交通寸断、被害多発… ボランティア足りぬ 冬本格化 募る不安 宮城・丸森町
2019年11月09日

大量の家具を運び出し、被災者を支援するボランティア(宮城県丸森町で)
台風19号の洪水被害で町の中心部一帯が浸水した宮城県丸森町で、ボランティア不足が深刻化している。鉄道の運休で交通が不便なことに加え、被害が複数県にまたがり広範囲のためボランティアが分散し、地域住民からの依頼に応えられていない。寒さの本格化で「ボランティアの足が遠のくのではないか」と現場は不安を募らせている。同町災害ボランティアセンターは今月から、最寄り駅から臨時のバスを走らせるなど環境を整備し、ボランティアの参加を呼び掛けている。(高内杏奈)
流入した泥水が渇き、砂ぼこりになって吹き荒れる。目が開けられず、車は一日で茶色に染まる。
現在も断水している同センターは、住民の依頼を受け付ける他、ホームページで全国からボランティアを募り、現場に派遣している。同センターは10月19日から受け付け、これまでに482件(5日時点)の依頼があった。しかし応えられたのは3割程度にとどまる。
ボランティアの主な仕事は住宅の家具の運び出しと泥かきで、1案件で3日~1週間かかる。毎日15件ほど依頼が増え続け、追い付かない。同センターの谷津俊幸代表は「なかなか集まらず、作業が進まない」と頭を抱える。
参加者が集まらない理由の一つに、谷津代表は交通の便の悪さを挙げる。仙台市から同町への移動で不可欠な鉄道・阿武隈急行は、ホームの流失などで運転を見合わせている。
JRが連絡する槻木駅から丸森駅までは臨時バスが走るが、本数に限りがある。さらに丸森駅から同センターまでは3キロ以上と、徒歩40分はかかる。
同センターは1日から丸森駅からマイクロバスを運行し、送迎している。谷津代表は「道路整備とともに、山間部の依頼が今後増える見通し。できるだけ来てもらえる環境を整え、早期復旧を目指したい」と語る。
「避難所でも新たな問題が出てきた」と話すのは、同町で水稲50ヘクタールを手掛け、避難所生活を送る大内喜博さん(36)。自宅が浸水し、10月13日から避難している。「寒さが本格化してきた。特に朝が冷え込み、手が冷たくなる」と訴える。
同町近くの蔵王山では5日、初雪が観測された。同町の7日朝の気温は3・1度と冷え込み、避難者の体力を奪った。大内さんが生活する避難所には約20人がいる。エアコン、ストーブがあるが、隙間風が容赦なく入り込む。毛布を4枚重ねにしても体温が奪われるという。「防寒着や布団の上に掛けるものがほしい」と要望する。
全国の避難者(8日時点)は2802人で、宮城県は449人。同町は193人で43%を占める。
流入した泥水が渇き、砂ぼこりになって吹き荒れる。目が開けられず、車は一日で茶色に染まる。
現在も断水している同センターは、住民の依頼を受け付ける他、ホームページで全国からボランティアを募り、現場に派遣している。同センターは10月19日から受け付け、これまでに482件(5日時点)の依頼があった。しかし応えられたのは3割程度にとどまる。
ボランティアの主な仕事は住宅の家具の運び出しと泥かきで、1案件で3日~1週間かかる。毎日15件ほど依頼が増え続け、追い付かない。同センターの谷津俊幸代表は「なかなか集まらず、作業が進まない」と頭を抱える。
参加増へバス手配
参加者が集まらない理由の一つに、谷津代表は交通の便の悪さを挙げる。仙台市から同町への移動で不可欠な鉄道・阿武隈急行は、ホームの流失などで運転を見合わせている。
JRが連絡する槻木駅から丸森駅までは臨時バスが走るが、本数に限りがある。さらに丸森駅から同センターまでは3キロ以上と、徒歩40分はかかる。
同センターは1日から丸森駅からマイクロバスを運行し、送迎している。谷津代表は「道路整備とともに、山間部の依頼が今後増える見通し。できるだけ来てもらえる環境を整え、早期復旧を目指したい」と語る。
「避難所でも新たな問題が出てきた」と話すのは、同町で水稲50ヘクタールを手掛け、避難所生活を送る大内喜博さん(36)。自宅が浸水し、10月13日から避難している。「寒さが本格化してきた。特に朝が冷え込み、手が冷たくなる」と訴える。
同町近くの蔵王山では5日、初雪が観測された。同町の7日朝の気温は3・1度と冷え込み、避難者の体力を奪った。大内さんが生活する避難所には約20人がいる。エアコン、ストーブがあるが、隙間風が容赦なく入り込む。毛布を4枚重ねにしても体温が奪われるという。「防寒着や布団の上に掛けるものがほしい」と要望する。
全国の避難者(8日時点)は2802人で、宮城県は449人。同町は193人で43%を占める。
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「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」
