米政策の在り方 経営安定策構築急げ 新潟食料農業大学教授 武本俊彦

武本俊彦氏

 農林水産業・加工流通業・関連産業をまとめて食料産業とする捉え方がある。生産から加工・流通を通じて消費までをつなぐフードシステムが市場メカニズムを通じて、多様な消費者ニーズに合わせた財・サービスを供給するものだ。その規模は55兆円(対国内総生産=GDP=比10%)の付加価値、116兆円(対全生産活動比11%)の国内生産額に上る。日本経済の1割を占める産業だ。
 

食ニーズが転換


 経済成長の過程で、消費者の食に対するニーズが量から質へと転換した。その中で、家庭で調理していた女性の社会進出、人口の少子高齢化などによる世帯員数の小規模化が進み、外食や中食といった食生活の外部化がもたらされた。その反面、チェーンストア・システムと販売時点情報管理(POS)による情報力を装備した小売業による食品流通部門の支配状況が表れた。その結果、生産者や加工業者との間で自由で公正な競争条件が確保されているのか、または、消費者にとって望ましい豊かで健康な食生活が保証されているのかが懸念されている。

 市場メカニズムで、望ましい状況が実現し得ないときには、政府が補完的に関与していくことになる。政府は、望ましい状況となるよう、政策を講ずることで競争環境を整備することになる。
 

価格形成適正に


 米政策は、1995年に食管法が廃止され、昨年からは政府による生産数量目標の配分も行われなくなった。米は食管法ができた当時は国民の食生活にとって死活的に重要で、農業生産の中で圧倒的な地位を占めていた。だが、今や種々の農産物・食品の中の一つにすぎなくなった。米を巡る環境は大きく変化したが、今でも米価の維持が最大の関心事項となっている。

 米価維持のために需給調整するといっても国内市場は人口の減少高齢化により確実に縮小し続けるし、実質賃金の減少過程では米価は下落する。米中摩擦などの世界経済の先行きを考えれば円高に振れ、輸入物価は下落する可能性が大きい。また、日米貿易協定の締結によって関税による国産保護効果は期待できない状況がはっきりする。こうした状況を冷静に考えれば、米価維持は国民にとって望ましいことなのか。先物市場どころか適正な価格を形成する現物市場もない中でJAは買い取り集荷を推し進めようとしている。将来の価格下落のリスクをどうやって回避するのか。

 いずれにしても政府が取り組むべきは、米価が需給によって適正に形成される環境を整備することだ。価格シグナルは、生産者の将来の経営判断にとって最も重要な情報となる。その上で、為替水準や景気動向によって経営の先行きが不確実となる可能性があるのだから、少なくとも欧米で行われているような総合的で重厚な経営安定措置が発動されるようにすべきだ。それが政府および国会が今取り組むべき課題である。

 たけもと・としひこ 1952年生まれ。東京大学法学部卒、76年に農水省入省。ウルグアイラウンド農業交渉やBSE問題などに関わった。農林水産政策研究所長などを歴任し、食と農の政策アナリストとして活動。2018年4月から現職。

 

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