農場のストーリー表現 看板に創意工夫 北海道
2019年11月05日

牛の形をした看板を見つめる砂子田さん(北海道広尾町で)

観光客との交流を目指す看板を眺める水野さん夫妻(北海道美瑛町で)
北海道の農家が、「看板」を牧場のPRや観光客とのコミュニケーションに役立てている。広尾町の酪農家は牧場の思いや歴史を、牛をかたどった個性的な看板で表現。美瑛町では農家らが、美しい景観の畑に立つ看板を見て、チップを払える仕組みを作った。観光客が農地に無断で立ち入るのを防ぎ、看板を交流の手段にした。
美瑛町は緩やかな丘に美しい畑が広がり、観光地として人気だ。一方、観光客が写真撮影などを目当てに畑に入り、農家とのトラブルも生じている。無断立ち入りは病気の侵入などにつながる恐れがあるからだ。
観光客が農地に入らないよう、畑には「立入禁止」と明記した看板が多く設置されている。そんな中、町の農家10人が看板で問題の解決を図ろうと「美瑛畑看板プロジェクト」を立ち上げた。
看板には農家の名前の他、「ブラウマン(耕す人)の空庭。」というタイトルで、耕す人のイラストや「農夫がつむぐ、奇蹟(きせき)の丘。」など、130年前に原生林を開拓した農夫の歴史や思いを説明する文を掲載した。
景観に感動したら看板にある二次元コード(QRコード)をスマートフォンで読み取り、電子決済で1回100円のチップを払えるようにした。看板は今年7月に初めて設置し、順次拡大。11月中にも6カ所に拡大する予定だ。インターネットを通じて資金を募るクラウドファンディングを活用し、開始3日で目標額100万円を達成した。
メンバーの一人でタマネギやトマトなど約140ヘクタールを経営する畑作農家の本山忠寛さん(34)の畑は、山脈が遠くに見える絶景にある。観光客の勝手な立ち入りは「病気の懸念もあるし、何より大切に育てた農産物が踏みつけられるのは傷つく」と話す。
本山さんも近く畑の前に看板を設置する。「観光客を邪魔者とするのではなく共存したい。看板を通じてどんな人が生産しているのかを知ってほしい」と強調する。
看板を見た東京都の会社員・水野英昭さん(52)と妻の満子さん(53)は「道内を観光したが畑がきれいな美瑛町は一番、北海道らしい景観だった。看板で歴史も分かり、畑ともマッチしている。この景観を大切にしてほしい」と話した。
北海道では多くの酪農家が、自宅前に牧場名を知らせる看板を掲げる。中でも、広尾町で乳牛約100頭を飼育する牧場「マドリン」の砂子田円佳さん(36)は、牛をかたどった看板に牧場名のロゴや創業年を書き込んだ。「朝見ると、きょうも頑張ろうと思える。自分で牧場を経営しているという責任も感じる」と満足げだ。
実家から独立して経営主になった砂子田さんは「他の人と違う看板を作りたい」と考え、釧路市のPR会社「濱野販促企画」の濱野綾子さん(37)に依頼した。
濱野さんは鶴居村の酪農家に生まれ、デザインの専門学校などで学び、2017年に夫婦で会社を設立した。看板作りは家を継いだ弟の増田一真さん(35)が視察先のカナダの牧場で見たような格好いいデザインを頼んだことが始まりだった。
濱野さんは、看板作りに当たり、農業を始めたきっかけを必ず聞くという。一戸一戸の農家の歴史や思いを聞いてデザインするのがモットーだ。「どの農家にもストーリーがある。その思いをどう形に反映できるかを常に考えている」と話す。濱野さんらが手掛けた看板は現在、道内に8枚ある。
QRで景観にチップ 観光客と「共存」へ 美瑛町
美瑛町は緩やかな丘に美しい畑が広がり、観光地として人気だ。一方、観光客が写真撮影などを目当てに畑に入り、農家とのトラブルも生じている。無断立ち入りは病気の侵入などにつながる恐れがあるからだ。
観光客が農地に入らないよう、畑には「立入禁止」と明記した看板が多く設置されている。そんな中、町の農家10人が看板で問題の解決を図ろうと「美瑛畑看板プロジェクト」を立ち上げた。
看板には農家の名前の他、「ブラウマン(耕す人)の空庭。」というタイトルで、耕す人のイラストや「農夫がつむぐ、奇蹟(きせき)の丘。」など、130年前に原生林を開拓した農夫の歴史や思いを説明する文を掲載した。
景観に感動したら看板にある二次元コード(QRコード)をスマートフォンで読み取り、電子決済で1回100円のチップを払えるようにした。看板は今年7月に初めて設置し、順次拡大。11月中にも6カ所に拡大する予定だ。インターネットを通じて資金を募るクラウドファンディングを活用し、開始3日で目標額100万円を達成した。
メンバーの一人でタマネギやトマトなど約140ヘクタールを経営する畑作農家の本山忠寛さん(34)の畑は、山脈が遠くに見える絶景にある。観光客の勝手な立ち入りは「病気の懸念もあるし、何より大切に育てた農産物が踏みつけられるのは傷つく」と話す。
本山さんも近く畑の前に看板を設置する。「観光客を邪魔者とするのではなく共存したい。看板を通じてどんな人が生産しているのかを知ってほしい」と強調する。
看板を見た東京都の会社員・水野英昭さん(52)と妻の満子さん(53)は「道内を観光したが畑がきれいな美瑛町は一番、北海道らしい景観だった。看板で歴史も分かり、畑ともマッチしている。この景観を大切にしてほしい」と話した。
牧場の個性「格好良く」 デザイナーと共作 広尾町
北海道では多くの酪農家が、自宅前に牧場名を知らせる看板を掲げる。中でも、広尾町で乳牛約100頭を飼育する牧場「マドリン」の砂子田円佳さん(36)は、牛をかたどった看板に牧場名のロゴや創業年を書き込んだ。「朝見ると、きょうも頑張ろうと思える。自分で牧場を経営しているという責任も感じる」と満足げだ。
