豚コレラ発生農場再開 閉塞感破る一歩に 愛知で初
2019年07月20日
愛知県は19日、2月6日に県内1例目(全国8例目)の豚コレラが発生した農場が、経営を再開したと発表した。国の防疫指針に基づく清浄性確認を終え、18日に母豚8頭を導入した。同県で経営を再開した発生農場は初めて。
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国際植物防疫年 日本の指導力発揮 期待
2020年は国連が定めた国際植物防疫年(IYPH)。病害虫や雑草の対策が重要だとの認識を、世界的に高める機会となる。優れた技術・対策を持つ日本が国際的なリーダーシップを取るべきだ。東京五輪・パラリンピックで日本への侵入リスクが高まる。市民を巻き込み水際対策も強化したい。
国境を越えて侵入する病害虫は食料安全保障にとって脅威だ。水稲に吸汁被害を与えるトビイロウンカが今年、西日本を中心に記録的な発生となった。米の作況指数(10月15日現在)は九州が「87」、四国と沖縄が「94」、中国が「97」だった。
また、飼料用トウモロコシなどを加害するツマジロクサヨトウは、7月に国内で初めて確認されてから農場での発生が瞬く間に21府県に拡大した。地球温暖化の影響で定着する恐れがあり、生産現場では農家らが懸命の防除対策を進める。
来年は東京五輪・パラリンピックが開催される。病害虫は人や物の移動でも侵入する。植物検疫の重要性を市民に訴え、土付きの植物を持ち込まないなど水際対策への協力を得たい。
IYPHの根底には、持続可能な開発目標(SDGs)である飢餓や貧困の解消、環境の保護、経済発展に、病害虫のまん延防止は欠かせないとの考えがある。ニューヨークとローマでの年末のキックオフセレモニーを皮切りに、来年の閣僚会合や国際シンポジウムなどを通じ、市民や政治家、行政の担当者、企業の社員らに理解を広げる。
IYPHでの国際的なリーダーシップの発揮には、20カ国・地域(G20)の会合との関連で茨城県つくば市で11月に開かれた、病害虫研究者による二つの国際会合の経験が生きる。
市民も参加した国際農林水産業研究センター(国際農研)のシンポジウムでは、講演やパネルディスカッションを通じ、各国が連携して対策・研究に当たることが重要だとの認識で一致した。SDGsの達成や食料安保につながることも確認した。
専門研究者らが中心の農水省主催のワークショップでは、かんきつグリーニング病など八つの病害虫について研究成果や防除方法を共有。今後の研究連携の在り方を話し合った。海外の研究者らは、日本の植物防疫の仕組みやミバエを撲滅した経験などに強い関心を示していた。
二つの会合ともに、日本の研究者らが開催国として議論をリード。防除対策や研究成果の共有、研究者のネットワークづくり、国際的な研究連携の進め方などで成果を得た。
その成果を生かし日本は国際的な行動を起こすべきだ。診断技術や疫学調査、越境防止措置、予防・防除技術を提供したり、研究連携の輪を広げたり、国際的な監視体制を強化したりすることで、持続的な食料生産に貢献できる。病害虫のまん延防止への協力は越境性病害虫の国内への侵入を防ぐことになり、食料安保にもつながる。
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2019年12月05日

果樹以外も“引き”強く 昨年の7倍販売 PBのこぎり好評 JAあいち豊田
愛知県のJAあいち豊田が今年度から販売を始めたプライベートブランド(PB)商品「こめったくんノコギリ」が好評だ。4月からの半年で、昨年ののこぎり販売数の7倍以上に当たる264本を販売。剪定(せんてい)作業に使う果樹農家だけでなく、一般農家にも購入が広がっている。
JAがPBのこぎりの販売を始めたのは、組合員の声がきっかけ。全国の桃生産者が集まる場で、JA桃部会の林金吾さん(67)が長野県にあるメーカーの説明を受け使い始め、良い商品だとJA営農資材課に紹介した。
