「七福芋」地域で守る 生産拡大、商品開発も 愛媛・新居浜市
2020年11月26日

「七福芋」を収獲する七福芋本舗の社員ら(愛媛県新居浜市で)
愛媛県新居浜市の沖合いにある人口約130人の大島で、特産の白いサツマイモ「七福芋」による島おこしの取り組みが広がっている。生産者の高齢化などで衰退する島の特産品を守ろうと、個人や法人が島に通い「七福芋」の生産を支える。地元の食品業界もスイーツ、焼酎など多彩な商品開発で後押しする。今年は15トンの生産を見込む。
「七福芋」は見た目が白く、高糖度で濃厚でねっとりした食感が特徴。市内では大島以外の栽培が難しいとされる。1998年には45人が3・7ヘクタールで栽培、生産量は37トンだったが、生産者の高齢化などで存続の危機を迎えていた。今年は島内外12人の生産者と2法人が1・5ヘクタールで栽培している。
75アールで栽培する七福芋本舗は、地域支援事業と位置付けて、生産、加工、販売まで一貫して取り組む。個人生産者の芋も買い取り、青果販売の他、規格外品をダイスやペーストに1次加工し菓子材料向けなどに販売する。
同社営業部の白石寛樹部長は「さらに生産拡大し、市内全校の学校給食への提供や秋の味覚として市内飲食店で取り扱ってもらえるようにしたい」と意欲を見せる。
市内の菓子店や飲食店は、同社の1次加工品を使ってクッキー、ようかんなどを商品化。大島と「七福芋」のPRに一役買っている。11月には大島担当の地域おこし協力隊員が着任し、「七福芋」と地域活性化を支援する。
市農林水産課は「七福芋は工業都市・新居浜の数少ない特産農産物。生産量を増やして市民の認知度を高め、手軽に食べられるようにしたい」という。
「七福芋」は見た目が白く、高糖度で濃厚でねっとりした食感が特徴。市内では大島以外の栽培が難しいとされる。1998年には45人が3・7ヘクタールで栽培、生産量は37トンだったが、生産者の高齢化などで存続の危機を迎えていた。今年は島内外12人の生産者と2法人が1・5ヘクタールで栽培している。
75アールで栽培する七福芋本舗は、地域支援事業と位置付けて、生産、加工、販売まで一貫して取り組む。個人生産者の芋も買い取り、青果販売の他、規格外品をダイスやペーストに1次加工し菓子材料向けなどに販売する。
同社営業部の白石寛樹部長は「さらに生産拡大し、市内全校の学校給食への提供や秋の味覚として市内飲食店で取り扱ってもらえるようにしたい」と意欲を見せる。
市内の菓子店や飲食店は、同社の1次加工品を使ってクッキー、ようかんなどを商品化。大島と「七福芋」のPRに一役買っている。11月には大島担当の地域おこし協力隊員が着任し、「七福芋」と地域活性化を支援する。
市農林水産課は「七福芋は工業都市・新居浜の数少ない特産農産物。生産量を増やして市民の認知度を高め、手軽に食べられるようにしたい」という。
おすすめ記事

原動機1台で内張り2層を同時展張 茨城・施設ピーマン栽培の須之内さん
茨城県神栖市でピーマンを施設栽培する須之内康至さん(66)は、内張りカーテン2枚をビニール巻き取り用の原動機1台で張る方法を取り入れ、省力化につなげている。2枚のカーテンの端を固定し、同時に展張する仕組みだ。
カーテンの端固定
須之内さんは、栽培面積95アールのうち、促成作型の30アールで10年ほど前から取り入れている。カーテンを展張する仕組みは、親戚に改良してもらったものだ。
ワイヤ巻き上げ式の内張りカーテンを、3重に被覆する。屋根側の2層のビニールの端を、直径約1センチの鉄パイプにパッカーで固定。下層のビニールは、たるむほどの余裕をもたせてある。
張ったカーテンを確実にしまうために、ビニールを固定した鉄パイプと、下層のビニールを支えるワイヤをひもでつないだ。
カーテンの操作は手で電動スイッチを押すタイプ。午前8、9時に下層のカーテンから開け、午後4時ごろにカーテンを閉める。
