コロナ特措法改正 補償が実効確保の鍵に
2021年01月16日
政府は、新型コロナウイルス対策の特別措置法改正案を18日召集の通常国会に提出し、早期成立を目指す。休業と財政支援、罰則のセットが柱で、実効性が鍵を握る。農家を含め幅広で十分な補償の明確化が必要だ。罰則は私権制限との兼ね合いで慎重を期すべきだ。国民の命を守る視点で徹底審議を求める。
特措法改正論議に際し、現行法の問題点と、この間の拙劣な政府対応を指摘しておきたい。
日本で最初の新型コロナ感染者が確認されてから15日で1年。政府の後手後手の対策やGoToキャンペーンなどちぐはぐな対応も重なり、感染終息どころか2度目の緊急事態宣言発令に追い込まれた。昨年11月ごろから続く第3波は、全国的に医療体制の逼迫(ひっぱく)を招き、失業や自殺者の増加など負の連鎖も止まらない。感染拡大をここで止めることができなければ、暮らしと雇用・事業の破壊、医療崩壊、経済の失速へと一直線に向かいかねない。
現行法では、飲食店などへの営業時間短縮や休業、外出自粛などは要請で、強制力を持たない。経済的補償も措置されていない。特措法の対象にならない遊興施設などへは協力依頼しかできない。国民の自覚と協力に頼らざるを得ないのが実情だ。
国と自治体の役割分担や司令塔機能のあいまいさも混乱に拍車を掛けた。法律の立て付けでは、都道府県知事に感染防止策の権限を持たせ、政府は総合調整をすることになっているが、危機感の共有や連携が十分だったとは言い難い。緊急事態宣言を発令するのは首相だが、専門家の調査・分析に基づく丁寧な説明が尽くされたか疑問だ。発信力も弱い。経済回復や東京五輪・パラリンピックなど国家的行事を優先し、判断の遅れや対策の不備はなかったか。
さらに公立病院に偏重した感染者の受け入れ態勢、広がらないPCR検査など、浮き彫りになった感染防止策の問題点も洗い出し、検証した上で特措法改正論議を深めるべきだ。
検討されている改正案では、緊急事態宣言下で知事は店舗に休業を「命令」できるようにし、違反すれば過料を科す。宣言発令前の予防的措置も設ける。時短営業や休業に応じた事業者への財政支援の規定も書き込む考えだ。補償することを明確化し、休業店舗などへの直接補償にとどまらず、食材納入業者や農家など関係者に広く補償すべきだ。感染防止の実効確保は、事業継続可能な補償が前提である。営業の自由など私権制限に踏み込む内容なだけに、罰則の必要性や補償とのバランスを含め慎重な議論を求める。
政府は通常国会に感染症法改正案も提出し、入院を拒否した感染者への罰則規定を盛り込む方向だ。コロナ対策に名を借りた厳罰化が進めば、新たな偏見や差別につながりかねない。
なにより、政治に信がなければ、どんな法改正をしても国民の理解は得られない。
特措法改正論議に際し、現行法の問題点と、この間の拙劣な政府対応を指摘しておきたい。
日本で最初の新型コロナ感染者が確認されてから15日で1年。政府の後手後手の対策やGoToキャンペーンなどちぐはぐな対応も重なり、感染終息どころか2度目の緊急事態宣言発令に追い込まれた。昨年11月ごろから続く第3波は、全国的に医療体制の逼迫(ひっぱく)を招き、失業や自殺者の増加など負の連鎖も止まらない。感染拡大をここで止めることができなければ、暮らしと雇用・事業の破壊、医療崩壊、経済の失速へと一直線に向かいかねない。
現行法では、飲食店などへの営業時間短縮や休業、外出自粛などは要請で、強制力を持たない。経済的補償も措置されていない。特措法の対象にならない遊興施設などへは協力依頼しかできない。国民の自覚と協力に頼らざるを得ないのが実情だ。
国と自治体の役割分担や司令塔機能のあいまいさも混乱に拍車を掛けた。法律の立て付けでは、都道府県知事に感染防止策の権限を持たせ、政府は総合調整をすることになっているが、危機感の共有や連携が十分だったとは言い難い。緊急事態宣言を発令するのは首相だが、専門家の調査・分析に基づく丁寧な説明が尽くされたか疑問だ。発信力も弱い。経済回復や東京五輪・パラリンピックなど国家的行事を優先し、判断の遅れや対策の不備はなかったか。
