地域
群馬県警 果実窃盗団を逮捕 ベトナム国籍6人「母国に仕送り」
全国各地で農産物盗難が相次いでいる問題で、群馬県警は17日、同県高崎市の果物農園から梨を盗んだり販売したりしたなどとして、同県などに住む20~38歳のベトナム国籍男女6人を窃盗や盗品の処分あっせんなどの容疑で逮捕したと発表した。6人のうちインターネット交流サイト(SNS)を通じ梨を売っていた派遣社員の女(29)は動機について「母国にいる病気の母親に仕送りするお金が欲しかった」と供述している。
逮捕されたのは①窃盗容疑の20~31歳の男3人=前橋地検が起訴済み②この3人が盗んだとされる梨約90個(約3万5000円相当)を販売目的で譲り受けた盗品等有償譲り受け容疑の派遣社員夫妻③窃盗容疑の3人と夫妻を仲介した盗品等処分あっせん容疑の派遣会社員の38歳男。
県警高崎署員が昨年10月下旬、果実の盗難被害が相次いでいた高崎市内を警戒中、不審車を発見。近くの農園で梨197個がもぎ取られていたことが分かり、男3人を窃盗容疑で逮捕した。県警は被害品を密売するグループが他にいるとみて捜査。他3人を突き止め、17日朝、同市内などの自宅にいるところを逮捕した。同日逮捕した3人のうち男2人は容疑を否認、女1人(夫妻のうち妻)は認めている。
6人のうち仲介役の男は永住権を取得しており、県警は事件の中心的な役割を果たした可能性があるとみて、余罪がないか慎重に調べている。昨年1年間に群馬県内で梨の盗難被害届があったのは約5600個分(113万円相当)だった。
実行と密売 役割分担 仲介役の男 面識ない5人つなぐ
梨窃盗事件で群馬県警捜査3課が逮捕したベトナム国籍の男女6人のうち、窃盗の実行グループとされる男3人と、SNSなどを通じて販売していたという夫妻とは面識がなかった。両者をつないだのが仲介役の派遣会社員、グエン・トゥワン・アイン容疑者(38)とされ、どちらか一方の逮捕だけでは窃盗・密売グループの全体像にたどりつけない構図だった。
昨年から北関東で相次いだ豚の盗難事件に関連し、豚の解体や豚肉の販売などをしたベトナム国籍の男女約20人が相次いで逮捕された。しかし容疑者らは豚の入手先について「頼まれただけ」などと供述。盗まれた840頭の行方は分かっていない。
梨窃盗事件について県警は、窃盗容疑で逮捕した3人の他、販売や両者を仲介した別のグループがいるとみて3人の逮捕事実を公表しないまま捜査を続けていた。
一方、事件の中心的な役割を果たしたとみられているグエン容疑者は「私に関係のある話ではない」と容疑を否認している。
高級品が標的に
果実や野菜が盗まれる事件は2020年、全国各地で相次いだ。日本農業新聞のまとめでは、最大の標的となったのは高級果実のブドウ「シャインマスカット」や梨で、出荷時期の8、9月にかけて山梨や長野、群馬などの主要な産地で起きていた。警察に届け出のあった被害の総額は数千万円に上るとみられる。
北関東を中心に約1000頭が盗まれた豚や牛などの家畜盗難と異なり、農産物窃盗は犯人や犯行グループが各地に点在しているとみられ、被害届を受けた県警などがそれぞれ捜査している。
事件の背景として、新型コロナウイルス禍に伴う不況との関連が指摘されているが、収穫を前にした農産物の被害は毎年各地で確認されている。ただ、被害に気づかない場合や、警察に届けないケースも多く、被害の全体像は不明だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月18日

北海道で暴風雪害 堆肥舎崩壊、集乳影響も
発達した低気圧の影響で北海道では17日も暴風雪が続き、大荒れの天候に見舞われた。堆肥舎の崩壊や、道路が通行止めで集乳ができないなどの農業被害が発生。関係者や農家が除雪など対応に追われている。
根室市のJA道東あさひ根室支所根室育成センターでは、堆肥舎2カ所のうち1カ所の屋根と骨格が暴風で飛ばされた。JAによると修理は難しく、建て替えなければならない状況だという。
狩野博治センター長は「ものすごい強い風で心配していたが、朝来てみたら大変な事態になっていた。崩壊に近い状態だ」と落胆する。同センターでは570頭の牛を飼育。牛舎や牛への被害はなかった。
道内では15日から猛吹雪が続く日本海側を中心に、集乳などへの影響が起きている。道農政部は18日以降、被害状況をまとめる考えだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月18日

山陰で相次ぎ風力発電計画 大型工事に住民苦悩 活性化期待も影響懸念
大型の陸上風力発電施設の建設計画が、山陰地方の山間部で相次いでいる。最大で全高150メートルの風車がいくつも建つ計画だが、民家や学校、農地から近い山を切り崩すことへの影響を懸念する反対運動が起きており、地域への移住をキャンセルする人も出始めた。国は脱炭素社会の実現へ風力を含む再生可能エネルギーの普及を進めるが、大型工事の難しさが浮き彫りになった。(鈴木薫子)
移住中止や反対署名も
鳥取、島根の両県で進行中の建設計画は8件。既に7施設が稼働している鳥取県では、3件の計画で環境アセスメント(影響評価)の手続きが進んでいる。