実家から独立して経営主になった砂子田さんは「他の人と違う看板を作りたい」と考え、釧路市のPR会社「濱野販促企画」の濱野綾子さん(37)に依頼した。
濱野さんは鶴居村の酪農家に生まれ、デザインの専門学校などで学び、2017年に夫婦で会社を設立した。看板作りは家を継いだ弟の増田一真さん(35)が視察先のカナダの牧場で見たような格好いいデザインを頼んだことが始まりだった。
濱野さんは、看板作りに当たり、農業を始めたきっかけを必ず聞くという。一戸一戸の農家の歴史や思いを聞いてデザインするのがモットーだ。「どの農家にもストーリーがある。その思いをどう形に反映できるかを常に考えている」と話す。濱野さんらが手掛けた看板は現在、道内に8枚ある。
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[岡山・JA岡山西移動編集局] 受託田の水管理住民がサポート
JA岡山西は、JAの作業受託組織を住民が支援する「稲作りサポーター」制度を導入し、JAと地域住民で農地を守る体制を整えた。条件不利地や飛び地などの農地は受託が難しいが、日常的に必要な水管理をサポーターが担うことで、受託能力を高める。2019年は7人が、サポーターとして約5ヘクタール分の管理を担う。
サポーター制度を取り入れたのはJAの子会社として13年に設立した岡山西アグリサポート。19年度は水稲24ヘクタール、タマネギ1ヘクタールを栽培する。
倉敷市を中心に農地中間管理機構(農地バンク)を通じて、高齢で農作業が難しい生産者らから農地を預かるが、受託地は170カ所に分散され、面積拡大にも限界が出ていた。対策として16年から、地元農家から「稲作りサポーター」を募集。水管理の委託を始めた。
赤木稔さん(76)は、同市で水稲80アールを栽培しながらサポーターとして80アールの水管理を請け負う。6月の田植え時期が最も忙しく、地区によってはポンプで水路から水をくみ上げる水田も多く、機械を運搬するため体力もいる。赤木さんは「耕作放棄地を見るのは残念。みんなで助け合い農地を守りたい。体力が続く限り稲作りサポーターを続ける」と話す。
同社の阿部晃治生産部長は「サポーターのおかげでよく水管理ができ、草も生えにくいため、米の品質が上がった。協力して地域農業を守っていきたい」と頼りにする。
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2019年12月07日

和子牛高騰「利益出ぬ」 家族経営にも「支援拡充を」 畜酪対策で佐賀の農家
2020年度の畜産・酪農対策を巡り、家族経営への支援策が焦点になっている。和牛子牛相場が高止まりする中、資金に余裕がない中小の肥育農家は経営改善に向けた新たな投資に踏み出しにくいのが実情だ。安定的な和牛生産を続けるため、家族経営でも利用できる支援の拡充を求めている。
肥育だけでは…慣れぬ繁殖も
佐賀県伊万里市で、家族と共に肥育経営をしてきた田口敬一郎さん(63)は、17年に繁殖雌牛を導入して一貫経営に乗り出した。肥育一本で生きてきた田口さん。繁殖の知識は少なく不安も大きかったが、踏み出したのは「市場で良い子牛を買えないからだ」と明かす。
田口さんが仕入れに行く長崎県や大分県の市場の子牛価格はここ数年、80万円以上で推移することが多かった。その相場で導入した牛を田口さんは現在、125万円ほどで出荷している。餌代や光熱費、資材費などを差し引くとほとんど利益が残らない計算だ。
このままでは経営が危うい──。田口さんはそんな思いで一歩を踏み出した。自家繁殖すればせりで買うより、コストを半分近くまで抑えられるからだ。2棟あった肥育用牛舎の一つを、部分的に繁殖用に改築した。
肥育経営が順調とはいえない中で数百万円がかかり、資金の捻出に苦労したという。「中小の肥育農家ほど一貫経営に乗り出すべきだが、使えるお金は少ない」と指摘する田口さん。家族経営の規模でも維持・増産を目指せるような支援策の必要性を訴える。
クラスター事業 要件緩和を要請
国はこれまで、畜産クラスター事業で畜産の生産基盤の維持・拡充を進めてきた。ただし一般的な施設整備の場合、対象となるのは地域の平均規模以上に飼養頭数を増やすことや、生産効率を向上することが条件。余力のない中小経営は手を出しにくい例が多かった。
JA全中は20年度畜産・酪農対策の重点要請で、地域全体の生産力の底上げにつながるよう、畜産クラスター事業の規模拡大要件の緩和を求めている。この他、肉用子牛の高騰が続いているため、家畜の導入などへの支援拡充を提起。経営を継承した際の支援なども必要とする。
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2019年12月08日

ビワ大産地 台風15号3カ月 復旧「素人には無理」 倒木、落石、通行止めもまだ… 千葉県南房総市
台風15号の被災から9日で3カ月。全国屈指のビワ産地、千葉県南房総市では農道や園地を覆った倒木、落石が片付けられず復旧が思うように進んでいない。急斜面の園地も多く撤去には危険が伴うため「素人には不可能だ」と話す農家もいて、行政などの支援を強く求めている。(関山大樹)
行政支援を切望
