いつの間に…900頭消失 浮かび上がる男女の姿 [家畜はどこへ 広域盗難を追う](上)

養豚農場が集まる赤城山の南側斜面。群馬県内の被害農家の半数がこの地域にある(前橋市で=富永健太郎写す)

 「あれ? 帳簿の数と合わないな」。梅雨の晴れ間がのぞいた7月2日、群馬県内にある養豚農場の肥育担当者は、肥育を終えた豚を数え直した。豚は動き回るから、数え間違いかと思ったが、何度数えても「いるべき頭数」より少ない。帳簿の数字が間違いか?

 畜舎には50頭ずつ収容できる豚房が30近くある。全ての豚房で頭数確認を進めていくと、全房で数頭ずつ足りないことが分かった。各房の不足数を足した担当者の背筋は凍った。400頭も消えていたのだ。
 

遅れた「発覚」


 繁殖から肥育までを行うこの農場は、離乳した子豚を豚房に分散して収容し、半年かけて肥育する。頭数把握は、豚房に入れた時と、半年後の肥育終了で退出させる時の計2回行い、この間に死んだ豚の数を差し引けば帳尻は合う。

 消えた豚は400頭を超えており、事情を知らなければ「なぜ、気付かない」と思う。だが豚舎はいつも無施錠で、施設に損壊されたような痕跡はなく、各房から数頭ずつ消えている状況では、日常業務の中で見抜くことは困難だった。経営者は「盗難」を確信し、すぐに警察へ連絡した。

 発覚の遅れは警察の対応に影響した。被害確認のため訪れた警察官は「どの個体がいつ盗まれたのか」を尋ねた。窃盗事件として捜査する前提だからだ。農場側もそれが分からないから困っていたのだが、それでは被害届を出せないと言われた。

 「それでは、どうすればいいのか」。悔しさは深まるばかりだった。

 これが、群馬、栃木、茨城、埼玉の4県をまたぐ半径50キロ圏で豚を中心に牛や鶏などの盗難が相次いで発生、発覚していく“前代未聞の夏”の始まりだった。
 

23分の「証拠」


 被害届が保留された4日後の7月7日から、農場は全豚舎を施錠し、人感センサーで照明と同時に作動する防犯カメラを敷地入り口付近に設置した。「犯人は事件の発覚を知らないから、また盗みに来る」と考えた。

 

7月7日夜、群馬県内の養豚農場に不法侵入した3人のビデオ映像
 設置当日の夜、さっそく防犯カメラが不審者の姿を捉えた。農場が無人になった午後9時半すぎ、人の動きを感知して点灯した明かりに照らされたのは若者風の3人だった。1人は右手に刃物を持ち、1人はスカート姿だった。

 3人は農場への一本道を歩いて侵入し、画面から消えた20分後、今度は無灯火の軽乗用車がやって来た。その3分後、車は来た方向へ走り去った。それ以降、3人が立ち去る姿が写っていないことから、車に乗っていたとみられる。

 この間、23分。「運転手を含む少なくとも男女4人が盗みに来た」と推定できる映像だった。

 2日後、犯人を見つけても深追いしないことを決め、農場の従業員らが夜間に見張っていると、軽乗用車が近づいてきた。車は途中で引き返したが、道路脇に乗り捨てられた状態で見つかり、後日、警察が押収した。車は一時抹消登録されており、公道を走れないのに走っていたことになる。車内には個人の特定につながる遺留品も残されていた。

 このグループは、数日置きに無人となる夜間から未明に侵入し、乗用車に積める数の豚を盗んでいたと推定された。「長期にわたり少しずつ盗まれた」被害状況を裏付けた農場の執念だった。

 新型コロナウイルスの影響で経済が冷え込む中、北関東を中心に盗まれた家畜家禽(かきん)は900頭・羽に迫る。果実など農産物の盗難も増え、農家は犯罪被害のリスクにもさらされている。事件の真相を探り、影響を考える。
 

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