農政局2030年予測 中四国8割の地域 農家減少止まらず
2019年11月21日

ソバ畑で「個人の力で地域の農地を維持するのは難しい」と話す岡本さん(徳島県三好市で)
中山間地が多い中国四国地方で、農家の減少が止まらない。中国四国農政局が10月にまとめた2030年の予測では、15年に比べ旧市町村単位で8割の地域の基幹的農業従事者が減少。徳島県では市内全域で40%以上の減少が見込まれる自治体もあり農業の存続が危ぶまれる状況だ。食料・農業・農村基本計画の見直しが議論される中、専門家は生産基盤の立て直しに十分な対策を求めている。(丸草慶人)
「このままだったら、10年後は地域の農業がなくなってしまう」と危機感を持つのは、徳島県三好市東祖谷でソバ40アールなどを栽培する岡本文博さん(77)だ。山に囲まれた集落には住居が並び、隣には草を刈った耕作放棄地が点在している。
山あいの地域では、ソバやジャガイモが伝統的に作られてきた。市は栽培面積を維持するために独自で助成事業を実施。しかし、18年度のソバの申請面積は約7ヘクタールと5年前に比べて4割減。栽培面積の減少に歯止めがかからない。
岡本さんは「急傾斜地で機械がほとんど使えない。地域全体で高齢化が進んで、手作業を負担に感じて栽培する人が減った」と説明する。
農政局の予測で徳島県は中国四国9県で唯一、基幹的農業従事者が増加する地域がなかった。特に山間地の同市は、傾斜15度を超える急傾斜地が9割超に上る。基幹的農業従事者も旧市町村単位の市内の地域全てで、「減少率40%以上」の予測となった。
市によると、中山間地域等直接支払制度の第4期移行時(15年)に61あった集落協定は、現在43に減った。20年度に控える第5期の移行時にも減る見込みで、「高齢化と担い手不足に歯止めがかからない。特に急傾斜地農業では生計が立てにくく、就農につながりにくい」(市担当者)と指摘する。
同農政局がまとめたのは「2030年の基幹的農業従事者の増減率」。05~15年の平均増減率を基に、15年の農林業センサスの数値から予測した。その結果、旧市町村単位で中国四国地方の2166地域を見ると、78%の1690地域で基幹的農業従事者の減少が見込まれることが分かった。
このうち「減少率40%以上」が727地域と全体の34%を占めた。「減少率20~40%」は651地域で同30%、「減少率20%未満」は312地域で同14%となった。増加する地域は16%にとどまり、その他6%は基幹的農業従事者がいないなどの地域。
農家の減少は高齢化が影響している。15年の農林業センサスによると中国四国地方の基幹的農業従事者は65~69歳が19%、70~79歳が35%、80歳以上が20%と、全国平均を2~4ポイント上回り、高齢化が著しい。同農政局は「高齢農家がリタイアしても若年層が増えず、全国以上に高齢化が進んでいる」と指摘する。
中山間地が多いため、担い手への農地集積や経営の規模拡大が難しい。18年の農水省の調査によると、耕地面積に占める中山間地域の割合は中国四国地方が61%で、全国を17ポイント上回る。また全耕地面積に占める担い手の利用面積の割合は28%と、全国平均よりも28ポイント低かった。
中山間地域の厳しい現状に、持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長は「どれくらい就農すれば地域が存続できるかの具体的なシミュレーションと、呼び込む必要がある人数の設定をした方が良い」と話す。「特に、中山間地域は農業に加えて他産業やツーリズムなどと組み合わせた収入源の確保が必要」と指摘。その上で「中山間地域等直接支払制度の拡充など、政策支援で地域を支えるべきだ」と提言する。
「農業がなくなる」 徳島県三好市
「このままだったら、10年後は地域の農業がなくなってしまう」と危機感を持つのは、徳島県三好市東祖谷でソバ40アールなどを栽培する岡本文博さん(77)だ。山に囲まれた集落には住居が並び、隣には草を刈った耕作放棄地が点在している。
山あいの地域では、ソバやジャガイモが伝統的に作られてきた。市は栽培面積を維持するために独自で助成事業を実施。しかし、18年度のソバの申請面積は約7ヘクタールと5年前に比べて4割減。栽培面積の減少に歯止めがかからない。
岡本さんは「急傾斜地で機械がほとんど使えない。地域全体で高齢化が進んで、手作業を負担に感じて栽培する人が減った」と説明する。