反対運動が活発なのが鳥取市で進む(仮称)「鳥取風力発電事業」だ。総発電量は一般家庭約6万世帯相当の14万4000キロワットで、中国電力に売電する。建設場所は山間部にある明治、東郷、神戸、西郷の4地区。事業の実施区域は4000ヘクタールで、全高150メートル、羽根の直径約130メートルの国内最大級の風車28基を建てる予定だ。
建設による道路や山の整備で過疎が進む集落が活性化するとして、地権者らは計画に賛成する。地権者の一人、中居五郎さん(74)は「山林は虫の被害などで荒れ、集落で管理できない状況だ」と指摘。2ヘクタールで米を作る中居さんは高路生産森林組合の組合長を務めており「風力発電の建設に山林を生かし、得られた地代を山林管理に使いたい」と話す。
しかし計画を受けて、西郷、明治の2地区で4組の移住が取りやめになったという。
西郷では一般社団法人「いなば西郷工芸の郷あまんじゃく」などが2017年から、地域振興のため工芸作家を呼び込んできた。公募で移住した2組4人を含む作家らが陶芸、日本画などに取り組んでいる。
ところが21年春の移住を予定していた木工作家を含む3組10人が、風力発電の計画を知り移住を取りやめた。「自然の中で子育てをしたい若い人で、高齢化が進む地区が活気づくチャンスだった」と同法人代表の北村恭一さん(74)は落胆する。
「人と自然の良さが決め手」となり、15年前に大阪府から同地区に移住した北村さん。地区全体で移住を促進してきたが、「風力発電はマイナスイメージ。建設計画がある限り、積極的に移住を呼び込めない」という。
かつては破損事故
西郷、明治は、地区全体で計画への反対を表明する。同市で米30ヘクタールを作り、明治いのちを守る会の副会長を務める徳本修一さん(45)らは、1万4000人分の反対署名を県に提出した。
事故への不安も反対運動の大きな要素となっている。県内では20年1月、平地に建つ風車の羽根が強風で破損する事故が起きた。事業者が補修工事を怠っていたことが原因だ。周辺の農地約120筆に細かい破片が飛散し、8筆で白ネギや芝の出荷を見送った。
「鳥取風力発電事業」予定地の山の麓には水田や民家が広がり、明治地区の建設予定地は小学校から700メートルと近い。住民は自然災害や事故、河川などの水質への影響を懸念する。東郷、神戸では地区全体の説明会が開かれておらず、事業者の説明不足を指摘する声もある。
県も問題視し、事業者に住民理解を得るように繰り返し要請。市も「市全体では大きな影響はないが、地区単位ではなんらかの影響がある」(地域振興課)と認識する。
事業者の日本風力エネルギー(東京都港区)は全国で16の風力発電事業を建設または計画中だ。鳥取市の事業は、24年春の着工を目指し、環境アセスメント手続きの3段階目の準備書作成へ、現地調査の準備を進めている。同社広報は「住民の合意が得られない状況で現地調査には入らない。地域と丁寧に話し合いたい」と対話を希望する。
住民の声聞く仕組みが必要
国は、地球温暖化対策で50年までに二酸化炭素(CO2)の排出を実質ゼロにする目標を掲げている。再生可能エネルギーとして期待が高まる風力発電は、規制緩和の一環で14年に建築基準法の対象外となり、建築物としての規制や自治体への確認申請が不要となった。
早稲田大学環境総合研究センターの岡田久典上級研究員は「地域の声を聞き、事業に反映する仕組みがない」と指摘。「条例やガイドラインなど地域で自治体を巻き込んだ仕組みづくりが必要だ」と強調する。
<メモ>
日本風力発電協会によると、2020年12月末までの全国の風力発電の累積導入量は、2531基、437万2000キロワット。20年単年の導入量は、前年の1.65倍で、過去最大の新規導入となった。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月17日

福島・宮城 震度6強 農家・JA 被害相次ぐ
福島県沖を震源とする地震で、福島県や宮城県などの被災地では、15日も被害の復旧作業に追われた。最大の震度6強を記録した福島県相馬市では、観光イチゴ園が被害に遭った高設栽培ベンチの修理を急いだ。宮城県内でもJAの倉庫で米袋が崩れるなど、施設での被害が相次いだ。
イチゴ園 復旧懸命 福島・相馬市
通常なら水平に並ぶイチゴの高設栽培のベンチが、あちこちで大きく傾いている。震度6強を観測した福島県相馬市で、2・2ヘクタールの観光イチゴ園を運営する和田観光苺組合は、15日からハウスの復旧作業を始めた。
地震翌日の14日、組合員らが見回ると5カ所でベンチの支柱が破損し傾いているのを確認した。同組合の齋川一朗組合長は「ここまで影響が出るほどの地震が来るとは思わなかった」と、戸惑いを隠せない。
ベンチが水平でないと均等に水が行き渡らず、生育に影響が出る。業者に連絡し、復旧作業が始まった。その他にも土耕栽培で畝が崩れたり、擦れ果が発生したりといった被害も出ている。
組合は齋川さんら7人で構成する。メンバーは約10年前の東日本大震災を経験。市内では当時、住宅やハウスが津波にのまれる被害が出た。齋川さんは、今回の地震で10年前の被害が頭をよぎった。津波の恐れはないという一報を聞いた時、本当に「ほっとした」と打ち明ける。
しかし地震の衝撃は大きかった。即座に心配したのが火事だ。ハウスの加温機などに異常が起きていないか確認するため、齋川さんは地震発生直後の14日未明、自宅からハウスに直行した。幸いトラブルはなく「ひとまず安心したが、余震が続いている。また大きな揺れにならないか不安」と気をもむ。