さらに公立病院に偏重した感染者の受け入れ態勢、広がらないPCR検査など、浮き彫りになった感染防止策の問題点も洗い出し、検証した上で特措法改正論議を深めるべきだ。
検討されている改正案では、緊急事態宣言下で知事は店舗に休業を「命令」できるようにし、違反すれば過料を科す。宣言発令前の予防的措置も設ける。時短営業や休業に応じた事業者への財政支援の規定も書き込む考えだ。補償することを明確化し、休業店舗などへの直接補償にとどまらず、食材納入業者や農家など関係者に広く補償すべきだ。感染防止の実効確保は、事業継続可能な補償が前提である。営業の自由など私権制限に踏み込む内容なだけに、罰則の必要性や補償とのバランスを含め慎重な議論を求める。
政府は通常国会に感染症法改正案も提出し、入院を拒否した感染者への罰則規定を盛り込む方向だ。コロナ対策に名を借りた厳罰化が進めば、新たな偏見や差別につながりかねない。
なにより、政治に信がなければ、どんな法改正をしても国民の理解は得られない。
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命守る経営 安全は全てに優先する
春の農作業安全運動が始まる。毎日平均1人が農作業で命を落とす状況が半世紀も続く。異常事態だ。農水省は、高齢者の農機事故に焦点を当て、業界ぐるみで事故撲滅を目指す。あなたと家族のために、命を守る経営を全てに優先しよう。
同省は3月からの農作業安全確認運動を前に、今年初めて「農林水産業・食品産業 作業安全推進Week」(16~26日)を開催。分野を横断し、作業安全の優良事例や新技術を業界ぐるみで発信する。背景には他業種に比べ安全対策が遅れている農業界の実態がある。
それを裏付けるように、農作業での犠牲者が後を絶たない。2019年の死者は281人で前年より7人増えた。65歳以上の高齢者が9割近くを占め、調査開始以来最大となった。乗用型トラクターの転落・転倒などの農機事故死が184人と最も多い。同省は、農機事故による死者を17年比で22年に半減させ105人とする目標を掲げているが、このままでは達成は厳しい状況だ。
深刻なのは、高齢化、人手不足など農業の構造問題も相まって、10万人当たりの死亡者が16・7人と調査開始以降最も高くなったことだ。建設業の実に3倍、全産業平均の1・3人と比べいかに異常かが分かる。
人為的なミスをゼロにすることはできない。事故を減らすには、事前に危険箇所や手順を洗い出し、原因を取り除くリスク管理の徹底しかない。事故情報の収集・一元化と現場へのフィードバックが基本となる。
同省の働き掛けもあり、都道府県や農機メーカーからの20年分の事故報告件数は326件と前年から倍増した。情報は農研機構革新工学センターで分析し、現場での注意喚起に役立てられる。また官民一体で普及啓発を進める農作業安全推進協議会の設置は9割の県に及ぶが、全県普及を急ぐべきだ。安全指導員の育成にも期待したい。
今年の運動方針の特徴は、交通事故分析などを基に、シートベルトやヘルメットの着用徹底、作業機を付け公道走行する際の灯火器設置を集中的に働き掛けることだ。安全フレームやシートベルトが装備されていないトラクターへの追加取り付けも引き続き強化する。農機メーカーも格安で安全フレームの後付けを行っており、所有者自身も身を守るために追加装備や買い替えを急いでほしい。労災保険特別加入も待ったなしだ。
安全管理は、農業者や経営者が「自分ごと」として取り組んでこそ意味がある。同省が農業者や農業団体などに向け策定した作業安全のための規範が役立つ。安全管理の基本原則を定めた共通規範、分野ごとの具体例を示した個別規範、生産現場で使うチェックシートなどが用意されるので、それぞれの経営や生産実態に合わせ活用してほしい。「いのちを守る作業安全は全てに優先する」。規範の大原則をいま一度肝に銘じたい。