千葉県は、産出額8億円(2017年度)を誇る全国2位のビワ産地。だが9月の台風15号の強風で、木が倒れるなどの被害が出た。県によると、20年の見込み被害額は5億9000万円に及ぶ。
同市の沿岸部にある南無谷地区は、地域の山の多くがビワ山だという。「園地を見ると心が折れる」。ビワ農家の木村庸一さん(58)が落ち込んだ表情で話す。60アールのビワ園は、来シーズン半分以上が収穫できなくなった。
山中にあるビワ園は曽祖父の代から守り、かつては皇室に献上するビワも生産した。ビワは花や幼果が寒さの影響を受けやすいため、冬に風が吹いて霜が降りにくく、寒さが滞らない山の急斜面で栽培される。
台風の強風で、山中のビワの半分以上が折れたり、根こそぎ倒れたりした。急斜面のため現在も、石や折れた木が落ちてくる可能性がある危険な状態だ。
木村さんは、チェーンソーで一部倒木の除去や倒れた木を元に戻すなど尽力したが、19、21号と続いた台風で、修復しても元に戻る“いたちごっこ”の状態が続いた。
険しいビワ山を通る農道も、50年ほど前から農家らが協力して作り、コンクリートで舗装し管理してきた。台風直後は、強風や大雨による倒木や落石で通れなくなり、今も山奥に行くにつれ倒木が手つかずの場所もあり、一部のビワ園は立ち入れない。
木村さんは「山中での作業なので撤去は危険が伴う。安易に除去できない木もあり、全ての倒木や落石の除去は素人には不可能だ」と訴え、倒木や落石の撤去などへの行政支援を訴える。
房州枇杷(びわ)組合連合会が、66人の組合員に行った台風被害調査によると、被害額は10月末時点で1億648万円、来年の売り上げは3億円減少する見込みとなった。連合会によると、実際の被害金額はさらに多い見通しだ。
連合会会長で、南房総市のビワ農家、安藤正則さん(63)も園地半壊の被害を受けた。安藤さんは「このままの状況だと復興は1、2年じゃ到底終わらない」と危機感を募らせている。
ビワは苗木を植えてから収穫まで、5年ほどかかる。園地の再建について高齢農家ほど意欲に陰りがあるとし、「気持ちの面で立ち直れない人もいる。園内の倒木撤去や整理の他、所得補填(ほてん)などさらなる支援が必要だ」と要望する。
自身もビワ農家であるJA安房の笹子敏彦常務も「まだ山中に入れないビワ農家も少なくない。特に雨が降った後などは危険度が増す」と話し、復旧への道が険しいことを強調する。
15、19、21号 38都府県被害 農林水3900億円
農水省は6日までに、台風15号の農林水産関係の最新被害額が5日午後4時時点で815億円に上ると発表した。19・21号の被害額(3082億円、2日午後1時時点)と合わせると、総額3897億円に上る。
15、19、21号の被害は38都府県が報告。被害額は、2018年の西日本豪雨の被害額3409億円を超えた。
内訳は農地の損壊が2万6273カ所で被害額746億6000万円。用水路や農道といった農業用施設などが、2万4130カ所で被害額1226億4000万円。作物被害は3万6459ヘクタール、被害総額265億3000万円。農業用ハウスなどの被害は、2万9336件で被害額503億1000万円だった。同省によると、今後も被害額は増える見込み。
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2019年12月07日

基盤強化プログラム 生産拡大へ数値目標
政府は10日、安倍晋三首相をトップとする農林水産業・地域の活力創造本部の会合を開き、輸出向けの産地形成や担い手不足などに対応する「農業生産基盤強化プログラム」を決定した。輸出拡大をにらんだ和牛生産の倍増や水田農業の高収益作物産地500カ所創設などの新たな数値目標を設定。2019年度補正予算や20年度予算に達成に向けた経費を計上するが、万全の財源が確保できるかが問われる。
和牛倍増 加工野菜の需要奪還
安倍首相は会合で「安心で安全な日本の農林水産物が世界に羽ばたくチャンスは今後ますます広がっていく」と強調。輸出拡大や先端技術を活用したスマート農業の推進には「しっかりとした生産基盤が欠かせない」との認識を示した。
江藤拓農相は、同日の閣議後会見で「最重要課題の生産基盤強化を目的に取りまとめた」と説明。現在検討している補正予算を含め「切れ目のない対策を講じていく」との考えを示した。
プログラムは11本の柱で構成。日米貿易協定による牛肉輸出枠の拡大などを念頭に「さらなる輸出拡大」を真っ先に掲げた。来年4月に農水省に輸出の司令塔組織を設置し、輸出拡大に向けた新戦略を定める。
和牛生産は、米国や中国への輸出拡大を見込み18年の14万9000トンから35年に30万トンまで増やす目標を設定。具体策として繁殖雌牛の増頭奨励金や和牛受精卵の利用促進などを打ち出した。
水田農業対策では、輸入品が多い加工・業務用野菜の国産化や輸出向けの果樹栽培を念頭に、主食用米から高収益作物への転換を促し、25年度までに500産地の創出を目指す。高収益作物を導入する産地に水田の基盤整備や機械・施設の導入、販路開拓などを一体的に支援する方針だ。
「中山間地域や中小・家族経営も含め、幅広く生産基盤の強化を図る」とも明記。24年度までに地域資源を活用して中山間地域の所得向上などに取り組む250地区を創出することも盛り込んだ。
他に、加工・業務用野菜の出荷量(直接取引分、18年度は98万トン)を30年度までに145万トンに拡大することや、25年までに担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践することなども目標に据えた。
