[新型コロナ禍 農と食] “共助”大地に芽吹く 苦境の観光業者 農家が雇用

黒村さん(左)らにアスパラガスの収穫方法を指導する本山さん(右)。背後に大雪山が見える(北海道美瑛町で、望月悠希写す)

 雪が残る山々に囲まれた北海道美瑛町のアスパラガス畑で5月20日、長さ数十センチのアスパラガスの若芽が大地から無数に伸びていた。海底の砂地から細い体を出すチンアナゴのようだ。

 畑では複数の男女が腰をかがめ、収穫の目安を示す棒を若芽の横に立てながら、慣れない手つきで根元に鎌を入れていた。その一人、黒村操さん(59)が「簡単に見えて大変。でも、初めて農作業を体験できて、とても幸せ」とはにかんだ。
 

終息願うも


 黒村さんは7年前、千葉県から同町に移住し、ペンション「うねうね畑とくもの月」を始めた。1日2組限定の丁寧なサービスが人気で、予約はいつも埋まっていた。

 しかし、新型コロナウイルス禍でキャンセルが相次ぎ、4月に臨時休業を決断した。大型連休の直後から、コロナ禍で収入を失った人たちと共にこの農場で働く。

 農場を営む農家の本山忠寛さん(35)が「早く終息してほしい」と願いつつ、「黒村さんたちには長く働いてほしい」と相反する思いを口にした。

 冬季に中国から多くの観光客が訪れる北海道は、2月中旬に札幌市在住者の感染が判明して以降、道内各地で感染者数が増えていった。2018年9月の北海道胆振東部地震の影響から回復してきた観光業界を直撃し、ホテルなどの休業が相次いだ。「うねうね」も同じ流れだ。

 観光業界で働く人たちの多くが収入を失った。一方、雪解けの4月以降、道内各地は野菜の定植や収穫が続き、例年通り人手不足は深刻だった。雇用をなくした人に、一時的でも農業の担い手になってもらいたいという動きが広がった。
 

農業に愛着


 本山さんの農場は約140ヘクタールで、道内でも大規模だ。従業員ら25人とタマネギやトマト、小麦などを栽培している。積雪期を除き作業に切れ目はなく、黒村さんら宿泊業などの7人に臨時で働いてもらうことにした。

 「宿をいつ再開できるか分からない中で、本当に助かった」と黒村さんは感謝する。美瑛町への移住は、40代前半に観光で訪れたことがきっかけだった。「空が近いから、なだらかな丘に雲が走っているように見える」光景にほれ込み、ペンション経営を思い付いた。千葉に戻り、10年かけて美瑛で土地を探し、体が不自由な人たちも利用できるバリアフリー設計にした。

 人生初の農作業体験となったが、思えば「農」は身近にあった。ペンションは離農した農家の土地に建て、周囲の広大な畑は宿泊客を魅了した。共有スペースのテーブルは農家の納屋のはりを加工した。宿名の由来になった愛着ある風景にも農業が顔を出す。

 本山さんは「困っているからと手を差し伸べているのではなく、僕らが助けてもらっている」と言う。農作業は「一緒に山に登るのと同じ」だと連帯感を大切にする。

 黒村さんは「宿を再開できたら、食事を出す時、お客さんに美瑛の農業について語りたい」と思う。その時まで、宿泊した人から届いた手紙やメールでの励ましを胸に、農場で働くつもりだ。

 残雪輝く大雪山の麓で、農を核とする新しい関係が芽生えていた。(望月悠希)

<メモ>

 北海道は豊かな「食と農」を観光資源の一つにして、2018年度には国内外から5520万人の観光客を集めた。現在は首都圏4都県と共に緊急事態宣言が継続されている。道の試算では、影響が6月まで続いた場合、今年上半期の宿泊客延べ約900万人分と、経済効果約3000億円分が失われる。
 

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