コロナの教訓 食料増産と備蓄急務 日本金融財政研究所長 菊池英博

菊池英博氏

 新型コロナウイルスは日本、米国、欧州を中心として世界中に広がり、米国は中国、欧州、日本からの人の流入を原則として禁止した。欧州連合(EU)内では国境が封鎖され、食料やエネルギーなど最小限の物流以外の輸出入が禁止された。ドイツは真っ先にマスクの輸出を禁止して、自国の医療を優先的に守る政策を打ち出した。他の加盟国も自国優先の政策を取り、まさにEU創設の基本理念であった国境の撤廃は自国優先主義によって霧消してしまった。
 

輸入国のリスク


 危機にひんして一国の指導者が取る政策は自国優先主義であることが露呈してきたのである。

 食料自給率が低い国にとっては、もし世界的に異常な天候で穀倉地帯や酪農地域が凶作に陥ったり、戦乱で物流が不可能になったりすると、食料や飼料、酪農製品の輸入は期待できなくなってしまう。日本はどうなるのか。考えるだけで背筋が凍りそうだ。

 昨年9月の日米貿易交渉では、日本は農林水産品の関税に関してオバマ政権時代に合意していた環太平洋連携協定(TPP)の範囲内まで農林水産品の関税を引き下げる方針で臨み、トランプ政権と合意した。一方、米国は日本が要求していた自動車と関連部品に関する米国の関税(2・5%)撤廃を「協定発効から4カ月以内に再交渉する」と先延ばしにした。

 トランプ大統領は「米国農民の勝利だ」と勝ち誇った。日本の農林水産物の生産額(TPP11を含む)は、牛肉と豚肉を含む全体で1200億~2000億円の減少になる(政府試算)。

 政府は、国内対策で減額をどう補填(ほてん)するのか。今後の展開は不透明だ。
 

追加交渉へ対処


 日米交渉は4月末までに協議を整える方針だったが、コロナ騒動でめどが立っていないようだ。しかし米国は意欲的で、「(日米協定は)全ての農産物をカバーしていない」(外国貿易障害報告書、3月末)と表明しており、日本にさらなる農水産物の関税減免を求めて、自動車と部品の関税を引き上げる提案(トランプ大統領は選挙中に関税は25%が妥当と宣言)をする腹積もりとみられる。11月の大統領選挙を前にして、突然政治利用されるかもしれない。

 日本の食料自給率は「生産額ベース66%」「カロリーベース37%」「飼料自給率は25%」(農水省データ)と先進諸国で最低水準であり、危機に際して耐えがたい低い水準である。日本の貿易黒字の7割を占める自動車は農業と切り離して独自で対応すべきであり、米国の余剰農産物を購入せざるを得ないときには、購入した農産物は全額を政府開発援助(ODA)に回せば日本農業への減産圧力がなくなる。

 農業危機に備えて日本は、休眠田畑(特に田んぼ)を復活させ、食料備蓄(米100万トン程度、他小麦と飼料)を倍増すべきではないか。食料危機に備えて国内での食料増産と備蓄の強化が急務である。

 きくち・ひでひろ 1936年生まれ、東京大学教養学部卒、東京銀行(現三菱UFJ銀行)を経て95年から文京女子大学(現文京学院大学)・同大学院教授。2007年から現職、金融庁参与など歴任。近著『新自由主義の自滅』(文春新書、15年)、『米中密約“日本封じ込め”の正体』(ダイヤモンド社、20年)

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