農政局の予測で徳島県は中国四国9県で唯一、基幹的農業従事者が増加する地域がなかった。特に山間地の同市は、傾斜15度を超える急傾斜地が9割超に上る。基幹的農業従事者も旧市町村単位の市内の地域全てで、「減少率40%以上」の予測となった。
市によると、中山間地域等直接支払制度の第4期移行時(15年)に61あった集落協定は、現在43に減った。20年度に控える第5期の移行時にも減る見込みで、「高齢化と担い手不足に歯止めがかからない。特に急傾斜地農業では生計が立てにくく、就農につながりにくい」(市担当者)と指摘する。
中山間 高齢化響く
同農政局がまとめたのは「2030年の基幹的農業従事者の増減率」。05~15年の平均増減率を基に、15年の農林業センサスの数値から予測した。その結果、旧市町村単位で中国四国地方の2166地域を見ると、78%の1690地域で基幹的農業従事者の減少が見込まれることが分かった。
このうち「減少率40%以上」が727地域と全体の34%を占めた。「減少率20~40%」は651地域で同30%、「減少率20%未満」は312地域で同14%となった。増加する地域は16%にとどまり、その他6%は基幹的農業従事者がいないなどの地域。
農家の減少は高齢化が影響している。15年の農林業センサスによると中国四国地方の基幹的農業従事者は65~69歳が19%、70~79歳が35%、80歳以上が20%と、全国平均を2~4ポイント上回り、高齢化が著しい。同農政局は「高齢農家がリタイアしても若年層が増えず、全国以上に高齢化が進んでいる」と指摘する。
中山間地が多いため、担い手への農地集積や経営の規模拡大が難しい。18年の農水省の調査によると、耕地面積に占める中山間地域の割合は中国四国地方が61%で、全国を17ポイント上回る。また全耕地面積に占める担い手の利用面積の割合は28%と、全国平均よりも28ポイント低かった。
政策支援の拡充を
中山間地域の厳しい現状に、持続可能な地域社会総合研究所の藤山浩所長は「どれくらい就農すれば地域が存続できるかの具体的なシミュレーションと、呼び込む必要がある人数の設定をした方が良い」と話す。「特に、中山間地域は農業に加えて他産業やツーリズムなどと組み合わせた収入源の確保が必要」と指摘。その上で「中山間地域等直接支払制度の拡充など、政策支援で地域を支えるべきだ」と提言する。
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飼料米複数年に助成 10アール1・2万円、転作促す 農水省
農水省は2020年産米から、飼料用米や米粉用米の複数年契約に10アール当たり1万2000円の助成措置を新設する方針を固めた。取り組みに応じて、都道府県に対し、産地交付金を追加配分する。主食用米の需給安定に向け、転作拡大の柱となる飼料用米の作付けを促す。一方、19年産まであった多収品種への追加配分(同1万2000円)は廃止を含めて見直す方針だ。……
2019年12月15日
「WAGYU」拡大 和牛 味の改良で対抗を
「WAGYU」と表示される牛肉の生産が欧州で急速に増えている。日本から和牛肉を輸出するとき、海外産WAGYUとの競合は避けられない。和牛肉を選んでもらうための対策が必要だ。本家ならではの多様な遺伝資源を生かし、味の違いを際立たせるなど、WAGYUを意識した改良が求められる。
畜産技術協会が海外でのWAGYU肉の生産・流通実態調査をまとめた。報告書では、日本の和牛の純粋種や交雑種(F1)の飼育が、欧州で盛んになっている実態が垣間見える。
海外でのWAGYU生産の起点になったのが、1976年に日本から米国に渡った4頭の和牛だ。これを契機にオーストラリアなどを経由し、精液や受精卵が世界中に拡散。和牛の遺伝子を取り込んだWAGYU生産が、海外で広がってきた。
英国やスペインはWAGYUのブームのさなかだという。正確な飼養頭数は分からないが、2000年代後半から受精卵移植を利用して牛を増やし、英国では繁殖用の純粋種が推定500~1000頭。スペインの数字はつかめていない。また、ドイツでは17年の飼養頭数が種雄牛34頭、繁殖雌牛が282頭など、3年間で3倍に増えているというデータを載せた。
純粋種を確保した牧場では、受精卵、精液、生体を、欧州各国や中東に広く販売。流出した和牛遺伝子の拡散は今も続き、産地拡大の余力を秘める。