当初は通常商品として果樹農家向けに販売。2、3年使った農家から高い評価を得たことから、PB化の検討を始めた。同課の職員がメーカーを訪ね、細部まで品質を確認。長期間使っても切れ味が落ちず、果樹農家だけでなく、幅広い目的で使えるよう、グリップの形状なども考慮し選定。4月からPB商品として販売を始めた。
購入価格を抑えるため、JAでは事前注文のキャンペーンを春と秋に実施し、通常より15%ほど安くした。替え刃も用意し、既に購入した組合員の要望にも応えている。
PBのこぎりを愛用する林さんは「他の物とは切れ味が違い、長持ちもするので手放せない。庭木の剪定など一般の人にも使ってほしい」と太鼓判を押す。
JA営農資材課の兵藤仁課長は「組合員の声を形にすることで、営農をサポートし期待に応えたい」と話す。
JAは、2016年3月から組合員の声を取り入れたPB商品を開発、販売している。少量規格の肥料や刈り払い機のチップソー、軽トラックの荷台に取り付けるほろなどを販売し、好評だ。
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2019年12月05日
ヒット中の映画を見に行った
ヒット中の映画を見に行った。ほぼ満席。期待にたがわず導入から息をのむ。圧倒的な映像世界に引き込まれる▼とその時、突然、画面が消え、場内が明るくなった。一瞬、往時の映写機を思い出した。デジタル全盛時代の珍事に客席がざわつく。おもむろに係員が現れ、説明し始めた。「先ほど販売したポップコーンに異物混入の疑いがあります。決して食べないでください、後ほど払い戻しに応じます」▼係員は不手際をわび、程なく映画は再開された。上映後は、観客全員に無料の映画券が配られ、スタッフ総出で頭を下げた。その機敏な対応と誠実な姿勢は、映画の余韻と相まってすがすがしかった。幸い体調不良の人もなく、クレームもなかった▼福沢諭吉が、「事小なるにもって決して小ならず」という言葉を残している。福沢家は、病院から牛乳を取り寄せていた。ある朝、牛乳瓶が汚れているのに気付き、病院に衛生管理を正す。たとえ小さな汚れであっても信頼を大きく損ねる。健康を預かる病院であってはならぬことだと叱る▼往々にして小さなミスが命取りになる。事実を説明し、迅速に対応すれば致命傷には至らない。こちら花見酒に酔って「小事」と高をくくっていたか。ほころびが広がり、最長政権の「大事」になりつつある。
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2019年12月03日
日米協定参院委可決 牛肉SG、追加交渉分野 懸念拭えぬまま
日米貿易協定の承認案を巡る参院外交防衛委員会の審議が3日、終了したが牛肉セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)の発動基準数量の引き上げや、追加交渉での農産品の扱いなど、同協定が抱える多くの懸念事項は払拭(ふっしょく)されなかった。野党側が追及するも政府側は従来の答弁に終始。国会での議論は消化不良のまま、協定の発効へ最終局面に入る。
農産品で議論になったのは、SGの発動基準の見直しだ。協定の補足文書では、発動した場合、基準を一層高いものに調整する協議に入ることを明記。初年度の基準が2018年度の輸入実績よりも低くSGが発動しやすい半面、協議による基準引き上げの動向が焦点になっている。
立憲民主、国民民主など野党でつくる共同会派の舟山康江氏は「(日本側が)相当不利な書きぶりだ」、共産党の井上哲士氏も「極めて特例的な規定だ」と批判。協定発効後はSGが発動しても税率は発効前の38・5%にしか上がらないことを踏まえ、輸入抑制効果を疑問視した。
茂木敏充外相は、SGの発動について、輸入業者が発動基準をにらんで年度末に輸入量を調整すると見通し、「毎年そういう(発動する)ことが起きるとは想定していない」との認識を示した。内閣官房の渋谷和久政策調整統括官は「協議することは同意したが、先は予断していない」と従来の答弁を繰り返した。
日米が発効後4カ月以内に予備協議し、追加交渉の分野を決めるという規定も論点になった。政府は交渉でまとまらなかった自動車・同部品の関税撤廃期間を追加交渉で扱うと説明してきた。
