小林至さん(江戸川大学教授) 日本農業の良さ再認識 農家収入の増大は「当然」

小林至さん

 りやすい体質なんです。高校時代はたくさん食べ、結構太っていましたね。大学(東京大学)の野球部に入って意識が変わりました。他大学の選手は、縦も横もしっかりとした体つき。対抗するため、ウエートトレーニングをした上で食べ物も変えました。

 プロ(千葉ロッテ)に入ってからは、食事もトレーニングの一環という意識をより強く持ちました。1日のタンパク質摂取量の目標は300グラム。大変でしたよ。豚ロースでも100グラム中にタンパク質は20グラムも含まれていないので。タンパク質含有量の高い牛タン、鶏ササミを食べ、プロテインを飲む。その成果で、175センチで78キロ、体脂肪率12%という体を作りました。

 1993年に引退し、次の年に渡米。ニューヨークで2年、フロリダで5年暮らしました。一気に太りました。向こうの食べ物といえば、コーラとポテトチップスとピザですから。

 コーラが安いんですよ。24缶で6ドル95セント(当時のレートで約700円)。だから、ついたくさん飲んでしまいます。アメリカのポテトチップスとピザは油だらけ。日本では味が濃いと言われるプリングルズが、向こうでは油を抑えたハイソなポテトチップスという評価。ピザも、朝まで置いておくと表面が油で真っ白になっている。それをレンジで温めて朝食として食べていました。7年間のアメリカ生活を終え帰国して体重を量ったら、93キロになっていました。

 メリカで過ごした期間、いろんなことを考えました。例えばシカゴからセントルイスまで、車で移動した時。何百キロ走ってもずっと平らで、地平線に太陽が沈んでいく。この国と戦争して勝てるわけがないと思いました。道路の横には延々とトウモロコシ畑が続き、アメリカはこれを買ってほしいんだなと分かりました。

 家では、カリフォルニア米の「玉錦」を炊いて食べていました。まずいと聞いていましたが、僕はそんなに悪いとは感じなかったですね。その頃、「吉野家」が進出してきて、牛丼を食べるとこれも悪くない。でも日本に一時帰国して食べる「吉牛」は、圧倒的においしく感じました。米が違うのか、味付けが違うのか。日本で食べる牛丼には、うま味があるんですよね。

 といえば、レストランでいろんな米を食べました。東南アジアや南米産のポロポロとした米、スティッキーライスと呼ばれるタイ産のもち米……。日本にいたなら食べることのない種類の米の味を知りました。

 日本人同士で、あるいはアメリカ人と、米の話一つで2、3時間は酒が飲めましたよ。米の味から始まって、食料自給の話になる。さらにABCD包囲網の話にまで進んでいく。そういう議論を繰り返し、ものごとを複眼視できるようになりました。その上で僕は、自国の農業、食料自給がいかに大切か認識を新たにしました。

 あれから20年。アメリカの物価は2倍以上になりましたが、日本はほとんど変わりません。日本円で1000円ほどだったニューヨークのラーメンが、今は2000円では足りない。

 日本では値上げは悪いことだと考える消費者が多く、マスコミもそのように報じます。

 でも経済成長のためには、物価は穏やかに上がった方がいいのです。日本の料理や食材は安過ぎる。ここまで安くするため、どれだけの苦労や犠牲があるのか。物価を上げて、食材を作ってくれる農家の収入を増やすことも大切だ。海外に出掛けるたびに、そんなことも感じます。(聞き手・写真 菊地武顕)
 

 こばやし・いたる


 1968年、神奈川県生まれ。スポーツ科学博士。92年、千葉ロッテに入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となる。2年後に退団。コロンビア大学でMBA(経営学修士号)を修得し、フロリダのテレビ局で働いた。2005~14年に福岡ソフトバンクホークスの経営に携わった。 
 

おすすめ記事

食の履歴書の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは