関東での豚コレラまん延防げ 市場ピリピリ 消毒、監視を徹底 初動万全に
2019年11月05日

群馬県食肉卸売市場では、担当者を増員して車両消毒作業を徹底している(群馬県玉村町で。写真の一部を加工しています)
全国有数の養豚産地を抱える関東での豚コレラまん延を防ごうと、各地の食肉市場が厳戒態勢を敷いている。各市場では消毒や監視を強化し、拡散防止策を徹底。一部地域では豚への予防的ワクチンの接種が始まり、出荷受け入れに向けた体制整備も進む。緊張感が高まる中、生産者や市場、流通関係者らが一体となった防疫の重要性が増している。
豚の取引頭数が全国最多を誇る群馬県食肉卸売市場では、対策の一環で独自に5段階の危機レベルを設定した。近県での発生や県内の野生イノシシでの感染確認を受け、現在は最高レベルに近い「4」に照準、防疫を強化している。
10月下旬、万が一異常がある豚が場内で確認された場合の初動などを確認する、初の模擬訓練を実施。1年以上かけて検討を重ねてきたマニュアルに基づき、役職員らが現場対応や関係先との連携などを再確認した。日々の防疫でも車両消毒作業員の増員や出入り口を一方通行にする改修などを進める。
同市場の萩原宣弘社長は「全国トップクラスの群馬県の養豚業を守るためにも、市場として最大限の対策を徹底する」と話す。11月中旬以降を予定するワクチン接種豚の受け入れも、国の防疫指針に基づき、県などと調整しながら万全の態勢を整える方針だ。
千葉や茨城、群馬、岩手など広域からの出荷がある東京都中央卸売市場食肉市場では9月中旬以降、ウイルスの拡散防止のための対策を強める。これまで2カ所だった退場口を1カ所に限定。24時間態勢で、車両の出入りの監視と消毒作業に当たる体制を整備する。場内各所に変更点を伝える張り紙を掲示し、出入り業者らへ周知する。
担当者は「市場が率先して防疫を強化し、関係者の意識を高めたい」と話す。11月後半をめどにワクチン接種豚の受け入れも始まる見込みで、出荷の時間や曜日を他の豚と分けるなど、防疫マニュアルや体制整備に向けた検討を進める。
各市場は、出荷者や購買者ら数多くの人や車両の出入りがあり、県をまたいでの行き来も多い。各市場によると、関東の主要市場の大半が、万が一の発生に備えた対策を強化。豚の扱いがない市場でも車両消毒の方法を変えるなどの対応を取る。関東7都県の豚の飼養頭数は約234万頭(2018年)で全国の25%。豚コレラの感染拡大に歯止めがかからず危機感が高まっている。
豚の取引頭数が全国最多を誇る群馬県食肉卸売市場では、対策の一環で独自に5段階の危機レベルを設定した。近県での発生や県内の野生イノシシでの感染確認を受け、現在は最高レベルに近い「4」に照準、防疫を強化している。
10月下旬、万が一異常がある豚が場内で確認された場合の初動などを確認する、初の模擬訓練を実施。1年以上かけて検討を重ねてきたマニュアルに基づき、役職員らが現場対応や関係先との連携などを再確認した。日々の防疫でも車両消毒作業員の増員や出入り口を一方通行にする改修などを進める。
同市場の萩原宣弘社長は「全国トップクラスの群馬県の養豚業を守るためにも、市場として最大限の対策を徹底する」と話す。11月中旬以降を予定するワクチン接種豚の受け入れも、国の防疫指針に基づき、県などと調整しながら万全の態勢を整える方針だ。
千葉や茨城、群馬、岩手など広域からの出荷がある東京都中央卸売市場食肉市場では9月中旬以降、ウイルスの拡散防止のための対策を強める。これまで2カ所だった退場口を1カ所に限定。24時間態勢で、車両の出入りの監視と消毒作業に当たる体制を整備する。場内各所に変更点を伝える張り紙を掲示し、出入り業者らへ周知する。
担当者は「市場が率先して防疫を強化し、関係者の意識を高めたい」と話す。11月後半をめどにワクチン接種豚の受け入れも始まる見込みで、出荷の時間や曜日を他の豚と分けるなど、防疫マニュアルや体制整備に向けた検討を進める。
各市場は、出荷者や購買者ら数多くの人や車両の出入りがあり、県をまたいでの行き来も多い。各市場によると、関東の主要市場の大半が、万が一の発生に備えた対策を強化。豚の扱いがない市場でも車両消毒の方法を変えるなどの対応を取る。関東7都県の豚の飼養頭数は約234万頭(2018年)で全国の25%。豚コレラの感染拡大に歯止めがかからず危機感が高まっている。