各地で生産された肉が欧州の大都市に集まる。ロンドンの有名百貨店やスーパーでは、地元の英国産の他、スペイン、米国、オーストラリア、チリ産などのWAGYU肉が見られたという。それは当然、輸出される日本産和牛肉と競合する。
本家といえども、敵地で必ず勝てる保証はない。欧州の牧場は欧州の消費者の好みを知っているはずだからだ。和牛肉の輸出を手掛ける関東地方のある牧場主は、日本の和牛は海外で「脂がおいしいと言って感激されている」と話していた。味が国際競争の鍵を握るとみる。
一方で、最近の和牛肉は脂肪が多く味が落ちたという声がしばしば聞かれる。国内の和牛枝肉共励会では、サシの入り具合や肉の色などで優劣を競う。味が審査されることは、まずない。しかも上位入賞牛はどれも似たような血統だ。霜降りの見た目は確かに美しい。だが、味はどうか。和牛ならではの脂の味を求める外国人に、さらには日本人にも、今の和牛の味は支持されるのか。調査が必要だ。
政府は30年までに和牛の生産量を倍増する方針を決めたが、味の改良も並行して進めてほしい。本家ならではの多様な遺伝資源を生かせば、短期間で食味が良くなるはずだ。これまでの改良はサシ偏重のきらいがある。策定中の家畜改良増殖目標にも味の改良を盛り込むことを求める。海外市場で戦うためにも、個々の生産者が味を意識した牛群改良に取り組むべきだ。
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2019年12月16日

「ごはん・お米とわたし」内閣総理大臣賞 作文・長町さん(香川) 図画・清和さん(静岡)
JA全中は9日、第44回「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクールの審査結果を発表した。最優秀賞の内閣総理大臣賞には、作文部門で香川県の長町そよかさん(高松市立栗林小6年)の「広がれ! お米の可能性」、図画部門で静岡県の清和羽音さん(長泉町立北中3年)の「おむすびは勉強のおとも」を選んだ。
文部科学・農水大臣賞に計12人、全中会長賞に6人を選んだ。受賞者は次の通り。
◇作文部門▽文科大臣賞=青木舞桂(山形県米沢市立北部小3年)山口哲平(茨城県小美玉市立羽鳥小6年)辻紗季(福井市足羽中3年)▽農水大臣賞=桂木花音(さいたま市立大谷場小3年)園部杏莉(山形県庄内町立余目第三小6年)大貫桜和(神奈川県厚木市立相川中1年)▽全中会長賞=小濱啓太(沖縄県石垣市立登野城小3年)野元理彩(長崎県壱岐市立霞翠小4年)麦倉惟月(栃木県宇都宮短期大学付属中1年)
◇図画部門▽文科大臣賞=今鹿倉由羽(大阪府堺市立野田小3年)菊永優介(同市立東百舌鳥小5年)皆川泉(宮城県涌谷町立涌谷中2年)▽農水大臣賞=川原田すみれ(佐賀県小城市立桜岡小2年)石松祐(松江市立乃木小6年)荒木音羽(佐賀県伊万里市立国見中2年)▽全中会長賞=右近敏明(高松市立古高松小2年)白浜早也花(佐賀市立鍋島小5年)桝本陸斗(広島市立井口台中1年)
コンクールは「みんなのよい食プロジェクト」の一環。子どもに農業の学びを深めてもらい、ご飯や米の重要性を周知する。全国の小中学生から、作文5万660点と図画6万767点の応募があった。
表彰式は2020年1月11日に東京・大手町のJAビルで開く。
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2019年12月10日

花の水揚げ正確に 絵文字17種配送ラベルに印字 オークネット・アグリビジネスが開発
インターネットによる花き取引事業を展開するオークネット・アグリビジネスは、切り花の特性に適した水揚げ方法を示すピクトグラム(絵文字)を開発した。同社によると、花き業界では初の試み。商品の配送ラベルに印字し、ひと目で理解できるようにする。知識や経験を問わず、小売店の従業員が誰でも正しい水揚げができるようにし、消費者への長持ちする花の提供につなげる。
切り花に水を吸わせる水揚げは、品質維持に欠かせない工程。水や湯を使う、茎を割る・たたく・焼くなど、さまざまな方法がある。品目や品種、スプレイ咲きかスタンダード咲きかなど、商品ごとに方法も異なる。
同社は、衣服の洗濯表示マークに着想を得て、絵文字開発に着手。尾崎進社長は「正しい方法を分かりやすく伝えれば、誤った方法による商品ロスや、店員の教育負担も減る」と、ニーズを語る。