地震翌日は、組合にとって書き入れ時のバレンタインデー。前日の13日も組合の直売所でイベントを開き、約300人が訪れていた。設備の破損に加え、交通網にも支障が出る中、齋川さんは「観光客も見込めていたので悔しい」と唇をかむ。
米袋崩れる 宮城・丸森町
宮城県内のJA施設では、保管していた米袋が崩れるなど、広い範囲に被害が出ている。
震度5強を記録した宮城県丸森町。同町にあるJAみやぎ仙南の倉庫では、保管してあった主食用米約250トンが荷崩れを起こし、1トンの米が入ったフレコンバッグが横倒しになった。米が地面にこぼれているものもあり、一部は廃棄せざるを得ない状況だ。
2019年の台風19号で同町が大きな被害を受けた中、生産者らが懸命の努力で営農再開にこぎ着けた20年産米が出荷を待っていた。JA米穀課の大槻栄俊課長は「慎重に復旧作業を進め、一つでも出荷できるものはしていきたい」と話す。
JA名取岩沼でも同様に米が入っているフレコンバッグが荷崩れを起こし、重みで倉庫の扉も壊れた。JA宮城中央会によると、県内全JAで壁や天井への亀裂や倉庫の荷崩れといった被害が報告されている。
福島県内も多くの被害が出ている。JAふくしま未来では、JAが運営するあんぽ柿加工場の窓ガラス約20枚が破損した。職員が後片付けに追われた。県によると、キノコの菌床が落下するなどの被害が報告された他、11カ所のため池に亀裂が入るなどしたため、水位を下げる対策を行った。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月16日

最大震度6強 横揺れ 打撃広範 営農、JA施設も 福島・宮城
福島県沖を震源地とする最大震度6強の地震発生から2日目の15日、福島県と宮城県の被災地では、管内で被害があったJAが対策本部を設置。情報収集と片付けに追われた。
JA全農福島が運営する郡山市の菌床しいたけイノベーションセンターでは、培養中の菌床玉が棚から土間に落下した。……
2021年02月16日
【福島県沖地震】 よぎる10年前の記憶 最大震度6強から一夜明けた現地
最大震度6強の地震から一夜明けた14日、大きな揺れに見舞われた福島県内各地の農家らは「10年前の地震が頭をよぎった」と2011年3月の東日本大震災の記憶がよみがえり、動揺が広がった。余震を含め今後の地震への懸念を抱えながら、倒れた家具や散乱した農作業用具の片付けに追われた。
最大震度6強を観測した福島県相馬市で、2㌶前後の観光イチゴ園を運営する和田観光苺組合の齋川一朗組合長(72)は「瞬間的な揺れだけで言えば、10年前より激しく感じた」と話す。14日に組合員らとハウスを見回ると地震の揺れによって、一部の高設栽培のベッドが支柱からはずれているのを見付けた。10㍍以上にわたりベッドが宙づり状態になっていた。齋川さんは「これから天候も悪くなるみたいなので、また大きな揺れが来ないか心配」と気をもむ。
震度6弱を観測した福島県南相馬市で野菜1㌶程度を栽培する宮川フジコさん(70)は、地震が起きるまでは就寝していたが、強い揺れで目を覚ました。頭に浮かんだのは東京電力福島第1原子力発電所の状況。「稼働していないとはいえ、大丈夫なのだろうかと心配になった」と話す。ハウスなどに被害は出なかったが、仏壇の位牌(いはい)やお供え物などが倒れ、食器棚の皿も数枚割れていた。片付け中も余震が続き「どうか静かであってほしい」と切望する。
震度5強の同県富岡町で水田5㌶を手掛ける渡邉伸さん(60)は「誰かに脇から押されているように、左右に大きく揺れた。とても長く感じた」と話す。倉庫内では、100㌔超ある米の色彩選別機が、揺れの影響で置いていた場所からずれていた。棚にしまっておいたコンテナが飛び出し、散乱していた。14日から片付けを本格化させた渡邉さんは「けがをしないよう、地道にやっていくしかない」と話す。
地震に伴い、各地で停電が発生した。東北6県と新潟県の送配電を担う東北電力ネットワークによると、宮城、福島両県を中心に停電戸数は延べ10万1523戸に上った。東京電力ホールディングスによると、関東地方を中心に延べ86万320戸で停電が発生した。いずれも14日午前の時点でおおむね解消した。国土交通省によると、土砂崩れによって常磐自動車道の相馬(福島県)~亘理(宮城県)間が通行止めになった。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月14日
【福島県沖地震】 被災地のJAなど情報収集と片付けに追われる
福島県沖を震源地とする最大震度6強の地震発生から一夜明けた14日、福島県と宮城県の被災地では、JAなどが情報収集と片付けに追われた。福島市のJA福島ビル10階にあるJA福島厚生連の事務所では棚のガラスが割れて散乱したり、書類が崩れたりするなど、職員総出で片付けをした。JA福島中央会も片付けと情報収集を急いだ。
