検疫協議を望む海外 和牛遺伝子どう守る 特別編集委員 山田優

 農水省の動物衛生担当官が、国際会議などの場で米国を含む複数の外国政府の関係者から「ぜひ和牛の遺伝子が欲しい」と言われている。現在は和牛輸出の衛生検査手順を定めた衛生条件がどこの国ともないため、和牛輸出を合法的には行うことができない。貿易の際に検疫を義務付ける家畜伝染病予防法(家伝法)に違反するからだ。

 「和牛はわが国の畜産振興の大切な柱です」。農水省の担当者はこう切り返して打診をかわしてきたが、衛生条件について相手国が正式な政府間協議を申し入れてきたら、むげに断れないのが国際貿易ルールの原則だ。

 検疫協議は純粋に技術的な話し合いだ。家畜疾病の侵入や海外への拡散を防止するため、政府間で衛生条件などを科学的な手順で確認し合う。日本が農産物輸出に際して検疫協議を求める際にも、科学的な対応をするよう相手国にくぎを刺してきた。

 和牛は生体と精液が1970年代に米国に渡り、そこからオーストラリアなどに拡散しWAGYUになった。当時は日米間で検疫条件が決まっていた。2000年に日本で口蹄(こうてい)疫が発生し、米国側が日本からの輸入を禁止したまま今日に至っている。

 WAGYUブームを背景に、同年以降も改良が進む本家の和牛遺伝資源を手に入れたいという機運が、海外で高まっている。畜産業界の要請を受け、米国を含めた複数の外国政府が、日本政府との検疫協議の可能性を水面下で探っているとみられる。

 農水省は18日、第2回の和牛遺伝資源の流通管理に関する検討会を開いた。家伝法に違反する流出を抑えるため国内のチェック体制強化などが話し合われている。今月大阪府警に検挙された事件のように、隠して精液を海外に持ち出す動きに対して、管理強化は抑止力となるだろう。

 だが、仮に外国政府との交渉で和牛の衛生条件が正式合意されれば、精液輸出そのものは合法になる。「輸出したい」という業者を家伝法で縛ることはできない。

 和牛に対する関心が海外で高まっていることは誇るべきことだ。一方で家伝法だけに頼らず、日本として和牛遺伝資源をどう守るのかという判断がますます問われるだろう。

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