「カーテンの開閉は毎日の作業。電動だが操作が一つ減るだけでも、省力的に感じる」と須之内さんは実感する。
ビニールを巻き上げるワイヤが伸びて長くなり、巻き上げが不十分になることがあるため注意が必要という。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=R_dqGEomQ4w
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月12日

鳥インフル対策徹底を リーフ作成 農水省
農水省は高病原性鳥インフルエンザの多発を受け、養鶏農家に注意喚起するリーフレットを作成した。今季は渡り鳥の飛来地の他、道路や公園、森などにもウイルスが多量に存在するとし、飼養衛生管理の徹底など、対策への意識を高めてもらうのが狙い。都道府県を通じて配布し、同省のホームページなども活用して周知する。
今季は昨年11月以降、過去最多の15県36例の高病原性鳥インフルエンザの発生を確認し、殺処分羽数は合計で約600万羽に上る。また死亡野鳥や、池・ダム湖の水など10道県27件の環境試料からも高病原性のウイルスが検出されている。
リーフレットでは、今季は「多量に鳥インフルエンザウイルスがあちこちに存在」すると指摘した。特にハヤブサやフクロウの死亡個体からもウイルスを検出。鳥や小動物を捕食する猛禽(もうきん)類の感染は、環境中のウイルス濃度が高まっている指標になるという。また、今季のウイルスは感染してから死亡するまでの期間が長い傾向がある。リーフレットでは養鶏農家が早期発見できるよう症状も紹介。とさかのチアノーゼや顔面の浮腫性腫脹(しゅちょう)、突然死などを写真で示した。
対策では、ウイルスを農場内に入れないことを強調。手指消毒や車両消毒、防鳥ネットの管理など全従業員による飼養衛生管理の徹底を促した。同省は「国の支援も活用し、防疫対策をより強化してほしい」(動物衛生課)と話す。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月15日
広がり続ける豚熱 未発生地域も防疫徹底
豚熱の感染地域が広がり続けている。昨年末には山形県と三重県で相次いで発生。東西にそれぞれ拡大した。未発生地域も含め、農場での防疫の要点をあらためて確認・徹底しよう。
山形県で発生したのは昨年12月25日。2018年に国内で26年ぶりに発生してから10県目となる。29日には三重県で発生し、同県で2例目、全国で61例目となった。この農場は、沖縄県を除くと最も西に位置する。
いずれも予防的ワクチンの接種農場だった。しかし、山形の発生農場では初回の接種を終えていたが、感染した豚は出荷間際だったため、と畜場法に従って打っていなかった。三重県で感染したのは離乳したばかりの豚で、接種する前だった。
ワクチン接種の空白期間を突かれた格好だ。農水省や大学の研究者らは、ワクチンだけで完全に感染を防ぐことはできないと繰り返し指摘する。接種しても十分な免疫を得られる豚は8割程度とされ、飼養衛生管理基準で定めた消毒や衛生対策が全ての農場に求められる。
特に離乳豚の場合、未接種期間が必ず生じる。母豚からの移行抗体が効果を失う前にワクチンを打っても新たな抗体ができにくく、生後50~60日の接種が望ましいとされるためである。
制度面からは防疫対策が拡充・厳格化される。ワクチン接種の頻度は農場ごとに月3回程度必要だ。しかし接種できるのは都道府県知事が公務員として任命する「家畜防疫員」に限られ、人手不足が懸念されている。民間の獣医師も任命を受けられるが、所属先によって兼業禁止や勤務先への休暇申請が必要になるケースがあることなどから任命が進まない実態があった。
