「七福芋」地域で守る 生産拡大、商品開発も 愛媛・新居浜市
2020年11月26日

「七福芋」を収獲する七福芋本舗の社員ら(愛媛県新居浜市で)
愛媛県新居浜市の沖合いにある人口約130人の大島で、特産の白いサツマイモ「七福芋」による島おこしの取り組みが広がっている。生産者の高齢化などで衰退する島の特産品を守ろうと、個人や法人が島に通い「七福芋」の生産を支える。地元の食品業界もスイーツ、焼酎など多彩な商品開発で後押しする。今年は15トンの生産を見込む。
「七福芋」は見た目が白く、高糖度で濃厚でねっとりした食感が特徴。市内では大島以外の栽培が難しいとされる。1998年には45人が3・7ヘクタールで栽培、生産量は37トンだったが、生産者の高齢化などで存続の危機を迎えていた。今年は島内外12人の生産者と2法人が1・5ヘクタールで栽培している。
75アールで栽培する七福芋本舗は、地域支援事業と位置付けて、生産、加工、販売まで一貫して取り組む。個人生産者の芋も買い取り、青果販売の他、規格外品をダイスやペーストに1次加工し菓子材料向けなどに販売する。
同社営業部の白石寛樹部長は「さらに生産拡大し、市内全校の学校給食への提供や秋の味覚として市内飲食店で取り扱ってもらえるようにしたい」と意欲を見せる。
市内の菓子店や飲食店は、同社の1次加工品を使ってクッキー、ようかんなどを商品化。大島と「七福芋」のPRに一役買っている。11月には大島担当の地域おこし協力隊員が着任し、「七福芋」と地域活性化を支援する。
市農林水産課は「七福芋は工業都市・新居浜の数少ない特産農産物。生産量を増やして市民の認知度を高め、手軽に食べられるようにしたい」という。
「七福芋」は見た目が白く、高糖度で濃厚でねっとりした食感が特徴。市内では大島以外の栽培が難しいとされる。1998年には45人が3・7ヘクタールで栽培、生産量は37トンだったが、生産者の高齢化などで存続の危機を迎えていた。今年は島内外12人の生産者と2法人が1・5ヘクタールで栽培している。
75アールで栽培する七福芋本舗は、地域支援事業と位置付けて、生産、加工、販売まで一貫して取り組む。個人生産者の芋も買い取り、青果販売の他、規格外品をダイスやペーストに1次加工し菓子材料向けなどに販売する。
同社営業部の白石寛樹部長は「さらに生産拡大し、市内全校の学校給食への提供や秋の味覚として市内飲食店で取り扱ってもらえるようにしたい」と意欲を見せる。
市内の菓子店や飲食店は、同社の1次加工品を使ってクッキー、ようかんなどを商品化。大島と「七福芋」のPRに一役買っている。11月には大島担当の地域おこし協力隊員が着任し、「七福芋」と地域活性化を支援する。
市農林水産課は「七福芋は工業都市・新居浜の数少ない特産農産物。生産量を増やして市民の認知度を高め、手軽に食べられるようにしたい」という。
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菅政権の地方重視 美辞麗句では動かぬ 早稲田大学大学院教授 片山善博
菅義偉首相は就任時に、自分が「雪深い秋田の農家」の生まれであることを強調した。それもあったのか、マスコミも世間も、今度の首相は農村出身だから地方を重視する、農業にもこれまで以上に力を入れると予想したり、期待したりした。
内容乏しい演説
その予想や期待が当たっているかどうかを判定するリトマス試験紙ともいえる貴重な機会が、先の通常国会における首相の施政方針演説だった。かく言う筆者は岡山の兼業農家の生まれである。雪こそ降らないがイノシシなどの有害鳥獣に悩まされる地域だ。また、農業を主要産業とする鳥取県で知事を務めたこともあるので、地方や農業に対する首相の姿勢はどんなものかと、興味と関心を持って施政方針演説を聞いた。
残念ながら、演説を聞く限り、先の予測や期待は外れという他ない。まず農業についての言及は、分量がとても少ない上に、内容が至って貧弱である。触れていることのほとんどは農産品の輸出に関することだ。
輸出拡大一辺倒
このところ農産品の輸出額が増えている。これをさらに伸ばして2030年には5兆円の目標を達成させたい。そのため牛肉やイチゴなどの重点品目を選定し、産地を支援するという。農業政策についての具体的な内容はほぼこれに尽きる。
確かに農産品の輸出は重要なことである。筆者も鳥取県知事時代に梨「二十世紀」などの輸出促進と販路拡大に取り組んだ。その経験を通じて、農産品の輸出が日本の農業の一つの可能性を開くものであることは理解している。
