているとこは、何か理由があるんです。一度入っただけでは分からないけど、何度か通ううちに分かる何かが。そういうのを見つけることがうれしいんです。

 一口食べただけで「うまい」っていうラーメンではなくて、食べ終わった後に「おいしいんじゃないかなあ」という思いが湧いてくる。帰ろうかというときに、「もう一回来たいなあ」と思わせる。それで3回、4回と通ううちに、「あそこ、絶対好き!」と。そういう店が一番です。「うちの近くにあったら、毎日通うなあ」という店を探すのがいいですよね。

 事で地方に行き、夜に接待をしていただくことがあるじゃないですか。そうして連れていかれる店では、豪華な刺し身とかが出るんですよね。でもとても寂しいのが、おいしい野菜がごちそうとして出ないということ。市場に散歩に行くと、立派なダイコンだったり見たこともない野菜だったりが売っていますよね。それを使った料理こそが、ごちそうだと思うんです。

 取れたての野菜は本当においしいのに、それが料理として出してもらえない。たぶん、その地方の人にとっては普段食べているものだから、ごちそうとして人に出すものじゃないという考えなんでしょう。

 でもそういうおいしい野菜を使った普通のご飯こそ、一番のごちそうなんです。その土地の人が食べている煮物を食べたい。おしんこを、みそ汁を食べたい。普通ということは、とても素晴らしいと思うから。(聞き手・写真 菊地武顕)

 くすみ・まさゆき 

 1958年、東京都生まれ。泉晴紀氏とコンビを組み「泉昌之」名で81年にデビュー。実弟・久住卓也氏とのコンビ「QBB」での作品も多数。谷口ジロー氏と組んで94年に連載開始された『孤独のグルメ』はドラマ化もされ、大ヒット。音楽活動も行い、昨年、CD「大根はエライ」を発売した。 

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