「帝国陸海軍は本八日未明、西太平洋においてアメリカ・イギリス軍と戦闘状態に入れり」。78年前のきょう、太平洋戦争が始まったことを国民はラジオで知った▼歌人の斎藤茂吉はこう詠んだ。「たたかいは始まりたりというこえを聞けばすなわち勝のとどろき」。国民の多くが高揚していたという▼1931年9月18日、満州事変の勃発が世論の転機となる。近現代史作家の半藤一利氏は、戦争回避へ歴史を逆転させるチャンスが「(翌)十九日夜を起点とする二十四時間にあった」、鍵は「世論がどう動くかであった」(『戦う石橋湛山』)と書く。陸軍は警戒したが、新聞が号外戦を繰り広げ「マスコミは争って世論の先取りに狂奔」▼議会も翼賛化した。38年の国家総動員法の成立には抵抗を示したが、2年後には「反軍演説」を行った斎藤隆夫を除名。「議会は議論、討論する場であり、それを失っては国家はその骨格を失ってしまう」。ノンフィクション作家の保阪正康氏が『昭和史の教訓』に記す▼安倍政権は集団的自衛権の行使を認め、それを可能とする安保法制を強行、戦争に巻き込まれるリスクが高まった。いま海上自衛隊を中東に派遣しようとしている。報道と国会。権力監視の力が弱まれば歴史は繰り返す。次も悲劇として。肝に銘じたい。
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2019年12月08日

青パパイア スピード収穫 露地で4カ月越冬不要 メーカーが品種提案
健康食材として農家が直売所で販売する他、JAが産地化を進めている青パパイア。本州を中心に、果実ではなく野菜のように食べる栽培が広がる中、種苗メーカーが冬越ししない1年完結の栽培モデルの普及に乗り出した。成長の早い多収品種を育てて冬が来る前に収穫し終えるもので、露地栽培が難しかった本州でも産地化に向けた動きが活発化しそうだ。(北坂公紀)
本州産地化に期待
パパイアは中南米原産で、複数年にわたり実を付ける多年生植物。黄色く熟した実は果実として食べられる他、熟す前に収穫した青パパイアはサラダなどで食べられる。特に青パパイアは、ビタミンやポリフェノールといった栄養成分、ダイエット効果があるとされる酵素を豊富に含み、健康食材として注目されている。
一般的に、パパイアの収穫は定植の翌年以降に本格化する。ただ熱帯原産で凍害に弱く、気温が0度を下回ると枯死するため、国内では越冬が栽培上の大きな課題だ。そこで、種苗メーカーの丸種(京都市)は、パパイアを1年完結で栽培するモデルを示した。
この栽培で鍵を握るのが品種だ。同社では成長が早く多収の6品種を提案。苗木の定植1年目で1本当たり約30個の収量を実現し、単年での栽培を可能にした。
栽培モデルでは5月ごろに30センチ程度の苗木を定植。4カ月後には樹高が最大2メートルに達し、1個1キロ前後の実が収穫できる。実は秋にかけて断続的になり、本州では完熟しないため青パパイアとして利用する。収穫後、冬場になると木は低温で枯死し、さらに春先まで放置すれば腐敗が進み、土にすきこむことができる。
同社は「越冬が不要だと、従来は九州南部に限られていた露地栽培が、関東以西で可能になる」と説明。「越冬するための設備投資や燃料費が必要なハウス栽培に比べ、生産コストを大幅に抑えられる。手軽にパパイア栽培ができる」と強調する。
販売初年の2019年の苗木の販売量は約5000本。20年には大きい果実が収穫できる品種「フルーツタワー」を発売して品ぞろえを充実させ、販売を強化する。
機能性注目 生産が拡大
農水省によると、データがある直近の16年の国内生産量は487トンで、前年から倍増。過去10年で最多となった。県別では果実の生産が中心とみられる鹿児島県が364トンと最大で、全体の7割強を占めている。
果実の産地振興や消費拡大に取り組む中央果実協会の朝倉利員審議役は「パパイアは獣害や病害が少なく、生産に取り組みやすい。近年は機能性成分に注目が集まっており、消費は増加傾向にある。葉を茶に加工するなど、利用の幅も広がっている」と期待する。
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2019年12月13日
輸出3カ月前年割れ 10月農林水産物 目標達成遠く
10月の農林水産物・食品の輸出額は751億円で、前年同月比で5・9%減った。前年同月を下回るのは3カ月連続。2019年の累計(1~10月)は前年同期比0・8%増の7396億円。水産物が落ち込み、緑茶やリンゴなど主要果実も振るわず、伸びが鈍化している。「19年に1兆円」という政府目標の達成は厳しい。
財務省が発表した貿易統計を基に日本農業新聞が調べた。
農林水産物の輸出は例年、収穫期の秋以降、年末にかけて増える傾向にある。しかし、政府目標1兆円達成には残る2カ月で合計2600億円以上の実績が必要。単月で1000億円を超えたことは近年なく、このままのペースでは達成は難しい状況だ。
輸出額の1~10月の累計を品目別に見ると、水産物は、6%減の2313億円と落ち込んだ。輸出先で他国産と競合したり、サバなどで相場が良い国内向けに販売を振り向ける動きがあった。
日本食の人気を背景に、牛肉は25%増の235億円と好調が続いている。日本酒も8%増の192億円、サツマイモは23%増の13億円と伸び幅は大きい。リンゴは8%減の82億円、ブドウは4%減の28億円と落ち込んだ。緑茶も2%減の119億円となった。
輸出額が伸び悩む背景には、最大の輸出先・香港の政情不安定化や、韓国との関係悪化などもあるとみられる。
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2019年12月08日

片岡礼子さん(女優) 家族つなぐ 愛の手料理
住んでいる時は当たり前と思っていたんですが、故郷を離れて初めて分かることってたくさんあるんですよね。私は愛媛県松前町の出身で、本当に美しい稲穂に挟まれた道を登校していたんです。遊ぶのも田んぼ。わらを崩して怒られるのも田んぼ。東京に出てから、それが当たり前というわけではないと知りました。