ひと目で方法を連想できる絵文字を、17種類作った。同社が扱う約140商品を対象とし、商品配送ラベルに印字する。同じく印字した2次元コード(QRコード)を読み取れば、湯揚げにかける時間、水揚げ後の水管理など、より詳しい情報を得られる。
千葉県の生花店「U・BIG花倶楽部(くらぶ)」は、絵文字を参考にブバルディアで水揚げを実験。従来は空切りしていたが、茎を焼いた上で湯に漬ける方法に変えた。「水の含み具合に差が出たためか、葉に張りが出た」と効果を実感する。
開発に当たり、札幌市で生花店「フルーロン花佳」を経営し、各地で品質管理の講習を開く薄木建友氏が監修を務めた。薄木氏は「農家も小売り側の水揚げの仕方が分かれば、出荷時の管理の参考になる」と、産地にも有益な情報となることを期待する。
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2019年12月13日
ヨーグルト減速 多様な効能 消費反転へ
乳酸菌などの機能性と健康効果が広く知られ、急成長を続けてきたヨーグルトの消費がこの2、3年減っている。機能性をうたう食品が数多く登場し、需要の一部が流れているためだ。酪農振興のためにも、業界ぐるみでヨーグルトの多様な効能をアピールし、消費の定着と拡大につなげるべきだ。
ヨーグルトの生産量は、この10年で1・4倍以上に拡大した。乳業メーカーの推計では、ピーク時の2016年の市場規模は4000億円を超えた。総務省の家計調査(2人以上世帯)でも同年までは右肩上がりで、年間支出額は1万3495円と09年より6割以上増えた。
急成長の最大の要因は、乳酸菌やビフィズス菌の機能性と健康効果が広く知られたことだ。手軽なドリンクタイプが増えて消費増を後押しした。だが、市場規模は17年から減少に転じ、17、18年はいずれも前年比2%減。家計調査でも18年の支出額は1万3203円となった。
なぜ消費が頭打ちになったのか。機能性や健康効果をうたう食品が増えたためだ。同じ乳製品でも高い栄養価を売りにチーズが消費を伸ばした。乳酸菌市場で消費者の選択の幅も広がった。非乳業の大手食品メーカーも乳酸菌に注目し、飲料や菓子など乳製品以外の売り場に乳酸菌入り商品が増えた。
ヨーグルト消費の後退を食い止め、再び伸ばすことは可能だろう。この間、業界ぐるみで「人の健康に有益に働く生きた微生物(=プロバイオティクス)」の役割を広く発信し、腸内環境を「善玉菌」で整えることや、「腸活」の考え方を定着させてきた。健康管理の新たな知識を消費者に浸透させたのは画期的であり、ヨーグルト消費の土台をつくった。
民間調査会社の富士経済は乳酸菌・ビフィズス菌含有食品市場とのくくりで市場規模をまとめた。ヨーグルト消費が減少しても右肩上がりで、16年度の7400億円から18年度は7800億円に増加。20年度には8000億円に達する有望市場と捉える。その中にはヨーグルト以外の食品も含まれるが、腸活につながる消費行動が今後も活発化する可能性を示している。
大手乳業メーカーのヨーグルトの新たな提案にも注目したい。ビフィズス菌の効果を訴えるため森永乳業は、製薬会社や、大腸で同菌の餌となる水溶性食物繊維の製造会社と共同で「大腸活」の情報発信を始めた。雪印メグミルクは、目や鼻のアレルギー反応を緩和する「乳酸菌ヘルベ」入りヨーグルトを来年1月に発売する。機能性タイプで市場をけん引してきた乳業最大手の明治は、低カロリーのヨーグルトに商機を見る。
原料は近年、脱脂粉乳から風味の良い脱脂濃縮乳に移りつつある。だがパンや飲料など他の食品にも使われ需要に供給が追い付かない。ヨーグルト市場を拡大し酪農振興につなげるには、生乳の増産対策が不可欠だ。
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2019年12月10日
農政の新着記事

[ゆらぐ基 広がる危機](1) 疲弊する青果物輸送 5年で運べなくなる
農村と都市を結ぶ農畜産物の物流が揺らいでいる。深刻なトラックドライバー不足や人件費高騰が理由だ。日々の食べ物を遠方に頼る消費者の暮らしに影響が出かねない。一方、農村の人手不足対策には政府がスマート農業の普及に力を入れる。大きな期待がかかるものの、全ての課題を解決する万能の技術ではない。食を支える現場を追った。