JAふくしま未来は同日、対策本部を設置し、数又清市組合長が職員に情報収集を指示した。JAによると、国見町と桑折町、新地町の組合員の住宅に被害が出ている。営農関係では一部で米のフレキシブルコンテナが地震の揺れにより破れた。施設キュウリでは重油が流出していないかを確認中だ。JA総務部の加藤光一部長は「燃料と高速道路が止まっていないので農産物の流通は大丈夫。JA店舗も復旧を急ぎ、15日から通常通り営業できる」と説明する。JAは引き続き被害状況の調査を続ける。
福島県農業振興課によると、14日午前11時30分時点で浜通り地方を中心に、施設のガラス割れや養液栽培の液漏れなどが報告されている。宮城県のJA名取岩沼でも地震の揺れで事務所の書類やプリンター散乱し、職員らが片付けに追われた。担当者は「10年前の東日本大震災と同じような横揺れが続いた。津波がなくほっとした」と話す。JAいしのまきでは、JA施設の天井が一部で落ちた他、倉庫に保管していた米や購買課の棚の部分的に崩れる被害があった。JA宮城中央会は各JAへの聞き取りを進め、被害詳細の取りまとめを急いでいる。宮城県農業政策室によると、県内の農業関係の被害は14日午前11時点で調査中としている。
【ふくしま】JA全農福島が運営する郡山市の菌床しいたけイノベーションセンターでは、培養中の菌床玉が棚から土間に落下した。荷崩れ、袋破れなどの被害も発生した。今後、培養中の菌床玉約3万5000玉と、農家へ供給予定の約2万1000玉を、使える玉と廃棄する玉の仕分け作業が必要になる。農家向けの出荷が遅れることが懸念される。全農福島園芸部園芸直販課きのこ菌床供給の山内一之担当課長は「二次災害の無いように、施設プラントを早急に点検する。農家向け供給を最優先にしたい」と話した。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月14日

[震災10年 復興の先へ] ようやく引っ越し 「いつかまた野菜を」 新たな“日常” 不安も連れて 岩手・宮城 仮設住宅終了へ
生まれ育った家を一瞬にして破壊した東日本大震災。間もなく10年がたとうとする中、約1000人が今も仮設住宅で生活している。一方で、岩手、宮城県内では3月末で「仮設」が終了する見通し。災害公営住宅などに引っ越すが、まだ行き先が決まっていない人もいる。雪がちらつく2月、入居者は長く暮らした住まいから粛々と退去の準備を進めていた。(高内杏奈)
岩手県陸前高田市。太平洋に面した温暖な気候から“岩手の湘南”と呼ばれる。市街地から山あいに進み、街の喧騒が聞こえなくなった頃、密集した無機質な白いプレハブが現れる。人けはなく、ここだけ時間が止まっているようで、砂利道を進む足音だけが響く。9戸が暮らし、3月末に解消される県内最後の仮設住宅だ。
年金で生計を立てる村上勝也さん(78)は仮設住宅で生活して10年。「テレビは友達。グルメ番組は見ない。どうせ食べれねがら」とつぶやく。昨年末に胃がんが見つかり、切除手術を受けた。時折苦しそうに目をつむり、ココアを1時間かけてゆっくりと飲む。
病み上がりに付き添う家族は近くにいない。子どもは新しい生活を築いているため、邪魔するわけにはいかない。そんな親心もあり、ここに住み続ける。
「片付けが苦手で、どうしたもんか」。震災以降、行政から届いた文書は全て取っておいてある。2月上旬、公営住宅の入居がやっと決まった。病み上がりの体にむち打ち、退去に向けて片付けを進める。「こんなに長い間、仮設暮らしをするとは思わなかった」
2011年3月11日、10メートルを超える高さの津波が同市を襲った。黒い渦が一気に押し寄せ、連なる家はふわっと浮かんでは次々につぶれていく。村上さんは高台に避難し、水が引いてから自宅を見に行った。
そこにあるはずの家は跡形もなく消えていた。村上さんは「周りの光景から、自宅に近づくにつれ“流されたろうな”と悟った。頭で分かっていたから、涙は出なかった」と話す。だが押し殺した感情はくすぶったまま、今もずっと胸の中にある。自宅も車も、形がなくなって混ざり合う光景が脳裏に焼き付き、夜になると襲ってくる。
仮設住宅に住み、集会所で住民と笑っていると不安な気持ちをごまかせた。だが徐々に、1人、また1人といなくなり、集会所の電気がつくことはなくなった。
自宅再建を考え、かさ上げ地に整備された宅地の引き渡しを受けたこともあったが、費用が壁になり再建を諦めた。
震災前は畑で自家用のダイコンやスイカなど野菜を育てるのが生きがいだった。「いつかまた野菜を作りたい。孫を家に呼んで遊びたいね」と村上さん。荷物をまとめながら、寒空に向かってつぶやいた。
全解消は遠く…福島県900人超
宮城、岩手県内の仮設住宅は21年3月末までに全て解消する。プレハブの「応急仮設」と、賃貸物件などを借り上げる「みなし仮設」があり、2県で合計約90戸の住民が自力再建や災害公営住宅に引っ越さなくてはならない。一方、東京電力福島第1原子力発電所事故の避難区域が残る福島県は、解消のめどが立っていない。
県別に見ると、岩手県はプレハブ9戸、みなし70戸に計168人(1月末時点)が暮らす。宮城県は20年4月にプレハブ入居者がゼロになり、みなしは9戸に13人(同)。福島県ではプレハブ3戸、みなし552戸に計925人(同)が入居している。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月14日

かっこいい農家PVに 1年かけ若手6人取材 岡山・勝間田高の生徒
