スマート農業 「広域連携」に可能性 北海道大学農学部教授 野口伸

野口伸氏

 スマート農業は農作業の姿を変え、地域の農産物のブランド化を通して地方創生にも有効である。今回は広域スマート農業について考えてみたい。わが国の地域経済は冷え込んでいるとはよく耳にするが、農業が基幹産業の地域ではスマート農業の適用範囲を圃場(ほじょう)レベルから地域レベルまで拡張することで、さまざまな可能性が生まれる。

 情報通信技術(ICT)には農家―加工業者―流通業者―消費者といった時間軸で情報をつなぐ機能と圃場―集落―市町村―都道府県―海外といった空間軸で情報をつなぐ機能がある。この時空間情報を最大限活用できる仕組みをつくることは地域農業の活性化に有効である。
 

ブランド強化も


 人工衛星によるリモートセンシングは既に現場実装されているが、例えば衛星画像を用いることで、収穫前に玄米タンパク含量や収穫適期が予測できる。衛星画像の魅力は数千ヘクタール規模の作物の生育状況を瞬時に把握できることにある。すなわち、この情報に基づいて農作業を行えば、広域での農産物の品質・収量の向上と均一化に寄与し、ブランド発信力の強化につながる。

 北海道では「十勝川西長いも」が輸出で成功を収めているが、このような特産品を増やすことは地域経済に活力を与える。その実現にはスマート農業技術を用いて定時・定量・定品質が担保された安定した生産供給体制が必須である。野菜生産者がチームをつくり、ネットを介して作業状況が容易に共有できるシステムを導入すれば、農家の栽培技術の向上に寄与し、生産の拡大、安定化、品質向上につながる。

 また、作物生育シミュレーションとドローン(小型無人飛行機)によるリモートセンシングによって収穫量・収穫時期が高精度に予測できれば、産地間連携が高度化でき、出荷や輸送の最適化による物流コストの削減にも寄与する。

 この技術は、中山間地域の標高差を利用した野菜のリレー生産・出荷体系の構築にも有効である。多くの野菜の生育は積算温度が主要因であることはよく知られている。標高差100メートル当たり約0・6度の温度差を上手に利用すると、露地野菜の産地拡大と収穫・出荷期間の延長が可能になる。
 

生育可視化が鍵


 切れ目ない出荷体制を実現するためには技術的には細密なメッシュ気象予報データによる生育予測とドローンによる生育状況の可視化がポイントである。農業地理情報システム(GIS)を利用して各産地の収穫適期を予測できれば精緻な出荷計画が作成できる。また、栽培期間の延長は機械共用や労働力確保にも好影響を与える。

 他方、効率的な広域生産体系を構築する上で重要なことは、地域の合意形成を担うコーディネーターの存在である。既存ではJAがこのコーディネーター役に最も適しているといえる。広域スマート農業は、新規就農者の早期育成にも貢献するので、地域の若い世代の就農にも期待が持てる。

 また、地域に農業ICTサービスが生まれるかもしれない。スマート農業はICT利用の新しい農業である。新しいからこそリスクはあるが、可能性も大きい。日本農業はその可能性に向けて取り組む必要がある。
 
 のぐち・のぼる 1990年北海道大学大学院博士課程修了。農学博士。同年同大学農学部助手、97年助教授、2004年より現職。19年3月まで内閣府SIP「次世代農林水産業創造技術」プログラムディレクター。スマート農業研究に従事。

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