全国の青果物が集散する東京都中央卸売市場大田市場。午後7時、翌朝取引する青果物を載せたトラックが、全国各地から次々と到着する。運転歴20年以上の40代ドライバーは、複数個を結束した重さ9キロのミニトマトの箱をトラックから降ろし、指定パレットに積み込む。ナンバーの地名は「佐賀」。1000キロを超える道のりを走破した後、この重労働に当たる。
青果物輸送はトラックの荷台に直接荷物を載せる「じか置き」が多い。「手荷役に2時間、長い時は4時間以上かかる」。翌日は長野県に向かい、リンゴを積み、佐賀に戻る。「きつい仕事なので若手のなり手が少ない」とつぶやく。
「過重」で敬遠 時間外規制も
輸送業者の本来の業務は輸送で、荷物を受け取るのは市場側の作業だ。しかし、青果物輸送はドライバーがサービスで荷役を請け負う。産地でも積み込みを輸送業者が担う事例が多く、青果物は他の荷より負担が大きい。九州の物流業者は「青果物を敬遠する業者が増えている」と明かす。
輸送業者の負担を軽減しようと国は7月から監視を強化。荷物の出し手・受け手がドライバーに重い負担を強いた場合、企業・団体名を公表する。事務局の厚生労働省は「悪質な場合は指導する」との姿勢だ。
「産地と市場が変わらなければ、5年以内に九州から関東へ荷を運べなくなる」
福岡県内の輸送業者でつくる福岡県トラック協会の食料品部会役員らは明言する。2024年4月にトラックドライバーの時間外労働上限規制が始まるからだ。
現状、多くの産地がドライバーの長時間残業を前提に、市場に青果物を運ぶようトラックを仕立てている。福岡から東京に運ぶ場合、夕方に受けた荷物を翌日の夜までに届けていたが、規制後に同じ日数で届けるのは難しい。遠隔地ほど安定供給が難しくなる。
同部会部会長を務めるイトキューの中原理臣社長は「青果物流通は、輸送会社だけの問題ではない。産地と市場も自分事として受け止め、合理化に向けた話し合いの機会をつくってほしい」と要望する。青果物輸送は、産地や流通業者だけでなく、消費地の実需者や消費者にも影響を与える国民的な課題といえる。
産地体制を再構築
輸送業者の窮状を受け、輸送体制の再構築に乗り出す産地もある。JA宮崎経済連は、選果場で集めた青果物の一部を、一度予冷庫で保存し、翌日出荷するようにした。前日に出荷量が確定するため業者はトラックの手配がしやすく、朝から積み込みができ余裕を持って荷物を運べる。
収穫から市場に届く日数が1日伸び、生産者の反発があったが、予冷した方が鮮度維持できること、輸送業者が厳しい状況であることを担当者が根気強く説明し、理解を得た。輸送業者の業務は効率化できるが、産地は予冷庫を使うためコストがかかる。
それでも改革に踏み切った理由について、経済連は「輸送業者は物流の基盤だ。今後も消費地に安定して運ぶには、歩み寄りが必要だ」と強調する。
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2019年12月16日

国産食材だけでカロリー確保なら 夕食はご飯焼き魚だけ 自給力低下あらわに 農水省推計
ご飯1杯と焼き魚1切れ──。農水省がこんな衝撃的な夕食メニューを示した。輸入食材に一切頼らず、国内の農地を目いっぱい使って食料を生産し、できるだけ多くの供給熱量を確保しようとした時に想定される食事だという。
同省は、国内の農地を最大限に活用した場合にどれだけの食料を生産できるかを表す「食料自給力」を推計している。
2018年の農地面積などを基に同省が計算した結果、米や小麦、大豆を中心に作付けするパターンでは、荒廃農地を再生利用しても、国民1人1日当たりに供給できる熱量は、1829キロカロリーと、体重維持に必要なエネルギー量2143キロカロリーに満たず、終戦直後の摂取熱量2000キロカロリーも下回る。
冒頭の夕食はその食事の一例だ。牛乳は3日にコップ1杯、鶏卵は10日に1個、焼肉は5日に1皿しか食べられない。
栄養バランスを一定に考慮すると、供給可能な熱量はさらに低下し、1429キロカロリーとなるという。
一方、芋類を中心に作付けすれば供給可能な熱量を2633キロカロリーまで上げることができ、輸入を含めた供給熱量の実績2443キロカロリーを上回る。ただ、この時の夕食は焼き芋2本、野菜炒め2皿、粉吹き芋1皿、焼き魚1切れといった具合だ。牛乳は5日に1杯、鶏卵は3カ月に1個、焼肉は19日に1皿になる。
食料安保か 飽食優先か
今回の推計は「日本の食料の潜在生産能力を示し、国民の共通理解を醸成する」(同省)狙いだ。
