〈をととひのへちまの水も取らざりき〉

 〈をととひのへちまの水も取らざりき〉。糸瓜(へちま)忌のきょうは、この句をかみしめたい▼正岡子規の最後の句である。十五夜に取ったへちま水を飲むと痰(たん)が切れるという伝承があった。それすら取れなかったことを嘆きながら、子規は逝った。享年34。〈糸瓜咲て痰のつまりし仏かな〉〈痰一斗糸瓜の水も間にあはず〉と一緒にしたためた「絶筆三句」の肉筆が国立国会図書館にある。息も絶え絶えに書いたのだろう、字の乱れが生々しい▼寝たきりの小さな6畳間から世界を描写した。食うもの飲むもの、見るもの出合うもの、全てが題材となった。「病床六尺、これが我世界である。しかもこの六尺の病床が余には広過ぎるのである」(「病牀六尺」)。その“庵(いおり)”から見える世界は、どんなものだったろう▼きょうは彼岸の入り。〈暑さ寒さも彼岸まで〉といわれる通り、朝夕の涼しさに秋の訪れを感じる。いつもなら墓参りをして、先祖や故人を供養するのが習わしだが、今年は新型コロナ禍でそろっての墓参は見送る人が多いと聞く。感染者が減ったからといって、油断は大敵。これから冬にかけて大きな感染の波が来る恐れがある▼せっかくのシルバーウイークの過ごし方を考えながら、子規の句に心を重ねる。〈故郷の淋しき秋を忘るゝな〉

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