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イノシシ捕獲に手引 環境、農水省 ウイルス拡散を防止
環境省と農水省は、豚コレラ(CSF)、アフリカ豚コレラ(ASF)対策として野生イノシシの捕獲に関する防疫措置の手引を作成した。国がイノシシ捕獲の手引を作成するのは初めて。野生イノシシの捕獲を強化する必要がある一方で、捕獲でウイルス拡散の恐れがあることから、狩猟者に防疫の手法を徹底する。
手引では、これまで農水省がイノシシ捕獲に関して通知していた文言や特定家畜伝染病防疫指針などを踏まえ、捕獲作業の事前準備から帰宅後の対応までを写真と共に掲載した。
現地に到着し、わなの設置や見回りをする前に手袋や長靴を装着するなど、作業ごとのポイントを解説。手袋は二重に装着し、内側のゴム手袋は洋服の袖口を覆うように着用するなど詳細に注意を呼び掛けた。
防護服や靴底の泥落としに使うブラシなどの持ち物チェックリストも併記している。環境省は「イノシシを捕獲する中で、豚コレラが拡大してしまうことを防ぐため、あらゆる捕獲に関する防疫手法をまとめた。手引を参考に、各地域で必要な防疫対策をしっかり行ってほしい」(野生生物課)と呼び掛ける。
手引は、アフリカ豚コレラが発生した際にも活用できる。
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2019年12月13日
世界の都市農業事情 経済より共感と協働 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
ニューヨーク、ロンドン、ソウル、ジャカルタ、トロントの5都市が参加した「世界都市農業サミット」が、東京・練馬区で開かれ、先進事例から都市農業の未来までが熱く語られました。
ニューヨーク市では、550のコミュニティ農園(40ヘクタール)に2万人のボランティアが関わり、低所得者層の多い公営住宅では、農園管理を若者の職業訓練につなげて成果を上げています。屋上菜園も盛んで、NY産野菜はブランドになっています。
ロンドンでは、2012オリンピックを前に2012の市民農園が作られ、今では3000を超えています。ジャカルタでは、路地を活用した垂直農業で、人口密集地の食を支えていました。
どの都市にも共通していたのは、「コミュニティ農園」という切り口です。住民が生産と消費の両方に関わることで、絆や意欲が強まり、貧困、心身の不健康、教育、雇用など、あらゆる格差の解消につなげています。行政やNPOも大きく関わっていました。
参加して感じたのは、なぜ世界中の都市はこんなにも「農」を求めるのか、という驚きと、もしかしたら今の「農業の多面的機能」という認識では表現しきれないのではないか、という農の可能性です。
練馬区は、練馬方式と呼ばれる体験農園や、大根引っこ抜き大会、農の学校や農のサポーターで、住民が農業を支えています。中でも、子ども食堂の野菜を体験農園と連携して作る仕組みは包括的で、全国展開を期待したいものでした。
各国でCSA(地域コミュニティの買い支え)が見直されている通り、近隣住民は、野菜を買う客であるだけでなく、一緒に考え、農地を活用する仲間なのです。
2015年に都市農業振興基本法が制定されましたが、世界の事例と比べると、国内の都市農業は、その使い道を、農家の判断に任せてきたように思えます。今こそ、JAが本領を発揮するときです。行政とも力を合わせ、都市の農地を街の資産として運用すれば、シビックプライド(街への愛着)も築けます。
作る人と買う人という経済の関係から、次の段階にあるのは、地域にある農業を、自分のこととして育んでいく「共感」と「協働」ではないでしょうか。
都市における農を教育の場、理解や心を養う場と考えれば、それは本格農業や農的な暮らしへの玄関口、出発点になります。都市に農があってよかったと、地方にも歓迎される発信拠点になれるはずです。
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2019年12月10日

みんな二度見!? オート三輪 走る広告塔 茨城県常陸太田市の椎名理さん