舟山氏は「自動車の関税撤廃を獲得する時は、何も譲らないと約束すべきだ」とし、農産品などの一層の市場開放をしないよう強く求めた。
渋谷氏は「協定を誠実に履行することが米国にとって望ましい」と協定の基本的な在り方を述べるにとどまり、具体的な対象分野への言及は避けた。
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2019年12月04日
日米協定 攻防ヤマ場 試算、再協議なお不透明 参院委で与党3日採決狙う
国会は今週、日米貿易協定の採決を巡りヤマ場を迎える。9日の会期末が迫る中、与党は3日に参院外交防衛委員会で可決、4日の本会議で承認する日程を描く。野党側は採決日程に応じておらず、攻防が続く見通し。「桜を見る会」の情報開示を巡る与野党の対立は続いており、国会が不安定化することもあり得る。より精緻な農林水産業への影響試算や再協議の可能性など、論点は多く残っているが、議論が深まるかは不透明だ。
衆院での協定審議時間は11時間。質問者不在のまま時間を消化する「空回し」も含まれる。要求資料を提出しない政府・与党に野党が反発し退席したものの、与党が審議を続行したためだ。
一方、参院の審議時間は外交防衛委員会での審議や連合審査会、参考人質疑を含め、現時点で9時間。協定の内容以外の質問も多く、農産品の議論も深まっていない。審議は3日も続ける。
米国を含む環太平洋連携協定(TPP)は、2016年に衆参に特別委員会を設けて計130時間以上審議した。米国離脱後のTPP11は、50時間弱だった。
野党は衆参の審議を通じ、関税撤廃期限が決まっていない自動車・同部品を除いた経済効果の分析、TPPや欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)の発効を前提とした農林水産品の影響試算を出すよう要求。米国が検討する自動車への追加関税回避を明文化したものがないため日米首脳会談の議事録なども求めたが、政府・与党は一貫して応じていない。農産品では再協議の可能性について野党が攻勢を強めたが、政府は「日本側の義務は規定されていない」(茂木敏充外相)などの答弁に終始。踏み込んだ発言はなく、やりとりは平行線をたどっている。
日米協定に関連法案はなく、国内手続きの完了に必要なのは協定の承認だけ。憲法の衆院優越規定による協定の自然承認には30日の日数が必要だが、会期は残っていない。政府・与党は会期を延長しない方針で、参院の議決が必要になる。
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2019年12月01日
営農の新着記事

[岡山・JA岡山西移動編集局] 水稲品種 古参に脚光 多収の晩生「アケボノ」生産拡大 業務用、酒造で引き合い
JA岡山西は、もうかる米作りの一環で、70年ほど前に育種された水稲「アケボノ」の生産拡大を進めている。古い品種だが、業務用米や酒造原料米として実需者の引き合いが強く、栽培しやすい多収性の晩生種として、生産者にも人気が高い。ポスト「コシヒカリ」をにらんだ品種開発が盛んだが、実需のニーズを見極めて古い品種にも光を当てた形だ。2018年産の集荷数量は1278トンで、品種別では主食用米の3割を占める計算だ。19年産は1440トンの集荷を目指す。
「朝日」と「農林12号」を親とする「アケボノ」は1953年に品種登録された。多収で倒れにくいのが特徴。米は、炊くと粒が大きく、歯応えがあり、あっさりした食味が楽しめる。外食や中食用として使われ、県内の卸業者は「粘りが少なく加工に向く。特にすし飯の需要が大きい」と説明する。酒造用の掛け米としても人気があり、JAの川上勝之営農部長は「生産拡大を呼び掛けているが、需要に供給が追い付かない状況だ」と話している。
同県浅口市の平喜酒造は「アケボノ」を掛け米だけでなく、こうじ米としても使う。原潔巳部長は「タンパク質が少なく、きれいなこうじができる。造った日本酒は淡麗な味わいで、料理に合う。米の品質にばらつきがないのも良い」と分析する。
