最大級の転作拡大 実効確保の鍵は手取り
2020年11月26日
農水省が米需給安定への対応策を示した。主食用からの作付け転換を巡っては、支援策の単価の決定が政府予算案の編成時などに持ち越された。過去最大規模となる減産の実効確保のために、主食用と遜色ない手取りを得られるようにすべきだ。過剰作付けが続いており、米政策の検証に着手する必要もある。
米政策は、主食用米と非主食用米を含む転作作物の生産を通じ、食糧法の目的である「需給及び価格の安定」と、食料・農業・農村基本法が掲げる「国内の農業生産の増大」を目指すことが肝要だ。農家の所得が増え、担い手の確保・育成をはじめ生産基盤が強化され、食料自給率の向上につながるからだ。
土台となるのが、需要に応じた主食用米の生産である。しかし国による生産数量目標の配分や生産調整達成メリットを廃止した2018年産以降、適正生産量に比べて過剰作付けが続く。一方で、自給率向上への戦略作物である飼料用米や加工用米、大豆の近年の作付面積は17年産をピークに減っている。
18、19年産は作況指数の低下で需給と価格が安定。しかし20年産では、過剰作付けと新型コロナウイルス禍に伴う米の需要の減少で需給が緩和するとの見通しが強まり、米価が低下している。大幅な下落を防ぐには、21年産の生産量を36万トン、面積で6・7万ヘクタール、率として約5%減らすことが求められる。
どうやって達成するか。現行米政策の「産地主体の生産調整」の下では、①JAや行政、農家、農業法人、集荷業者、実需者など地域の関係者が連携する②販売代金と水田活用の直接支払交付金といった助成金、団地化などによるコスト削減効果を勘案し、水田農業の所得を最大化する作付けの“最適解”を見つける③水田フル活用ビジョンに落とし込み、実践する④国と自治体は、実効確保に必要な支援を行う──ことが基本だ。
この観点から、共同(プール)計算や生産者手取りの平準化、用途変更の円滑化など、産地一体で取り組みやすくする仕組みを設けることは評価したい。しかし、これが機能するには、非主食用米の手取りが主食用米と遜色ない水準になることが重要だ。水田活用の直接支払交付金の「前倒し支援」の単価は、今年度第3次補正予算案の編成過程で決まる。また転作を拡大する農家への国の支援は都道府県の予算に左右される。国も県も十分な財源を確保すべきだ。
主食用米の過剰作付けは農家の経営にも、地域農業の振興にも、自給率の向上にも、食料の安定供給を望む国民にもマイナスである。3年連続での発生は、現行の米政策ではその解消が難しいことを物語る。また、支援単価の引き上げの一部は補正予算を使うため一時的と言える。農家が将来を見通せるよう、米の需給安定や転作作物の生産振興、経営安定、担い手確保、流通など幅広く検証し、必要な見直しにつなげるべきだ。
米政策は、主食用米と非主食用米を含む転作作物の生産を通じ、食糧法の目的である「需給及び価格の安定」と、食料・農業・農村基本法が掲げる「国内の農業生産の増大」を目指すことが肝要だ。農家の所得が増え、担い手の確保・育成をはじめ生産基盤が強化され、食料自給率の向上につながるからだ。
土台となるのが、需要に応じた主食用米の生産である。しかし国による生産数量目標の配分や生産調整達成メリットを廃止した2018年産以降、適正生産量に比べて過剰作付けが続く。一方で、自給率向上への戦略作物である飼料用米や加工用米、大豆の近年の作付面積は17年産をピークに減っている。
18、19年産は作況指数の低下で需給と価格が安定。しかし20年産では、過剰作付けと新型コロナウイルス禍に伴う米の需要の減少で需給が緩和するとの見通しが強まり、米価が低下している。大幅な下落を防ぐには、21年産の生産量を36万トン、面積で6・7万ヘクタール、率として約5%減らすことが求められる。
どうやって達成するか。現行米政策の「産地主体の生産調整」の下では、①JAや行政、農家、農業法人、集荷業者、実需者など地域の関係者が連携する②販売代金と水田活用の直接支払交付金といった助成金、団地化などによるコスト削減効果を勘案し、水田農業の所得を最大化する作付けの“最適解”を見つける③水田フル活用ビジョンに落とし込み、実践する④国と自治体は、実効確保に必要な支援を行う──ことが基本だ。
この観点から、共同(プール)計算や生産者手取りの平準化、用途変更の円滑化など、産地一体で取り組みやすくする仕組みを設けることは評価したい。しかし、これが機能するには、非主食用米の手取りが主食用米と遜色ない水準になることが重要だ。水田活用の直接支払交付金の「前倒し支援」の単価は、今年度第3次補正予算案の編成過程で決まる。また転作を拡大する農家への国の支援は都道府県の予算に左右される。国も県も十分な財源を確保すべきだ。
主食用米の過剰作付けは農家の経営にも、地域農業の振興にも、自給率の向上にも、食料の安定供給を望む国民にもマイナスである。3年連続での発生は、現行の米政策ではその解消が難しいことを物語る。また、支援単価の引き上げの一部は補正予算を使うため一時的と言える。農家が将来を見通せるよう、米の需給安定や転作作物の生産振興、経営安定、担い手確保、流通など幅広く検証し、必要な見直しにつなげるべきだ。
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ゴロゴロ具材のどさんこ餃子 北海道岩見沢市
北海道岩見沢市の「ゴロゴロふぁーむ」が製造・販売する冷凍ギョーザ。原料は北海道産にこだわった。