ただ、わが国の農業の現実は、農産品輸出の明るい話題で語り尽くされるほど単純でもなければ容易でもない。それぐらいのことは農業や農村のことを真剣に考えている人には分かり切ったことである。
また、農業についての最後のくだりで「美しく豊かな農山漁村を守ります」と述べていた。もとよりそれに異存はない。肝心なことは、ではそれをどうやって実現するのかということなのだが、その説明がないのは単に美辞麗句を添えただけとしか思えない。一体どれほどの人がこの言葉に共感を覚えただろうか。
地方に関しては、観光立国の一環として登場するぐらいの小さな扱いでしかない。それ以外には、テレワークの環境を整えることによって、地方への人の流れを生み出す。地方への移住を希望する人には支援するなど、個別断片的な施策の紹介はあるものの、視野の広い地方政策は見当たらない。
菅政権は安倍政権を引き継いだという。ただ、それにしては前政権から始まった地方創生について一言も触れられていないことが気に掛かる。以上、どうやら施政方針演説の内容と「雪深い秋田の農家」の生まれとの間にはほとんど関係がなさそうだというのが筆者の見立てである。
かたやま・よしひろ 1951年岡山市生まれ。東京大学法学部卒、自治省に入省し、固定資産税課長などを経て鳥取県知事、総務大臣を歴任。慶応義塾大学教授を経て2017年4月から現職。著書『知事の真贋』(文春新書)。
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2021年01月25日
通常国会と農政 基盤強化へ審議尽くせ
通常国会が始まった。農業経営への支援を含む新型コロナウイルス対策や米の需給対策を盛り込んだ2020年度補正予算案と21年度当初予算案、国家戦略特区での一般企業の農地所有特例を延長する法案など、国会は重要な農政課題に向き合う。生産基盤の維持・強化の観点から、徹底した審議を求める。
施政方針演説で首相は、前政権から継承した農業の成長産業化を地方重視と結び付け、東京一極集中の是正と地方の活性化の柱に据えた。具体的には、農林水産物・食品の輸出額目標5兆円を達成するための産地の支援と、主食用米から高収益作物への転換促進を掲げた。
両者とも、現行の食料・農業・農村基本計画が目指す食料自給率の向上と生産基盤強化の一環といえる。加工・業務用需要の輸入品からの奪還や飼料用米をはじめ戦略作物の推進、中小・家族農家の支援なども重要だ。緊急事態宣言の再発令で農畜産物の需要が減り、生産基盤が弱体化する懸念もある。
こうした課題を踏まえて国会は、補正・当初予算案が生産基盤の維持・強化に効果的か議論すべきである。米の生産調整の実効性を巡っても検証が必要だ。前年産比6・7万ヘクタールの過去最大規模の作付け転換を21年産で達成しないと、米価が大幅に下落する恐れがある。また18年産で始まった現行の米政策の下で作付けは3年続けて過剰となった。課題を洗い出し、あるべき姿について議論が必要だ。
施政方針演説では、地方活性化の手段として規制改革を重視する姿勢も強調した。首相は、行政の縦割り、既得権益、あしき前例主義を政策運営上の壁とみなし、その打破も表明した。これら両面から、農業が標的となることに警戒が必要だ。
国家戦略特区がその例だ。兵庫県養父市で認めている一般企業の農地所有特例の全国展開を巡る議論は、関係閣僚が慎重姿勢だったが、同特区諮問会議の民間議員が強硬に主張、異例の「首相預かり」となった。今回は特例の2年延長で決着し、同特区法改正案を国会に提出する。しかし特例の利用は低調で、延長が必要かどうか国会は熟議すべきだ。官邸主導の政策決定の在り方も議論の俎上(そじょう)に載せる必要がある。
規制改革推進会議には、農地所有適格法人の議決権要件の緩和を求める意見もある。一般企業の農地取得につながり、撤退後の耕作放棄や産廃置き場にされることなどが懸念される。こうした論点も議論すべきだ。
施政方針演説では、環太平洋連携協定(TPP)の今年の議長国として加盟国の拡大に向けた議論を主導する考えを示した。貿易協定の拡大が、なし崩し的に農畜産物の一層の自由化につながらないよう政府の姿勢をたださなければならない。
衆院議員の任期は10月までで、総選挙が必ず行われる。国会論戦の中で各党には農政の選択肢を示すことも求められる。
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2021年01月19日