生産者からの評価も高い。15ヘクタールで水稲を育てる倉敷市の山地康弘さん(59)は「費用や手間がかからず、安定して多収が見込める。晩生種のため、コシヒカリやヒノヒカリなどと作期分散しやすい」と栽培の理由を話す。
10アール当たり収量は例年、約540キロで、「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」よりも約120キロ多いという。一方、肥料代は10アール当たりで2000円ほど安い。JAの概算金は、最も高い「コシヒカリ」に比べると、18年産で60キロ当たり約1100円安いが、利益は「アケボノ」の方が大きくなる。
地域では、9月上旬から10月上旬に「あきたこまち」「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」「にこまる」を収穫し、「アケボノ」は例年11月5日ごろに刈り取っている。山地さんは「品質が落ちないので、作業を急がずに済む」と、融通の利く特性にも満足する。「生産者にとって頼もしい品種。作り続けたい」と意気込む。
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2019年12月05日

直播向き米品種 耐病・耐暑多収強み 農研機構
農研機構・東北農業研究センターは27日、倒伏しにくく、直播(ちょくは)栽培に適した水稲品種「しふくのみのり」を育成したと発表した。これまでの直播栽培向け品種「萌(も)えみのり」に比べて暑さやいもち病に強いのが特徴。良食味で多肥直播栽培の10アール当たり収量は750キロを超える。……
2019年11月28日

ブドウ果肉まで赤 ワイン用品種出願 大阪府
大阪府立環境農林水産総合研究所は、果肉まで暗赤色で、濃い赤色のワインが造れる醸造用ブドウ「大阪R N―1」の品種登録を出願した。一般的な赤ワイン用品種に比べ、植物色素のアントシアニン含量が数倍になるという。地球温暖化の影響による高温で果皮の着色不良が問題となる西日本などの地域でも高品質なワイン造りにつなげられる有望品種として期待される。
赤ワインは原料のアントシアニン含量が多ければ、濃い赤色に仕上がる。「大阪R N―1」の果実のアントシアニン含量は、赤ワイン用品種として知られる「ピノ・ノワール」や「メルロー」を数倍以上に上回る。国内で栽培されている既存品種にも果肉まで赤色になるものはあるが、単独で醸造しても風味が優れなかった。「大阪R N―1」は果実品質が良く、単独で醸造しても風味が良いワインになる。
この品種は府内の醸造所(ワイナリー)が40年ほど前に育成した。2018年に同研究所が新設した「ぶどう・ワインラボ」が、既存品種と異なる特性を持つことを確認した。今年3月5日に出願した。親はまだ特定できておらず、解析を進める。
苗の生産体制を整え、府内を中心に普及を進める考えだ。同研究所は「西日本を中心に、温暖化による高温で原料ブドウの果皮色が出にくくなっている。新品種で課題に対応できる」と有望視する。
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2019年11月27日

冬の大輪 優しく満開 蜂も人も元気“満タン” 香川県三豊市生産者の団体
香川県三豊市山本町河内地区に、季節外れのヒマワリ畑が出現し、話題を呼んでいる。地元農家の団体「河内アグリ活動組織」が秋冬に不足しがちなミツバチの栄養源にしようと耕作放棄地や休耕田を利用し、10カ所、計約1・5ヘクタールで栽培した。寒い日が増える中、花はまだ咲く予定で、12月半ばまで楽しめる。
事務局の白川良三さん(68)は「ミツバチも喜ぶし、きれいな花は多くの人を喜ばせるので一石二鳥」と語る。タマネギの採種をしている白川さんは、養蜂家から「冬は花が少なく、栄養不足で蜂の群れが小さくなる」と聞いていた。
そこで耕作放棄地などを利用してヒマワリを育ててみることにした。組織では、夏に幼児向けのヒマワリ迷路を作っており、こぼれた種が発芽し秋冬に花を咲かせることがあったという。
一昨年、9月に種をまくと、花が咲く時期に霜が降り元気を失ってしまった。昨年は8月上旬に種まきしたところ、10月中旬から12月中旬まで見事に咲き続け、今春、蜂箱にたくさんのミツバチが確認できた。白川さんは「ヒマワリの蜜で体力を付けた多くの蜂が冬を越した」と推測する。