皮は岩見沢産小麦「キタノカオリ」を中心に、道産小麦をブレンド。香り豊かでもちもちした食感が特徴だ。道内のブランド豚「留寿都豚」を大きめに切った粗びき肉を使い、野菜も大きく切ってゴロゴロ感を出している。
味は少し甘めで塩味とのバランスが良く「一度食べたら病みつきになる」と評判だ。ニンニクを使っていないため、人と会う前に食べても気にならない。
1袋(15個、375グラム)780円。同社の他、岩見沢観光物産拠点センターiWAFO(イワホ)で販売。問い合わせはゴロゴロふぁーむ、(電)0126(22)5666。
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2021年01月13日

市来農芸(鹿児島)が連覇 和牛甲子園オンラインで最多33校
和牛生産に情熱を注ぐ全国の農業高校生“高校牛児”が集い、日頃の飼養管理の成果や肉質を競う「和牛甲子園」が15日、オンラインで開かれた。新型コロナウイルス禍による休校や活動制限を乗り越え、全国19県から過去最多の33校が出場した。頂点となる総合優勝には、昨年に続き、鹿児島県立市来農芸高校が輝き、2連覇を達成した。
JA全農の主催で、今回が4回目。……
2021年01月16日

いくえ農園12年目 学びの場で心豊かに 農への思い深まる タレントの榊原郁恵さん
タレントの榊原郁恵さんが、神奈川県厚木市で農園活動を始めて12年目を迎えた。農園を“自分を成長させてくれる学びの場”と捉え、忙しい仕事の合間を縫って通い続ける。今では「農作物ができるまでどれほど時間も手間もかかるか、体で分かる」ようになった。育った作物に「感動の連続」だという。
農園は約10アール。地元のJAあつぎを仲介して借り、仲間4人で運営する。「土が合っているのか、すごくいいサトイモが取れるの」と榊原さん。仲間の70代男性は「最初はいつまで続くかなあと思ったけど、農作業に誰よりも熱心なんだよね。もう一通りの野菜作りはできるよ」と目を細める。
高校生の時に芸能界に入って以来、仕事一筋だった。「この世界以外知らないし、趣味も特にない。何か新たに学びたい。どうせなら生活に身近なもの」と考えたとき、日本の自給率の低さや耕作放棄地の問題などが目に付いた。
自分で作った農作物を食べたくなり、JAが当時開いていた農業塾に参加。出身地の厚木を活気づけたいという思いもあった。修了後も農作業を続けたくて、仲間と農園を始めた。
大好きなアスパラガスが収穫まで3年ほどかかることや、小松菜やシュンギクの種の小ささに驚いた。野菜作りについて「子育てをしているみたい。過度な愛情も、気に掛けないのも駄目。生き物を育てているんだなあ」とつくづく感じる。
在来種の栽培や加工品作りなど、やりたいことにどんどん挑戦。日本農業新聞にも活動の様子を連載した。農家と知り合い自ら農作物を作る中で、作り手と買い手の距離感にもどかしさも感じるようになった。「食べる側は野菜を当たり前にあるものと思いがちだけれど、農家が時間をかけて地道な作業をして作っている。“育てられたもの”をいただいているという感覚を一人一人が持てるように、農業に触れ合う機会が増えるといいな」
農園を続けてこられた理由に、仲間の存在を挙げる。農業について教わるだけでなく、作業も互いに協力し、励まし合ってきた。「心が豊かになり、私自身を育ててもらえた」と感謝する。仲間も年を重ね、体力的にきついと感じることもあるが、まだまだ続けたい。農への思いは深まるばかりだ。
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2021年01月12日

5G 地方展開いつ? 中山間地こそ「スマート」必要
中山間地の農家が、スマート農業を使いこなすのに必要な第5世代移動通信システム(5G)を利用できないのではないかと、不安視している。人口が少ない地域は通信会社の実入りが少なく、電波網の整備が後手に回りがちだ。自治体主導で必要な基地局を建てる手もあるが、1基数千万円かかるなど負担が重い。「条件不利地こそ先進技術が必要だ」──農家らはスマート農業推進を叫ぶ国の姿勢をいぶかる。(木村隼人)
技術導入したいが 環境整わず 佐賀県嬉野市
佐賀県嬉野市の岩屋川内地区。同地区に畑を持つ茶農家の田中将也さん(32)は、スマート農業の技術で収穫の負担が大きく減らせることに期待するが「今のままでは普及は難しい」とみる。畑に出た時に携帯電話がつながらず、連絡が取れない経験を何度もしているからだ。山間部にあるため携帯電話の基地局の電波を受信しにくく、現状でも通信環境が悪い。
スマート農業で多用されるドローン(小型無人飛行機)には1~4レベルの設備環境がある。数字が大きいほど通信速度が速く安定しており、補助者がいなくても事前のプログラム通りに自律飛行できる。高解像度の画像を収集でき、利便性が高まる。
高レベルの活用には最先端の5Gが必要だが、普及は始まったばかり。正確なカバー率はつかめないが、大手通信会社は5G展開の指針に、人口を基準にした目標に掲げる。そのため、大都市圏を優先した整備になり、地方は置き去りにされやすい。
現在の携帯電話さえつながらない「不感地域」は全国に残っており、約1万3000人(総務省調べ、2018年度末)が不便を強いられている。総務省東北総合通信局によると、東北地方が最も不感地域が多いという。
工事期間、費用基地局開設に壁
嬉野市は総務省の「携帯電波等エリア整備事業」などを使いながら改善を進めるが「基地局を一つ開設するのに8000万円近くかかる」(市担当者)こともあり、早急な解決は難しい。