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2019年12月11日

畜酪対策 補給金単価上げ重視 中小支援が課題 自民
自民党は10日、2020年度の畜産酪農対策の決定に向けて、詰めの議論をした。加工原料乳生産者補給金の単価引き上げに加えて、都府県酪農の抜本的な強化策を求める意見が相次いだ。生産基盤の維持、強化に向けて、中小規模や家族経営への支援を重視。畜産クラスターの要件緩和や営農継続に向けた関連対策の充実を課題に挙げた。
畜産・酪農対策委員会(赤澤亮正委員長)の他、農林合同会議でも議論を重ねた。
補給金は、集送乳経費を支援する集送乳調整金と合わせ、19年度は1キロ当たり計10円80銭。北海道選出の議員らは再生産の確保に向けて、流通コストの高騰などを考慮し、相次いで単価の引き上げを求めた。
関連対策を巡っては、畜産クラスター事業の要件緩和や、家畜ふん尿処理対策、労働力確保に向けた酪農ヘルパー確保など課題は多い。政府は畜産・酪農の基盤強化に向け、繁殖雌牛や乳用後継牛への「増頭奨励金」の交付など、増頭・増産を柱に掲げている。
葉梨康弘氏は、畜産クラスター事業などの支援策について、「増頭できる家族経営ばかりじゃなくなっている」と指摘。規模拡大を目指す農家だけでなく、柔軟な要件にするよう求めた。
生産量減少が進む都府県酪農では、大規模化が難しい中小経営の基盤維持が課題。簗和生氏は「現状維持でも継続できるよう支援するというメッセージが生産回復の一歩だ」と訴えた。
坂本哲志氏は、後継牛やヘルパーの確保、ふん尿処理などを個別に解決しても効果は限定的と指摘。「総合パッケージ型の酪農対策をやらないといけない」と提起した。
ブランド和牛生産の実態を踏まえ、小寺裕雄氏は「規模拡大ばかりに向かわず、現状を維持する経営にも手を差し伸べる施策を充実してもらいたい」と訴えた。
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2019年12月11日
地域の新着記事

ドローンで空輸 できたらいいな 取れたて野菜 即店頭へ 秋田県仙北市が試験
秋田県仙北市は国家戦略特区の認定を生かし、ドローン(小型無人飛行機)を使って青果物を運搬する実証試験に乗り出した。輸送条件の良くない中山間地域での青果物の運搬に、ドローンが使えるかどうかを確かめる。農薬散布など農業への利用が広がる中、運搬用には法規制などもあり乗り越えるべき壁はまだ多いが、人手不足が深刻な中山間地域でのドローンへの期待は大きい。(音道洋範)
ホウレンソウが空を飛ぶ──。11月中旬、市内の中山間地域で行った実証実験では、農家民宿から収穫したてのホウレンソウと焼きたてのおやき約2キロを、2・8キロ先の直売所に向けて運搬した。
中山間 3キロ10分で到着
民宿の裏庭から飛び立ったドローンは、上空50メートルほどまで上昇した後、あらかじめ設定しておいた経路に沿って直売所まで飛行した。10分ほどで直売所近くの広場に到着し、すぐさま店頭に商品が並んだ。
実験に協力した農家民宿「星雪館」の代表、門脇富士美さん(48)は4カ所の直売所で野菜などを販売する。輸送に往復1時間近くかかる場所もあるため「ドローンに運搬を任せることができれば、空いた時間で他の仕事をできるようになる」と期待する。
法律、価格、天候 壁高く
仙北市では2015年に国家戦略特区の認定を受け、ドローンの活用に取り組んでいる。市内では既に農薬散布用のドローンは実用段階に入った。市農業振興課によると、農家が市の助成事業を活用して7台を購入。来年度はさらに10台近くが増える見通しだ。担当者は「年齢や法人、個人を問わず、幅広い場所で使われ始めている」と説明する。
ドローンの運行を担当した東光鉄工(秋田県大館市)によると「自律飛行は技術的に可能なレベルに到達している」が、法律上の規制が運搬用途での実用化に向けた課題になっているという。
国土交通省が今年8月に公表したガイドラインでは、ドローンを飛行させるには、原則として目視による確認が必要。今回の試験では複数の補助者が配置され、飛行ルートと並行する鉄道会社の職員も監視するなど、警戒態勢が取られた。そのため、「現状では車を使って輸送する方が効率的」との声も上がる。
価格面も課題だ。門脇さんは「1台10万円くらいなら手が届く」と話すが、物資運搬が可能な大型機は100万円を超えることがほとんどで、手軽に購入することはまだ難しい。また、試験時の天候は雨交じりで「強い雨の中では電気回線に不具合が出る可能性がある」として直前まで飛行が危ぶまれた。
市地方創生・総合戦略室の藤村幸子室長は、目視外飛行への法規制などさまざまな課題があるとしつつ「ドローンは人手不足が深刻な中山間地域にとっては有効な手段。実証試験を繰り返して課題を克服し、将来的な実用化につなげたい」と話している。
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2019年12月12日

みんな二度見!? オート三輪 走る広告塔 茨城県常陸太田市の椎名理さん
茨城県常陸太田市で「てるちゃんぶどう園」を営む椎名理さん(59)の愛車は、昔懐かしいマツダのオート三輪。手直ししてピカピカに磨き上げ、現役で農作業に使っている。車体にはぶどう園のPRロゴを入れ、走る広告塔としても役立てている。