「冬にこんな大輪に育つとは」「夏より優しい黄色」「一面に咲いて圧巻」などと好評で、多くの人が見物に訪れている。「自由に摘み取り、持ち帰って楽しんで」と白川さんは話す。
開花に合わせ、日曜日にヒマワリ畑で農産物の販売やミカンの詰め放題(100円)なども行い、一層の地域活性化に力を注いでいる。
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2019年11月26日

世襲より人物本位 “伴走” 期間経て 経営・信頼つなぐ
米や大豆、麦などを栽培する土地利用型の農事組合法人や大規模農家が、地縁や血縁のない従業員や若者らに経営をバトンタッチする第三者経営継承に取り組むケースが出てきた。農機など有形資産だけでなく、地権者の信頼も継承。経営主が後継者に経営ノウハウを伝える伴走期間を経て、次世代の担い手確保に対応する。
土地利用型の第三者継承
富山県砺波市の農事組合法人「ガイアとなみ」。同市若林地区を中心に130ヘクタールで米や大豆、麦などを栽培する。2年前、組合長は同地区の紫藤康二さん(70)から、地縁や血縁のない従業員だった中島一利さん(43)になった。
同法人は、地区の二つの営農組織が合併して1995年に法人化した。稲作に興味のあった中島さんが就職したのは2000年。ハローワークで求人を知り、近隣の射水市から通勤してきた。当初、中島さんも紫藤さんも後継者候補という意識はなかった。
紫藤さんは60歳ごろから継承を考え始めたが、法人の構成農家の身内には希望者がいなかった。次第に、人柄が信頼でき勉強熱心な中島さんに継承したいと考えるようになった。他の役員と話し合い、「世襲でなく、若く意欲のある中島さんに後を継いでほしい」との思いを長年伝え続けた。
作業計画の立案など責任ある仕事を意識的に任せられた中島さんは、組合長になることを見据えて、12年に法人に出資して役員となった。「土地に縁のなかった自分が後を継いでよいのか悩み、即決できなかった。ただ、地域の財産である農地をつなぎたいという気持ちはあった」と中島さん。5年かけて準備し、組合長に就任した。
資産は全て法人所有で、手続きは組合長の名義変更だけで完了した。地権者には段階的に丁寧に説明し、反対する人はいなかった。
現在、役員3人全員が同地区以外の出身で、中島さんは今も通勤しながら組合長を務める。同法人は役員、従業員の平均年齢が30代。イチゴ経営を始めるなど新品目にも挑戦する。中島さんは「土地利用型は地域を守る意味があり、存続が地域問題に直結する。自分も次の継承を見据えて経営する」と強調。紫藤さんは「経営ノウハウや思い、悩みも共有し、信頼を築けたので第三者継承が実現できた」と考える。
地縁・血縁超え
新潟県村上市で米など66ヘクタールを経営する農業生産法人「神林カントリー農園」では3年前、前社長とは血縁関係のない吉村敏秀さん(55)が代表を引き継いだ。吉村さんは「従業員として30年以上働いた長い準備期間があった。経営を継承するのに、血縁は特に関係なかった」と話す。
埼玉県熊谷市で25ヘクタールで米麦などを栽培していた掛川久敬さん(74)は今年1月、知人に紹介されて手伝いに来た20代の若者に経営のバトンを渡した。掛川さんが3年間、農業技術などをみっちり伝授。農機などは減価償却で計算し、農地や作業場は賃借料を払ってもらう。掛川さんは「地権者には自分が責任を取ると了解してもらった。意見のずれはあっても、最終的に判断するのは経営者。若者の意欲を尊重したい」と見守る。
担い手確保へ多彩な手法を 東京農業大学の内山智裕教授の話
果樹や畜産に比べ、土地利用型は地権者との関係性を踏まえなければならず、第三者継承には難しさを伴う。ただ地域資源を守っていくためには、第三者を含め多様な形で土地利用型の後継者確保を考えなければならない。
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2019年11月25日

棚田「残したい」7割 多面的機能に評価 農水省 初の意向調査