そこで同省は防疫指針を変更し、都道府県知事が認定した民間獣医師も接種できるよう検討を進めている。ワクチンを打ったことを証明するため、空き瓶を全て回収するなど厳密な管理とする考えだ。
現状でワクチン接種推奨地域は、昨年末に対象となった秋田県を含め28都府県に広がった。ウイルス陽性イノシシの拡散を懸念し、同省は鳥取県、岡山県に対してもワクチン接種体制の構築を求めている。
4月からは、食品残さから製造する飼料「エコフィード」の新たな加熱基準の運用が始まる。昨年1月に沖縄県の養豚場で発生した豚熱は、加熱が不十分なエコフィードが原因とみられている。また、国際基準との照合などにより加熱対象を拡大、加熱方法も厳しくし、違反時の罰則も設ける。
防疫を制度的に整えても、要となるのは人の手による日々の作業だ。外国人技能実習生らも含めて十分な対応が必須である。日本養豚事業協同組合はベトナム語や英語などで防疫作業や豚関連用語などを対訳した冊子を作り、活用を促す。また、農場の防疫体制は、行政や獣医師、地域の仲間と力を合わせて点検することが大切である。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月13日
予算編成プロセス 活性化へ有効活用を 元農水省官房長 荒川隆氏
年末にかけて、税制改正、補正予算、翌年度予算が閣議決定されると、年中無休の永田町・霞が関かいわいにも年越しの静寂が訪れる。かつて、大蔵原案の一次内示から、課長折衝、局長折衝、次官折衝という事務折衝の後に、与党政調会長も交えた大蔵大臣室での大臣折衝へと続く一連の予算編成プロセスは、年末の風物詩だった。御用納めの12月28日までに終わることはなく、閣議決定後の端数整理で生ずる残額の割り付けのための「落穂拾い」と呼ばれる作業を終えて役人たちが家路に就く頃には、紅白歌合戦が始まっていたものだ。
自らの関連予算を一円でも上積みしようと、業界関係者が全国から地元の名物を携えて上京し、手分けして役所や国会議員に陳情を繰り返す。与党各部会は、連日早朝から会議を開き、折衝状況を聴いて役人を叱咤(しった)激励する。最終段階では、大臣折衝に赴く農水大臣を与党部会全員で送り出し、折衝から戻った大臣からその赫赫(かっかく)たる成果を聴取し、同席する業界団体代表たちがお礼言上を行う。一連の政治ショーはこんな形で進む。
昭和が平成に変わった頃から、このプロセスは簡素化されていった。年末ギリギリだった閣議決定日がしだいに前倒しされ、いつしか天皇誕生日の前には終わるようになった。倫理規程のおかげで業界からの差し入れもなくなり、半ばお祭り騒ぎだった省内も、予算担当者を中心とした地味なものに変わっている。
働き方改革のご時世だから、プロセスの簡素化に越したことはないし、新型コロナウイルス禍の今回は例年以上に静かだったようだが、編成された予算総額は過去最大となった。農政関連では、すったもんだの末に第3次補正コロナ対策として盛り込まれた次期作支援対策に1300億円余りが計上された。米価下落が懸念された2020年産米対応や大幅な深掘りが必要となる21年産米対策も、補正予算に350億円、当初予算に対前年同額の3050億円が確保された。「コンクリートから人へ」の被害者でもあった農業農村整備事業も、当初予算額をさらに伸ばして全国の事業要望に十分応えられる水準となったようだ。新基本計画で打ち上げられた「食と農の国民運動の推進」も、4億円と金額は少ないものの運動のはずみ車としての芽出しはできた。
これらの予算編成作業は、日の当たる政治プロセスの陰で黒衣(くろご)として働く霞が関の役人たちが、厳しい予算制約の中で知恵を絞り粘り強く財政当局と折衝した生みの苦しみのたまものだ。農業関係者におかれては、予算事業を有効活用し経営改善や地域活性化に努力するとともに、都市住民・消費者・経済界など各界各層を巻き込み、この国の農業・農村への理解を深める運動に取り組んでいただきたい。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月13日