茨城県常陸太田市で「てるちゃんぶどう園」を営む椎名理さん(59)の愛車は、昔懐かしいマツダのオート三輪。手直ししてピカピカに磨き上げ、現役で農作業に使っている。車体にはぶどう園のPRロゴを入れ、走る広告塔としても役立てている。
椎名さんは1・3ヘクタールの園で「巨峰」や「常陸青龍」「シャインマスカット」を栽培するブドウ農家。若い時から車好きで20代前半にMG・ミジェットを手に入れて古い車の面白さに目覚め、今では倉庫にオールドカー10台ほどを所有する。
オート三輪を手に入れたのは10年ほど前。県内の倉庫に眠るオート三輪があると知人に紹介され見に行くと、珍しいマツダのT1500だった。1971年製で比較的状態も良く、トラックなので農業に使えると思い、譲ってもらった。
手を入れて乗り始めたが、古い車両のため故障はつきもの。部品もなく親しい修理工場に頼んで直してもらっている。維持費は掛かるが苦にはならない。運転していると、対向車から注目され、工事の人が手を休めて見入ることも度々。駐車していると、懐かしがって話しかけてくる中高年も多いという。
そこで、「てるちゃんぶどう園」のロゴを入れた。それからはさらに目立つようになり、ブドウ園の名も知られるようになったという。今は「おいしいよ常陸太田のぶどう」や「だいすき常陸太田」のロゴも入れ、地域のPRにも一役買う。
椎名さんは「道の駅にわざと寄ったりして楽しんでいる。大切に乗り続けていきたい」と話している。
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2019年12月10日

手造り赤ワイン塩 山梨県甲州市
山梨県甲州市が運営する「甲州市勝沼ぶどうの丘」が、市内で醸造された赤ワインを使って作った塩。施設内の売店で販売し「和食料理に合う」などと好評だ。
施設内の和食店の総料理長が赤ワインを鍋で煮詰め、塩と混ぜて造った手作り。料理に添えて提供したところ好評だったことから、商品化した。
商品は、赤紫色でほのかにワインの香りがする。天ぷらや白身魚・ステーキ料理に合う。同施設内でワイン塩と共に提供している昆布を使った「昆布塩」とセットで販売。各100グラム入りで、1セット700円。送料別途。
問い合わせは甲州市勝沼ぶどうの丘、(電)0553(44)2111。
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2019年12月11日
規模拡大に限界感 家族農業 生かす政策を
担い手の規模拡大に限界感が見え始めている。生産基盤を維持していく上で憂慮すべき事態だ。担い手の規模拡大によって農地を守るシナリオを描いてきた農政の再検討が欠かせない。多様な担い手として家族農業の育成方向を明確にするとともに、実態にそぐわない農地集積目標なども見直しが必要だ。
食料・農業・農村基本計画の見直し論議で、家族農業や中小規模農家への支援強化を求める声が広がっている。JAグループは政策提案の中で、基幹的農業従事者や農業法人だけでなく、多様な農業経営が持続的に維持・発展できる政策を強く求めた。与党からも「家族農業、中小農家を支えることが重要」「地域を守る家族農業の将来像もしっかり示すべきだ」などの意見が相次ぐ。
家族農業の現状は、2019年は経営体数115万で、この5年間に2割近い28万以上が減った。恐ろしい減少スピードであるにもかかわらず、いまの農政の中で家族農業は位置付けを落としている。
05年の基本計画と併せて策定された「農業構造の展望」では、担い手になり得る効率的で安定的な家族経営を10年後までに33万~37万戸育てる青写真を描いていた。民主党政権時代の10年の構造展望では「家族農業経営の活性化」を柱として打ち立て、販売農家の減少にブレーキをかける考えを示した。しかし政策効果は表れず、15年の現行構造展望には家族農業の記述すらなくなった。
家族農業軽視は、いまの農政が産業政策に過度にシフトしたことによる。担い手育成の政策目標として、農地利用の集積率を10年間に5割から8割に引き上げることを掲げたが、これは従来の集積スピードを一気に1・5倍に引き上げるというもの。だが現実は、中間年に当たる18年は56%にとどまった。利用が低調な農地中間管理機構(農地集積バンク)をてこ入れする法改正はしたものの、実現はほぼ不可能といっていい。