県立勝間田高校グリーン環境科の3年生3人が、地域農業の魅力を発信するプロモーションビデオ(PV)を制作し、ウェブで配信を始めた。JA晴れの国岡山の勝央町ぶどう部会や水稲の担い手など若手農家を1年かけて取材し、6本の作品に仕上げた。「ユーチューバーのように子どもが将来なりたい職業にしたい」と、若者の視点で農家の意外な一面を伝えている。
「子どもの憧れ」めざす
授業で農業が抱える就業人口の高齢化や耕作放棄地の増加、食料自給率の低下などに危機感を覚えた。そこで着目したのが中高生に人気の動画投稿サイト「ユーチューブ」だ。「動画を楽しむ感覚を生かし、農業の魅力を掘り起こしたい」と、メンバーの中木空羅さん(18)が制作への思いを語る。
動画制作では米、ブドウ、桃、酪農などの現場で働く若手6人を取材した。プロのアナウンサーや地元の地域おこし協力隊員の助言を受け、スマートフォンを片手に取材から撮影、編集まで生徒で手掛けた本格動画だ。登場する農家はそれぞれバイクや外車でさっそうと登場したり、ロールプレーイングゲームのヒーローのように出現したりと、演出で「楽しく格好よく」仕上げた。
主に編集を担当した山形悠二さん(17)は「農家それぞれの趣味や明るい性格、個性に触れ、最も印象に残った部分を大切にした」と力を込める。
動画に登場する山本百紅さん(23)は、幼稚園の頃の夢をかなえて酪農の仕事に就いた。「生き物と向き合う難しさがある分、尽くした分だけお金として返してくれる。目に見えるやりがいがしっかりある」と、生き生きと働く姿を発信する。
動画はウェブサイト「アグリ魅力化志援プロジェクト」で視聴できる。山本さんは「自身も気付かされる部分があり新鮮だった。消費者も含め、たくさんの人が農業を知るきっかけになってほしい」と期待する。制作メンバーの道廣あいかさん(18)も「同世代に興味を持ってもらい、“拡散”してほしい」と呼び掛ける。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月13日

つまもの産地暗中模索 続く「緊急事態」 時短営業響き再び低迷
新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が再発令され、つまもの産地で苦境が続いている。飲食店の時短営業などの影響でワサビや大葉は需要が落ち込み、回復しつつあった価格が再び低迷。産地はスーパーでの販売や、家庭での消費拡大の手立てを模索している。(木村薫)
スーパーで販売強化 静岡のワサビ
静岡県伊豆市筏場(いかだば)。世界農業遺産にも登録された伝統的な「畳石式」栽培が広がるワサビ産地で、7代にわたり生産を続ける塩谷美博さん(62)は「就農して40年、こんなに厳しい状況が続くのは初めて」と顔を曇らす。
地元のJA伊豆の国は県内出荷量の半分以上に当たる年間150トンのワサビを出荷。全国の市場を通じ、すしやそば店、ホテルの飲食店などに届けている。だが1月は日量で出荷が平年の6、7割ほど。JA修善寺営農センターの日吉新次長は「宣言の再発令で回復基調だった取引がまた落ち込んだ」と説明する。
実際、価格では昨年4月中旬に前年同期比6割安の1キロ2000円台という記録的な安さを経験。昨年9月下旬は同1割安に回復し12月にも一時的な好値があったが、今年1月中旬に同4割安と再び下落した。
農家の頭には出荷調整の不安がよぎる。県内の産地では昨年4月上旬から5月末まで、出荷日を週5回から2回に減らした。JAわさび委員会の委員長も務める塩谷さんは「1、2月は出荷量が少ないが、出荷量が増えれば、また調整が必要になるかもしれない」と危機感を募らせる。
ワサビは栽培期間が1年~1年半ほどかかるため、作付けを見直すのは難しい。産地はスーパーでの販売に活路を見いだそうとしている。県や市町、JAで組織する静岡わさび農業遺産推進協議会は昨年12月、ワサビのおろし方や保存方法を紹介するPRムービーやパンフレットを作成。売り場での販促に活用を始めた。
加工品に着手 愛知の大葉
大葉も苦戦を強いられている。愛知県豊川市で、つまものを専門に生産する東三温室園芸農協はレギュラーパック(100枚入り)の市場価格が1月以降、平年比5割安の80~50円まで落ち込んだ。業務向けの需要が落ち込んだことに加え、スーパーでの動きも良くないとみる。
同農協をはじめ周辺で大葉を生産する5農協は、業務向けのうち一部を予約相対取引する。例年通り昨年12月にも1年分の契約更新を行った。
だがコロナの感染拡大で売り先の見通しが立たず「出荷量が3、4割減の契約になった」と、同農協営業部の杉本健次長は話す。農家で同農協大葉部部長の前川明さん(50)は「市場も大変な中、協力するしかない」と覚悟を決めた。
一方で、農協は大葉の新たな消費方法も模索。豊川市の養豚農家と協力し、大葉やハーブが入ったウインナーソーセージと焼き豚を完成させ、2月に同市のふるさと納税の返礼品になった。前川さんは取り組みを通じ「食卓での大葉の消費拡大につなげたい」と、試行錯誤を続ける考えだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月12日
地域アクセスランキング
1
手探りの不安熟練者が解決 ネット相談サイト立ち上げ 長野県佐久市・井上隆太郎さん