TACブログで情報発信 毎週更新、アクセス10倍も 滋賀・JAグリーン近江
滋賀県のJAグリーン近江は、地域農業の担い手に出向くJA担当者(愛称TAC=タック)全員がブログを活用し、新型コロナウイルス下の情報発信につなげている。組合員へ訪問できないときも、栽培の注意点や研修会の案内など営農に関する情報を毎週欠かさず更新。新型コロナの支援に関する記事などは、普段の約10倍のアクセスを記録するなど注目を集める。
ブログは「JAグリーン近江TACブログ」で、今年度で10年目。……
2021年01月12日
地域の新着記事

[活写] “最辛”の熊対策
青森県中泊町で木炭の生産を手掛けるツリーワークは、インド原産の激辛トウガラシ「ブート・ジョロキア」と木酢液を使った熊の忌避剤を開発した。熊の出没が多い2020年は、全国から問い合わせが相次ぎ、受注が前年の10倍に増えたという。
商品名は「熊にげる」。ジョロキアから抽出した辛味成分と木酢液を混ぜた黒い液体だ。臭いが漏れ出るよう上部に穴を開けたペットボトルに入れ、畑の近くにつるして使う。
炭・木酢液を研究する谷田貝光克東京大学名誉教授の助言を受け16年に開発。青森や秋田、長野県などのトウモロコシ畑やリンゴ園で試験し、熊や猿に対する効果を確認した。
ジョロキアの施設栽培にも取り組み、製品のコストダウンに成功した。現在はハウス2棟で、製品2トン分の原料を収穫する。価格は1リットル入りで1万円。1ヘクタールの畑で約1年間使える量という。
同社代表の佐々木嘉幸さん(82)は「注文が増えている。原料が足りないので、栽培に協力してくれるよう農家に呼び掛けたい」と話す。
動画が正しい表示でご覧になれない場合は下記をクリックしてください。
https://www.youtube.com/watch?v=1MJ-IJGQgDc
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月17日

あす阪神・淡路大震災26年 記憶風化させない
未曽有の被害をもたらした阪神・淡路大震災の発生から、17日で26年を迎える。月日の経過に伴い震災の記憶が風化する中、本紙が当時報じた現場を改めて訪れた。関係者は「当時の様子を知る人はもうほとんどいない」と口をそろえる。震災の記憶をいかに次代へ継承するか。改めて問われている。(北坂公紀)
助かった命「奇跡」 兵庫県西宮市・卸売市場
地震発生から3日後の1995年1月20日付の1面。激しく倒壊した木造建築物を捉えた写真が、地震の規模の大きさを物語る。撮影されたのは兵庫県西宮市の西宮地方卸売市場だ。
「スーパーのバイヤーと取引していたら、不意に強い衝撃が走り、天井が落っこちてきた」。当時、同市場で青果卸・中善を営んでいた前田裕司さん(65)は振り返る。
震災当日は午前4時ごろから市場で働いていた。地震発生時は、地面から突き上げられるような縦揺れの衝撃が大きく「店にトラックでも突っ込んだのかと思った。はじめは何が起こったのか分からなかった」。
木造瓦屋根で2階建てだった建物は倒壊。ただ、山積みだった荷物の上に屋根がかぶさる形で、地面との間にわずかな空間が生まれた。「命が助かったのは本当に偶然だった」。奇跡的に犠牲者は出なかったという。
当初は再建を目指したものの、膨大な建設費などを前に話はまとまらず、2001年に閉場となった。
跡地にはスーパーなどが立ち並び、当時の面影はほとんど残っていない。前田さんは「当時の様子を知る人はもうほとんどいないと思う」と指摘する。
神戸市・農林中金事務所
「農林中央金庫神戸事務所も無残な姿に」。発生1週間となる1995年1月24日付の近畿・北陸面。3階部分が押しつぶされ、大きな被害を受けたビルの写真が説明文と共に掲載された。