奈良・明日香村移住者へ 「農+観光業」を提案 収入安定し放棄地も解消
奈良県明日香村は、観光業を営むために村に移住した人などを対象に、耕作放棄地を活用して農業に取り組んでもらうプロジェクトを2021年度から本格的に始める。初心者でもできるように、耕作放棄地を整備して貸し出し、作業も手厚く支援する。より収入が安定する「農業+観光業」の暮らしを提案し、移住の加速と耕作放棄地解消につなげる。
整備後に貸し出し
明日香村には飛鳥時代の史跡が多く残され、年間約80万人が訪れるなど観光が盛ん。……
2021年01月23日

みどりか麺 佐賀県伊万里市
佐賀県伊万里市は、県内有数の小ネギの産地。「みどりか麺」は、同市産小ネギの規格外品など未利用資源を練り込んで作った乾麺だ。
小ネギを使った麺というアイデアは、地元高校生の農産加工品研究によるもの。JA伊万里と地元企業が共同開発し、商品化した。ゆでた麺は鮮やかな緑色でさっぱりとした味わい。「ネギが苦手な人にも食べやすい」と好評だ。
ラーメン、パスタなどさまざまな方法で楽しめる。JAは「伊万里産小ネギを好きになってもらいたい」と力を込める。
JA管内の直売所などで販売している。1箱(2束)486円。問い合わせはJA営農畜産部、(電)0955(23)5560。
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2021年01月25日