長野県佐久市でイチゴ園などを経営する井上寅雄農園代表の井上隆太郎さん(28)は、新規就農者や家庭菜園を楽しむ人と経験豊富な農家を結び付けるサイト「アグティー」を立ち上げた。ビデオ通話やチャットを通じて経験……
2021年02月19日
2
[活写] 丹精5色 敷き詰めて
福井市美山地区で、地元産の野菜を使ったカラフルな「かき餅」の乾燥作業が進んでいる。
かき餅は北陸地方で農家などが冬に作る保存食。薄く切った餅を寒風で乾燥させて作る。これを、地元産の野菜でアレンジしたのが、同地区の主婦7人でつくる加工グループ「美山そば工房木ごころ」だ。使う野菜は全て地元産で、5種の味を開発。赤色は地域の伝統野菜「河内赤かぶら」の粉末を練り込んだ。緑色はヨモギで黄色はカボチャ、ゴマ、トウガラシもある。
通常、ひもでつるして干すかき餅を、同グループは、乾燥時の割れや曲がりを防ぐため、乾燥台に並べて干す。
代表の田中康子さん(74)は「昨年はイベントの中止が相次ぎ販売に苦戦した。今年はコロナが落ち着いて多くの人に食べてほしい」と話している。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月21日

3
ガソリン携行缶 扱い注意喚起 国民生活センター
国民生活センターは、農機具用などのガソリンを入れる携行缶の取り扱いを誤ると、ガソリンが漏えいや噴出し、引火・爆発事故が発生する危険があり死傷者も出ているとして注意を呼び掛けている。ガソリンは引火性が高く、小さな火種でも引火する危険性がある。
同センターによると、……
2021年02月21日
4
農系ポッドキャスト盛り上がり 全国で25以上の番組配信 若手農家中心 熱い思い伝えたい
インターネットでラジオのように音声を配信するポッドキャスト=<ことば>参照=を使い、農家らが番組を発信する“農系ポッドキャスト”が盛り上がっている。自らの思いや挑戦、日常の出来事を発信する道具として若手農家中心に注目され、全国で25以上の番組が配信されている。昨年末には配信者らで総会議を開き「農系ポッドキャストの日」を決定。農家同士や消費者とのつながりにも役立っている。
毎月1日が記念日 エピソード配信、SNS投稿
「農系ポッドキャスト」は農業に関わる人が配信する番組の総称で、一つのジャンルとして認知度を高めている。福岡市の農家3人で2014年から番組を配信し、農系ポッドキャストの中心的存在である「ノウカノタネ」の鶴田祐一郎さん(34)は「農作業中にラジオを聞く人が多く、なじみやすいメディア。農業に興味のある消費者もリスナーとして増えている」と話す。
昨年末には鶴田さんの主導で、配信者が集まった総会議をウェブ上で開いた。委任状を含め17番組の代表者らが参加。緩やかなつながりや既存のリスナーが他の番組を知るきっかけをつくるため、毎月1日を「農系ポッドキャストの日」とすることを決めた。1日に合わせ各番組でエピソードを配信したり、ツイッターなどのインターネット交流サイト(SNS)でハッシュタグ「#農系ポッドキャストの日」を付けて投稿したりと盛り上げている。
鶴田さんは「雑談の中で、農家もいろいろ考えていると知ってもらうきっかけになり、番組を通じたつながりも広がっている。ぜひ農家は始めてみてほしい」と呼び掛ける。
挑戦テーマ、共感獲得 三重県四日市市 おみそしるラジオ
「おみそしるラジオ」は三重県四日市市のキュウリ農家の阿部俊樹さん(39)、ナス農家の堀田健一さん(34)、会社員の住田良平さん(33)の3人がパーソナリティーを務める。「挑戦リアリティポッドキャスト」をテーマに、それぞれの挑戦を話題に語り合う。
番組名には、それぞれの挑戦を具材に見立て「みそ汁のような熱い栄養を届けたい」という思いを込めた。阿部さんは「失敗も含めて等身大の自分たちを発信している。聞いた時に頑張ろうと思ってもらえる番組にしたい」と話す。
魅力の一つは自ら“公開作戦会議”と言うほどのオープンさ。2月上旬の配信では、阿部さんと堀田さんが小学6年生向けに行った出前授業の内容について、多くの人にも聞いてもらえるよう配信方法などを相談した。
2019年1月に番組を始め、これまでに70本以上を配信。週1回、午後8時ごろに阿部さんの自宅倉庫に集まり収録している。固定リスナーは300人、総ダウンロード数は約4万に上る。「みそなー」と呼ぶリスナーからの便りは週10通ほど届き、阿部さんや堀田さんの野菜を購入する「みそなー」も出てきた。
「消費者とのつながりが目に見えて新鮮だった」と堀田さん。農家同士のつながりも生まれ、住田さんは「農系の仲間として応援してもらっている」と実感する。
<ことば>ポッドキャスト
インターネット上に音声を配信する方法の一つで、ウェブサイトやスマートフォンアプリを通じて無料で聞ける。音声データをダウンロードしてオフラインで聞くこともできる。録音・編集環境があれば誰でも取り組め、ニュースや教育、ビジネス、歴史など多様なジャンルの番組がある。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月20日

5
食・農就活サミット 72団体が出展
農業に特化した求人情報サイト「第一次産業ネット」を運営するライフラボは28日、2022年春に卒業予定で就職活動中の学生らを対象にした「食・農就活サミット」を東京都千代田区で開いた。農業法人や食品関連会社など72団体が出展。就活生ら約500人が参加した。