父の実家は新居浜市の山奥、別子銅山の方でした。私も小さい頃、よく祖父母の家に遊びに行きました。夏休みにまるっと1カ月間、そちらで過ごしたものです。
家の裏には栗山、柿山、ビワ山があって、祖父と一緒に山に行き、川で丸一日石投げをして遊んでいました。畑で祖父と一緒に芋を掘ったりもしました。家の周りではウコッケイが自由に歩き回っていたんです。祖母が、要らない野菜の葉っぱを刻んで卵の殻とかと混ぜた餌を与えると、鶏は走って寄ってきました。
祖母はみそを手造りしていました。6畳だったか8畳だったかの座敷を二つ使って毎年大量に造っては、親戚中に配っていたんです。
おそらく自給自足に近い生活だったんでしょう。祖父母をもっと手伝って、食べ物の作り方を学べばよかったと感じています。
肉嫌いの私に…
小さい頃に大好きだった「おふくろの味」は、ささ身のフライです。私は肉が苦手な子でした。肉料理が出ると、親の目を盗んで妹の皿に載せていたくらいです。そんな私でも唯一食べられたのが、鶏肉。それを知った母が、手を替え品を替えて頑張ってくれた末にヒットしたのが、ささ身のフライ。母の愛情がこもった、大切な味なんです。
東京で1人暮らしを始めたら、その味を食べたくなって。帰省したら必ず「お母さん、ささ身のフライを作って」と言ってました。
東京での私の食生活は、褒められたものではなかったですね。コンビニ1軒あれば足りる、という感じでしたから。
和食で体調良く
20代になって良い仕事がたくさん続いたのでうれしくて、がむしゃらに頑張りました。思いっ切りダイエットをして、体も絞ったんです。そのため妊娠・出産するに当たって、助産師さんに「そんな食べ方では駄目です」と言われました。「きちんと日本の伝統的な食事を取るように心掛けなさい」と。
20代での食生活が影響したんでしょうか。私は30歳の時に脳出血で倒れてしまいました。
長い期間、リハビリを続けながら、食事の大切さについて考えました。和食をいただくようにしたこともあって体調は良くなり、大好きな女優の仕事もできるようになりました。
この5年くらいは、友達に教わった方法で、みそを手造りしています。祖母がやっていたような大掛かりで本格的なものではありません。ごく簡単な方法ですけど。その友人は赴任先のアメリカで、みそ造りを先輩から教わったそうです。大豆とこうじ、塩しか使わないので、健康的だと思います。
今年になって母の体調が優れなくなりました。父はそれまで料理をしてきませんでしたが、「お父さん、昔ながらの和食がいいよ。作れる?」「うん、やってみる」と。夜のうちにだしを取って、毎朝みそ汁を作っているそうです。最近は「こんな料理を作ってみた」と写真を送ってくれるようになりました。きちんと副菜まで作っているんです。父の愛情がこもった料理で、母の体調が良くなることを祈っています。(聞き手・写真=菊地武顕)
かたおか・れいこ 1971年、愛媛県生まれ。93年に映画デビュー。95年「愛の新世界」「KAMIKAZE TAXI」でヨコハマ映画祭最優秀新人賞。2001年「ハッシュ!」でキネマ旬報、ブルーリボン両賞の最優秀主演女優賞。映画「楽園」「閉鎖―それぞれの朝―」公開中。映画「Red」「タイトル、拒絶」が来年公開予定。
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2019年12月07日
JA事務効率化 デジタル化で職場改革
働き方改革が問われている。JAも企業と同様に、労働生産性と従業員満足度を高めていかなければ、経営の安定も意欲ある職員の確保も難しい。そのためにはまず、日常業務の効率化が必須だ。改善効果の高いロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)を活用し、働きがいのある職場づくりを進めたい。
JA職員の仕事実態を見ると、紙と電話とファクスへの依存度が高い。これに対し企業の世界では、情報通信技術(ICT)を使った業務のデジタル化が急ピッチで進む。インターネット交流サイト(SNS)での従業員間の打ち合わせやネット会議は当たり前。パソコン事務の自動化、顧客データの活用、人工知能(AI)による業務改善にも積極的だ。このままではJAの職場はさながら「旧人類化」することが心配される。
業務のデジタル化に向けてやるべき課題は多いが、取り組みやすいのはRPAを使った効率化である。高齢の組合員が多いため、JAの業務は手書きの注文書でのやり取りが一般的だ。それを職員がパソコンで購買システムにデータ入力するが、繁忙期ではその作業に忙殺されるといったことが起こる。
こうした事務作業を軽減するのがRPAだ。手書きの注文書をスキャナーで読み取り、光学式文字読み取り装置(OCR)でデータ化する。これだけでも人力頼みの入力作業を大幅に効率化できる。データを使ってのさまざまなパソコン事務は、PRAを使えば自動化できる。
RPAは元々、ホワイトカラーの仕事を効率化するためのシステムである。データ入力以外にも、データの加工処理、正誤照合といった仕事で威力を発揮する。高度なプログラミングはできないが、やり方が決まっている定型業務、繰り返しの業務といった分野に向いている。