神戸市内にある神栄(株)の本社ビルで、当時は1、2階に農林中金の事務所が入っていた。入社7年目だった同社執行役員の中西徹さん(56)は「当時、3階が職場だったが、出勤前だった。地震が3時間後だったら、おそらくつぶされていた」と話す。ビルは掲載4日後の28日から解体が始まり、1998年には跡地に新たにビルが建てられた。
農林中金の事務所は、95年2月からは仮設店舗で、同年7月からは仮店舗に移転して営業を再開。建て替え後のビルにも戻ったが、2002年に大阪支店に統合された。農林中金は「大阪支店でも当時を知る人は少なくなり、現在では3人しかいない」と話す。
近年、大規模な災害が頻発し、過去の災害の「記憶」と「教訓」から学ぶことは多い。今後起こる災害で被害を少しでも抑えるために、薄れつつある震災をどう次代に継承するかが問われている。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月16日

市来農芸(鹿児島)が連覇 和牛甲子園オンラインで最多33校
和牛生産に情熱を注ぐ全国の農業高校生“高校牛児”が集い、日頃の飼養管理の成果や肉質を競う「和牛甲子園」が15日、オンラインで開かれた。新型コロナウイルス禍による休校や活動制限を乗り越え、全国19県から過去最多の33校が出場した。頂点となる総合優勝には、昨年に続き、鹿児島県立市来農芸高校が輝き、2連覇を達成した。
JA全農の主催で、今回が4回目。……
2021年01月16日

農業施設被害5000棟超 大雪で東北・北陸など
記録的な大雪で東北3県と新潟、北陸3県では13日までに、合わせて5000棟を超えるパイプハウスなど農業施設の損傷、損壊の被害が報告された。除雪が追い付かず全体を把握し切れていないため、被害はさらに拡大する恐れがある。
各県が12日時点で把握した被害状況によると、岩手県では県南部を中心にパイプハウス2346棟に被害が出た。秋田県ではパイプハウスなどの農業施設1019棟が被害を受け、農作物を含めた被害額は3億円を超えた。山形県はサクランボや西洋梨など約65ヘクタールで枝折れなどの樹体被害や、パイプハウス474棟の被害が報告された。
新潟県は13日、大雪・暴風雪による農業の被害状況を発表。昨年12月14日から今年1月12日までの被害を取りまとめ、22市町村でパイプハウス785棟が損傷・損壊した他、6市でライスセンターや育苗ハウスなどの共同利用施設35棟が被害を受けた。ハウスの被害は強風によるビニールの破損などが多い。
北陸3県でも13日正午現在の各県のまとめによると、富山県ではパイプハウスや畜舎、農作業場は、全壊244棟を含む336棟が被害を受けた。石川県は累計で農業用ハウス307棟などの被害を確認した。福井県では農業用ハウスの損壊が130棟に上った。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月14日
「災害強い地域」切望 島根・江の川氾濫から半年 移転決定も課題山積
広島県と島根県を流れる1級河川・江の川が豪雨で氾濫してから14日で半年がたち、流域では災害に強い地域づくりを望む声が高まっている。平成以降でも8回の大きな水害に見舞われるなど、危険と隣り合わせの江の川流域。常態化する災害を乗り越えようと、集団移転や堤防建設が進みつつあるが、費用がかさむなど課題は山積みだ。(鈴木薫子)
美郷町
「腹を決めた。もうここには住めん」。江の川と支流の君谷川が流れる島根県美郷町港地区。自治会長を務める屋野忠弘さん(78)ら5戸は、地区内の高台にある安全な場所への集団移転を決断した。
江の川の直近の氾濫は2020年7月14日。同県だけでも8市町で全半壊42戸、床下浸水43戸、水田は213ヘクタールが冠水した。農林水産関係被害額は約20億円に上る。