水稲や野菜、畜産を手掛ける法人の他、JAや農薬会社などの企業・団体が出展。……
2021年03月01日

6
北海道で暴風雪害 堆肥舎崩壊、集乳影響も
発達した低気圧の影響で北海道では17日も暴風雪が続き、大荒れの天候に見舞われた。堆肥舎の崩壊や、道路が通行止めで集乳ができないなどの農業被害が発生。関係者や農家が除雪など対応に追われている。
根室市のJA道東あさひ根室支所根室育成センターでは、堆肥舎2カ所のうち1カ所の屋根と骨格が暴風で飛ばされた。JAによると修理は難しく、建て替えなければならない状況だという。
狩野博治センター長は「ものすごい強い風で心配していたが、朝来てみたら大変な事態になっていた。崩壊に近い状態だ」と落胆する。同センターでは570頭の牛を飼育。牛舎や牛への被害はなかった。
道内では15日から猛吹雪が続く日本海側を中心に、集乳などへの影響が起きている。道農政部は18日以降、被害状況をまとめる考えだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月18日

7
群馬県警 果実窃盗団を逮捕 ベトナム国籍6人「母国に仕送り」
全国各地で農産物盗難が相次いでいる問題で、群馬県警は17日、同県高崎市の果物農園から梨を盗んだり販売したりしたなどとして、同県などに住む20~38歳のベトナム国籍男女6人を窃盗や盗品の処分あっせんなどの容疑で逮捕したと発表した。6人のうちインターネット交流サイト(SNS)を通じ梨を売っていた派遣社員の女(29)は動機について「母国にいる病気の母親に仕送りするお金が欲しかった」と供述している。
逮捕されたのは①窃盗容疑の20~31歳の男3人=前橋地検が起訴済み②この3人が盗んだとされる梨約90個(約3万5000円相当)を販売目的で譲り受けた盗品等有償譲り受け容疑の派遣社員夫妻③窃盗容疑の3人と夫妻を仲介した盗品等処分あっせん容疑の派遣会社員の38歳男。
県警高崎署員が昨年10月下旬、果実の盗難被害が相次いでいた高崎市内を警戒中、不審車を発見。近くの農園で梨197個がもぎ取られていたことが分かり、男3人を窃盗容疑で逮捕した。県警は被害品を密売するグループが他にいるとみて捜査。他3人を突き止め、17日朝、同市内などの自宅にいるところを逮捕した。同日逮捕した3人のうち男2人は容疑を否認、女1人(夫妻のうち妻)は認めている。
6人のうち仲介役の男は永住権を取得しており、県警は事件の中心的な役割を果たした可能性があるとみて、余罪がないか慎重に調べている。昨年1年間に群馬県内で梨の盗難被害届があったのは約5600個分(113万円相当)だった。
実行と密売 役割分担 仲介役の男 面識ない5人つなぐ
梨窃盗事件で群馬県警捜査3課が逮捕したベトナム国籍の男女6人のうち、窃盗の実行グループとされる男3人と、SNSなどを通じて販売していたという夫妻とは面識がなかった。両者をつないだのが仲介役の派遣会社員、グエン・トゥワン・アイン容疑者(38)とされ、どちらか一方の逮捕だけでは窃盗・密売グループの全体像にたどりつけない構図だった。
昨年から北関東で相次いだ豚の盗難事件に関連し、豚の解体や豚肉の販売などをしたベトナム国籍の男女約20人が相次いで逮捕された。しかし容疑者らは豚の入手先について「頼まれただけ」などと供述。盗まれた840頭の行方は分かっていない。
梨窃盗事件について県警は、窃盗容疑で逮捕した3人の他、販売や両者を仲介した別のグループがいるとみて3人の逮捕事実を公表しないまま捜査を続けていた。
一方、事件の中心的な役割を果たしたとみられているグエン容疑者は「私に関係のある話ではない」と容疑を否認している。
高級品が標的に
果実や野菜が盗まれる事件は2020年、全国各地で相次いだ。日本農業新聞のまとめでは、最大の標的となったのは高級果実のブドウ「シャインマスカット」や梨で、出荷時期の8、9月にかけて山梨や長野、群馬などの主要な産地で起きていた。警察に届け出のあった被害の総額は数千万円に上るとみられる。
北関東を中心に約1000頭が盗まれた豚や牛などの家畜盗難と異なり、農産物窃盗は犯人や犯行グループが各地に点在しているとみられ、被害届を受けた県警などがそれぞれ捜査している。
事件の背景として、新型コロナウイルス禍に伴う不況との関連が指摘されているが、収穫を前にした農産物の被害は毎年各地で確認されている。ただ、被害に気づかない場合や、警察に届けないケースも多く、被害の全体像は不明だ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月18日
8
都市農業の今 映像化 一橋大・農林中金寄付講義 現地へ行けない学生向けに
東京の都市農業の魅力を映像化しインターネット上で公開するプロジェクトに、農業関連ウェブメディアの運営会社「ぽてともっと」(東京都国立市)が取り組んでいる。新型コロナウイルス禍でフィールドワークができない大学生に、都市農業の現状を伝えるのが目的だ。新規就農者やベテラン農家、JA関係者のインタビューを中心とした動画を公開し、一般の人にも農業への理解を深めてもらう。
農家ら取材 魅力深掘り ネットでも広く発信