数年前にメガバンクの事務部門で活用が始まり、一般の企業でも広く導入が進む。JAでの普及は遅れていたが、JA山口県下関統括本部が2018年に始め、資材の予約注文の入力時間を8割削減するといった活用実績を上げた。現在、営農指導や信用渉外力の強化、内部統制の効率化など、幅広い業務の改善を目指すプロジェクトが稼働している。
メリットは事務効率化だけではない、同本部は生産部会の会員一人一人にその人だけの営農指導書を作成し、数字に基づく経営相談を実施。会員から喜ばれている。RPAで資料作成のプログラムを組み、営農指導員に負荷をかけずに作ることができる。資料作りに費やす時間を現場での営農指導の仕事に振り向けられることは、本人の意欲向上にもなる。働き方改革にまでつながった事例といえる。
国産のRPAなら、導入費用はさほど高くはない。同本部には全国各地のJAから視察が相次いでいる。横展開による意欲の高い職場づくりを期待する。
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2019年12月12日
地域の新着記事

良い年純国産で 「大門のしめ縄」最盛 愛知県岡崎市
愛知県岡崎市大門地区で作られる工芸品「大門のしめ縄」の生産が、最盛期を迎えている。鮮やかな青色の稲わらが特徴で、夏に専用品種を青田刈りして年末需要に備えてきた。地域に根差し、需要は堅調。今年は「地域団体商標」の登録も受けて、しめ縄産地のブランド維持に努める。
大門のしめ縄は明治時代に生産が始まった。いまは5戸で構成する大門〆縄(しめなわ)協同組合が、年間30万本を生産する。12月にピークを迎え、近隣のスーパーやホームセンターに並ぶ。
水稲は、しめ縄専用に品種「東海千本」または黒穂(古代米)を作付けし、7、8月に青刈りをする。大小さまざま25種類あるしめ縄に使うため、高さ1メートルほどで刈った後、追肥して再び50センチほどに伸ばして二番刈り、また三番刈りもして、多様な長さの稲わらを用意する。収穫後はすぐに乾燥させて、年末まで保管する。
組合の代表を務める蜂須賀政幸さん(62)は「暑い盛りに収穫するのは大変だが、きれいな青色を維持するために必要な作業だ」と話す。最盛期には約40戸のしめ縄農家がいたが、徐々に減少。それでも需要は堅調で、正月飾りとして、多くの住民が買い求める。
今年5月には、特許庁の地域団体商標に登録された。輸入品に押される中、稲わら生産からしめ縄作りまで一貫して行う“純国産”をアピールする。蜂須賀さんは「近年は需要に生産が追い付かないほどで、地域の正月には欠かせないもの。作り続けたい」と話す。
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2019年12月14日

台風19号から2カ月 復旧から復興へ 農業の未来どう描く
河川が氾濫し、大きな浸水被害が出た台風19号から2カ月。福島、宮城両県の被災地では農機が水に漬かって使えず、将来への不安を抱える農家も少なくない。農作業の受委託や機械の共同利用、高台への集団移転など対応策を探る動きも出ているが、地域農業の今後についての話し合いは、始まったばかりだ。(音道洋範)
機械共同利用を模索 福島県鏡石町
「来年、代わりに植えてくれないかという話がいくつか来ている」と語るのは福島県鏡石町の農業、圓谷正幸さん(51)だ。台風19号では町内を流れる阿武隈川の堤防が決壊。圓谷さん宅のある成田地区は川沿いの平たん地のため、80世帯のほとんどが被災した。
地区では各農家が、トラクターから精米機までをそろえて作業していたが、水没で多くが利用できなくなっている。現在、圓谷さんには水稲2ヘクタールの作付け依頼がある。被災をきっかけに離農も心配されている。
圓谷さん自身、自宅は床上浸水し、キュウリ栽培のビニールハウスも流された。トラクターやコンバインなどほぼ全ての農機具も全損し「損害額は3000万円以上」と話す。例年2月には促成キュウリの栽培が始まるが、ハウスや暖房器具の再建はこれからだ。
圓谷さんは、国の支援事業などを活用しながら再建を目指しているが、「今後はライスセンターの整備をはじめ、地域で機械の共同利用を行うなど地域農業の在り方を考えなければならない」と話す。
同地区は川が運んだ豊かな水と土で良い作物が取れる半面、約30年前にも住宅再建が必要なほどの大規模水害が起こっている。農家の中には将来への不安や「何回も支援を受けて再建するのはどうか」と苦しい胸の内を話す人もいるという。
台風19号による鏡石町の農業被害額は約11億7900万円に及ぶ。町は「農家からは住居や農業施設などの高台への移設を要望する声も上がっている」(産業課)とし、復興策について住民との話し合いを加速させたい考えだ。
集団移転の議論始動 宮城県大郷町
河川の堤防決壊を受け、集団移転への議論を始めた地区もある。
宮城県大郷町では吉田川が決壊し、床上・床下を合わせて204戸の住宅が浸水被害を受けた。町では川沿いの地区を、川から離れた場所へ移転させる“集団移転”に向けた議論が始まった。
町は11月、被害の大きかった中粕川と土手崎・三十丁の2地区の住民143世帯を対象に対面アンケートを実施。118世帯から回答を得た。
このうち、中粕川地区では、集団移転について「条件次第(受動的)」との回答が29・5%と最多。一方で全壊世帯に限ると「推進」が29・4%と最も多く、「条件次第(積極的)」と合わせると47%と半数近くが移転に前向きであることが分かった。