もはや、集積目標自体が妥当か考え直す時だろう。「構造政策が進み過ぎ、畦畔(けいはん)管理などが担い手の負担になっている」「農地を頼まれても、これ以上は増やせない」といった声が既に上がっている。この状況で無理に集積を加速すれば、担い手は受け止め切れず農地の遊休化につながる恐れすらある。受け手のない農地があふれないよう、中小規模の農家の離農をできるだけ食い止めることが先決だ。
家族農業を重視する流れは、国連が定めた「家族農業の10年」とも通じる。グローバリゼーションが進み、飢餓撲滅や食料安全保障の確保といった国際的な目標の実現に不安が増してきたことを受けた動きである。食料自給率が37%にとどまる日本にとってこそ切実な問題だ。国民の食を守るためにも、国内の生産基盤を支えてきた家族農業の支援策が強く求められる。
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2019年12月08日
営農の新着記事

GA×BA 植調剤組み合わせるだけ コチョウラン高品質に 花茎伸び花数が増 愛知県農総試
愛知県農業総合試験場は、植物成長調整剤のジベレリン(GA)とベンジルアデニン(BA)の処理を組み合わせることでコチョウランの花茎を伸ばし、花数を増やす技術を確立した。1週間おきに、花茎にGA、花茎先端部にBAを噴霧することで、比較的簡単に高品質なコチョウランを生産できる。
コチョウランは、贈答用需要があり、花数が重要だ。計画的な開花に向け、5~10月の高温期の冷房処理が一般的だが、維持管理が難しく、花数の減少や花茎の伸長不良など品質低下対策が求められていた。
今回の技術はGA処理で花茎を伸ばし、BA処理で花数を増やす。GA処理は、長さ5~20ミリの花茎に1週間おきに、GA(濃度100ppm)を2回散布する。無処理に比べ、花茎長を6~7センチ伸ばせた。
BA処理は、つぼみが7個ほど付いた後、花茎の先端に1週間おきに、BA(濃度30ppm)を5回以上噴霧する。無処理では10輪程度だが、BA処理を3~5週続けると、3輪ほど増える。BA処理は続けるだけ花数が増えるが、花が小さくなることがあるので注意が必要だ。
同試験場は「12月にBAがコチョウランで農薬登録され、現場での普及が進みそうだ。技術の利用で生産者の所得向上が期待できる」としている。
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2019年12月13日

青パパイア スピード収穫 露地で4カ月越冬不要 メーカーが品種提案
健康食材として農家が直売所で販売する他、JAが産地化を進めている青パパイア。本州を中心に、果実ではなく野菜のように食べる栽培が広がる中、種苗メーカーが冬越ししない1年完結の栽培モデルの普及に乗り出した。成長の早い多収品種を育てて冬が来る前に収穫し終えるもので、露地栽培が難しかった本州でも産地化に向けた動きが活発化しそうだ。(北坂公紀)
本州産地化に期待
パパイアは中南米原産で、複数年にわたり実を付ける多年生植物。黄色く熟した実は果実として食べられる他、熟す前に収穫した青パパイアはサラダなどで食べられる。特に青パパイアは、ビタミンやポリフェノールといった栄養成分、ダイエット効果があるとされる酵素を豊富に含み、健康食材として注目されている。
一般的に、パパイアの収穫は定植の翌年以降に本格化する。ただ熱帯原産で凍害に弱く、気温が0度を下回ると枯死するため、国内では越冬が栽培上の大きな課題だ。そこで、種苗メーカーの丸種(京都市)は、パパイアを1年完結で栽培するモデルを示した。
この栽培で鍵を握るのが品種だ。同社では成長が早く多収の6品種を提案。苗木の定植1年目で1本当たり約30個の収量を実現し、単年での栽培を可能にした。
栽培モデルでは5月ごろに30センチ程度の苗木を定植。4カ月後には樹高が最大2メートルに達し、1個1キロ前後の実が収穫できる。実は秋にかけて断続的になり、本州では完熟しないため青パパイアとして利用する。収穫後、冬場になると木は低温で枯死し、さらに春先まで放置すれば腐敗が進み、土にすきこむことができる。
同社は「越冬が不要だと、従来は九州南部に限られていた露地栽培が、関東以西で可能になる」と説明。「越冬するための設備投資や燃料費が必要なハウス栽培に比べ、生産コストを大幅に抑えられる。手軽にパパイア栽培ができる」と強調する。