農水省九州農政局のスマート農業担当者は「効果的に普及させるためにも高速通信は不可欠。山間部などの通信環境を整えることは必要だ」と指摘するが、通信網整備の所管は総務省となるためか、具体的な改善策については口をつぐむ。
整備の遅れについて、ある通信大手は「5Gネットワークの全国整備には膨大な数の基地局が必要で、長期工事と多額の投資を伴う」とコメント。別の企業も「山間部では基地局整備に必要な光ファイバーなど伝送路の確保が難しい」とする。
だが嬉野市の田中さんは「中山間農業の課題解決のためにもスマート農業は必要。本気で普及を考えるなら、通信環境を早期に改善してほしい」と訴える。
<ことば> 5G
次世代の通信規格。日本では2020年3月からサービスが始まった。大容量・高速通信が可能。最高伝送速度と通信精度は現行(4G)の10倍。一方で、5Gが使う高周波数帯は障害物に弱い。波長が短く通信範囲が狭い特性があり、従来より多くの通信基地が必要になる。
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2021年01月15日
健康長寿の10年 高齢者 農業に生かそう
国連は昨年12月の総会で、2021年から30年を「健康な高齢化の10年」(健康長寿の10年)にすると宣言した。世界に先駆けて高齢化が進む日本の農村こそ関係機関が連携し、高齢者が健康なまま輝けるような取り組みを率先して進めるべきだ。
国連の宣言は、高齢化が世界的問題になっているにもかかわらず、高齢者の権利と要望に対応できる十分な準備ができていないとの懸念を表明。年齢を重ねるだけではなく、自立した生活を重視した内容だ。世界保健機関(WHO)を中心に、各国政府や地域、市民団体、民間などに積極的な行動を促している。
厚生労働省によると、日本の平均寿命は男性81・41歳(19年)、女性87・45歳(同)。世界でもトップクラスだ。平均寿命とは別に健康寿命という考え方がある。日常の生活動作を自立してできる、健康に過ごせる期間のことだ。長寿科学振興財団によると、日本の健康寿命は74・8歳。シンガポールの76・2歳に次いで世界2位になる。
しかし日本は、平均寿命と健康寿命の開きが大きい。健康を損なってから亡くなるまで平均10年前後を過ごしていることになる。同財団によると、国別ランキングでは開きが少ない方から31位と順位が大きく下がる。介護が必要な期間が長いのだ。
新型コロナウイルス感染への懸念や医療の逼迫(ひっぱく)を考えると、高齢者は病院に行きにくい。健康を損ねて病院で治療するより、予防することが求められている。健康寿命を延ばし、平均寿命に近づける取り組みの重要性は増している。
健康寿命を延ばすには、適度な運動、適度な食事、生活習慣病対策などが求められるが、個々が「やる気」を持つことも重要だといわれる。高齢者が意欲や好奇心、社会に求められているという実感を持てる仕事や趣味が健康長寿につながる。
日本は農業者の減少と高齢化が進み、基幹的農業従事者の7割を65歳以上が占める。農業にとって労働力の確保は大きな課題で、雇用を含め高齢者を多様な担い手に位置付ける必要がある。一方で農業法人など雇用する側には、高齢者が規則正しい生活を送り、楽しんで働けるよう作業の安全に配慮した職場環境をつくることが求められる。
政府は、19年にまとめた農福連携等推進ビジョンで、農福連携を障害者の活躍促進にとどまらず、高齢者や生活困窮者らの就労・社会参画の視点で捉え直すことを提起した。就労先の情報提供を含め、行政やJA、農業者らが連携し、高齢者の就農支援に取り組んでほしい。
何より必要なのは意識改革だ。国連は、高齢化に対する考え方、感じ方、行動方法を、この10年で変えようと訴える。社会に貢献したい、楽しみながら年を重ねたいという高齢者の思いを、若い世代がくみ取り、生かす姿勢が求められる。社会全体で高齢者の活躍の場をつくり、健康長寿を延ばしたい。
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2021年01月17日
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健康長寿の10年 高齢者 農業に生かそう
国連は昨年12月の総会で、2021年から30年を「健康な高齢化の10年」(健康長寿の10年)にすると宣言した。世界に先駆けて高齢化が進む日本の農村こそ関係機関が連携し、高齢者が健康なまま輝けるような取り組みを率先して進めるべきだ。
国連の宣言は、高齢化が世界的問題になっているにもかかわらず、高齢者の権利と要望に対応できる十分な準備ができていないとの懸念を表明。年齢を重ねるだけではなく、自立した生活を重視した内容だ。世界保健機関(WHO)を中心に、各国政府や地域、市民団体、民間などに積極的な行動を促している。
厚生労働省によると、日本の平均寿命は男性81・41歳(19年)、女性87・45歳(同)。世界でもトップクラスだ。平均寿命とは別に健康寿命という考え方がある。日常の生活動作を自立してできる、健康に過ごせる期間のことだ。長寿科学振興財団によると、日本の健康寿命は74・8歳。シンガポールの76・2歳に次いで世界2位になる。
しかし日本は、平均寿命と健康寿命の開きが大きい。健康を損なってから亡くなるまで平均10年前後を過ごしていることになる。同財団によると、国別ランキングでは開きが少ない方から31位と順位が大きく下がる。介護が必要な期間が長いのだ。
