農地所有特区 「延長ありき」 許されぬ

 政府は、国家戦略特区の兵庫県養父市に限って認めている一般企業による農地所有の特例について、期限を延長するかどうか検討を始めた。実績は低調だ。一方、企業の農地所有への懸念は払拭(ふっしょく)されていない。農政の基本問題であり、効果を厳しく検証すべきだ。「延長ありき」は許されない。

 国家戦略特区法を政府は2016年に改正し、企業が農地を所有できる特例を新設した。事実上、養父市だけが対象で、21年8月末までの措置。国家戦略特区諮問会議は今年6月、期限の扱いを検討することにした。

 同会議では、早くも前のめりな発言が出ている。特例が、耕作放棄地解消や地域活性化で成果を上げていると評価。委員からは「なるべく早く(期限の)撤廃を決めていくようにしたい」(秋山咲恵・サキコーポレーションファウンダー)「更新ではなく撤廃を目指す方向で進めたい」(本間正義・西南学院大学教授)など、延長どころか撤廃を求める意見が続出している。

 しかし企業の農地所有には、資材置き場など農地以外の目的で利用されたり、転用されたりする懸念がある。このため特例は5年間の試験との位置付けで始まった。法案を審議した参議院も、全国展開と期限延長を前提にしないよう求める付帯決議を採択。政府は「十分に尊重する」と約束した。効果や弊害の丁寧な検証が不可欠だ。

 特例が成果を上げたかも疑わしい。20年3月末までに養父市で農地を取得した企業は6社。取得面積は合計1・64ヘクタールで、6社の経営面積の6・6%にとどまる。企業の農業参入を巡っては、09年の農地法改正でリース方式の利用が全国で可能になった。同市の農地取得には10アール当たり平均63万円かかる一方、リース費用は年間同5500円。負担が大きい所有より、賃借の方がはるかに需要がある。

 企業の農地所有の特例継続を声高に訴えるのはなぜか。全国展開につなげ、全面解禁を実現したい──。そんな思惑が透ける。実際、経済界には全面解禁を求める声が根強い。2月には経団連が実現するよう提言。また、規制改革推進会議は、農地所有適格法人(農業生産法人)への農業関係者以外による出資規制について、緩和の必要性を提起した。全面解禁への道筋を両面からつけようとしている。

 特例の延長に農水省は慎重姿勢だ。江藤拓農相は閣議後会見で「(農地法は)農政の根幹に関わる」と指摘。農業・農村の現場に懸念があるとして「慎重に検討すべきだ」と強調した。

 政府の経済財政運営の基本方針(骨太の方針)原案では、食料自給率向上や食料備蓄、輸入安定化を通じ、「総合的な食料安全保障を確立する」と強調した。それならば、なおのこと特例の延長には慎重であるべきだ。農地は生産基盤の要。企業の農地所有の全面解禁に道を開き、農地転用を助長するようなことがあってはならない。

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