販売初年の2019年の苗木の販売量は約5000本。20年には大きい果実が収穫できる品種「フルーツタワー」を発売して品ぞろえを充実させ、販売を強化する。
機能性注目 生産が拡大
農水省によると、データがある直近の16年の国内生産量は487トンで、前年から倍増。過去10年で最多となった。県別では果実の生産が中心とみられる鹿児島県が364トンと最大で、全体の7割強を占めている。
果実の産地振興や消費拡大に取り組む中央果実協会の朝倉利員審議役は「パパイアは獣害や病害が少なく、生産に取り組みやすい。近年は機能性成分に注目が集まっており、消費は増加傾向にある。葉を茶に加工するなど、利用の幅も広がっている」と期待する。
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2019年12月13日

和子牛高騰「利益出ぬ」 家族経営にも「支援拡充を」 畜酪対策で佐賀の農家
2020年度の畜産・酪農対策を巡り、家族経営への支援策が焦点になっている。和牛子牛相場が高止まりする中、資金に余裕がない中小の肥育農家は経営改善に向けた新たな投資に踏み出しにくいのが実情だ。安定的な和牛生産を続けるため、家族経営でも利用できる支援の拡充を求めている。
肥育だけでは…慣れぬ繁殖も
佐賀県伊万里市で、家族と共に肥育経営をしてきた田口敬一郎さん(63)は、17年に繁殖雌牛を導入して一貫経営に乗り出した。肥育一本で生きてきた田口さん。繁殖の知識は少なく不安も大きかったが、踏み出したのは「市場で良い子牛を買えないからだ」と明かす。
田口さんが仕入れに行く長崎県や大分県の市場の子牛価格はここ数年、80万円以上で推移することが多かった。その相場で導入した牛を田口さんは現在、125万円ほどで出荷している。餌代や光熱費、資材費などを差し引くとほとんど利益が残らない計算だ。
このままでは経営が危うい──。田口さんはそんな思いで一歩を踏み出した。自家繁殖すればせりで買うより、コストを半分近くまで抑えられるからだ。2棟あった肥育用牛舎の一つを、部分的に繁殖用に改築した。
肥育経営が順調とはいえない中で数百万円がかかり、資金の捻出に苦労したという。「中小の肥育農家ほど一貫経営に乗り出すべきだが、使えるお金は少ない」と指摘する田口さん。家族経営の規模でも維持・増産を目指せるような支援策の必要性を訴える。
クラスター事業 要件緩和を要請
国はこれまで、畜産クラスター事業で畜産の生産基盤の維持・拡充を進めてきた。ただし一般的な施設整備の場合、対象となるのは地域の平均規模以上に飼養頭数を増やすことや、生産効率を向上することが条件。余力のない中小経営は手を出しにくい例が多かった。
JA全中は20年度畜産・酪農対策の重点要請で、地域全体の生産力の底上げにつながるよう、畜産クラスター事業の規模拡大要件の緩和を求めている。この他、肉用子牛の高騰が続いているため、家畜の導入などへの支援拡充を提起。経営を継承した際の支援なども必要とする。
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2019年12月08日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 水稲品種 古参に脚光 多収の晩生「アケボノ」生産拡大 業務用、酒造で引き合い
JA岡山西は、もうかる米作りの一環で、70年ほど前に育種された水稲「アケボノ」の生産拡大を進めている。古い品種だが、業務用米や酒造原料米として実需者の引き合いが強く、栽培しやすい多収性の晩生種として、生産者にも人気が高い。ポスト「コシヒカリ」をにらんだ品種開発が盛んだが、実需のニーズを見極めて古い品種にも光を当てた形だ。2018年産の集荷数量は1278トンで、品種別では主食用米の3割を占める計算だ。19年産は1440トンの集荷を目指す。
「朝日」と「農林12号」を親とする「アケボノ」は1953年に品種登録された。多収で倒れにくいのが特徴。米は、炊くと粒が大きく、歯応えがあり、あっさりした食味が楽しめる。外食や中食用として使われ、県内の卸業者は「粘りが少なく加工に向く。特にすし飯の需要が大きい」と説明する。酒造用の掛け米としても人気があり、JAの川上勝之営農部長は「生産拡大を呼び掛けているが、需要に供給が追い付かない状況だ」と話している。