農水省は、棚田地域振興法の成立を受けて、棚田に対する国民の意向を初めて調査し、「棚田を将来に残したい」という回答が7割に達した。棚田米の購入などによる支援を望む声も多い一方で、支援したいと思わない回答も一定数を占めた。条件不利地での営農継続に向けて、国民全体で棚田を支える機運をどう高めていくかが問われる。
「支援せぬ」働き掛けを
全国の20歳以上を対象に調査し、1102人から回答を得た。
棚田を将来に残したいと回答した割合は、「知名度は高くないが地域で守ろうと頑張っている棚田は残したい」が51%、「全ての棚田を残したい」が17%、「一部の有名な棚田だけは残したい」が8%で、合計で76%に上った。
棚田を維持、保全したい理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒しや安らぎをもたらす」、「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最多だった。多くの回答者が棚田が生み出す多面的機能を評価した格好だ。
一方、棚田を将来残すべきかどうかについて、「残ってほしいが荒れるのは仕方ない」が19%、「全てなくなっても構わない」が6%と、棚田の維持に理解を示さない回答も一定割合を占めた。理由は「農業をするには効率が悪い」が43%と最も多かった。
棚田の維持や保全のために何かしたいかについては、「したいと思わない」が34%で最も多かった。
ただ、2番目は「インターネットなどで棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が26%、次いで「棚田を訪問し、棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が23%、「ふるさと納税を通じて支援したい」が20%と、一定数が自ら支援したい意向を示した。
同省は「棚田が必要で、支えるべきと考える国民は多いと言えるが、理解が浸透していない部分もある。保全に向けた支援に加えて、国民への一層の周知にも力を入れたい」(地域振興課)と話す。
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2019年11月24日

旅するチョウ 花で“誘致” フジバカマ 栽培広がり町活気 香川
日本列島を春は北上、秋は南下し、合わせて2000キロ以上を旅するといわれるチョウ「アサギマダラ」。5年ほど前、その渡りの途中で香川県内に飛来することが話題になり、花を植えて呼び寄せる活動が観音寺市を中心に島しょ部に広がっている。
羽を広げると10センチほどの大ぶりのチョウで、模様の一部が「あさぎ色」であることが名前の由来。2014年、同市の有明浜で地元の自然観察会グループがその姿を確認し、「有明浜の海浜植物とアサギマダラ飛翔会」を立ち上げた。
調べてみると、アサギマダラの成長には特定の植物の蜜の摂取が必要だった。春は有明浜の「スナビキソウ」に、秋は多年草「フジバカマ」を目当てに立ち寄るという。
会は同市伊吹島の遊休農地などに植栽しチョウの“誘致”に成功。その後、元農業改良普及員で同会の杉村勝司会長が、フジバカマを挿し芽で1年に1000株以上を増やし、希望する学校や団体に寄贈を続けてきた。
市内の介護複合型施設「大興和の杜(もり)」もその一つ。目の前にある休耕田約5アールに3年前からフジバカマを植えている。今年は暖冬で、平年より1週間ほど遅い10月中旬から飛来したという。
施設の高嶋一志事務長は「アサギマダラが来ると、利用者やスタッフが写真を撮ったり、散策に出たりして楽しんでいる。施設の利用者にとっては生きがい」と笑顔を見せる。
同会によると、フジバカマの栽培は、同市の吉原地区、三豊市の粟島、丸亀市の本島などの団体や施設にも広がっている。
杉村会長は「アサギマダラが、人と人とのつながりを強め、地域を元気にしてくれた。自然の大切さも伝えていきたい」と話す。同会では、季節になると伊吹島の港に案内板を立てるなど、観光客を呼び寄せる工夫もしていく。