町の千葉伸吾参事は「住民の意向を復興政策に反映させていきたい」とコメントするが、話し合いは始まったばかりだ。町は12月22日にも復興基本方針を住民に説明する予定だ。
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2019年12月14日

ドローンで空輸 できたらいいな 取れたて野菜 即店頭へ 秋田県仙北市が試験
秋田県仙北市は国家戦略特区の認定を生かし、ドローン(小型無人飛行機)を使って青果物を運搬する実証試験に乗り出した。輸送条件の良くない中山間地域での青果物の運搬に、ドローンが使えるかどうかを確かめる。農薬散布など農業への利用が広がる中、運搬用には法規制などもあり乗り越えるべき壁はまだ多いが、人手不足が深刻な中山間地域でのドローンへの期待は大きい。(音道洋範)
ホウレンソウが空を飛ぶ──。11月中旬、市内の中山間地域で行った実証実験では、農家民宿から収穫したてのホウレンソウと焼きたてのおやき約2キロを、2・8キロ先の直売所に向けて運搬した。
中山間 3キロ10分で到着
民宿の裏庭から飛び立ったドローンは、上空50メートルほどまで上昇した後、あらかじめ設定しておいた経路に沿って直売所まで飛行した。10分ほどで直売所近くの広場に到着し、すぐさま店頭に商品が並んだ。
実験に協力した農家民宿「星雪館」の代表、門脇富士美さん(48)は4カ所の直売所で野菜などを販売する。輸送に往復1時間近くかかる場所もあるため「ドローンに運搬を任せることができれば、空いた時間で他の仕事をできるようになる」と期待する。
法律、価格、天候 壁高く
仙北市では2015年に国家戦略特区の認定を受け、ドローンの活用に取り組んでいる。市内では既に農薬散布用のドローンは実用段階に入った。市農業振興課によると、農家が市の助成事業を活用して7台を購入。来年度はさらに10台近くが増える見通しだ。担当者は「年齢や法人、個人を問わず、幅広い場所で使われ始めている」と説明する。
ドローンの運行を担当した東光鉄工(秋田県大館市)によると「自律飛行は技術的に可能なレベルに到達している」が、法律上の規制が運搬用途での実用化に向けた課題になっているという。
国土交通省が今年8月に公表したガイドラインでは、ドローンを飛行させるには、原則として目視による確認が必要。今回の試験では複数の補助者が配置され、飛行ルートと並行する鉄道会社の職員も監視するなど、警戒態勢が取られた。そのため、「現状では車を使って輸送する方が効率的」との声も上がる。
価格面も課題だ。門脇さんは「1台10万円くらいなら手が届く」と話すが、物資運搬が可能な大型機は100万円を超えることがほとんどで、手軽に購入することはまだ難しい。また、試験時の天候は雨交じりで「強い雨の中では電気回線に不具合が出る可能性がある」として直前まで飛行が危ぶまれた。
市地方創生・総合戦略室の藤村幸子室長は、目視外飛行への法規制などさまざまな課題があるとしつつ「ドローンは人手不足が深刻な中山間地域にとっては有効な手段。実証試験を繰り返して課題を克服し、将来的な実用化につなげたい」と話している。
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2019年12月12日

みんな二度見!? オート三輪 走る広告塔 茨城県常陸太田市の椎名理さん
茨城県常陸太田市で「てるちゃんぶどう園」を営む椎名理さん(59)の愛車は、昔懐かしいマツダのオート三輪。手直ししてピカピカに磨き上げ、現役で農作業に使っている。車体にはぶどう園のPRロゴを入れ、走る広告塔としても役立てている。
椎名さんは1・3ヘクタールの園で「巨峰」や「常陸青龍」「シャインマスカット」を栽培するブドウ農家。若い時から車好きで20代前半にMG・ミジェットを手に入れて古い車の面白さに目覚め、今では倉庫にオールドカー10台ほどを所有する。
オート三輪を手に入れたのは10年ほど前。県内の倉庫に眠るオート三輪があると知人に紹介され見に行くと、珍しいマツダのT1500だった。1971年製で比較的状態も良く、トラックなので農業に使えると思い、譲ってもらった。
手を入れて乗り始めたが、古い車両のため故障はつきもの。部品もなく親しい修理工場に頼んで直してもらっている。維持費は掛かるが苦にはならない。運転していると、対向車から注目され、工事の人が手を休めて見入ることも度々。駐車していると、懐かしがって話しかけてくる中高年も多いという。
そこで、「てるちゃんぶどう園」のロゴを入れた。それからはさらに目立つようになり、ブドウ園の名も知られるようになったという。今は「おいしいよ常陸太田のぶどう」や「だいすき常陸太田」のロゴも入れ、地域のPRにも一役買う。
椎名さんは「道の駅にわざと寄ったりして楽しんでいる。大切に乗り続けていきたい」と話している。
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2019年12月10日
気候非常事態 長野県が宣言 都道府県で初
長野県は6日、世界的な気候変動への危機感と地球温暖化対策への決意を示す「気候非常事態宣言」を都道府県として初めて発表した。2050年までに県内の二酸化炭素(CO2)排出量を実質的にゼロにすることを目指す。