新型コロナウイルス感染への懸念や医療の逼迫(ひっぱく)を考えると、高齢者は病院に行きにくい。健康を損ねて病院で治療するより、予防することが求められている。健康寿命を延ばし、平均寿命に近づける取り組みの重要性は増している。
健康寿命を延ばすには、適度な運動、適度な食事、生活習慣病対策などが求められるが、個々が「やる気」を持つことも重要だといわれる。高齢者が意欲や好奇心、社会に求められているという実感を持てる仕事や趣味が健康長寿につながる。
日本は農業者の減少と高齢化が進み、基幹的農業従事者の7割を65歳以上が占める。農業にとって労働力の確保は大きな課題で、雇用を含め高齢者を多様な担い手に位置付ける必要がある。一方で農業法人など雇用する側には、高齢者が規則正しい生活を送り、楽しんで働けるよう作業の安全に配慮した職場環境をつくることが求められる。
政府は、19年にまとめた農福連携等推進ビジョンで、農福連携を障害者の活躍促進にとどまらず、高齢者や生活困窮者らの就労・社会参画の視点で捉え直すことを提起した。就労先の情報提供を含め、行政やJA、農業者らが連携し、高齢者の就農支援に取り組んでほしい。
何より必要なのは意識改革だ。国連は、高齢化に対する考え方、感じ方、行動方法を、この10年で変えようと訴える。社会に貢献したい、楽しみながら年を重ねたいという高齢者の思いを、若い世代がくみ取り、生かす姿勢が求められる。社会全体で高齢者の活躍の場をつくり、健康長寿を延ばしたい。
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2021年01月17日
コロナ特措法改正 補償が実効確保の鍵に
政府は、新型コロナウイルス対策の特別措置法改正案を18日召集の通常国会に提出し、早期成立を目指す。休業と財政支援、罰則のセットが柱で、実効性が鍵を握る。農家を含め幅広で十分な補償の明確化が必要だ。罰則は私権制限との兼ね合いで慎重を期すべきだ。国民の命を守る視点で徹底審議を求める。
特措法改正論議に際し、現行法の問題点と、この間の拙劣な政府対応を指摘しておきたい。
日本で最初の新型コロナ感染者が確認されてから15日で1年。政府の後手後手の対策やGoToキャンペーンなどちぐはぐな対応も重なり、感染終息どころか2度目の緊急事態宣言発令に追い込まれた。昨年11月ごろから続く第3波は、全国的に医療体制の逼迫(ひっぱく)を招き、失業や自殺者の増加など負の連鎖も止まらない。感染拡大をここで止めることができなければ、暮らしと雇用・事業の破壊、医療崩壊、経済の失速へと一直線に向かいかねない。
現行法では、飲食店などへの営業時間短縮や休業、外出自粛などは要請で、強制力を持たない。経済的補償も措置されていない。特措法の対象にならない遊興施設などへは協力依頼しかできない。国民の自覚と協力に頼らざるを得ないのが実情だ。
国と自治体の役割分担や司令塔機能のあいまいさも混乱に拍車を掛けた。法律の立て付けでは、都道府県知事に感染防止策の権限を持たせ、政府は総合調整をすることになっているが、危機感の共有や連携が十分だったとは言い難い。緊急事態宣言を発令するのは首相だが、専門家の調査・分析に基づく丁寧な説明が尽くされたか疑問だ。発信力も弱い。経済回復や東京五輪・パラリンピックなど国家的行事を優先し、判断の遅れや対策の不備はなかったか。
さらに公立病院に偏重した感染者の受け入れ態勢、広がらないPCR検査など、浮き彫りになった感染防止策の問題点も洗い出し、検証した上で特措法改正論議を深めるべきだ。
検討されている改正案では、緊急事態宣言下で知事は店舗に休業を「命令」できるようにし、違反すれば過料を科す。宣言発令前の予防的措置も設ける。時短営業や休業に応じた事業者への財政支援の規定も書き込む考えだ。補償することを明確化し、休業店舗などへの直接補償にとどまらず、食材納入業者や農家など関係者に広く補償すべきだ。感染防止の実効確保は、事業継続可能な補償が前提である。営業の自由など私権制限に踏み込む内容なだけに、罰則の必要性や補償とのバランスを含め慎重な議論を求める。
政府は通常国会に感染症法改正案も提出し、入院を拒否した感染者への罰則規定を盛り込む方向だ。コロナ対策に名を借りた厳罰化が進めば、新たな偏見や差別につながりかねない。
なにより、政治に信がなければ、どんな法改正をしても国民の理解は得られない。
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2021年01月16日
農畜産物トレンド 変化に対応 業界連携で
日本農業新聞の2021年「農畜産物トレンド調査」がまとまった。販売キーワードの1位は「コロナ対応」。新型コロナウイルス感染の終息が見通せない中で、国産回帰の潮流が確認された。難局を乗り切るには産地だけでなく、川中、川下との連携が重要だ。関係業界が一丸で消費動向の変化に対応すべきだ。
トレンド調査は、米、野菜、果実、食肉、牛乳・乳製品、花きの6部門で実施した。全国のスーパー、生協、外食、卸売業者などの販売担当者を対象とし、140社から回答を得た。毎年行い、今年で14回目。
今回の特徴は、コロナ関連のキーワードに注目が集まった点だ。「ネット取引・宅配」やコロナ不況を受け「値ごろ感(節約志向)」が上位にランクインした。「ネット取引・宅配」はこれまでも関心項目だったが、外出自粛や人との接触を控えたい消費動向の強まりで、コロナ下での販売手法として欠かせないものになっている。
