市毛良枝さん(女優) 豪華さより「心の満足度」

市毛良枝さん

 今年の夏は十数年ぶりにベランダで、ナスとキュウリとトマトを作りました。

 前は毎年作っていたんですが、親の介護がありましたから、長いこと休んでいました。今年、断捨離でいろいろなものを整理していたところ、昔使っていた土が出てきましてね。東京だから土も買わないといけないでしょう。せっかく買った土を捨てるのもなんだかと思って、作ってみたんです。天候が良くなかったのであまり収穫はありませんでしたが、久しぶりに楽しめました。

 実家で父が家庭菜園をしていたので、私も東京に出てきてから見よう見まねで始めたんです。

 母は父が作った野菜をぬか床に漬けていました。あまり料理が得意な方ではないんですが、父はよく「母さんの何の変哲もないみそ汁と漬物、卵焼き……。そんなのがいいね」と話していました。夫婦ってよくしたもんだ、男の人は妻の味にほっとするんだと思った記憶があります。

 私は文化も料理も洋風なものが好きでして、米があまり得意じゃない時期がありました。でも30年くらい前に米の組合さんの宣伝を担当させていただいて、そこの食品研究所の方が炊くご飯のおいしさに驚き、目覚めたんです。
 

登山で“米派”自覚


 それに加えて5000メートルを超える高い山に登るようになって、自分にはやっぱり米なんだと実感するようになりました。

 私は外国に行くと、現地の料理をおいしくいただきます。行った先のものを食べたい方です。登山の時でも、ある程度の高さまでは現地の食事を全然平気で食べられるんですが、キリマンジャロやエベレストのベースキャンプまで登ると現地の食を食べられなくなるんです。平地でならパン好きなのに高地だとパンはパサパサしていて喉を通りません。最後はやっぱりご飯。湯を注いだアルファ米とみそ汁に、つくだ煮の缶詰。酸素の薄いぎりぎりの所では、自分が食べてきた最もなじみのあるものしか、食べられなくなるんですね。

 キリマンジャロでは高山病にかかってしまいました。食欲はありませんが、栄養を取らないといけません。その時は日本の食材をあまり持って行かなかったので、現地の方が作ってくれたジャガイモを煮た料理をひたすら食べました。高山では、野菜といえばジャガイモしかないんですね。
 

朝は野菜中心に


 日常生活では、朝に自宅で野菜をたくさん取るようにしています。朝にきちんと食べないと、その日一日調子が良くないですね。それに自宅で作って食べるというのが大事だと感じます。いくら豪華な料理でも、外食ばかりが続くと、心の満足度はいまひとつ。

 食事をしながら会話を楽しむというのも大事で、心の満足度を満たしてくれます。私は3カ月に1度、3人の友だちと持ち寄りパーティーを続けています。とても楽しいイベントですね。

 このたび出演した映画「駅までの道をおしえて」では、久しぶりに塩見三省さんと夫婦役で共演しました。塩見さんは脳疾患の後、リハビリをされて復帰したそうです。その病院が、私の母が世話になった病院と同じということもあって、「リハビリは大事よね」と話し合いました。

 ロケ先の食事は弁当ではなくケータリングで、野菜もたっぷり入った出来たてのアジア料理でした。温かい食事をいただきながら、塩見さんと久しぶりにおしゃべりができてうれしかったです。(聞き手・写真=菊地武顕)

 いちげ・よしえ 1950年、静岡県生まれ。71年に「冬の華」でドラマデビュー。「小さくとも命の花は」(77年)などライオン奥様劇場に連続出演した。映画では「地雷を踏んだらサヨウナラ」「ベルナのしっぽ」など。趣味は登山で、日本トレッキング協会理事を務める。映画「駅までの道をおしえて」が18日公開。
 

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