同県浅口市の平喜酒造は「アケボノ」を掛け米だけでなく、こうじ米としても使う。原潔巳部長は「タンパク質が少なく、きれいなこうじができる。造った日本酒は淡麗な味わいで、料理に合う。米の品質にばらつきがないのも良い」と分析する。
生産者からの評価も高い。15ヘクタールで水稲を育てる倉敷市の山地康弘さん(59)は「費用や手間がかからず、安定して多収が見込める。晩生種のため、コシヒカリやヒノヒカリなどと作期分散しやすい」と栽培の理由を話す。
10アール当たり収量は例年、約540キロで、「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」よりも約120キロ多いという。一方、肥料代は10アール当たりで2000円ほど安い。JAの概算金は、最も高い「コシヒカリ」に比べると、18年産で60キロ当たり約1100円安いが、利益は「アケボノ」の方が大きくなる。
地域では、9月上旬から10月上旬に「あきたこまち」「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」「にこまる」を収穫し、「アケボノ」は例年11月5日ごろに刈り取っている。山地さんは「品質が落ちないので、作業を急がずに済む」と、融通の利く特性にも満足する。「生産者にとって頼もしい品種。作り続けたい」と意気込む。
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2019年12月05日

直播向き米品種 耐病・耐暑多収強み 農研機構
農研機構・東北農業研究センターは27日、倒伏しにくく、直播(ちょくは)栽培に適した水稲品種「しふくのみのり」を育成したと発表した。これまでの直播栽培向け品種「萌(も)えみのり」に比べて暑さやいもち病に強いのが特徴。良食味で多肥直播栽培の10アール当たり収量は750キロを超える。
2019年11月28日

ブドウ果肉まで赤 ワイン用品種出願 大阪府
大阪府立環境農林水産総合研究所は、果肉まで暗赤色で、濃い赤色のワインが造れる醸造用ブドウ「大阪R N―1」の品種登録を出願した。一般的な赤ワイン用品種に比べ、植物色素のアントシアニン含量が数倍になるという。地球温暖化の影響による高温で果皮の着色不良が問題となる西日本などの地域でも高品質なワイン造りにつなげられる有望品種として期待される。
赤ワインは原料のアントシアニン含量が多ければ、濃い赤色に仕上がる。「大阪R N―1」の果実のアントシアニン含量は、赤ワイン用品種として知られる「ピノ・ノワール」や「メルロー」を数倍以上に上回る。国内で栽培されている既存品種にも果肉まで赤色になるものはあるが、単独で醸造しても風味が優れなかった。「大阪R N―1」は果実品質が良く、単独で醸造しても風味が良いワインになる。
この品種は府内の醸造所(ワイナリー)が40年ほど前に育成した。2018年に同研究所が新設した「ぶどう・ワインラボ」が、既存品種と異なる特性を持つことを確認した。今年3月5日に出願した。親はまだ特定できておらず、解析を進める。
苗の生産体制を整え、府内を中心に普及を進める考えだ。同研究所は「西日本を中心に、温暖化による高温で原料ブドウの果皮色が出にくくなっている。新品種で課題に対応できる」と有望視する。
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2019年11月27日

冬の大輪 優しく満開 蜂も人も元気“満タン” 香川県三豊市生産者の団体
香川県三豊市山本町河内地区に、季節外れのヒマワリ畑が出現し、話題を呼んでいる。地元農家の団体「河内アグリ活動組織」が秋冬に不足しがちなミツバチの栄養源にしようと耕作放棄地や休耕田を利用し、10カ所、計約1・5ヘクタールで栽培した。寒い日が増える中、花はまだ咲く予定で、12月半ばまで楽しめる。
事務局の白川良三さん(68)は「ミツバチも喜ぶし、きれいな花は多くの人を喜ばせるので一石二鳥」と語る。タマネギの採種をしている白川さんは、養蜂家から「冬は花が少なく、栄養不足で蜂の群れが小さくなる」と聞いていた。