県議会が同日、台風19号被害やスペインでの国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)開催などを背景に、宣言を出すよう県に求める決議を全会一致で採択。これを受けて県が宣言を発表した。宣言では、国内で頻発する気象災害と世界的な異常気象、気候変動に触れ、「この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできない」と強い危機感を示した。
県は、太陽光発電や小水力発電といった再生可能エネルギーの拡大、省エネ対策の強化などで、CO2排出量の実質ゼロを実現したい考え。阿部守一知事は会見で「広く県民一丸となって気候変動対策を進めていきたい」と強調した。インターネット中継で阿部知事と会談した小泉進次郎環境相は「台風で大きな被害を受けた長野県が宣言したことは象徴的。来週参加するCOP25で発信したい」とエールを送った。
宣言は、地球温暖化対策を加速させようと欧米諸国を中心に広がっている。欧州連合(EU)の欧州議会が11月に採択した他、国内では長崎県壱岐市、長野県白馬村などが宣言している。
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2019年12月07日

ビワ大産地 台風15号3カ月 復旧「素人には無理」 倒木、落石、通行止めもまだ… 千葉県南房総市
台風15号の被災から9日で3カ月。全国屈指のビワ産地、千葉県南房総市では農道や園地を覆った倒木、落石が片付けられず復旧が思うように進んでいない。急斜面の園地も多く撤去には危険が伴うため「素人には不可能だ」と話す農家もいて、行政などの支援を強く求めている。(関山大樹)
行政支援を切望
千葉県は、産出額8億円(2017年度)を誇る全国2位のビワ産地。だが9月の台風15号の強風で、木が倒れるなどの被害が出た。県によると、20年の見込み被害額は5億9000万円に及ぶ。
同市の沿岸部にある南無谷地区は、地域の山の多くがビワ山だという。「園地を見ると心が折れる」。ビワ農家の木村庸一さん(58)が落ち込んだ表情で話す。60アールのビワ園は、来シーズン半分以上が収穫できなくなった。
山中にあるビワ園は曽祖父の代から守り、かつては皇室に献上するビワも生産した。ビワは花や幼果が寒さの影響を受けやすいため、冬に風が吹いて霜が降りにくく、寒さが滞らない山の急斜面で栽培される。
台風の強風で、山中のビワの半分以上が折れたり、根こそぎ倒れたりした。急斜面のため現在も、石や折れた木が落ちてくる可能性がある危険な状態だ。
木村さんは、チェーンソーで一部倒木の除去や倒れた木を元に戻すなど尽力したが、19、21号と続いた台風で、修復しても元に戻る“いたちごっこ”の状態が続いた。
険しいビワ山を通る農道も、50年ほど前から農家らが協力して作り、コンクリートで舗装し管理してきた。台風直後は、強風や大雨による倒木や落石で通れなくなり、今も山奥に行くにつれ倒木が手つかずの場所もあり、一部のビワ園は立ち入れない。
木村さんは「山中での作業なので撤去は危険が伴う。安易に除去できない木もあり、全ての倒木や落石の除去は素人には不可能だ」と訴え、倒木や落石の撤去などへの行政支援を訴える。
房州枇杷(びわ)組合連合会が、66人の組合員に行った台風被害調査によると、被害額は10月末時点で1億648万円、来年の売り上げは3億円減少する見込みとなった。連合会によると、実際の被害金額はさらに多い見通しだ。
連合会会長で、南房総市のビワ農家、安藤正則さん(63)も園地半壊の被害を受けた。安藤さんは「このままの状況だと復興は1、2年じゃ到底終わらない」と危機感を募らせている。
ビワは苗木を植えてから収穫まで、5年ほどかかる。園地の再建について高齢農家ほど意欲に陰りがあるとし、「気持ちの面で立ち直れない人もいる。園内の倒木撤去や整理の他、所得補填(ほてん)などさらなる支援が必要だ」と要望する。
自身もビワ農家であるJA安房の笹子敏彦常務も「まだ山中に入れないビワ農家も少なくない。特に雨が降った後などは危険度が増す」と話し、復旧への道が険しいことを強調する。
15、19、21号 38都府県被害 農林水3900億円
農水省は6日までに、台風15号の農林水産関係の最新被害額が5日午後4時時点で815億円に上ると発表した。19・21号の被害額(3082億円、2日午後1時時点)と合わせると、総額3897億円に上る。
15、19、21号の被害は38都府県が報告。被害額は、2018年の西日本豪雨の被害額3409億円を超えた。
内訳は農地の損壊が2万6273カ所で被害額746億6000万円。用水路や農道といった農業用施設などが、2万4130カ所で被害額1226億4000万円。作物被害は3万6459ヘクタール、被害総額265億3000万円。農業用ハウスなどの被害は、2万9336件で被害額503億1000万円だった。同省によると、今後も被害額は増える見込み。
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2019年12月07日

地元でもやりたいことできる “Uターン組”食で催し 新潟県糸魚川市
新潟県糸魚川市にUターンした若者らが、「つなぐKitchen Project(キッチンプロジェクト)」のメンバーとして、食を題材にしたイベントを企画・開催している。プロジェクトを通して、糸魚川を離れた若い世代に「糸魚川でも自分たちのやりたいことができる」ということを伝えていく。