椎名さんは1・3ヘクタールの園で「巨峰」や「常陸青龍」「シャインマスカット」を栽培するブドウ農家。若い時から車好きで20代前半にMG・ミジェットを手に入れて古い車の面白さに目覚め、今では倉庫にオールドカー10台ほどを所有する。
オート三輪を手に入れたのは10年ほど前。県内の倉庫に眠るオート三輪があると知人に紹介され見に行くと、珍しいマツダのT1500だった。1971年製で比較的状態も良く、トラックなので農業に使えると思い、譲ってもらった。
手を入れて乗り始めたが、古い車両のため故障はつきもの。部品もなく親しい修理工場に頼んで直してもらっている。維持費は掛かるが苦にはならない。運転していると、対向車から注目され、工事の人が手を休めて見入ることも度々。駐車していると、懐かしがって話しかけてくる中高年も多いという。
そこで、「てるちゃんぶどう園」のロゴを入れた。それからはさらに目立つようになり、ブドウ園の名も知られるようになったという。今は「おいしいよ常陸太田のぶどう」や「だいすき常陸太田」のロゴも入れ、地域のPRにも一役買う。
椎名さんは「道の駅にわざと寄ったりして楽しんでいる。大切に乗り続けていきたい」と話している。
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2019年12月10日
気候非常事態 長野県が宣言 都道府県で初
長野県は6日、世界的な気候変動への危機感と地球温暖化対策への決意を示す「気候非常事態宣言」を都道府県として初めて発表した。2050年までに県内の二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにすることを目指す。
県議会が同日、台風19号被害やスペインでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)開催などを背景に、宣言を出すよう県に求める決議を全会一致で採択。これを受けて県が宣言を発表した。宣言では、国内で頻発する気象災害と世界的な異常気象、気候変動に触れ、「この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできない」と強い危機感を示した。
県は、太陽光発電や小水力発電といった再生可能エネルギーの拡大、省エネ対策の強化などで、CO2排出量の実質ゼロを実現したい考え。阿部守一知事は会見で「広く県民一丸となって気候変動対策を進めていきたい」と強調した。インターネット中継で阿部知事と会談した小泉進次郎環境相は「台風で大きな被害を受けた長野県が宣言したことは象徴的。来週参加するCOP25で発信したい」とエールを送った。
宣言は、地球温暖化対策を加速させようと欧米諸国を中心に広がっている。欧州連合(EU)の欧州議会が11月に採択した他、国内では長崎県壱岐市、長野県白馬村などが宣言している。
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2019年12月07日

ビワ大産地 台風15号3カ月 復旧「素人には無理」 倒木、落石、通行止めもまだ… 千葉県南房総市
台風15号の被災から9日で3カ月。全国屈指のビワ産地、千葉県南房総市では農道や園地を覆った倒木、落石が片付けられず復旧が思うように進んでいない。急斜面の園地も多く撤去には危険が伴うため「素人には不可能だ」と話す農家もいて、行政などの支援を強く求めている。(関山大樹)
行政支援を切望
千葉県は、産出額8億円(2017年度)を誇る全国2位のビワ産地。だが9月の台風15号の強風で、木が倒れるなどの被害が出た。県によると、20年の見込み被害額は5億9000万円に及ぶ。
同市の沿岸部にある南無谷地区は、地域の山の多くがビワ山だという。「園地を見ると心が折れる」。ビワ農家の木村庸一さん(58)が落ち込んだ表情で話す。60アールのビワ園は、来シーズン半分以上が収穫できなくなった。
山中にあるビワ園は曽祖父の代から守り、かつては皇室に献上するビワも生産した。ビワは花や幼果が寒さの影響を受けやすいため、冬に風が吹いて霜が降りにくく、寒さが滞らない山の急斜面で栽培される。
台風の強風で、山中のビワの半分以上が折れたり、根こそぎ倒れたりした。急斜面のため現在も、石や折れた木が落ちてくる可能性がある危険な状態だ。
木村さんは、チェーンソーで一部倒木の除去や倒れた木を元に戻すなど尽力したが、19、21号と続いた台風で、修復しても元に戻る“いたちごっこ”の状態が続いた。
険しいビワ山を通る農道も、50年ほど前から農家らが協力して作り、コンクリートで舗装し管理してきた。台風直後は、強風や大雨による倒木や落石で通れなくなり、今も山奥に行くにつれ倒木が手つかずの場所もあり、一部のビワ園は立ち入れない。
木村さんは「山中での作業なので撤去は危険が伴う。安易に除去できない木もあり、全ての倒木や落石の除去は素人には不可能だ」と訴え、倒木や落石の撤去などへの行政支援を訴える。
房州枇杷(びわ)組合連合会が、66人の組合員に行った台風被害調査によると、被害額は10月末時点で1億648万円、来年の売り上げは3億円減少する見込みとなった。連合会によると、実際の被害金額はさらに多い見通しだ。
連合会会長で、南房総市のビワ農家、安藤正則さん(63)も園地半壊の被害を受けた。安藤さんは「このままの状況だと復興は1、2年じゃ到底終わらない」と危機感を募らせている。