部門別に見ると、トレンドのキーワードは多彩だ。野菜は「栄養価」。健康志向を受け、栄養価が高いとして知られるブロッコリーやニンジンといった品目に注目が集まった。野菜はそれぞれの品目で特徴的な機能性がある。研究機関などと連携し、販売戦略に生かしたい。
果実は「ギフト需要」と「地域性」。専門家は「果実は県独自ブランドが豊富で地域性を打ち出しやすい。特色ある果実で旅行気分を味わってもらうなど、付加価値型で地域の魅力を丸ごと売り込む視点が重要」と指摘する。
需給緩和が懸念される米は、パックご飯とインターネット販売が、消費拡大の手法として注目度が高い。米は炊飯や持ち帰りの負担といった課題がある。簡便性に対応した商品づくりが重要だ。食肉は、節約志向を受けて値ごろ感が求められる。牛乳・乳製品は家庭用が堅調で、大容量に勝機がある。花きは業務需要が伸び悩む中、業務用と家庭用の両方の用途に使える商材に注目が集まる。
農畜産物の一つの品目で、さまざまなキーワードを全て満たすのは難しい。産地は自らの農畜産物の特徴をつかみ、どのキーワードで産地づくりに取り組むか考える必要がある。例えば野菜。「ネット取引・宅配」ならばeコマース(電子商取引)に産地が挑戦したり、宅配業者との連携を強化したりすることなどが想定される。「健康(機能性)」なら機能性成分の高い品種の産地化や機能性表示制度を活用した販売もよい。「値ごろ感(節約志向)」に対応し、多収や低コストの産地づくりを目指すのも選択肢となる。
販売キーワードの「国産志向」(14%)「地産地消」(10%)「産地との直接取引」(8%)からは、国産を見直す動きが読み取れる。コロナ終息後も見据えて産地は、取引先などと連携して消費者や実需者のニーズに対応する体制を構築しよう。
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2021年01月15日
外国人材の確保 通年雇用と環境整備を
農繁期の異なる産地間での人材リレーなど、外国人の新たな活用の仕方が農業分野で広がってきた。新型コロナウイルスの感染拡大で昨年、外国人技能実習生らが来日できなかった状況に対応するものだ。継続して働いてもらえるように受け入れ側は、通年雇用の体制と労働環境などの整備・改善を進めたい。
農村の人口減少や高齢化、規模拡大などによる労働力不足で、農業分野で働く外国人が増えてきた。技能実習生は2019年10月末で3万1900人、同年に始まった新たな在留資格「特定技能」の外国人も20年9月末で1306人になった。特定技能は、農業や介護など14業種が受け入れ対象で、労働者と法的に位置付け、同一業種なら雇用先を変更できる。
ところが昨年、新型コロナの感染拡大を防ぐために政府が入国を規制。2900人の技能実習生が来日できず、受け入れ予定だった産地は人手不足に陥った。こうした中で始まったのが外国人のリレーである。繁忙期が重ならない産地間で人材を共有。外国人は通年で働くことができ、農家には毎年同じ人に来てもらえるメリットがある。
先行事例とされるのが長野と長崎での県間リレーだ。長野県では冬に、長崎県では夏に農作業が減少。外国人は、夏を中心に長野のJA木曽やJA洗馬でリンゴやキャベツなどの収穫に当たる。その後、JAながさき県央に移動し、ニンジンやジャガイモの収穫などを行う。熊本県では平場が中心のJA熊本市と高冷地のJA阿蘇で、青果の出荷繁忙期が異なることに着目。熊本市ではナスやトマト、阿蘇ではアスパラガス、イチゴの選果などに従事する。
産地リレーを担えるのは特定技能か「特定活動」の外国人だ。特定活動はコロナ禍で解雇されるなどした技能実習生に、一度に限り職種変更と滞在期間の延長を認める在留資格。昨年11月時点で職種を変更したのは約1300人で、うち農業が約400人だった。
コロナ禍の収束後を見据えても、外国人は日本農業の働き手として重要である。しかし人手不足は国内外で生じており、人材確保を巡って競争が激しくなるとみられる。日本農業が選ばれるには、受け入れる農業者やJAなどが労働環境や労働条件の点検と整備・改善に不断に取り組むことが欠かせない。
それには外国人の声を聞くことも重要だ。外国人にとっては母国語で相談できる人がいると心強いだろう。JA熊本うきは、日本語、英語、ベトナム語、中国語に堪能なベトナム人を正職員に採用している。選果場などで働く特定技能外国人の管理の円滑化などを期待する。
技能実習生や農業分野の特定技能外国人は滞在期間が決まっており、帰国が前提だ。地域農業の持続的な発展には、担い手の確保・育成が必要である。外国人材の活用と両輪で進めなければならない。
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2021年01月14日
広がり続ける豚熱 未発生地域も防疫徹底
豚熱の感染地域が広がり続けている。昨年末には山形県と三重県で相次いで発生。東西にそれぞれ拡大した。未発生地域も含め、農場での防疫の要点をあらためて確認・徹底しよう。
山形県で発生したのは昨年12月25日。2018年に国内で26年ぶりに発生してから10県目となる。29日には三重県で発生し、同県で2例目、全国で61例目となった。この農場は、沖縄県を除くと最も西に位置する。
いずれも予防的ワクチンの接種農場だった。しかし、山形の発生農場では初回の接種を終えていたが、感染した豚は出荷間際だったため、と畜場法に従って打っていなかった。三重県で感染したのは離乳したばかりの豚で、接種する前だった。