メンバーは市役所職員の杉本晴一さん(26)、イタリアンシェフの渡辺光実さん(28)、米や果実などを栽培する生産者の横井藍さん(28)と、JAひすい営農指導員の小野岬さん(24)。
市の広報紙の取材で若手Uターン経験者として杉本さん、渡辺さん、横井さんが集まり、3人で意見を交わす中で「それぞれのやりたいことが3人ならできる」と意気投合し活動を始めた。
その後、女子メンバーが欲しいという横井さんの希望で、巡回で来ていたJAの小野さんが仲間に加わった。プロジェクトチームの名前には「糸魚川のいろいろなところで人・物・事をキッチンでつなぐ」という願いを込めた。
職種の異なるメンバーが、それぞれの得意分野を生かしながら活動。7月には「ハヤカワ夏のピザまつり」を開いた。親子連れ30人が参加し、夏野菜をトッピングしてピザを作った。11月には「ハヤカワ秋のイモまつり」を開いて親子20人が焼き芋などを楽しんだ。
補助金を頼りにせず、全てを参加費で賄えるよう工夫して企画・運営している。メンバーは7月のイベントに合わせて動画投稿サイト「ユーチューブ」を参考にピザ窯を手作りし、11月のイベントでも大活躍だった。
横井さんは「畑で作られた野菜を味わって土に触れる感動を子どもたちに伝え、食を通して農を知ってもらえるような活動をしたい」と意欲を見せた。今後は小学校で取り組む「キャリア教育」などを通して農業の現場と教育の現場をつなぐとともに、イベント依頼などに積極的に対応していく。
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2019年12月07日

ハトムギで健康長寿に “お墨付き”チョコ商品化 知名度アップ狙う 栃木県小山市
栃木県小山市で、特産のハトムギを使ったチョコレートが開発され、11月から市内の「道の駅思川」で販売が始まった。生活習慣病の予防など、市はハトムギの摂取によって市民の健康長寿を目指しており、新たなスイーツで消費拡大を目指す。ハトムギの生産量も増えていて、農家は「栽培の追い風になる」と期待する。(中村元則)
全国ハトムギ生産技術協議会によると、2018年の全国のハトムギの生産面積は1122ヘクタール、生産量は1541トン。茶などで使われ、生産面積は年々、増加傾向にあるという。同市は水田転作の一環で、1991年に農家2戸で栽培がスタート。18年時点で、約10戸が作付面積80ヘクタールで188トンを生産し、国内有数の産地だという。
同市のハトムギは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「次世代農林水産業創造技術」の開発研究に選定された。そこで市などは18年、ハトムギの摂取が人間の体に与える影響を調べる実証実験を行った。
20~64歳の健康な市民114人にハトムギ茶や麦茶を500ミリリットル、8週間、毎日飲んでもらい血液や尿を検査した。その結果「ハトムギには動脈硬化などの生活習慣病の予防効果が示唆された」(市農政課)という。
市はハトムギの摂取を進めようと、新商品の開発を促す「アグリビジネス創出事業」を実施。ハトムギのチョコレートは、食品加工品を販売する、ラモニーヘルス(同市)が同事業を活用して、半年前から商品開発を手掛けた。
同社の篠原裕枝代表は「ハトムギを高齢者も若い人も、誰もが食べやすいものにしようと考えた時、チョコレートを思い付いた」と話す。
同社は11月中旬の2日間、東京都墨田区の商業施設「東京ソラマチ」の中にある栃木県のアンテナショップ「とちまるショップ」で試験販売をした。その後、11月下旬から道の駅思川で本格販売を始めた。
商品は「はとむぎチョコ マンディアン」と名付けられ、ハトムギを3%配合したノンシュガーのチョコレート生地に、無添加ドライフルーツを載せている。チョコレートの優しい味わいとともに、かめばかむほどハトムギの香ばしい香りが広がるのが特徴だ。
市農政課は「来年2月のバレンタインデーに健康食品として参戦する」と強調。チョコに期待を掛けている。他にもハトムギを使った商品は、ふりかけなども開発され、多様化している。
相次ぐ商品化に栽培農家も期待。ハトムギを4ヘクタールで栽培する小山はとむぎ生産組合の福田浩一組合長は「小山のハトムギの知名度が増す良い機会になる。これを契機に新規就農者を増やし、生産量を増やしたい」と意気込む。
「はとむぎチョコ マンディアン」は、ビターとミルクの2種類あり、どちらも1箱3個入り(100グラム)で1500円。
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2019年12月06日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 農業も登山も全力投球 倉敷市の小原正義さん
岡山県倉敷市の小原正義さん(40)は、米の生産と餅加工で年間2300万円を売り上げるコアラファームの代表と、登山ガイドの二足のわらじを履く。今秋には、県内の農業振興や農村の活性化に貢献する青年農業者に贈られる「矢野賞」を受賞した。
実家は水稲農家で農業や自然への関心が高く、大学卒業後は8年間、長野県の奥穂高岳の山小屋で働いた。「農業だけでは生活ができないと考え山登りも仕事につなげようと思った」と小原さん。2010年に日本山岳ガイド協会の登山ガイドの資格を取得した。