動画作成は、同社代表の森田慧さん(25)の母校でもある一橋大学の経済学研究科で行われている、農林中央金庫の寄付講義「自然資源経済論」のプロジェクトから相談されたことがきっかけ。5分半~8分の動画を計8本作成した。
コロナ禍の影響で、学生は農業現場のフィールドワークができない状況が続いていた。プロジェクトの担当者から「学生に現場を知ってもらう手段はないか」と相談され、映像で伝えることを提案した。
取材には昨年秋から取り掛かり、生産緑地で新規就農した東京都日野市の川名桂さんや、八王子市で酪農を営む磯沼ミルクファームの磯沼正徳さんら農家を当たった。東京の地場産野菜の集荷・販売を手掛ける国立市の「エマリコくにたち」や、販売・購買・指導など事業が多岐にわたるJA東京むさしも取材した。
農家の車に1日同乗させてもらって話を聞いたり、JAや流通関連会社に1週間かけて取材・撮影したりした。現場の様子を深く知ることができたという。
同大では昨年末、動画を基に学内でシンポジウムを開催。森田さんも交えて都市農業について理解を深めた。
動画は同社制作の都市農業をテーマにしたサイト「モリタ男爵の農業まるごとリポート」でも、1月下旬から公開している。
以前から日本の農業に関心があり「今後は全国の農業現場を映像に残すことに取り組みたい」という森田さん。「農家の話を聞き、撮影することで、立体感のある記録として残せる」と、映像の持つ効果を生かして次の世代に農業を引き継いでいきたい考えだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月23日

9
復興の地に力強く 福島産フキのとう 市場で好評
春を告げる山菜のフキのとうで、福島産が高い評価を得ている。JAの部会が一丸となった取り組みで生産量を維持しており、東京市場ではトップシェアを誇る。東日本大震災にも負けず、高品質な産品の出荷を続けている。
東京都中央卸売市場の昨シーズン(2019年11月~20年6月)の福島産フキのとうの出荷量は15トンで全国1位。市場占有率は震災後に11ポイント上昇し、現在は29%になる。1キロ単価は3549円となり、市場平均を22%上回るなど全国でもトップクラスの産地だ。
今シーズンもコロナ禍の中、1パック(100グラム)360円前後と前年並みの取引が続く。首都圏の市場関係者は「業務関係の引き合いは弱いが、春らしさを彩る商材としてスーパーでの売り場が広がっている」とみている。
震災以降、福島産の栽培フキのとうは、出荷前に圃場(ほじょう)ごとに放射線量の検査を受け、安全性を確認した上で出荷している。
東京市場では高齢化などもあり10年で全体の入荷量が3割落ち込む中、福島産は入荷量を維持し続けている。
主産地の一つ、JA福島さくらたむら地区では、57人の生産農家が約5ヘクタールで栽培する。JAの担当者は「新たに始める生産者が毎年出ており、10年間近く生産量を維持できている」と説明する。
中心となったのは11年に発足したJAフキのとう部会。目ぞろえ会や栽培技術の共有を続け、新たに取り組みやすい環境を整えてきた。
福島県田村市の白岩邦雄さん(83)も、10年ほど前から葉タバコに替わりフキのとうの栽培を始めた。「一つ一つが軽く、冬場の収入にもなる。体の動くうちは続けていきたい」と話す。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月19日

10
二地域居住推進へ全国協 600自治体 事例共有 国交省
国土交通省は、地方と都市に二つ以上の生活拠点を持つ「二地域居住」を全国規模で推進するため、自治体や関係団体などが参加する協議会を3月に設立する。601の自治体と29の関係団体・業者が既に参加を決めている。農村を含め地方の人口減少に歯止めがかからない中、有効な施策の検討やノウハウの共有を進め、新たな人口を呼び込む契機を各地で作りたい考えだ。
「全国二地域居住等促進協議会」として発足する。36都道府県と565市区町村に加えて、移住推進や空き家バンクの運営組織など29団体が参加を決めている。会長に長野県の阿部守一知事、副会長に和歌山県田辺市の真砂充敏市長と栃木県那須町の平山幸宏町長が就く予定だ。
「二地域居住」を通じ、地方移住や関係人口増加を促す。居住者には農村の伝統行事や、地域の清掃活動などにも参加を促し、地域コミュニティーの活性化につなげたい方針だ。
協議会ではまず、先行して二地域居住が増えている自治体のノウハウ共有を進める。具体的には3月中にホームページを立ち上げ、関連施策や先進事例を紹介する。二地域居住を望む人が住宅を確保できるよう、空き家バンクの有効な活用方法などを発信する。
意見交換の場としても活用する。地域外からの居住者と地元住民がどう関係を深めていくかなど、二地域居住を推進・拡大していく上での課題と対応方法などを参加自治体、組織が話し合うことも想定する。
新型コロナウイルスの影響でテレワークを導入する企業が増え、都市部に拠点を置きながら地方暮らしを検討する人が多くなっている点に着目。同省は、「二地域居住の潜在的な需要は高い」(地方振興課)とみている。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年02月23日