ワクチン接種の空白期間を突かれた格好だ。農水省や大学の研究者らは、ワクチンだけで完全に感染を防ぐことはできないと繰り返し指摘する。接種しても十分な免疫を得られる豚は8割程度とされ、飼養衛生管理基準で定めた消毒や衛生対策が全ての農場に求められる。
特に離乳豚の場合、未接種期間が必ず生じる。母豚からの移行抗体が効果を失う前にワクチンを打っても新たな抗体ができにくく、生後50~60日の接種が望ましいとされるためである。
制度面からは防疫対策が拡充・厳格化される。ワクチン接種の頻度は農場ごとに月3回程度必要だ。しかし接種できるのは都道府県知事が公務員として任命する「家畜防疫員」に限られ、人手不足が懸念されている。民間の獣医師も任命を受けられるが、所属先によって兼業禁止や勤務先への休暇申請が必要になるケースがあることなどから任命が進まない実態があった。
そこで同省は防疫指針を変更し、都道府県知事が認定した民間獣医師も接種できるよう検討を進めている。ワクチンを打ったことを証明するため、空き瓶を全て回収するなど厳密な管理とする考えだ。
現状でワクチン接種推奨地域は、昨年末に対象となった秋田県を含め28都府県に広がった。ウイルス陽性イノシシの拡散を懸念し、同省は鳥取県、岡山県に対してもワクチン接種体制の構築を求めている。
4月からは、食品残さから製造する飼料「エコフィード」の新たな加熱基準の運用が始まる。昨年1月に沖縄県の養豚場で発生した豚熱は、加熱が不十分なエコフィードが原因とみられている。また、国際基準との照合などにより加熱対象を拡大、加熱方法も厳しくし、違反時の罰則も設ける。
防疫を制度的に整えても、要となるのは人の手による日々の作業だ。外国人技能実習生らも含めて十分な対応が必須である。日本養豚事業協同組合はベトナム語や英語などで防疫作業や豚関連用語などを対訳した冊子を作り、活用を促す。また、農場の防疫体制は、行政や獣医師、地域の仲間と力を合わせて点検することが大切である。
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2021年01月13日
減る消防団員 なり手を増やす環境に
集中豪雨などによる災害から地域住民を守る消防団員の減少が止まらない。大規模災害が頻発している。地域防災の中核を担う消防団員の確保に向け、政府は環境整備を急ぐべきだ。
消防団は、市町村の非常備の消防機関。全ての市町村に設置され、公務員や農業者、JA職員、会社員ら他に本業を持つ団員で構成する。災害時には消火活動や住民の避難誘導、救助活動、救助が必要な人の捜索などに当たる。日曜日などに訓練し、災害に備える。
被害を最小限に抑えるには初動が肝心で、地域密着型の消防団は欠かせない組織だ。熊本県を中心とした昨年7月の豪雨では、12県で延べ5万6000人が救助、巡視警戒、避難誘導などで重要な役割を発揮した。
1954年に200万人を超えていた全国の団員は、少子高齢化や人口減少などで90年には100万人を下回った。昨年は81万8000人で、2年連続で1万人を超す減少となった。
地域の防災力を維持するためにも団員の減少を食い止める必要がある。災害の多発化や激甚化と団員数の減少で、団員1人の役割も増している。50歳以上が2割を超え、高齢化も進む。会社勤めのため日中は不在となる団員が増え、地域防災の弱体化が進んでいるのが実態だ。
消防庁は、退職報償金の引き上げなど、団員確保策に取り組んできたが効果は限定的だ。報酬も、危険を伴う活動に見合う水準への引き上げが急務だろう。国は、一般団員の報酬について年間3万6500円、出動手当1回7000円として、地方交付税を措置している。しかし、市町村が決める実際の報酬は、全国平均で年間3万1000円弱にとどまっている。
同庁は、昨年末に、研究者や首長などによる「消防団員の処遇等に関する検討会」を開いて改善策を探り始めた。報酬全体の底上げを目指すべきだ。
問題は、急速に少子高齢化と人口減少が進む農山村地帯だ。対応を急がないとなり手がいなくなり、地域防災の基盤が揺らぐ。九州大学大学院農学研究院の佐藤宣子教授は「農林業従事者で消防団員の人は、国土保全の役割を果たしている。経営安定資金などの優遇措置を設け、住み続けられる条件を整備することも一案だ」と、農林業者の生計が成り立つような支援を提言する。考慮すべきだろう。
最近は、被災地で復旧活動などに当たるボランティアが増えてきた。行政の手が届かないところをカバーする「共助」は歓迎できる。併せて、住民による地域の防災力を高める日頃の活動が重要だ。その中核となる消防団活動に参加しやすくする職場の理解も欠かせない。
政府は、昨年末、防災・減災や国土強靱(きょうじん)化を推進するため、15兆円の事業規模となる5カ年加速化対策を決めた。地域住民が消防団に積極的に参加できるよう、総合的な取り組みも急ぐべきだ。
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2021年01月12日
米生産の目安削減 合意形成 国は後押しを
道府県の農業再生協議会などが定める2021年産主食用米の「生産の目安」がほぼ出そろった。需給均衡水準を上回り、大幅な価格下落が懸念される。目安の削減や、目安よりも生産を減らす「深掘り」が全体的に必要だ。県行政を中心とした関係者の合意形成と、国の強い後押しが不可欠である。
農水省は、需給均衡には21年産で6・7万ヘクタール(生産量36万トン)の作付け転換が必要だと指摘する。だが日本農業新聞の調べでは、41道府県の目安の合計で削減は約17万トンにとどまる。
