[2019参院選][論点を追う](上)貿易交渉 畜産経営安心できぬ 国内対策 中小も充実を 

黒毛和種の増頭でTPPに備える金子さん(前橋市で)

 「今は大丈夫。でも、安心はしていない」

 昨年末の環太平洋連携協定(TPP)発効から半年。6月の東京市場の枝肉価格は和牛去勢A4が前年比2%、交雑種(F1)B3で同10%程度高く、ホルスB2は前年並みだった。前橋市の肉用牛肥育農家・金子正宜さん(40)が懸念していた国産牛の価格暴落は起きていない。「だって、まだ2年目でしょ」

 TPPは4月で発効2年目となり、牛肉の関税は発効前の38・5%から26・6%になった。オーストラリアやカナダなど加盟国からの牛肉の輸入量は、1~5月の累計で前年比4%増。だが、これは“序の口”にすぎない可能性がある。16年目の2033年、最終的には同9%まで下がる。

 「その日」を見据え、金子さんは独自の対応を進めてきた。F1専門だったが、TPPの交渉中だった14年ごろから黒毛和種を導入。TPPで輸入牛肉の価格が下がれば「F1は影響を受けやすい」とみたためだ。毎月、北海道の子牛市場に足を運び、飼養する150頭のうち5割まで黒毛和種の比率を高めた。

 しかし、不安の材料は増えた。日米貿易協定交渉だ。日本は「過去の経済連携協定が最大限」とするが、トランプ米大統領は「TPPに縛られない」「8月に良い内容が発表できる」と放言。日米安全保障条約は不公平とまで言及するのを聞き、「まさに米国第一。牛肉の関税はゼロにされるのではないか」と感じた。

 疑問符を付ける農家は多いが、政府は米国を除いたTPPの影響による国産牛肉の価格下落が、乳用種で最大12%、和牛やF1で同3%にとどまると試算する。また、価格が下がっても、国内対策で農家所得は確保され、国内生産量は維持されると見込む。

 対策の一つが、畜舎の整備や機械導入などを支援する畜産クラスター事業だ。15~18年度の補正予算で計2400億円超を計上した人気事業だが、金子さんに使う意向はない。自己負担も多額で経営リスクが高まる上、農作業事故で左腕をけがした影響で、これ以上の規模拡大は難しいと考える。

 「中小規模の家族経営の生産基盤を維持するような対策があれば」。肉用牛肥育経営安定交付金制度(牛マルキン)は粗収益と生産費の差額の9割を補填(ほてん)するようになったが、常時発動するようでは「経営は続けられないし、夢がない」。

 子牛相場の高値が続いてきた繁殖経営。TPP発効後も、価格は黒毛和種で平均78万円前後と堅調を維持する。しかし、「一農家には影響を予想しきれない」。群馬県みどり市の和牛繁殖農家・小倉淳さん(38)は国に相場の注視を求める。

 一方で「不安だからといって、何もしないわけにはいかない」と、経営基盤の強化を目指している。母牛34頭からの増頭に加え、将来的には父親が手掛ける肥育との一貫経営や法人化を検討。畜産クラスター事業などの活用も念頭にあり、息の長い支援を望む。

 参院選の投開票日が4日後に迫る。農政の主要論点を現場から改めて探った。 
 

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