ビワは苗木を植えてから収穫まで、5年ほどかかる。園地の再建について高齢農家ほど意欲に陰りがあるとし、「気持ちの面で立ち直れない人もいる。園内の倒木撤去や整理の他、所得補填(ほてん)などさらなる支援が必要だ」と要望する。
自身もビワ農家であるJA安房の笹子敏彦常務も「まだ山中に入れないビワ農家も少なくない。特に雨が降った後などは危険度が増す」と話し、復旧への道が険しいことを強調する。
15、19、21号 38都府県被害 農林水3900億円
農水省は6日までに、台風15号の農林水産関係の最新被害額が5日午後4時時点で815億円に上ると発表した。19・21号の被害額(3082億円、2日午後1時時点)と合わせると、総額3897億円に上る。
15、19、21号の被害は38都府県が報告。被害額は、2018年の西日本豪雨の被害額3409億円を超えた。
内訳は農地の損壊が2万6273カ所で被害額746億6000万円。用水路や農道といった農業用施設などが、2万4130カ所で被害額1226億4000万円。作物被害は3万6459ヘクタール、被害総額265億3000万円。農業用ハウスなどの被害は、2万9336件で被害額503億1000万円だった。同省によると、今後も被害額は増える見込み。
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2019年12月07日

地元でもやりたいことできる “Uターン組”食で催し 新潟県糸魚川市
新潟県糸魚川市にUターンした若者らが、「つなぐKitchen Project(キッチンプロジェクト)」のメンバーとして、食を題材にしたイベントを企画・開催している。プロジェクトを通して、糸魚川を離れた若い世代に「糸魚川でも自分たちのやりたいことができる」ということを伝えていく。
メンバーは市役所職員の杉本晴一さん(26)、イタリアンシェフの渡辺光実さん(28)、米や果実などを栽培する生産者の横井藍さん(28)と、JAひすい営農指導員の小野岬さん(24)。
市の広報紙の取材で若手Uターン経験者として杉本さん、渡辺さん、横井さんが集まり、3人で意見を交わす中で「それぞれのやりたいことが3人ならできる」と意気投合し活動を始めた。
その後、女子メンバーが欲しいという横井さんの希望で、巡回で来ていたJAの小野さんが仲間に加わった。プロジェクトチームの名前には「糸魚川のいろいろなところで人・物・事をキッチンでつなぐ」という願いを込めた。
職種の異なるメンバーが、それぞれの得意分野を生かしながら活動。7月には「ハヤカワ夏のピザまつり」を開いた。親子連れ30人が参加し、夏野菜をトッピングしてピザを作った。11月には「ハヤカワ秋のイモまつり」を開いて親子20人が焼き芋などを楽しんだ。
補助金を頼りにせず、全てを参加費で賄えるよう工夫して企画・運営している。メンバーは7月のイベントに合わせて動画投稿サイト「ユーチューブ」を参考にピザ窯を手作りし、11月のイベントでも大活躍だった。
横井さんは「畑で作られた野菜を味わって土に触れる感動を子どもたちに伝え、食を通して農を知ってもらえるような活動をしたい」と意欲を見せた。今後は小学校で取り組む「キャリア教育」などを通して農業の現場と教育の現場をつなぐとともに、イベント依頼などに積極的に対応していく。
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2019年12月07日

ハトムギで健康長寿に “お墨付き”チョコ商品化 知名度アップ狙う 栃木県小山市
栃木県小山市で、特産のハトムギを使ったチョコレートが開発され、11月から市内の「道の駅思川」で販売が始まった。生活習慣病の予防など、市はハトムギの摂取によって市民の健康長寿を目指しており、新たなスイーツで消費拡大を目指す。ハトムギの生産量も増えていて、農家は「栽培の追い風になる」と期待する。(中村元則)
全国ハトムギ生産技術協議会によると、2018年の全国のハトムギの生産面積は1122ヘクタール、生産量は1541トン。茶などで使われ、生産面積は年々、増加傾向にあるという。同市は水田転作の一環で、1991年に農家2戸で栽培がスタート。18年時点で、約10戸が作付面積80ヘクタールで188トンを生産し、国内有数の産地だという。
同市のハトムギは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「次世代農林水産業創造技術」の開発研究に選定された。そこで市などは18年、ハトムギの摂取が人間の体に与える影響を調べる実証実験を行った。
20~64歳の健康な市民114人にハトムギ茶や麦茶を500ミリリットル、8週間、毎日飲んでもらい血液や尿を検査した。その結果「ハトムギには動脈硬化などの生活習慣病の予防効果が示唆された」(市農政課)という。
市はハトムギの摂取を進めようと、新商品の開発を促す「アグリビジネス創出事業」を実施。ハトムギのチョコレートは、食品加工品を販売する、ラモニーヘルス(同市)が同事業を活用して、半年前から商品開発を手掛けた。
同社の篠原裕枝代表は「ハトムギを高齢者も若い人も、誰もが食べやすいものにしようと考えた時、チョコレートを思い付いた」と話す。
同社は11月中旬の2日間、東京都墨田区の商業施設「東京ソラマチ」の中にある栃木県のアンテナショップ「とちまるショップ」で試験販売をした。その後、11月下旬から道の駅思川で本格販売を始めた。