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2019年11月20日

雑草スギナ 漢方茶で収益 津市の福祉施設 川原田さん考案
津市で障害者を雇用して農業生産を行う一般社団法人・一志パラサポート協会は、雑草スギナを「スギナ玄米茶」に加工して収益品目に昇華させた。JA三重中央の農産物直売所などで売れ行きは好調。今後は大型乾燥機も導入して生産拡大したい考えだ。
考案したのは同法人の職業指導員で、イチジク農園を経営していた川原田憲夫さん(75)だ。地域活性化のために加工食品を作ろうと考えていた。一方、法人のハウスイチジク栽培では、難防除雑草のスギナが、ハウス内に繁茂してしまうのが悩みの種となっていた。そこで、川原田さんは発想を転換。スギナが漢方として使われることに着目し、乾燥させて茶にしようと試みた。
収穫したスギナは、枯れている部分を取り除き選別。緑色が失われないように陰干しで乾燥する。乾燥時間や粉末の細かさ、玄米との混合割合など、試行錯誤を重ねて飲みやすさを追求。2018年に商品化した。今では年間でティーバッグ1100個ほどを製造している。
同法人は就労継続支援B型事業所「スマイルコーン」を運営する。施設の利用者も、スギナの収穫や選別はしやすいという。川原田さんは「イチジクは肥料にカルシウムを多く使う。それがスギナが増える原因の一つ。他の雑草が少ない点も、イチジクハウスがスギナ栽培に適していた」と話す。
法人ではドクダミ茶も作り、スギナ玄米茶と合わせて生産を拡大する計画だ。大型乾燥機も導入する予定だ。川原田さんは「認知度が徐々に上がってきた。さらに収益を上げ、利用者の工賃アップにつなげたい」と意欲を見せる。
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2019年11月20日

人口減の中山間で試行錯誤 小さな“とりで”限界 多面的機能支援を 島根県津和野町放牧で農地維持
政府が食料・農業・農村基本計画の見直しを進める中、人口減少や高齢化が進む中山間地域では、基幹産業の農業振興に向け、現状に見合った支援を求める声が相次いでいる。自治体やJA、集落では作業受委託などで農地を維持する他、新規就農者を呼び込むなどして生き残りを目指す。だが、中・小規模の農家にはできることに限界がある。条件不利地の農業現場を追った。(鈴木薫子)
島根県津和野町一ノ谷集落。今は11戸の住民が暮らすだけで、人口は約50年で3分の1となり、空き家や雑草が生い茂った棚田が目立つ。標高約450メートルで牛200頭を飼育する京村真光さん(66)は「荒廃地が増え、田や山の境目が分からなくなった」とつぶやく。
京村さんは12代目として先代から農地を受け継いだ。父の代までワサビ栽培が中心だったが、自ら肉牛の牧場を立ち上げた。黒毛和種の繁殖と、ジャージー種と黒毛和種を掛け合わせた交雑種(F1)の肥育を手掛ける。5~11月、計5ヘクタールに繁殖雌牛12頭を放牧し、中山間地ながら規模拡大に挑戦。牛を放棄地に貸し、農地を守るレンタル放牧に協力し、農地を守る活動もする。後継者育成や技術継承に力を入れるが、個人の地域農業の維持に限界を感じている。
西いわみ和牛改良組合津和野支部は、京村さんの就農時の1973年に約250人いた組合員が今は14人だ。
中山間地の農地が荒れると多面的機能が減退する。治水機能の低下などは平野部の災害リスクが高まり「災害がいつ起きるか分からない。荒廃地の整備を進めてほしい」と訴える。
災害が多発する中、多面的機能の維持は農家だけでなく国民的な課題だ。
「これ以上、農地の受け入れは難しい」。同町とJAしまね(旧JA西いわみ)が出資し13ヘクタールで稲刈りを受託するフロンティア日原の斎藤宣文社長は、こう漏らす。会社設立時にゼロだった利用権設定面積は10ヘクタールに増加。ワサビ加工場と水田を6人で管理するが、負担が増す。
斎藤社長は「経営はぎりぎり。現在の人員では規模拡大は難しい」と農地集約、大規模化の限界に直面している。地域では新規就農者もいるが、「米の消費減退や米価が不安定で水稲に担い手が集まらない」という。「国の支援は認定農業者が中心で中・小規模農家への支援が途絶えているように思う」と、安定経営ができる支援を求める。