そこで耕作放棄地などを利用してヒマワリを育ててみることにした。組織では、夏に幼児向けのヒマワリ迷路を作っており、こぼれた種が発芽し秋冬に花を咲かせることがあったという。
一昨年、9月に種をまくと、花が咲く時期に霜が降り元気を失ってしまった。昨年は8月上旬に種まきしたところ、10月中旬から12月中旬まで見事に咲き続け、今春、蜂箱にたくさんのミツバチが確認できた。白川さんは「ヒマワリの蜜で体力を付けた多くの蜂が冬を越した」と推測する。
「冬にこんな大輪に育つとは」「夏より優しい黄色」「一面に咲いて圧巻」などと好評で、多くの人が見物に訪れている。「自由に摘み取り、持ち帰って楽しんで」と白川さんは話す。
開花に合わせ、日曜日にヒマワリ畑で農産物の販売やミカンの詰め放題(100円)なども行い、一層の地域活性化に力を注いでいる。
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2019年11月26日

世襲より人物本位 “伴走” 期間経て 経営・信頼つなぐ
米や大豆、麦などを栽培する土地利用型の農事組合法人や大規模農家が、地縁や血縁のない従業員や若者らに経営をバトンタッチする第三者経営継承に取り組むケースが出てきた。農機など有形資産だけでなく、地権者の信頼も継承。経営主が後継者に経営ノウハウを伝える伴走期間を経て、次世代の担い手確保に対応する。
土地利用型の第三者継承
富山県砺波市の農事組合法人「ガイアとなみ」。同市若林地区を中心に130ヘクタールで米や大豆、麦などを栽培する。2年前、組合長は同地区の紫藤康二さん(70)から、地縁や血縁のない従業員だった中島一利さん(43)になった。
同法人は、地区の二つの営農組織が合併して1995年に法人化した。稲作に興味のあった中島さんが就職したのは2000年。ハローワークで求人を知り、近隣の射水市から通勤してきた。当初、中島さんも紫藤さんも後継者候補という意識はなかった。
紫藤さんは60歳ごろから継承を考え始めたが、法人の構成農家の身内には希望者がいなかった。次第に、人柄が信頼でき勉強熱心な中島さんに継承したいと考えるようになった。他の役員と話し合い、「世襲でなく、若く意欲のある中島さんに後を継いでほしい」との思いを長年伝え続けた。
作業計画の立案など責任ある仕事を意識的に任せられた中島さんは、組合長になることを見据えて、12年に法人に出資して役員となった。「土地に縁のなかった自分が後を継いでよいのか悩み、即決できなかった。ただ、地域の財産である農地をつなぎたいという気持ちはあった」と中島さん。5年かけて準備し、組合長に就任した。
資産は全て法人所有で、手続きは組合長の名義変更だけで完了した。地権者には段階的に丁寧に説明し、反対する人はいなかった。
現在、役員3人全員が同地区以外の出身で、中島さんは今も通勤しながら組合長を務める。同法人は役員、従業員の平均年齢が30代。イチゴ経営を始めるなど新品目にも挑戦する。中島さんは「土地利用型は地域を守る意味があり、存続が地域問題に直結する。自分も次の継承を見据えて経営する」と強調。紫藤さんは「経営ノウハウや思い、悩みも共有し、信頼を築けたので第三者継承が実現できた」と考える。
地縁・血縁超え
新潟県村上市で米など66ヘクタールを経営する農業生産法人「神林カントリー農園」では3年前、前社長とは血縁関係のない吉村敏秀さん(55)が代表を引き継いだ。吉村さんは「従業員として30年以上働いた長い準備期間があった。経営を継承するのに、血縁は特に関係なかった」と話す。
埼玉県熊谷市で25ヘクタールで米麦などを栽培していた掛川久敬さん(74)は今年1月、知人に紹介されて手伝いに来た20代の若者に経営のバトンを渡した。掛川さんが3年間、農業技術などをみっちり伝授。農機などは減価償却で計算し、農地や作業場は賃借料を払ってもらう。掛川さんは「地権者には自分が責任を取ると了解してもらった。意見のずれはあっても、最終的に判断するのは経営者。若者の意欲を尊重したい」と見守る。
担い手確保へ多彩な手法を 東京農業大学の内山智裕教授の話
果樹や畜産に比べ、土地利用型は地権者との関係性を踏まえなければならず、第三者継承には難しさを伴う。ただ地域資源を守っていくためには、第三者を含め多様な形で土地利用型の後継者確保を考えなければならない。