冒頭の食事メニューを見て、食料安全保障のためにも国内の農地や農業をきちんと守らなければならないと考えるのか、国産だけで豊かな食生活を続けるのは無理だから輸入に頼るしかないと思うのか。人によって反応は分かれそうだ。
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2019年12月16日
飼料米複数年に助成 10アール1・2万円、転作促す 農水省
農水省は2020年産米から、飼料用米や米粉用米の複数年契約に10アール当たり1万2000円の助成措置を新設する方針を固めた。取り組みに応じて、都道府県に対し、産地交付金を追加配分する。主食用米の需給安定に向け、転作拡大の柱となる飼料用米の作付けを促す。一方、19年産まであった多収品種への追加配分(同1万2000円)は廃止を含めて見直す方針だ。……
2019年12月15日

「森林サービス」創出 健康需要で産業化へ 林野庁
林野庁は、森林空間を活用した「森林サービス産業」の創出に乗り出した。森林空間そのものを活用し、これまでの木材生産・供給だけでなく、健康需要などを見据えて森林体験や商品開発で新たなビジネスを生み出し、山村地域に新たな雇用と収入を生み出すのが狙い。どれだけ多くの民間団体・企業の参入を促し、定着させることができるかが鍵となりそうだ。
同庁は、健康志向の高まりに加えて、企業が従業員の健康管理を考える「健康経営」の考え方が広まっていることや、インバウンド(訪日外国人)需要が伸びていることに着目。「健康」「観光」「教育」の観点で森林を活用して、新たな需要を取り込むのが「森林サービス産業」の狙いだ。子育て層を対象にした森林体験、企業の研修・保養利用などを想定する。
具体策を検討するため、同庁は有識者らでつくる森林サービス産業検討委員会(委員長=宮林茂幸東京農業大学教授)を設置。①エビデンス(効果)②情報共有③香イノベーション──の専門部会で議論に着手。19年度中に報告書を取りまとめ、20年度以降、モデル育成を本格化させる。
香イノベーション部会では、スギやヒノキなどを精油の原料として有望視。新たな市場形成を見据え、精油の効用やアロマテラピーでの使用状況などを調査する。
エビデンス部会は、森林浴などが健康に与える効果のデータを集積し、事業化を後押しする。今年度は研究成果などの情報を集める。
情報共有部会では、森林サービス産業に関心を持つ企業や団体、自治体などを引き合わせるプラットフォームの創設を構想。同庁は「Forest Styleネットワーク」を発足した。12月3日時点で63の企業や団体、地方公共団体などが加入。今後、新たな事業が生まれるきっかけを生み出す交流の場としたい考えだ。
同庁は「民間や自治体と協力し、モデル地域の育成を進めていく」(森林利用課)としている。
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2019年12月15日

農地減少 政府想定上回る 荒廃、転用2倍ペース 対策見直し必須
耕作放棄や農地の転用による農地面積の減少が農水省の想定を上回って進んでいる。2015~19年の5年間に発生した荒廃農地は7万7000ヘクタール、農地転用は7万5000ヘクタールに上った。それぞれ同省が想定した2・5倍、1・5倍のペースで増えた。農地の再生が一定程度進んだものの、新たな荒廃農地の発生や転用に追い付かない状況だ。
農地は1961年をピークに一貫して減少し、2019年は439万7000ヘクタールまで落ち込んだ。政府が15年に策定した食料・農業・農村基本計画に掲げる25年の確保目標440万ヘクタールを既に下回った。
19年までの5年間の減少面積は12万1000ヘクタールに及ぶ。同省が変動要因を分析したところ、5年間で新たに発生した荒廃農地と農地以外に転用された面積は、合計で15万2000ヘクタールに上る。一方、再生された農地面積は3万2000ヘクタールにとどまり、減少要因が増加要因を大きく上回った。
基本計画では、荒廃農地と農地転用を合計で8万1000ヘクタールにとどめつつ、2万7000ヘクタールの農地を再生することで、農地の減少を5万4000ヘクタールに抑える想定だった。
