ウイルスとの共生 生態系活用し対策を 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏

 「われわれは否応なくウイルスと共に生きていくことを認識しなければならない」。東京都の小池百合子知事は「ウィズコロナ宣言」を出しましたが、ウイルスとの共生は本来、農業、畜産が最も得意とする分野です。

 16万頭の殺処分を余儀なくされた豚熱の感染拡大防止策として、このほど「家畜伝染病予防法」の施行規則が見直されます。その改正案で気になったのは、豚と同時に見直される、牛、ヤギ、羊などの飼養衛生管理基準です。

 農水省の案によると、「放牧の停止又は制限があった場合に備え、家畜を飼養できる畜舎の確保又は出荷若(も)しくは移動のための準備措置を講ずること」と書かれています。

 大臣指定地域になってからの対応ではなく、事前準備として畜舎を確保しておかなければならないというのです(意見公募は11日締め切り)。

 これでは、飼料自給や家畜の主体性を生かし、低い設備投資で営む放牧農家に配慮のある見直しとは言えません。仮に搾乳舎しかない場合、畜舎の建設費用はどこから出るのでしょう。

 また、棚田地域や耕作放棄地などで見られるヤギなどの放牧も難しくなり、市民との親しみや、生き物の命を伝える教育的な役割も損なわれます。

 それよりも今、和牛価格下落の大きな危機を受けて求められているのは、農家が市場価格や飼料相場に惑わされ過ぎない経営へのシフトです。飼料の地産地消になる放牧は、地域活性化への道筋としてむしろ増やすべきです。

 今月は「食育月間」と「牛乳月間」ですが、今の社会に欠けているのは、生活のそばで家畜を見る機会です。人の目に触れることが、畜産の理解者を産み、未来の生産者や獣医師の育成につながります。見たり触れたりしたこともない家畜の仕事に、一体誰が憧れようがあるでしょう。

 そもそも野生イノシシが里を荒らさないためには、林業や、中山間地での小規模な有畜複合農業を営み続けることが大切です。食料、飼料、肥料の自給こそが、里山の循環、生態系を理解した鳥獣害・ウイルス対策になります。

 人命に関わるウイルスでさえ、指針は「ウィズコロナ」です。感染症との共生をリードしてきた畜産業界が、排除ではなく、社会的包摂を踏まえ、ウイルスとの共生をする持続可能な生産に切り替えてくれたなら、農業は、国民に健康と安心をもたらし、この国を救う力を持っているのです。

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