同地区は川沿いに13戸が点在するが、地形が低い上に堤防がなく、農地冠水などの水害が毎年起きる。7月の豪雨では本流が増水して支流の水をせき止める「バックウオーター現象」が起き、家屋も浸水した。
住み慣れた土地を離れたくないという思いを抱えながらも、次世代を優先させた屋野さん。集団移転は、国の防災集団移転促進事業を利用。同年9月の町議会で請願書が採決され、移転先として地区中心部の集会所近くを希望した。
だが事業は思うように進まなかった。移転先は山を切り崩して造成する必要があるが、費用が想像以上に膨らんだ。造成費用の国の助成上限は1戸約1000万円だが、試算した費用は4倍近い。高齢の移転希望者が多く、高額の持ち出しは厳しい。屋野さんは「中山間地で条件に合う所を探すのは難しい。地形に見合った助成をしてほしい」と切実だ。
同町建設課の担当者は「住民の負担を減らしたいが、町の持ち出しが膨らむ」と頭を抱え、町は費用見直しや別の移転先の選定を進める。屋野さんらは「年寄りが今から新しい場所に溶け込むのは難しい」と考え、地区内での移転を希望している。
堤防建設急ぐ 江津市
2020年7月の豪雨による江の川氾濫で浸水した島根県江津市桜江町(中国地方整備局提供)
長さ194キロ、流域面積3900平方キロの江の川。堤防が必要な区間は154キロに上るが、20年3月末現在で27%に当たる41キロ分の堤防がない。水害が常態化している地域が多いが「堤防規模が大きく建設に時間がかかる」(国土交通省中国地方整備局河川計画課)ため、整備が遅れていた。
20年7月の大規模な氾濫を受け、江津市桜江町では建設が急ピッチで進むことになった。水田やカボチャ畑が冠水した同町小田地区では、今年6月に念願の堤防が完成予定だ。支流の田津谷川流域でも用地・建物調査が進む。
田津谷川が流れる同町川越地区の渡田自治会では、18年の西日本豪雨で被災した若い世帯2組が地区外へ転居するという苦い過去がある。自治会長の小松隆司さん(64)は「(これ以上の災害は)地区が衰退しかねない」と懸念。堤防の早期建設を望む。
<メモ> 防災集団移転促進事業
災害危険区域などの住居を安全な場所へ集団移転させるもので、事業主体は市町村。20年4月に住宅団地の規模要件が「10戸以上」から「5戸以上」に緩和された。移転先の用地取得や造成、住宅建設などの費用は、国が実質94%、市町村が6%を負担する。東日本大震災を除く同事業の実施状況は、35市町村で移転戸数1854。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月14日
鹿児島で鳥インフル 今季初、3・3万羽処分
農水省と鹿児島県は13日、同県さつま町の肉用鶏農場で鳥インフルエンザの疑似患畜を確認したと発表した。県は同日から約3万3000羽の殺処分などの防疫措置を始めた。同県は肉用鶏と採卵鶏を合わせた飼養羽数が全国で最も多い。高病原性と確定すれば同県での発生は今季初、国内で15県36例目。
県によると、12日に農場から死亡鶏が増えたと連絡があり、同日に簡易検査で陽性を確認。13日に高病原性の疑いがあるH5亜型と判明した。
農場から3キロ圏内の移動制限区域には8戸が約31万7600羽を飼育。半径3~10キロ圏内の搬出制限区域では33戸が163万7300羽ほどを飼う。発生農場周辺には消毒ポイントを設置した。
同日は、農水省の葉梨康弘副大臣が鹿児島県知事とウェブ会談を実施。会談後に開いた鳥インフルエンザ防疫対策本部で野上浩太郎農相は「野外に多量のウイルスが存在するものと強く意識をしてもらい、農場に持ち込まぬように飼養衛生管理を徹底いただきたい」と強調した。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月14日

新潟・北陸地方 記録的大雪 農業被害相次ぐ ハウス・物流影響大きく