商品は「はとむぎチョコ マンディアン」と名付けられ、ハトムギを3%配合したノンシュガーのチョコレート生地に、無添加ドライフルーツを載せている。チョコレートの優しい味わいとともに、かめばかむほどハトムギの香ばしい香りが広がるのが特徴だ。
市農政課は「来年2月のバレンタインデーに健康食品として参戦する」と強調。チョコに期待を掛けている。他にもハトムギを使った商品は、ふりかけなども開発され、多様化している。
相次ぐ商品化に栽培農家も期待。ハトムギを4ヘクタールで栽培する小山はとむぎ生産組合の福田浩一組合長は「小山のハトムギの知名度が増す良い機会になる。これを契機に新規就農者を増やし、生産量を増やしたい」と意気込む。
「はとむぎチョコ マンディアン」は、ビターとミルクの2種類あり、どちらも1箱3個入り(100グラム)で1500円。
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2019年12月06日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 農業も登山も全力投球 倉敷市の小原正義さん
岡山県倉敷市の小原正義さん(40)は、米の生産と餅加工で年間2300万円を売り上げるコアラファームの代表と、登山ガイドの二足のわらじを履く。今秋には、県内の農業振興や農村の活性化に貢献する青年農業者に贈られる「矢野賞」を受賞した。
実家は水稲農家で農業や自然への関心が高く、大学卒業後は8年間、長野県の奥穂高岳の山小屋で働いた。「農業だけでは生活ができないと考え山登りも仕事につなげようと思った」と小原さん。2010年に日本山岳ガイド協会の登山ガイドの資格を取得した。
同じ年に親元就農した。米で収益を上げるビジネスモデルを模索し、生産・販売から餅加工を一体的に行う経営に行き着いた。餅は年間15・9トンを製造。自家栽培の特別栽培米「ヒヨクモチ」を使って、「倉敷・八十八俵堂」の独自ブランドで販売している。
JA岡山西直売所の出荷仲間の紹介などで地道に顧客を増やし、倉敷市のふるさと納税返礼品に採用されている他、JA直売所や県内スーパー、インターネットなど多方面に販路を拡大。売り上げの9割を占める経営の柱になった。
小原さんは「登山も農業も自給自足が原則。通じるところが多い」と話す。山小屋勤務での接客や大工仕事、道路の舗装、水道工事などの経験が、農業経営に役立っているという。
経営が安定した15年からは、農閑期の7、8月に北アルプスや大山などで月10日程度の山岳ガイドも務める。19年は大山ガイドクラブ代表に就任し、山小屋の経営を始めた。
「日常を幸せにする農業、非日常を楽しむ登山」と、どちらも全力投球する。「20代は山、30代は農業に打ち込み、土台を作れたと思う。農業者、登山家として一層レベルアップしたい」と話し、40代を楽しむ。
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2019年12月05日

行動起こす一歩大切 酪農女性340人経営ヒント学び合う 北海道でサミットファイナル
全国から酪農に携わる女性が集い、経営や技術などを学ぶ「酪農女性サミット」が3日、北海道帯広市で始まった。酪農女性ら340人が参加し行動を起こすことの大切さや、今後のあるべき姿などを話し合いながら交流を深めた。4日まで開く。
サミットは2017年から北海道で年1回開かれ、3回目の今年が最後の開催。酪農家の女性が互いに学び語り合い、女性も楽しく仕事ができる酪農を目指そうと、酪農家の女性自らが企画・運営してきた。
「酪農女性のモチベーションUP!講座」と題したトークセッションでは、経営の最前線で活躍する女性たちが登壇した。
オランダで酪農家と結婚したニューランド伏木亜輝さん(43)は、酪農経営は義父と夫が行い「牧場に自分の居場所がない」と悩んでいたことを話した。自分のやりたいことは何かを考えた結果、日本からの研修を受け入れる事業を始めたことを紹介。「少しでも考えたらアクションを起こしてみて」と会場に呼び掛けた。
北海道大樹町で経産牛600頭を飼育する「カネソファーム」の金曽千春代表は、15歳で酪農家の実家を継ぐ決意をした生い立ちを披露した。経営者として先代からの思いを受け継ぎ、次の世代につなぐことで「酪農の未来は明るい」と語った。
酪農以外では、神奈川県藤沢市で野菜を栽培する「えと菜園」の小島希世子代表が、ホームレスや引きこもりの人に農作業を体験してもらい、農家への就職などにつなげる取り組みを紹介した。
「後継者不足に悩む農家と、働きたくても働けない人を結び付けたいとの思いから始めた」と話した。「農業は裾野が広い。適材適所を見つければ、人の才能を伸ばせる産業だ」と農業の可能性を訴えた。
サミットはJA全農、日本コカ・コーラが共催。中央畜産会が後援した。4日は帯広畜産大学の仙北谷康教授が酪農所得や共済について話す他、参加者同士がモチベーションを保つ工夫を話し合う。
成果 農場で実践を 参加者3倍に、注目実感
<初回からの実行委員長 砂子田円佳さん>
北海道内の酪農女性が企画・運営し、全国から酪農に携わる女性らが年1回集う「酪農女性サミット」。これまで全3回の実行委員長を務めてきた広尾町の酪農家・砂子田円佳さん(36)にサミットを始めた経緯や思い、成果などを聞いた。
──開催したきっかけを教えてください。
