コロナ禍、ドイツの選択 「新たな社会」へかじ 経済評論家 内橋克人

内橋克人氏

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が猛威を振るう中、わが国でも第2波、第3波が憂慮される新たな局面を迎えている。日々に報じられる感染状況はなお事態の収束からは程遠い。そうした中、政府に助言を行ってきた専門家会議の廃止と、それに代わる新たな会議体「新型コロナウイルス感染症対策分科会」(仮称)の設置が表明された。活発な発言を続けてきた専門家会議を見直すのだという。

 「政治と科学の距離」が問われたとメディアは伝える(朝日新聞6月25日朝刊など)。「日本モデル」(安倍晋三首相)を自賛する日本に限らず、コロナ禍の“禍中”で世界各国の政府は迷走を続けている。だが、欧州が感染爆発に見舞われ未曾有の混乱に巻き込まれる中、比較的冷静な対応を取り続けたのがドイツだ。わが国の「東日本大震災」発生直後、ドイツがいち早く「脱原発」へとかじを切った経緯は、当欄で筆者は既に紹介したところだ(2012年6月25日付)。
 

「最悪」が大前提


 ドイツを率いるメルケル首相は「科学者」であり「政治家」である。11年3月の「脱原発」の選択も、日本の福島原発事故からわずか2カ月半を数えるにすぎなかった。コロナ禍対応も同様である。素早くPCR検査への体制準備が進められ、感染拡大期には1週間に30万件ものPCR検査をこなしたと伝えられる。他の欧州諸国とも異なる、優れた対応力はいかにして生み出されたのか。

 ドイツが「脱原発」へとかじを切り替えた翌12年末、政府は連邦議会に「防災計画のためのリスク分析報告」なるレポートを提出している。作業に当たったのはロベルト・コッホ研究所(国立感染症研究機関)。連邦防災局主導の下、自然災害、無差別テロなどを想定し、それら「未知なる危機」に対応するためのリスク分析、そして被害を最小限に食い止めるのに必要な具体策まで盛り込まれていた。報告書の特徴は「最悪事態シナリオ」が常に前提とされていたところにある。

 今回のコロナ禍にどう生かされたのか。第一に人命救助・治癒に至る素早さ(効果的・効率的)。第二に、他国(イタリア、フランスなど)からも患者を受け入れ、パンデッミック抑制を目指して力を尽くした。そして第三に、何よりもコロナ禍への対応過程でメルケル首相への国民の信頼度が着実に高くなっていったことである。直接、国民に向けたスピーチが高い評価を呼んだ。
 

未来志向の復興


 いま欧州を中心に湧き起こっているのは、過ぎ去った過去を取り戻す、すなわち単なる「復元」を求める運動とは大きく異なる。高く掲げられているのは「グリーンリカバリー」の旗であり、過去とは違う「新たな日常」が描かれ、目標地点に至るまでの詳細なロードマップまで提示されている。

 これまで切り離して唱えられてきた①「気候危機」への対応②「脱・炭素社会」の実現③「地域循環型経済」の創造④金融・社会政策の正当性追及──など、いわば全人類的課題の全てを包摂する。

 単なる復興ではなく、コロナ禍という災害からの脱出と、そして新たな社会の創造という二つのゴールを、同時並行的に追及していく。

 欧州「生まれ変わり」への強い意思表示と受け止めるべきではないか。

 うちはし・かつと 1932年神戸市生まれ。新聞記者を経て経済評論家。日本放送協会・放送文化賞など受賞。2012年国際協同組合年全国実行委員会代表。『匠(たくみ)の時代』『共生の大地』『共生経済が始まる』など著書多数。
 

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