20年産の需給は過剰作付けと、新型コロナウイルス感染拡大の影響を含めた大幅な消費減で緩和。相対取引価格は下がり、60キロ平均で前年より600円超低い水準で推移する。このままでは、2年で同4000円台半ばの下落となった13、14年産の二の舞いになると危惧される。
そこでJAグループは、20万トンを翌秋以降に販売する長期計画的販売を実施。最大規模の作付け転換などを支援するため政府・与党は、20年度第3次補正予算案と21年度予算案の合計で3400億円の財源を確保した。JAグループは、主食用と非主食用の手取り格差が縮小・解消されると評価する。また品代と助成金から経営費を除いた10アール所得に着目し、主食用と非主食用を組み合わせて所得を確保することを改めて提唱する。
作付け転換をやり切るには支援策の最大限の活用と併せ、県によっては目安の削減や深掘りがまず必要だ。行政やJAグループ、稲作経営者、農業法人、集荷業者や各団体などによる合意形成が鍵を握る。県行政の指導力の発揮が求められる。
野上浩太郎農相も昨年12月の記者会見で目安について「農家の所得向上の観点から、見直しが必要かどうかも含めて関係者で十分な検討を行ってほしい」と述べ、再考を促した。目安や作付け意向の調査、需給動向の分析、営農計画書のとりまとめなどあらゆる機会を捉え、目安の削減を含め作付け転換を強く働き掛けてもらいたい。
消費拡大対策も強化しなければならない。JAグループは国の事業を活用し、コンビニをはじめ事業者と連携した商品開発と販売促進、パックご飯の製造強化、学校給食への提供拡大などを行う。組合員・役職員が1日3食ご飯を食べる運動も展開。系統外への消費拡大策も検討・実施する。消費拡大が官民挙げた取り組みとなるよう同省にもけん引してほしい。
新型コロナの影響による需要の減少を、同省は約9万トンと推計。緊急事態宣言の再発令でさらに減る恐れがある。消費拡大に努めてもコロナ禍による減少分を補いきれなかった場合を想定し、対応を検討すべきだ。
生産・消費両面での取り組みにはスピード感が重要だ。20年産の価格は低下し始めている。需給均衡が見通せる状況を官民一体で早期につくり、市場に示すことが大切である。
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2021年01月11日
破壊型成長の限界 地球にやさしい経済を
地球環境の破壊を伴う経済運営を見直さなければならない。資源を浪費し、地球温暖化を加速させたままでは人類に未来はない。経済成長の呪縛から抜け出し、「共生」に軸足を置いた地球に優しい経済にかじを切るべきだ。
人類が今直面する大きな問題は、地球温暖化である。産業革命以来、石炭や石油などの化石燃料を使い続け、膨大な二酸化炭素(CO2)を出してきた。その結果、南極でも大気中の濃度は400ppmを超えてしまった。400万年ぶりだ。また日本と世界の平均気温は昨年、統計開始以来、いずれも過去最高になったと見込まれている。
多くの研究者が指摘するように、このままでは地球が持たない。温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」は、CO2を含む温室効果ガスの排出を減らし、世界の平均気温の上昇を産業革命前に比べて2度未満、できれば1・5度に抑えることを目指しているが、達成は危うい。
「大絶滅を前にしているというのに、あなたたちはお金のことと、経済発展がいつまでも続くというおとぎ話ばかり」。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんの訴えは、どんな経済理論よりも説得力を持つ。
地球環境の悪化を速めた原因が、自由競争を重視する新自由主義に基づく経済政策とグローバル経済にあるのは明らかだ。多国籍企業などが、森林の伐採や鉱物の採掘など途上国の資源を収奪し、生物多様性も衰退させた。ビルや道路建設に欠かせない「砂」の収奪合戦で海岸や河川も破壊している。
重要なのは、悲鳴を上げる地球を救う行動だ。日本でも異常高温や集中豪雨などの気象災害が相次ぎ、農作物にも被害が出ている。自然と人間の亀裂を修復し、地球環境に優しい経済活動に転換する必要がある。
「グリーン・ニューディール」など、欧米では温暖化防止と経済格差の是正につながる経済刺激策に期待が高まっている。風力発電や太陽光発電の導入で雇用が拡大することも分かってきた。日本も「グリーン社会」を目指すが、経済運営の基本に新自由主義を据え、規制緩和と自由貿易を推進する姿勢に変わりはないといえる。
一握りの企業や資産家が潤って、地球環境の破壊と経済格差をもたらすような経済成長至上主義は見直すべきだ。新型コロナウイルスがパンデミック(世界的大流行)につながったのも、利益優先の経済の弊害だ。
世界人口は2050年には100億人に迫り、温暖化の影響と相まって食料危機が現実化する恐れが指摘されている。農業も持続可能な環境保全型の推進が求められる。経済原理も競争から、自然と人、人と人の共生への転換が必要だ。それには協同組合の相互扶助の精神を重視した共生型経済を構想すべきだ。その旗手となることこそ資源の少ない日本の役割であろう。
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2021年01月10日
自立する地域 協同組合が主導しよう
新型コロナウイルスの感染拡大を契機に、「3密」を回避できるとして地方への関心が高まっている。地方への移住者の定着支援では、仕事づくりや安心して暮らせる地域社会づくりなどで、協同組合にこそ役割発揮が求められる。都市集中型から地方分散型への社会転換を協同組合の力で後押ししたい。