女性酪農家が話すパネル討論にパネリストとして参加した時、参加者から「これだけ頑張っている人がいるなら酪農女性が集うサミットを開いたらどうか」という意見が出て、酪農家ら6人で企画した。互いに見ず知らずだったが、楽しく酪農をするには勉強も大事、女性の酪農にも勉強する場があればなど、共通した課題や方向性を持っていてすぐに意気投合した。
──女性だけにした理由は何ですか。
酪農関係のセミナーは多いが、参加する女性は少なく質問していいのかと遠慮しがち。「女性」と銘打つことで来やすい人もいる。
私も20代で実家から独立した時、「お前なんか嫁に行ってすぐにやめるだろう」と言われ悔しい思いをした。頑張って働き30代になり、女性らしく生きることや理解してもらうことの大切さを感じた。それにはもっと力を付けないといけない。言われたことだけしてもんもんとするのでなく、勉強して提案することで違う世界が見えてくる。
──3年間、サミットを開いた手応えは。
初回に比べ参加者が3倍ほどに伸びた。当初は「やって意味があるのか」とも言われてきたが、男性の見る目が変わった。開催案内を広報誌や店舗に張って紹介してくれるJAもあった。3年の積み重ねで多くの人に注目されるようになったと実感している。大会実行委員への講演の依頼も増えている。私たちの体験を通じ、次に続く人たちが前に出やすくなってほしい。
──今回で最後の開催としています。
「ファイナル」としたが「これで終わり、解散」ではなく、実行委員が各地で小さくても動いていきたい。参加者も各地域に帰って動き始めてほしいし、その手伝いができたらうれしい。(聞き手・洲見菜種)
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2019年12月04日

冬風揺れる柿すだれ JAふくしま未来伊達地区
全国有数のあんぽ柿産地、福島県のJAふくしま未来伊達地区管内で、皮をむいた柿を干し場につるす加工作業が最盛期を迎えている。きれいなオレンジ色の柿が次々とつるされる光景は「柿色のカーテン」と呼ばれ、この時期の風物詩だ。
原料の「蜂屋」や「平核無」の渋柿から乾燥によって独特の深い味わいと甘味を生み出す地区特産のあんぽ柿。
同地区では、11月上旬から原料となる柿の収穫作業が始まり、中旬からは、連通しと呼ばれる柿の皮むきや縄に柿を取り付ける作業、干し場につるす作業など、加工作業が本格化する。
JA伊達地区あんぽ柿生産部会長の佐藤孝一さん方では、11月15日から加工作業を開始。約8トンを加工する。1本の縄に10個ほど付けられた柿は、手作業で次々と専用の干し場につるされ、約40日間自然乾燥し、あんぽ柿として出荷される。「昼夜の寒暖の差や乾燥に適したこの産地特有の自然環境が、味わい深い極上のあんぽ柿を育む」と佐藤部会長は話す。
JAのあんぽ柿は、主に京浜地方を中心に各地の市場などへ出荷される。現在、「平核無」が出荷最盛期を迎え、生産量の9割以上を占める「蜂屋」は、12月上旬から本格的な出荷が始まり、翌年の3月下旬まで続く。
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2019年12月04日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 豪雨被災から1年5カ月 営農再開へ一歩 果樹産地の総社市
2018年7月の西日本豪雨でブドウ園などの農地や農業用施設に甚大な被害を受けた果樹産地・JA岡山西管内の岡山県総社市福谷地区。6日で1年5カ月となる中、営農再開の動きが始まった。県と市の連携で氾濫した高梁川の堤防を整備し、浸水被害を受けた約3ヘクタールの園地をかさ上げする。100年続く農業に向け、地域の話し合いが進み、近く工事が始まる。JAは営農や融資相談で復興を後押しする。異常気象のリスクが高まる中、災害に強い地域農業のモデルとして注目が集まる。(鈴木薫子)
次代に継に向け 堤防整備、園地かさ上げ
同地区は県内有数のブドウの早期加温栽培産地。しかし、園地には、ビニールが剥がれ、骨組みがあらわのハウスや、川から流れてきた大きな岩が目立つ。堤防の決壊で農地の浸水や施設が倒壊。今も園地は豪雨被害発生時のままだ。
県は同地区で約2キロにわたる高梁川の堤防整備に乗り出した。道路から1、2メートル上げる計画で下流側から用地取得を進めている。同地区の他、高梁川に隣接する4地区で計約5キロの堤防を整備。近く工事に着手し、22年度内の完了を目指す。
園地整備は同市が担当する。堤防から下の園地を3、4メートルかさ上げし、堤防と同じ高さにする方針。整備範囲は上流約600メートルで園地は約3ヘクタール。河川などの残土で埋め立て、栽培用に上層60センチはきれいな土で埋め立てを計画する。復旧には、JA担当者も営農再開に向け密に情報交換をする。
ブドウや桃の生産者22人でつくる福谷果樹組合は、被災した18年産売上高は前年産比2割減の6500万円。19年産は上向いたが、被災前水準には達していない。
ブドウ「マスカット・オブ・アレキサンドリア」などを栽培する同組合の温室ブドウ部会の仮谷昌典部会長は、経営面積の半分の10アールでハウス3棟が倒壊。被害を免れたハウスとの距離は30メートル。半分の土地で収益を高めようと栽培に励む。54歳の仮谷部会長は「80代まで農業を続けたい。今が踏ん張り時。復旧に時間がかかるのは覚悟の上で、次世代のために災害に強い農業を復活させたい」と強調する。
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2019年12月03日