台風シーズン 用水路危険 年間80人犠牲に

秋山嘉三治さんを救助した秋山佳範さん。壁面から出っ張っている取水口にしがみついている嘉三治さんを見つけた(岡山市で)

 農業用水路での転落事故が多発している。国内の農業用水路の総延長は地球10周分に当たる40万キロ。年間60~80人が事故で犠牲となり、降雨で増水した用水路を見回り命を落とす農家も後を絶たない。自治体は転落防止柵の設置や、専門委員会の立ち上げで事故防止対策を急ぐ。秋の台風シーズンを迎え、識者らは豪雨時の見回りを避けるよう呼び掛けている。(鈴木薫子)
 

「気の緩み」で転落 見回り避けて


 総延長4000キロ以上の農業用水路を抱える岡山市。農地と住宅が点在する北区玉柏で8月12日正午ごろ、稲作農家の秋山嘉三治さん(82)は用水路に転落した。1メートル30センチほどの水かさだったが水流が速く、およそ200メートル流された。

 壁面から出っ張っている取水口にしがみつき、1時間半後に近くを通った近所に住む野菜農家の秋山佳範さん(37)に、はしごで救助されて一命を取り留めた。

 用水路沿いの家には昔の名残で、野菜や服を洗うため、家の前から用水路につながる場所がある。嘉三治さんは、農作業後にそこでズボンと足を洗っていて、足を滑らせ用水路に落ちた。

 「ごろごろした石で足場が悪く、踏ん張ることができなかった」と、嘉三治さん。水面から顔だけ出した状態で助けを待った。「気が緩んでいたのかもしれない。もう少し遅ければ、辛抱できなかった」と、恐ろしい経験を振り返る。

 用水路での死亡者数が全国でも突出していた岡山市は、2016年度に事故防止に乗り出した。警察や市町村との一斉調査で2507カ所を危険箇所として把握。17~19年度で8億円かけ、1477カ所にガードレールや大型反射板を設置した。20年度は2億円で300カ所を整え、22年度に全ての危険箇所の整備を終える計画だ。

 市内の14~16年の水路転落件数は391件で、死亡者は34人。17~19年は384件で死亡者は25人。市は「対策が事故防止に効果を発揮しつつある」(道路港湾管理課)と説明するが、「危険箇所ではない所で事故が起こることもある。警戒してほしい」と訴える。

 香川県も2日、用水路等転落事故防止対策検討委員会を立ち上げた。例年の死亡事故は3~6件だが、今年は7月末時点で6件発生。用水路の数などを把握するために、現地調査を進める。

 警察庁が把握する用水路事故の死者・行方不明者は19年は全国で57人。16年は81人で、直近5年間で最多だ。

 豪雨災害や防災情報を研究する静岡大学防災総合センターの牛山素行教授の調べによると、1999~2018年の風水害による犠牲者は1259人で、増水した河川に転落するなどで死亡したのは242人(19%)だった。そのうち58人が水田・水路の見回り中に命を落としている。

 牛山教授は「風水害の犠牲者の約半数は、通勤や屋外での作業中、用水路を見に行くなど日常的な屋外での行動で被災している」と分析。「風雨が激しい時の屋外での行動は、非常に危険性が高く、避けるべきだ」と指摘する。

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