同じ年に親元就農した。米で収益を上げるビジネスモデルを模索し、生産・販売から餅加工を一体的に行う経営に行き着いた。餅は年間15・9トンを製造。自家栽培の特別栽培米「ヒヨクモチ」を使って、「倉敷・八十八俵堂」の独自ブランドで販売している。
JA岡山西直売所の出荷仲間の紹介などで地道に顧客を増やし、倉敷市のふるさと納税返礼品に採用されている他、JA直売所や県内スーパー、インターネットなど多方面に販路を拡大。売り上げの9割を占める経営の柱になった。
小原さんは「登山も農業も自給自足が原則。通じるところが多い」と話す。山小屋勤務での接客や大工仕事、道路の舗装、水道工事などの経験が、農業経営に役立っているという。
経営が安定した15年からは、農閑期の7、8月に北アルプスや大山などで月10日程度の山岳ガイドも務める。19年は大山ガイドクラブ代表に就任し、山小屋の経営を始めた。
「日常を幸せにする農業、非日常を楽しむ登山」と、どちらも全力投球する。「20代は山、30代は農業に打ち込み、土台を作れたと思う。農業者、登山家として一層レベルアップしたい」と話し、40代を楽しむ。
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2019年12月05日

行動起こす一歩大切 酪農女性340人経営ヒント学び合う 北海道でサミットファイナル
全国から酪農に携わる女性が集い、経営や技術などを学ぶ「酪農女性サミット」が3日、北海道帯広市で始まった。酪農女性ら340人が参加し行動を起こすことの大切さや、今後のあるべき姿などを話し合いながら交流を深めた。4日まで開く。
サミットは2017年から北海道で年1回開かれ、3回目の今年が最後の開催。酪農家の女性が互いに学び語り合い、女性も楽しく仕事ができる酪農を目指そうと、酪農家の女性自らが企画・運営してきた。
「酪農女性のモチベーションUP!講座」と題したトークセッションでは、経営の最前線で活躍する女性たちが登壇した。
オランダで酪農家と結婚したニューランド伏木亜輝さん(43)は、酪農経営は義父と夫が行い「牧場に自分の居場所がない」と悩んでいたことを話した。自分のやりたいことは何かを考えた結果、日本からの研修を受け入れる事業を始めたことを紹介。「少しでも考えたらアクションを起こしてみて」と会場に呼び掛けた。
北海道大樹町で経産牛600頭を飼育する「カネソファーム」の金曽千春代表は、15歳で酪農家の実家を継ぐ決意をした生い立ちを披露した。経営者として先代からの思いを受け継ぎ、次の世代につなぐことで「酪農の未来は明るい」と語った。
酪農以外では、神奈川県藤沢市で野菜を栽培する「えと菜園」の小島希世子代表が、ホームレスや引きこもりの人に農作業を体験してもらい、農家への就職などにつなげる取り組みを紹介した。
「後継者不足に悩む農家と、働きたくても働けない人を結び付けたいとの思いから始めた」と話した。「農業は裾野が広い。適材適所を見つければ、人の才能を伸ばせる産業だ」と農業の可能性を訴えた。
サミットはJA全農、日本コカ・コーラが共催。中央畜産会が後援した。4日は帯広畜産大学の仙北谷康教授が酪農所得や共済について話す他、参加者同士がモチベーションを保つ工夫を話し合う。
成果 農場で実践を 参加者3倍に、注目実感
<初回からの実行委員長 砂子田円佳さん>
北海道内の酪農女性が企画・運営し、全国から酪農に携わる女性らが年1回集う「酪農女性サミット」。これまで全3回の実行委員長を務めてきた広尾町の酪農家・砂子田円佳さん(36)にサミットを始めた経緯や思い、成果などを聞いた。
──開催したきっかけを教えてください。
女性酪農家が話すパネル討論にパネリストとして参加した時、参加者から「これだけ頑張っている人がいるなら酪農女性が集うサミットを開いたらどうか」という意見が出て、酪農家ら6人で企画した。互いに見ず知らずだったが、楽しく酪農をするには勉強も大事、女性の酪農にも勉強する場があればなど、共通した課題や方向性を持っていてすぐに意気投合した。
──女性だけにした理由は何ですか。
酪農関係のセミナーは多いが、参加する女性は少なく質問していいのかと遠慮しがち。「女性」と銘打つことで来やすい人もいる。
私も20代で実家から独立した時、「お前なんか嫁に行ってすぐにやめるだろう」と言われ悔しい思いをした。頑張って働き30代になり、女性らしく生きることや理解してもらうことの大切さを感じた。それにはもっと力を付けないといけない。言われたことだけしてもんもんとするのでなく、勉強して提案することで違う世界が見えてくる。
──3年間、サミットを開いた手応えは。
初回に比べ参加者が3倍ほどに伸びた。当初は「やって意味があるのか」とも言われてきたが、男性の見る目が変わった。開催案内を広報誌や店舗に張って紹介してくれるJAもあった。3年の積み重ねで多くの人に注目されるようになったと実感している。大会実行委員への講演の依頼も増えている。私たちの体験を通じ、次に続く人たちが前に出やすくなってほしい。
──今回で最後の開催としています。
「ファイナル」としたが「これで終わり、解散」ではなく、実行委員が各地で小さくても動いていきたい。参加者も各地域に帰って動き始めてほしいし、その手伝いができたらうれしい。(聞き手・洲見菜種)
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2019年12月04日