冬型の気圧配置が強まり記録的な大雪となった新潟県や北陸地方では12日、懸命の除雪作業が続いた。ただ、生活道路や農道の多くは除雪が追い付かず、農家やJA職員が農地や農業施設に近づけない状況。被害の全容を把握するには、時間がかかる見通しだ。
新潟県上越市のJAえちご上越本店では、雪の影響で職員の出勤が通常の半分以下に限られる中、午前7時半ごろから職員約30人が雪かきに追われた。JA総務課の高橋一彦次長は「数日で2メートル超の大雪が降ったのは驚いた」と明かす。
管内の農業被害の把握はこれからだが、既に育苗ハウス8棟が雪による重みでつぶれたという報告が上がっている。県内では7日からの暴風雪により18市町村でパイプハウスの損傷などの被害が出ている。被害はさらに拡大する見込みだ。
福井県では、農産物の物流が滞るなどの影響が出た。
花き卸の福井中央花卉(かき)市場(福井市)は主要な道路が軒並み通行止めになった影響で11日のせり取引を中止。13日から通常通り行うが、入荷量は例年の5分の1以下になる見込みだ。
JA福井県直売所「喜ね舎愛菜館」(福井市)は8日ごろから出荷者が来られない状況が続き、12日には入荷も途絶えた。商品が少なく、短縮営業を続けている。
石川県でも、11日時点でビニールハウスなどの被害を確認した。
気象庁によると、日本海側を中心に降り続いた大雪で、新潟県上越市高田では10日午後2時までの72時間に187センチの雪が降った。この他、岐阜県白川村白川や富山県砺波市砺波など、6県13地点で72時間降雪量が観測史上1位を記録した。
富山、石川、岐阜の3県では、倒木や積雪で集落の孤立が発生した。
育苗間に合うか…岩手
雪の重みでハウスがつぶれ、ぼう然とする農家(12日、岩手県奥州市で。高内杏奈写す)
岩手県では県南地域を中心に農業被害が出ている。奥州市では園芸用や水稲育苗用のハウスなどが倒壊した。同市をエリアとするJA岩手ふるさと、JA江刺によると、直近10年では最も大きな被害。規模によっては、ハウスの撤去・再建を考えると、春の育苗作業に間に合うのか心配する農家もいるという。
JA岩手ふるさとの農業被害金額は、4億5700万円余り(8日現在)。雪が一気に降り、その後断続的に降り続いたという。JAは雪が消えなければ支援に動けず、全容把握を第一に取り組む。
JA江刺は6日時点での農業被害予想額は、2億4700万円余り(解体撤去費用を含まず)。積雪のため、現場に立ち入れない所があるため、さらに増えるとみている。
12日も市内で早朝にまとまった雪が降り、降ったりやんだりを繰り返した。雪の重さにつぶれたハウスに農家は一様に落胆していた。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月13日

島の豚 海風熟成 生ハム 3月初出荷へ 香川・小豆島出身の三好さん
CFで資金、特産化手応え
香川県小豆島町出身で隣の土庄町に住む三好昭浩さん(59)は、小豆島の食材や気候を利用した長期熟成生ハムの製造を始めた。2019年の12月から仕込んだ豚の骨付きモモ肉など計50本を、クラウドファンディング(CF)で建てた海風が当たる工房で熟成中。3月には初出荷できる見込みだ。
三好さんは、43歳まで商社で加工品の商品開発をした後、神奈川県内の飲食店に勤めた。ファーマーズマーケットなどで全国のこだわりの食品に出合う中、「生産者の思いが伝わる、その土地でしかできない特産品を作りたい」と思うようになったという。
島に帰郷したのは5年前。島内で豚を放牧する鈴木農園を訪れた際に生ハム製造を思い立ち、すぐに肉の購入を申し入れたという。