森林が9割の同町は農地の大規模化が難しい。高齢化率は48%(19年10月)と全国平均(28%)を上回る。不利な条件ばかりだが、町とJAは、担い手育成や新規就農者の確保に注力し、未来を託す。町による生活資金や機械導入などの初期費用の手厚い助成で、12~18年度で計29人が就農。だが、それ以上に離農し、JAや町役場は「農事組合法人などの事業継承など多様な担い手への支援が欠かせない」と話す。
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2019年11月19日

台風、地震…怖い停電 太陽光発電 非常時に期待大だけど…
自立運転 切り替え必要 機器不備 蓄電できずに 千葉、北海道の農家
台風や地震など災害で停電した際に、非常時の電源として太陽光発電を活用する動きが出てきた。停電時にパワーコンディショナー(変電機器)を自立運転に切り替え、酪農では搾乳機や扇風機などの動力源にする。ただ、太陽光パネルを設置する農家からは「自立運転への切り替え方が分からない」「蓄電器がなく夜間は使えない」などと、活用に向けた課題を指摘する声も多い。(関山大樹)
千葉県香取市。乳牛約120頭を飼育する畠中牧場は、9月の台風15号で起きた停電時に自家発電機と、牛舎の屋根に設置した太陽光発電を非常電源として活用した。
牧場は売電用として15年前に太陽光発電を導入。停電が起きた翌日、初めて自立運転に切り替えた。電力は子牛用の牛舎の扇風機に使った。ただ、電気をためる蓄電器がなかったため昼間しか使えなかったという。
代表の畠中登さん(70)は「自立運転への切り替えは業者に依頼したが、普段から使い慣れていないと非常時に自分で切り替えるのは難しいと思う」と話す。
2018年9月に発生した最大震度7の北海道地震では、全道が停電に見舞われた。JA浜中町管内では「自然エネルギーを使うエコな牛乳を作ろう」と、国の支援も活用し105戸の酪農家らが牛舎などへの太陽光発電を導入してきたが、停電時の非常電源にはならなかったという。
自立運転機能はパワーコンディショナーに備わるが、コストがかかるため自立運転機能付きの変電機器や、蓄電器を導入した農家が少なかったためだ。
元々JAは、通常時に牛舎などで使う電力を生み出す目的で太陽光発電を進め、余剰電力は電力会社に販売していた。JAの宮崎義幸営農課長は「蓄電器があっても、非常時に搾乳ポンプを起動する際は蓄電量が一気に減る恐れがあり、長時間、使えるのかなど不安がある」と訴える。
価格下げ、使用法周知を
まとまった農地に支柱を立て、営農を継続しながら上部で太陽光発電をして売電する営農型太陽光発電も各地で広がっているが、災害時の活用には課題が多そうだ。
日本電機工業会の統計によると、18年度に出荷した変電機器のうち住宅の屋根などに付ける「家庭用」では、ほとんどが自立運転機能を備えている。しかし、営農型発電など容量が10キロワット以上の「非家庭用」では、2割が自立運転機能を備えていなかったという。
営農型太陽光発電普及協議会の小林昭夫事務局長は「自立運転への切り替え方法が分からなかったり、営農型では家から離れた所に太陽光パネルを設置していたりする場合が多く、非常電源として活用できていないのではないか」とみている。
太陽光発電に詳しい元東京大学特任教授で、環境経営コンサルタントの村沢義久さんは、災害時の活用も含め太陽光発電は可能性のある分野だと指摘。「政府や関係機関は自立運転機能の災害時の活用方法を発信するなど啓発活動に力を入れていくべきだ。現在は高価な蓄電器を購入しやすい価格に下げていく必要もある」と話している。
<ことば> 自立運転機能
停電時に、太陽光発電による電力だけで家庭などへの電力供給が可能になる機能のこと。一般的にパワーコンディショナーという専用の変電機器に備わっているが、機種によっては機能がないものがある。
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2019年11月19日