ベテランの技、JA出荷データ… クラウドへ集約し経営に“最適解” 高知で始動
高知県は20日、産官学で連携して構築を進めてきた「IoPクラウド(愛称=サワチ)」を始動させたと発表した。農家の栽培ハウスから得られる園芸作物データや環境データの他、JAからの出荷データなどを集約。人工知能(AI)を使って地域に最適な栽培モデルを示し、営農指導に役立てる。収穫量予測もでき、作物の販売にも活用する。
脱・経験依存、収穫予測も
IoPは、ナスやピーマン、キュウリなど園芸作物の生理・生育情報をAIで“見える化”するもの。2018年から構築を目指し、JAグループ高知や県内各大学、農研機構、東京大学大学院、九州大学、NTTドコモなどと連携している。
県は当面、①データ収集に協力する農家約30戸の作物の花数、実数、肥大日数などの作物データ②約200戸のハウスの温湿度、二酸化炭素濃度などの環境データ③園芸作物主要6品目の全農家約3000戸の過去3年の出荷データ──などを収集し活用する。
農家はスマホやパソコンから、クラウドに送られたハウスの環境データだけでなく、異常の監視と警報、ボイラーやかん水など機械類の稼働状況に加え、出荷状況などが確認できる。県やJAの指導員も、戸別の経営診断や産地全体の経営分析などに生かす。
22年からの本格運用を目指しており、最終的には、県内の園芸農家約6000戸のデータを連係させる。県は、「経験と勘の農業」からデータを活用した農業への転換を進めるとしている。
クラウドは県内の営農者、利活用を希望する企業などが利用できるが、まずはデータの収集に協力している約200戸の農家から利用を始める。3月末から、新規利用の申し込みができる予定だ。
農家がクラウドの機能を活用するのは無料。通信分野でシステム構築に協力したNTTドコモは希望者に対し、JAなどに出向いた「IoP教室」を開く。
JA高知県の竹吉功常務は「営農、販売でいかに活用できるかがポイント。技術の継承、出荷予測などにも使える。農家に還元できるよう、十分生かしていきたい」と強調する。
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2021年01月21日
地域の新着記事
人材集まれ地域で独自策 北海道40JAが着手 北農5連協事業
新型コロナウイルス禍で外国人技能実習生が来日できないことによる人手不足に対応し、北海道の約40のJAなどが地域の課題に応じて自ら発案した人材確保策に着手した。JAグループ北海道の連合会でつくる協議会が、今年度から始めた助成事業を活用。新規就農者の育成、雇用環境や労務管理の向上、農福連携や、農業の魅力PRといった幅広い取り組みが広がっている。(望月悠希)
雇用環境の整備や関係人口創出
JA北海道中央会やホクレンなどで組織する「北農5連JA営農サポート協議会」が、新型コロナウイルス感染症に係る農業人材確保特別対策事業として実施。今年度からJAや農協連を対象に、人材確保を目指すメニューにかかる費用の5割以内または3割以内を補助する。
中央会によると昨年、農業分野で技能実習生や特定技能の外国人375人が、コロナ禍で入国ができなかったり、遅れたりして人手不足が深刻化した。
そこで、主に①障害者や移住者ら多彩な新たな人材の活躍②求人サイトなど新たな募集③空き家の利活用などによる宿泊施設の整備など人材の定着化④労務管理向上⑤産地間連携⑥農作業支援──などを支援することにした。
新規就農者の宿泊施設確保や、関係人口創出につながる農作業体験、求人広告や産地間連携など各JAが独自に対策を展開。外国人技能実習生の入国が遅れたことによる掛かり増し経費なども助成した。即効性ある対策から、中長期的な視点での新規就農者育成までJAの自由な発案に対して補助し、助成額は総額8400万円(計画ベース)となった。
JAきたそらちは、道外の移住者や地域の若者らを呼び込むため、法人就農による人材確保に向けて農家の法人化を推進。事業を活用して今年度から毎月1回税理士を招き、無料の相談会を開く。法人化を目指す組合員から「専門家の意見を聞ける」と好評だ。
JA北オホーツクは農業後継者を確保するため、新規就農者の研修を行うJA出資型法人を立ち上げた。事業を新規就農者や従業員の居住施設の建設に活用。JAは「中長期的な視野で新規就農者を受け入れ、地域の後継者対策につなげたい」と話す。
JA今金町は、約40人のパート従業員らが働くジャガイモの共選施設の労働環境を整備。施設ではトイレが和式で、高齢の従業員には足腰の負担も大きかった。事業を活用し、簡易水洗の洋式に整備。今後は人材派遣なども活用し、人手確保に力を入れたい考えだ。
この他のJAでは、入国できなかった外国人技能実習生の入国前講習の費用や、空港での待機に対する宿泊や移動の補助など、実習生受け入れについて支援するケースもあった。
JA北海道中央会の小野寺俊幸会長は「JAによる技能実習生らの代替人材の確保、人材定着に向けたさまざまな環境整備など、国の事業では対応しきれない多様な取り組みを促すことにつながった」と話す。
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2021年01月25日

大雪「早期に対応策」 秋田県横手市を視察 葉梨農水副大臣
葉梨康弘農水副大臣は24日、昨年12月からの記録的な大雪被害を受けた秋田県横手市を視察した。大雪で倒壊したパイプハウスを視察するとともに、行政関係者らと意見交換を行った。農家からは営農再開に向けた要望があり、葉梨副大臣は「早期に対応策を示すことで、生産者が営農意欲を失わないようにしていきたい」と話した。
葉梨副大臣は雪によって144棟のパイプハウスが壊滅的な被害を受けたホウレンソウ団地を視察した。……
2021年01月25日
地域内外の知恵生かす 関係人口創出モデル報告会
鳥取県と長野県塩尻市は23日、「関係人口」の創出に向けた事業の報告会をオンラインで開いた。地域の住民や企業だけでなく外部の専門家らを巻き込みながら、関係人口を呼び込む企画を立案、実践する同市独自の手法を紹介。同市を参考に、農業分野の関係人口づくりを目指す鳥取県内の事例なども報告した。自治体職員や関係事業者ら約90人が参加した。
塩尻市は関係人口を呼び込む活動を企画立案し、実行するまでのプロセスを紹介。住民や企業が専門家の助言を受けて課題を整理し、活動の内容をまとめた「仕様書」を作成。実践に当たっては外部人材を募り、地域外の視点も入れながら進めているとした。
具体例として地場産ワインの消費拡大に向けて、広報の専門家の協力を受けてファン組織を設立。オンラインイベントも開いたことを報告した。
塩尻市の手法に注目した鳥取県は、関係人口の創出を目指す県内の自治体に情報を提供。実践に移している地域が内容を報告した。このうち大山町は、農業の担い手と労働力不足の解決を目指し、関係人口を呼び込む計画を発表した。鳥取県主催で「まちづくりワーケーションフォーラム」も開いた。休暇で訪問した先で働くワーケーションの将来像と関係人口の創出について、有識者らが意見を交わした。
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2021年01月24日