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2019年11月25日

棚田「残したい」7割 多面的機能に評価 農水省 初の意向調査
農水省は、棚田地域振興法の成立を受けて、棚田に対する国民の意向を初めて調査し、「棚田を将来に残したい」という回答が7割に達した。棚田米の購入などによる支援を望む声も多い一方で、支援したいと思わない回答も一定数を占めた。条件不利地での営農継続に向けて、国民全体で棚田を支える機運をどう高めていくかが問われる。
「支援せぬ」働き掛けを
全国の20歳以上を対象に調査し、1102人から回答を得た。
棚田を将来に残したいと回答した割合は、「知名度は高くないが地域で守ろうと頑張っている棚田は残したい」が51%、「全ての棚田を残したい」が17%、「一部の有名な棚田だけは残したい」が8%で、合計で76%に上った。
棚田を維持、保全したい理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒しや安らぎをもたらす」、「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最多だった。多くの回答者が棚田が生み出す多面的機能を評価した格好だ。
一方、棚田を将来残すべきかどうかについて、「残ってほしいが荒れるのは仕方ない」が19%、「全てなくなっても構わない」が6%と、棚田の維持に理解を示さない回答も一定割合を占めた。理由は「農業をするには効率が悪い」が43%と最も多かった。
棚田の維持や保全のために何かしたいかについては、「したいと思わない」が34%で最も多かった。
ただ、2番目は「インターネットなどで棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が26%、次いで「棚田を訪問し、棚田米などの農産物や加工品を購入したい」が23%、「ふるさと納税を通じて支援したい」が20%と、一定数が自ら支援したい意向を示した。
同省は「棚田が必要で、支えるべきと考える国民は多いと言えるが、理解が浸透していない部分もある。保全に向けた支援に加えて、国民への一層の周知にも力を入れたい」(地域振興課)と話す。
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2019年11月24日

旅するチョウ 花で“誘致” フジバカマ 栽培広がり町活気 香川
日本列島を春は北上、秋は南下し、合わせて2000キロ以上を旅するといわれるチョウ「アサギマダラ」。5年ほど前、その渡りの途中で香川県内に飛来することが話題になり、花を植えて呼び寄せる活動が観音寺市を中心に島しょ部に広がっている。
羽を広げると10センチほどの大ぶりのチョウで、模様の一部が「あさぎ色」であることが名前の由来。2014年、同市の有明浜で地元の自然観察会グループがその姿を確認し、「有明浜の海浜植物とアサギマダラ飛翔会」を立ち上げた。
調べてみると、アサギマダラの成長には特定の植物の蜜の摂取が必要だった。春は有明浜の「スナビキソウ」に、秋は多年草「フジバカマ」を目当てに立ち寄るという。
会は同市伊吹島の遊休農地などに植栽しチョウの“誘致”に成功。その後、元農業改良普及員で同会の杉村勝司会長が、フジバカマを挿し芽で1年に1000株以上を増やし、希望する学校や団体に寄贈を続けてきた。
市内の介護複合型施設「大興和の杜(もり)」もその一つ。目の前にある休耕田約5アールに3年前からフジバカマを植えている。今年は暖冬で、平年より1週間ほど遅い10月中旬から飛来したという。
施設の高嶋一志事務長は「アサギマダラが来ると、利用者やスタッフが写真を撮ったり、散策に出たりして楽しんでいる。施設の利用者にとっては生きがい」と笑顔を見せる。
同会によると、フジバカマの栽培は、同市の吉原地区、三豊市の粟島、丸亀市の本島などの団体や施設にも広がっている。
杉村会長は「アサギマダラが、人と人とのつながりを強め、地域を元気にしてくれた。自然の大切さも伝えていきたい」と話す。同会では、季節になると伊吹島の港に案内板を立てるなど、観光客を呼び寄せる工夫もしていく。
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2019年11月20日