同省は、中山間地域等直接支払制度や多面的機能支払制度を使って農地保全に取り組んだ地域は耕作放棄が抑制され、農地の再生も想定以上に進み、政策が効果を発揮したとみる。一方、「高齢化の進展や担い手不足などで新たな荒廃農地の発生が大きく見通しを上回った」(農村振興局)と認める。
現行の対策だけでは、農地減少が十分に食い止められていないことが明らかになった格好。将来にわたり農地を確保するため、より踏み込んだ対応が求められそうだ。
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2019年12月14日
台風19、21号 農林水被害3180億円 営農再開に全力 農相
10月に東日本を中心に猛威を振るった台風19号の被害から2カ月がたつ中、農林水産関係被害額が3180億8000万円に上ることが農水省の調べで分かった。被災地では依然、営農再開のめどが立たない農家も少なくない。江藤拓農相は13日の閣議後会見で、現場の不安に向き合い、復旧に全力を尽くす考えを改めて示した。
江藤農相は「雪のシーズンが近づいてきていることもあり、来年のことについて、現場には大変な不安がある」との認識を示した。その上で「さまざまな手を使って、自治体との連絡を密にして農地の復旧に全力を尽くしていきたい」と強調した。
被害額3180億8000万円は12日現在で、台風21号に伴う大雨などの被害も含む。内訳は、農作物が149億2000万円、農業用ハウスが28億5000万円、農業・畜産用機械が71億4000万円、農地が771億1000万円、用水路などの農業用施設が1219億9000万円、林野関係が789億9000万円、水産関係が130億1000万円などとなっている。
一方、9月に関東地方などを襲った台風15号の被害額は5日現在で814億8000万円。これに19号などの被害額を合わせると3995億6000万円に達し、西日本豪雨の3409億1000万円を超える。
台風19号では、各地で河川の決壊が相次ぎ、水田や果樹園に土砂が堆積するなどの被害が広範囲に発生。政府は11月に復旧支援策を取りまとめた。
特に被害の大きいリンゴには、大規模な改植を余儀なくされる農家に対し、最大で10アール当たり150万円を助成する対策を打ち出した。ただ、被災地では業者の人手不足などで復旧作業が思うように進んでいないところもあるという。
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2019年12月14日

農水補正予算5849億円 政府・与党 和牛倍増へ奨励金
政府、与党は12日、2019年度農林水産関係補正予算案を固めた。総額は5849億円で、18年度に比べ152億円(2・5%)減。このうち来年1月に発効する日米貿易協定などの国内対策費は3250億円。目玉となる和牛生産の倍増に向けた「増頭奨励金」は、中小規模の農家への支援を手厚くするため、飼養頭数が50頭未満の繁殖農家に1頭当たり24万6000円を交付する方針だ。
増頭奨励金の交付単価は、50頭以上の農家が同17万5000円、都府県の乳用後継牛が同27万5000円とする。
奨励金を含む和牛・乳用牛の増頭・増産対策には243億円を計上。日米協定での牛肉輸出枠の拡大や中国への輸出解禁をにらみ、35年までに和牛生産を30万トンに倍増させる計画だ。
畜産地帯での機械や施設の整備を支援する畜産クラスター事業には409億円を充てる。規模要件を緩和し、中小農家の規模拡大を後押しする。
産地生産基盤パワーアップ事業(旧・産地パワーアップ事業)は348億円。流通拠点やコールドチェーンの整備に加え、中小・家族経営の継承の円滑化や堆肥を使った全国的な土づくりにも支援する。
担い手育成対策などには64億円を計上。40歳前後の就職氷河期世代に就農準備交付金を支給する他、50代の就農研修にも助成する。
棚田地域振興法の制定を受け、棚田・中山間地域対策に282億円を盛り込む。
公共事業費は2991億円。うち農地の大区画化・汎用化に270億円、水田の畑地化などに566億円を計上する。台風19号などの復旧対策は公共、非公共合わせて2144億円。
危害分析重要管理点(HACCP)に対応した輸出施設整備などに108億円、豚コレラ(CSF)やアフリカ豚コレラ(ASF)などの家畜伝染病予防費に57億円、先端技術を活用したスマート農業技術の開発・実証プロジェクトに72億円を計上する。
農林水産関係補正予算案は同日、農水省が自民党農林合同会議に示し、了承された。政府は13日にも補正予算案を閣議決定し、年明けの通常国会に提出する。