奈良・明日香村移住者へ 「農+観光業」を提案 収入安定し放棄地も解消
奈良県明日香村は、観光業を営むために村に移住した人などを対象に、耕作放棄地を活用して農業に取り組んでもらうプロジェクトを2021年度から本格的に始める。初心者でもできるように、耕作放棄地を整備して貸し出し、作業も手厚く支援する。より収入が安定する「農業+観光業」の暮らしを提案し、移住の加速と耕作放棄地解消につなげる。
整備後に貸し出し
明日香村には飛鳥時代の史跡が多く残され、年間約80万人が訪れるなど観光が盛ん。……
2021年01月23日

防疫対策で養豚中止 鶏舎に改良 岡崎おうはん初出荷 愛知県立猿投農高
愛知県豊田市の県立猿投農林高校は、今年度から地元のブランド鶏「岡崎おうはん」の飼養を始め、1月中旬に肉の初出荷を迎えた。きっかけは2019年に県内で猛威を振るった豚熱。飼育していた豚を防疫のため全頭出荷後、豚舎が老朽化していたため再導入を諦めていたが、生徒主体で平飼いの肉用鶏舎としてよみがえらせた。生徒らは「高校の新たな名物にしよう」と奮闘している。
「新名物に」奮闘
同校では母豚5頭を飼い、繁殖と肥育をしていたが、豚熱拡大を受けて19年11月までに全頭を出荷した。……
2021年01月23日

[震災10年 復興の先へ] 「酪農復興」誓い前へ 800頭規模に成長 福島の牧場「フェリスラテ」
東京電力福島第1原子力発電所事故で多大な被害を受けた福島県の酪農。復興を胸に誓い、被災者5人で立ち上げた福島市の復興牧場「フェリスラテ」は、飼養頭数800頭と東北トップクラスの規模に成長し、繁殖から子牛の育成、搾乳までの一貫生産体制を整えた。被災地の酪農をけん引し、完全復興に向けて歩みを進めている。(高内杏奈)
一貫生産体制整える
福島駅から車で約20分。市街地から西に進み、桃やブドウの果樹園を抜けると、3・6ヘクタールの広大な敷地に白く輝く牛舎がそびえ立つ。牛舎はフリーバーンで、牛は自由に歩き回り、ゆったりとわらをはむ。パーラーは一度に40頭搾乳でき、1日の出荷乳量は15トン。飼料作りは国内最大級のミキサーを使う。
「嘆き悲しむだけじゃ変わらない。酪農に関わり続けるため必死に築いた」と話すのは田中一正代表。牛舎の設計から携わった。
2014年に設立したフェリスラテは、福島県酪農業協同組合が事業主体。田中代表ら被災した酪農家に呼び掛け、5人が役員として運営。19年には分場をして、震災後は酪農が途絶えていた飯舘村で乳牛の育成を始めた。もと牛の育成に限定した牛舎で200頭を飼う。県内で繁殖から育成、搾乳までの生産システムを整えた。「道のりは長かった。福島の酪農を再建したい、その思いだけでやってきた」(田中代表)。
原点の地でもう一度
事故当時、県酪農協の組合員のうち3割が浜通り地区におり、その大部分が避難指示区域になった。区域外への流出・餓死・事故死した牛は約2500頭に上り、同県酪農の基盤が大打撃を受ける事態になった。
飯舘村にいた田中代表も、当時飼っていた乳牛50頭の半数を殺処分せざるを得なかった。「何が何だか分からない状況。牛をと畜場に運ぶ家畜車が自分の所に来た時は、悲しみと牛に対しての申し訳なさでいっぱいだった」と振り返る。
関東の大規模牧場で経験を積んだ田中代表は01年、同村長泥地区を経営の場に決めた。“俺の牛舎だ”と胸を張って見上げた時の牛舎の香り、優しい風、期待感を今でも覚えている。ただ牛が好きだった。
そんな思い入れのある村から避難を強いられ、知り合いを頼りに隣県の牧場で働いた。「やっぱり出発点の福島で、もう一度酪農をしたい」。県酪農協から打診があったのはそんな時だった。
フェリスラテの従業員約30人のうち、7人はまだ20代だ。田中代表はマニュアル化や月1回の勉強会を通して次世代育成に取り組む。
搾乳担当の丸森成美さん(23)はテレビ番組でフェリスラテを知り、短大卒業後に就職した。「若手の意見を尊重してくれる。福島の復興に向け、もっと戦力になりたい」と笑顔を見せる。
長泥地区は今も避難指示が解除されていない。田中代表が考える完全復興は、出発点だった長泥地区でもう一度酪農ができるようになることだ。「ハード面の復興は進んだが、『時間が進んでいない場所』がある現実を無視できない」と強調する。
今後は和牛肥育を拡大する予定だ。完全復興のその時まで、フェリスラテの挑戦は止まらない。
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2021年01月23日