都市での生活は、満員電車での通勤をはじめ、密閉、密集、密接が避けられない環境にある。コロナ禍を契機にテレワークが広まり、一部業種では都市にいなくても働けることが分かった。観光地などで休暇を過ごしながら働くワーケーションを実践する人も増えている。JA全中の中家徹会長は2020年の総括として「3密社会の回避へ東京一極集中から分散型社会への潮流が生まれている」と指摘した。今後、地方に移住し、地域に根付いて働きたいというニーズも高まってくるだろう。
協同組合として何ができるか。徳島県JAかいふは地元自治体と連携して、全国から多くの新規就農者を呼び込んでいる。農業と合わせて、豊かな自然でサーフィンや釣りなどが楽しめるとしてアピール。栽培を1年間学べる塾や、環境制御型ハウスの貸し出しなど手厚く支援する。15年度から始め20年度までに24人を受け入れ、20人が就農したという。
総合事業を手掛けるJAは新規就農者に農地や住居、営農指導、労働力など多様な支援を用意し、定着を後押しできる。医療や介護といった暮らしや、組合員組織を通じた仲間づくりなどにも貢献できる。生協など他の協同組合と連携すれば支援の幅はさらに広がる。地方に移住してくる人に対して、協同組合が仕事や生活を丸ごと支援する仕組みの構築も考えられる。
また今後期待されるのが、組合員が出資・運営し、自ら働く労働者協同組合だ。各地域での設立を後押しする法律が20年に成立。たとえ事業は小さくても地域の課題を解決しつつ、自ら経営する新しい働き方として地方にも広がる可能性がある。
コロナ禍の収束は依然見通せない。仮に収束してもグローバル化が進み、今後も感染症が世界を脅かす懸念は強い。都市から地方への単純な人口移動にとどまらず、大都市圏を中心に他の地域と激しく人や物が行き来する社会の在り方が見直される可能性もある。
そこでは、経済や生活、文化が地域ごとに一定程度自立する「地域自立型社会」とも呼べる国の在り方が構想できる。そうなれば先に挙げた役割を果たすため、地域に根差す協同組合の役割はより大きなものになるだろう。また、それぞれの協同組合には全国ネットワークがあり、地域間の連携にも取り組みやすいと考えられる。
感染症を含め近年増えている災害などの危機の際には、協同組合の基本である助け合いが求められる。協同組合の役割と実践内容を改めて発信したい。
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2021年01月09日
地方分散型社会 持続可能な国土めざせ
大都市圏への人口集中を是正し、地方に人が住み続ける分散型社会を構築することは、持続可能な国土づくりに不可欠である。地方、特に農村への移住をどう促すか。政府には、新型コロナウイルス禍を踏まえた分散型社会の姿を描き、実効ある施策を講じることが求められる。
都市を志向する価値観が変化し、自然豊かな環境や人とのつながりを求め地方移住を考える人が増えている。総務省の地域おこし協力隊の任期終了者で、活動先に定住した人が2019年度時点で2400人を超え、5割に上るのもその兆候だ。
移住の促進で必要なのは仕事の確保である。新たな食料・農業・農村基本計画で政府は、農村を維持し、次世代に継承するために地域政策の総合化を打ち出し、柱の一つに「所得と雇用機会の確保」を掲げた。観光や体験、研修など、さまざまな分野と連携した新しいビジネスの展開などを想定している。
しかしコロナ禍で人を呼び込むのが難しくなり、外食や農泊、農業体験を含む観光産業など農業との連携が期待される分野は苦境が続く。半面、家庭需要が高まり、直売所の利用など地産地消の動きは活発化。また起業や事業承継、農業と他の仕事を組み合わせた半農半X、複数の業種をなりわいとする多業など、移住者らによる多様な仕事づくりや働き方がみられる。
政府は農業・農村所得の倍増目標も掲げてきた。達成のためにも事業の継続を支える一方、新たな動きや、コロナ禍の中での経済・社会の変化を捉え、所得確保と雇用創出の政策を構築すべきだ。また東京一極集中の是正を、地方創生や国土計画の中心課題に据えてきた。しかし一極集中に歯止めがかからず、農村の高齢化・過疎化が進んだ。政策の実効性が問われる。
移住者と地域の融和も重要である。地域の一員として溶け込むには移住前から住民と対話・交流し、心を通わせる必要がある。しかしコロナの感染拡大で現地を訪れ、対話する機会を設けるのが難しくなっている。
一方、新しい対話の手法として移住者と地域をオンラインでつなぎ、説明会や就農座談会を開く動きが増えている。自治体や先輩移住者が暮らしや仕事などについて説明。ふるさと回帰支援センターが昨年10月、オンラインで開いた全国規模の移住マッチングイベントには1万5000人超の参加があった。
移住希望者と地域がオンラインで対話し、信頼関係を育む。その上で感染防止対策を徹底し、現地を訪れるなど新様式が一般化する可能性がある。多くの地域で実践できるようノウハウの共有や費用支援が重要だ。
地方への人の流れをつくる方策として政府は、テレワークの推進などを念頭に置く。併せて説明会から移住、定着までを段階を追って、また所得・雇用機会の確保から生活環境整備まで幅広く支援する重層的、総合的な政策体系を構築すべきだ。
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2021年01月08日