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2019年12月13日

「スマート」上積みへ 20年度予算 17日にも大臣折衝
政府・与党は12日、2020年度農林水産関係当初予算の詰めの調整に入った。転作助成や農地集積など重要施策の財源規模が固まる中、当初予算総額の前年度超えを目指し、「スマート農業実現」「輸出力強化の体制整備」の関連予算額を17日に予定する大臣折衝事項に設定した。予算の上積みに向けて、江藤拓農相の手腕が問われる。
農水省は同日、自民党農林合同会議で、20年度予算について、財務省との折衝状況を報告。転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金は当初予算比で165億円減の3050億円、人・農地プラン実質化や農地中間管理機構(農地集積バンク)による農地集積・集約の執行見込み額は212億円とした。
大臣折衝は、17日に江藤農相が麻生太郎財務相と面会する。会合に出席した江藤農相は「災害もあり、一連の経済連携協定も出そろう中、(農家に)希望を持ってもらえるよう先頭に立って頑張る」と決意表明した。
党農林・食料戦略調査会の塩谷立会長は当初予算案の内報額を「枝ぶりのいい内容」とした上で、大臣折衝事項について江藤農相に「しっかり交渉していただきたい。激励を申し上げたい」とエールを送った。JA全中の中家徹会長は「現場実態に合ったスマート農業、輸出拡大の加速化を実現してほしい」と期待を寄せた。
大臣折衝事項のうち、「スマート農業実現」については、中山間地域など条件不利地の担い手、労働力不足解消に向けて、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの先端技術を現場で導入・実証するための予算獲得を重視する。
輸出力強化に向けて同省は、農林水産物・食品輸出促進法に基づき、今後設置される政府の司令塔組織による輸出証明書の申請・交付システムの構築などを進めたい考え。欧米への牛肉輸出には危害分析重要管理点(HACCP)の認定が必要なことを踏まえ、HACCPに対応した施設など輸出拠点の整備も課題に挙げ、予算の確保を目指す。
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2019年12月13日

イノシシ捕獲に手引 環境、農水省 ウイルス拡散を防止
環境省と農水省は、豚コレラ(CSF)、アフリカ豚コレラ(ASF)対策として野生イノシシの捕獲に関する防疫措置の手引を作成した。国がイノシシ捕獲の手引を作成するのは初めて。野生イノシシの捕獲を強化する必要がある一方で、捕獲でウイルス拡散の恐れがあることから、狩猟者に防疫の手法を徹底する。
手引では、これまで農水省がイノシシ捕獲に関して通知していた文言や特定家畜伝染病防疫指針などを踏まえ、捕獲作業の事前準備から帰宅後の対応までを写真と共に掲載した。
現地に到着し、わなの設置や見回りをする前に手袋や長靴を装着するなど、作業ごとのポイントを解説。手袋は二重に装着し、内側のゴム手袋は洋服の袖口を覆うように着用するなど詳細に注意を呼び掛けた。
防護服や靴底の泥落としに使うブラシなどの持ち物チェックリストも併記している。環境省は「イノシシを捕獲する中で、豚コレラが拡大してしまうことを防ぐため、あらゆる捕獲に関する防疫手法をまとめた。手引を参考に、各地域で必要な防疫対策をしっかり行ってほしい」(野生生物課)と呼び掛ける。
手引は、アフリカ豚コレラが発生した際にも活用できる。
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2019年12月13日
来年度予算 農水2・3兆円台で調整 閣僚折衝で上積みへ
政府は11日、2020年度の農林水産関係予算を、19年度と同水準の2兆3000億円台とする方向で調整に入った。農水省は閣僚折衝で上積みし、総額の前年度超えを目指す。転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金は、当初予算比で165億円減の3050億円の方向。一方、19年度農林水産関係補正予算の総額は5849億円とする方針が固まった。……
2019年12月12日