ダンスで「広島レモン」PR テレビ局企画動画で配信 果実連が参加
県を代表する特産かんきつ、レモンをダンスでPRする企画が始まった。中国放送(RCC)のレモンを冠した公式キャラクター「レモナルド・レモンチ」のオリジナルダンスを視聴者が踊り、動画を撮影して投稿する参加型ダンスイベントだ。……
2021年01月22日

厄介者「カヤの実」 ナッツ、食用油 人気加工品に 伐採「待った」 奈良県曽爾村
奈良県曽爾村は、村に群生するカヤの実を資源として見直し、地域活性化につなげる。ナッツや食用油など全国から注文が集まる加工品を相次いで開発。実の回収や加工で村に新たな仕事を生み出し、食べ方などの伝承を通して村民の交流も促す。かつて道を油だらけにしていた厄介者の実を、地域振興の“潤滑油”として生まれ変わらせた。
「いってカリカリのおやつにして食べるのが、子どもの時は大好きだった」。……
2021年01月22日

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(下) 引きこもり生活一変 新たな居場所 たくましく歩む
「自信はまだないけれど、怖いほど迷いがない。きっと僕は農業が好きなんだと思う」。新型コロナウイルス禍の2020年度に日本農業実践学園に入校した18人の中で最年少、28歳の雙田貴晃さんが、ナスを促成栽培する温床を作ろうと土壌を掘り返しながら、白い歯を見せた。
挫折からしばらく引きこもりの生活が続いた。外の世界に連れ出してくれたのが農業だった。
諦めた司法試験
「理系一家」の末っ子だ。……
2021年01月21日

地元産トロロアオイを伝統和紙に 産地復活へ技術磨く 島根県浜田市・農家ら委員会
国の重要無形文化財やユネスコ無形文化遺産に指定された伝統工芸品「石州半紙」の産地、島根県浜田市三隅町は、和紙の粘着剤として使うトロロアオイの産地復活に取り組む。2020年は10戸が約5アールで栽培し、140キロを収穫した。地元の和紙職人が求める品質に向けて栽培技術を高めながら、23年までに生産量を倍増させ、安定供給で特産品と伝統文化の伝承を支える。
トロロアオイは「花オクラ」とも呼ばれるアオイ科の植物で、根から出る粘液が和紙の粘着剤となる。地元では1950年代まで栽培されていたが、近年は主に茨城県産を使っている。
活動の中核を担うのは、同町黒沢地区の住民でつくる黒沢地区まちづくり委員会。2012年に地域振興の一環でトロロアオイの特産化に乗り出した。種を入手して栽培したが、当初は和紙職人が求める根が太く長いものができなかった。
生産者の野上省三さん(81)は「栽培方法が分からず手探りだった」と振り返る。栽培講習会で畝の立て方や病害虫対策、芽かきなどを共有し、栽培技術を高めた。
今は職人からの評価も上々だ。和紙工房4戸でつくる石州和紙共同組合の組合長を務める川平正男さん(79)は「年々レベルが上がっている。高品質な地元産が安定供給されればありがたい」と歓迎する。
国内のトロロアオイ産地は減少している。19年には、主産地の茨城県の生産者が生産終了を検討していることが報道された。また、宅配便や郵便料金の値上げで輸送コストも上がり、和紙職人の地元産への期待は大きい。
同委員会は、地元の需要量を350キロと算定。23年に20戸で生産量300キロを目指す。齋藤正美会長は「地域一丸で、和紙作りとトロロアオイ栽培の双方を次世代につないでいきたい」と意欲を見せる。
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2021年01月21日