ロバート・キャンベルさん(言語学者、コメンテーター) 食卓は喜怒哀楽交換の場

ロバート・キャンベルさん

 先日までパリとロンドンに出張していました。どちらの街も食が多様化していて楽しかったです。

 パリでは、ベトナム料理もいただきました。旧植民地ですからベトナム系の人がたくさんいて、フランス人は中華料理以上にベトナム料理に親しんでいます。

 ロンドンで印象に残っているのは、家族でやっている小さなトルコ料理店。大きなナスに羊のひき肉を詰めパプリカを載せたもの、ごまをたくさん入れたフムス(ヒヨコマメのペースト)、30種類以上もの野菜を使った料理がワンプレートに載っていて、何を食べてもおいしかったです。
 

”本場”が身近に


 イギリスはおいしくないといわれてきましたが、ここ10年、どんどんおいしくなりました。グローバル化がイギリスの味を変えたのは間違いありません。これからイギリスがEU離脱をして内側に向かうと、また以前のような味に戻るのでしょうか。

 パリでおいしいフランス料理をたくさん食べましたが、東京で食べるフランス料理は全く引けを取らないですね。昔はヨーロッパに行くと、そこでしか味わえない料理を楽しめたんですが、その楽しみが減ったと感じます。グローバル化の影響で、東京でも食の多様性が進みましたから。

 とはいいましてもそれは味についてのことで、店の雰囲気は東京とヨーロッパでは全然違います。

 フランスで育った部下がいまして、モンマルトルという地域にあるガレット(そば粉の生地を円形に伸ばし、具を載せた料理)のおいしい店に案内してもらいました。フランス北部出身の労働者が多い地域で、北部の郷土料理であるガレットの店が密集していました。

 店内はものすごく混んでいました。面白いと思ったのは、人々が生き生きと大きな声でしゃべりながら食べていたことです。日本では声を上げず気配を感じながら食べるでしょう。この店では恋人同士、夫婦、親子……いろんな人がいましたが、どのお客さんもとにかくおしゃべりをしていました。

 時々、他のテーブルの人と目が合うんですよね。日本では他人とは目を合わせないようにするでしょう。でもパリでは、目が合うと軽く会釈して笑うんですよ。私も会釈し笑顔で返しました。

 携帯電話をいじっている人は1人もいませんでした。目の前にいる人と大きな声で話し、他のテーブルの人と視線が合えば会釈し、目の前にある料理を猛烈な勢いで食べるんです。
 

日本人は頭で…


 ウエーターが料理の説明をしないのにも好感を持ちました。日本では料理を運ぶたびに講釈を垂れるでしょう。「○○産の××を使った△△です」「これこれこういうだし汁を使って」とか。私たちが話をしていてもおかまいなしに割って入るから、話が途切れてしまいます。空間が凍結し、一心不乱にウエーターの説明を聞かないといけません。これは苦痛です。

 日本人は頭で食べているというのでしょうか。知識獲得型ですよね。

 料理の写真を撮って、うんちくと一緒にインスタグラムに上げることが大きな目的になっています。食事をしながら目の前にいる人と恋を語り合い、けんかをするなど、喜怒哀楽の交換が少し薄くなっているかもしれません。

 善しあしはともかく、食事の席で文化の違いは出ます。私は、食べることと目の前の人との喜怒哀楽の交換とは、すごく相性が良いと感じています。(聞き手=菊地武顕)

 ロバート・キャンベル 米国・ニューヨーク市生まれ。ハーバード大学大学院東アジア言語文化学科博士課程修了。1985年に九州大学文学部研究生として来日した。現在、国文学研究資料館長を務める。テレビ「スッキリ」のコメンテーターなどメディアでも幅広く活躍し、近著に『井上陽水英訳詞集』がある。

 

おすすめ記事

食の履歴書の新着記事

検索

e農サーチ e農サーチとは