三好さんによると、生ハムの産地は乾燥した高冷地が多い。小豆島は製造の適地とはいえないが、試作してみるとまずまずの出来だったという。島の特産であるしょうゆのこうじを使うなど改良を重ね、3年かけて商品化の手応えを得た。しょうゆの風味がほのかに残るためか「日本酒にも合う生ハム」と三好さん。ハムの表面には、小豆島産のオリーブオイルを塗って乾燥を防ぐ。
19年9月、土庄町に「草壁ハム製作所」を設立。工房の改装や材料の購入資金は、クラウドファンディングで調達した。熟成中の生ハムに使うのは、鈴木農園の放牧豚と県内産「オリーブ夢豚」が半分ずつ。瀬戸内海に面した山の斜面にある工房で、空調管理せず自然の空気に当てて、14カ月熟成させる。
骨付きの「原木」と、500グラムのブロックの直販を予定している。飲食店との契約も決まっており、今後さらに広げていく考えだ。
三好さんは「生ハムをきっかけに、イベントやコラボレーション企画などができると考えている。島の観光産業に貢献したい」と意気込んでいる。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月13日

いくえ農園12年目 学びの場で心豊かに 農への思い深まる タレントの榊原郁恵さん
タレントの榊原郁恵さんが、神奈川県厚木市で農園活動を始めて12年目を迎えた。農園を“自分を成長させてくれる学びの場”と捉え、忙しい仕事の合間を縫って通い続ける。今では「農作物ができるまでどれほど時間も手間もかかるか、体で分かる」ようになった。育った作物に「感動の連続」だという。
農園は約10アール。地元のJAあつぎを仲介して借り、仲間4人で運営する。「土が合っているのか、すごくいいサトイモが取れるの」と榊原さん。仲間の70代男性は「最初はいつまで続くかなあと思ったけど、農作業に誰よりも熱心なんだよね。もう一通りの野菜作りはできるよ」と目を細める。
高校生の時に芸能界に入って以来、仕事一筋だった。「この世界以外知らないし、趣味も特にない。何か新たに学びたい。どうせなら生活に身近なもの」と考えたとき、日本の自給率の低さや耕作放棄地の問題などが目に付いた。
自分で作った農作物を食べたくなり、JAが当時開いていた農業塾に参加。出身地の厚木を活気づけたいという思いもあった。修了後も農作業を続けたくて、仲間と農園を始めた。
大好きなアスパラガスが収穫まで3年ほどかかることや、小松菜やシュンギクの種の小ささに驚いた。野菜作りについて「子育てをしているみたい。過度な愛情も、気に掛けないのも駄目。生き物を育てているんだなあ」とつくづく感じる。
在来種の栽培や加工品作りなど、やりたいことにどんどん挑戦。日本農業新聞にも活動の様子を連載した。農家と知り合い自ら農作物を作る中で、作り手と買い手の距離感にもどかしさも感じるようになった。「食べる側は野菜を当たり前にあるものと思いがちだけれど、農家が時間をかけて地道な作業をして作っている。“育てられたもの”をいただいているという感覚を一人一人が持てるように、農業に触れ合う機会が増えるといいな」
農園を続けてこられた理由に、仲間の存在を挙げる。農業について教わるだけでなく、作業も互いに協力し、励まし合ってきた。「心が豊かになり、私自身を育ててもらえた」と感謝する。仲間も年を重ね、体力的にきついと感じることもあるが、まだまだ続けたい。農への思いは深まるばかりだ。
日本農業新聞の購読はこちら>>
2021年01月12日

TACブログで情報発信 毎週更新、アクセス10倍も 滋賀・JAグリーン近江
滋賀県のJAグリーン近江は、地域農業の担い手に出向くJA担当者(愛称TAC=タック)全員がブログを活用し、新型コロナウイルス下の情報発信につなげている。組合員へ訪問できないときも、栽培の注意点や研修会の案内など営農に関する情報を毎週欠かさず更新。新型コロナの支援に関する記事などは、普段の約10倍のアクセスを記録するなど注目を集める。
ブログは「JAグリーン近江TACブログ」で、今年度で10年目。……
2021年01月12日