[菅農政 見直しか継承か](中) 輸出目標「スガ案件」 対米関係 最大の課題

 「スガ案件」

 菅義偉首相の官房長官時代の肝いり政策は霞が関の官僚たちにこう呼ばれ、「特別扱い」(経済官庁幹部)されてきた。農林水産物・食品の輸出拡大も、その一つだ。

 菅氏は官房長官時代、農林水産物・食品の輸出拡大に向けた閣僚会議の議長を務めた。会合のたびに、締めくくりでは「九州と同程度の面積のオランダは、10兆円を輸出している」と言及。日本の輸出余力は大きいと、ハッパを掛けた。

 それが形になったのが、3月閣議決定の食料・農業・農村基本計画に盛り込まれた、政府の2030年の輸出額目標5兆円だ。19年実績の9121億円を大幅に上回り、実現可能性を疑問視する声が与党からも相次ぐが「菅さんの意向でこうなった」(政府関係者)。

 もう一つ、スガ案件が具体化したのが、今年4月に農水省に創設された政府全体の輸出本部。複数の省庁に分かれていた輸出先国との国際交渉、加工施設の認定などを一括して担当する組織だ。菅氏は今、これを「縦割り行政の打破」の象徴としても強調する。

 菅氏は首相就任会見でも「農林水産品の輸出は(安倍政権発足時の)4500億円から、昨年は9000億円まで伸びた」と強調。政権の地方活性化策の柱に据え、野上浩太郎農相に輸出拡大を指示した。だが、輸出が農家所得にどれだけつながったかは判別できず、課題となっている。

 新型コロナウイルス禍は、輸出にも影を落とす。1~7月期の輸出額は4876億円で、前年同期比7%減。各国でも、外出自粛による外食需要が低迷している。目標達成への道筋はさらに不透明さを増し、戦略の見直しが迫られている。

 「外交の安倍」といわれた、安倍晋三前首相。各国首脳と個人的な信頼関係を結んだとされ、特に米国のトランプ大統領とは「ゴルフ外交」も展開した。両首脳の下で日米両政府は貿易協定を締結。日本は、環太平洋連携協定(TPP)並みの農産物関税削減・撤廃などに応じた。

 安倍政権の継承を旗印とする菅氏だが、外交実績は乏しい。一方で、米国は11月に大統領選を控える。トランプ氏は、民主党候補のバイデン前副大統領を相手に苦戦が続いている。どちらが勝つにせよ、米大統領との関係構築は、菅氏にとって最大の課題の一つだ。

 「24時間いつでも何かあったら電話をしてほしい」。菅氏は20日夜、トランプ氏との初の電話会談で、こう伝えられたことを明らかにした。無難な外交デビューだった。だが日米貿易協定を巡っては、米国の一部議員が追加交渉を求める書簡をまとめるなど、同国内に市場開放への期待がくすぶる。「新政権が、米国や諸外国に強く言うべき場面できちんと言えるか心配だ」(神奈川県の若手農家)
 

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