洪水防げ農業ダム出番 「事前放流」空き確保 1級水系の全基で始動

加古川水系で最大の農業用ダム「呑吐(どんど)ダム」。4000ヘクタールを超える農地に農業用水を送る(兵庫県三木市で)

 台風や大雨による水害が頻発し、農業用ダムを洪水対策に活用する動きが広がっている。基準を超える雨量が想定される時に「事前放流」などでダムに“空き容量”を確保。増水した水をダムにため込み、河川の氾濫を防ぐ。全国の1級水系にある農業用ダム全265基で取り組みが始まり、防災・減災への効果が期待されている。(北坂公紀)

 ダムは①増水時に水を蓄え、洪水を防ぐ「治水ダム」②ためた水を農業や発電に使う「利水ダム」③両方の機能を持つ「多目的ダム」──に大別される。全国には、治水機能を持つダムが562基、利水目的のダムが898基ある。

 ダムに治水機能を持たせるには、増水時に水を蓄える空き容量を確保しておく必要がある。ただ利水ダムに空きを設けると、渇水時には水不足に拍車が掛かる。そのため、利水ダムが洪水対策で利用されることはほとんどなかった。

 昨年10月の台風19号で河川の氾濫が相次いだことを受け、政府は12月、利水ダムを洪水対策に活用する方針を決定。大雨が予測される3日ほど前から事前放流を行ったり、利水需要が少ない時期にダムの水位を下げたりして空き容量を確保することを決めた。

 1級水系にある利水ダムでは今年6月から一斉に運用を開始。ダムのある全国99水系で関係者が協定を締結し、利水ダムを治水目的で利用できるようになった。対象の利水ダムは620基で、うち農業用ダムは265基と4割強を占める。

 政府試算によると、増水した川の水を蓄えるダムの能力(洪水調節容量)は元々、全国の1級水系で46億立方メートル。今回、利水ダムを活用することで91億立方メートルに倍増するという。

 兵庫県内の14市町を縦断し、瀬戸内海に注ぎ込む加古川水系。全10基のダムのうち8基が農業用途で、農業用ダムが集中するのが特徴だ。半面、治水ダムは1基。洪水調節容量は19万立方メートルで、「規模は本当に限定的だった」(同県)。

 今回の運用変更で利水ダムを事前放流するなどして、同水系が新たに確保する貯水容量は最大1140万立方メートル。従来の60倍に増えた。うち8割は農業用ダムによるもので、農水省加古川水系広域農業水利施設総合管理所の生藤久明所長は「治水機能の強化に大きく貢献する」と話す。

 県が5月にまとめた試算では「1000年に1度」の大雨による浸水面積は同水系が県内最大。県は「利水ダムを活用できる意義は大きい。ダムの新設と違い、建設費がかからず、完成を待たずに即座に対策を打てる」(総合治水課)と話す。

 課題は雨量の予測精度だ。利水ダムの多くは、短時間でダムの水を大量に放流する設備を持たない。事前放流に時間がかかるため、大雨の事前予測が不可欠。ただ頻繁に豪雨災害をもたらす「線状降水帯」のように予測困難な現象もある。

 地域農業にとっても、大雨の予測が外れれば貯水量が回復せず、農業用水の不足につながる可能性もある。現在、代替水源の確保にかかる費用を国が負担する農業補償は考えられているが、収量の減少などへの補償は「実際に起きてから調整する」(国交省)という。
 

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