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2021年02月20日
日経平均株価がバブル期以来の3万円台に乗った
日経平均株価がバブル期以来の3万円台に乗った。コロナ禍にあえぐ実体経済を尻目に兜町が沸く▼この町名の由来になった兜岩のそばに東京証券取引所がある。その前身をつくったのが渋沢栄一で、大河ドラマ「青天を衝(つ)け」の主人公だ。ネットで見る渋沢の老け顔とイケメン・吉沢亮さんがどうにもつながらない。「なつぞら」の早世画家・天陽君の残像もまだ引きずる▼渋沢の実家は今の埼玉県深谷市で、米、養蚕、藍玉の製造・販売を営んでいた。ペリー来航から始まる〈大転換〉の風を全身で受け、生死紙一重の幕末を生き残った。運の良さだけでなく、農工商で育んだ精神のたおやかさがあったのだろう。終生のライバル・三菱の岩崎弥太郎は50歳でこの世を去り、渋沢は91歳の天寿を全うした。1万円札の肖像にどちらがなるかを分けた境目だろう▼〈論語とそろばん〉の影響で聖人君子のイメージが強いが、花柳界に名をはせ、賭け事も強かった。射幸心をあおると反対論が根強い商品先物取引を政府に公認させたのも渋沢である。数々の名言がある。株価好調の折、押さえておきたいのはこれ。〈名を成すは毎(つね)に窮苦の日に在り、事の敗るは多く得意の時〉▼福は禍の伏す所ともいう。ドラマが終わる時、株価はどうなっているやら。
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2021年02月21日
今季狩猟期前半 鹿、イノシシ捕獲14%増 集中キャンペーン奏功
今シーズンの狩猟期の前半に当たる2020年秋から20年末までに、鹿とイノシシの捕獲頭数の合計が前年より14%増えたことが農水省の調査で分かった。20年度から始めた、重点地域を設定して捕獲への取り組みを強化する「集中捕獲キャンペーン」に一定の効果があったとみられる。鹿の捕獲数は全国的に増えたが、イノシシには地域差もある。対策を一層強化し、捕獲頭数を底上げできるかが課題になる。
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同省が20年秋の狩猟期開始から20年末までの鹿、イノシシの捕獲数を都道府県から聞き取った。……
2021年02月25日

農系ポッドキャスト盛り上がり 全国で25以上の番組配信 若手農家中心 熱い思い伝えたい
インターネットでラジオのように音声を配信するポッドキャスト=<ことば>参照=を使い、農家らが番組を発信する“農系ポッドキャスト”が盛り上がっている。自らの思いや挑戦、日常の出来事を発信する道具として若手農家中心に注目され、全国で25以上の番組が配信されている。昨年末には配信者らで総会議を開き「農系ポッドキャストの日」を決定。農家同士や消費者とのつながりにも役立っている。
毎月1日が記念日 エピソード配信、SNS投稿
「農系ポッドキャスト」は農業に関わる人が配信する番組の総称で、一つのジャンルとして認知度を高めている。福岡市の農家3人で2014年から番組を配信し、農系ポッドキャストの中心的存在である「ノウカノタネ」の鶴田祐一郎さん(34)は「農作業中にラジオを聞く人が多く、なじみやすいメディア。農業に興味のある消費者もリスナーとして増えている」と話す。
昨年末には鶴田さんの主導で、配信者が集まった総会議をウェブ上で開いた。委任状を含め17番組の代表者らが参加。緩やかなつながりや既存のリスナーが他の番組を知るきっかけをつくるため、毎月1日を「農系ポッドキャストの日」とすることを決めた。1日に合わせ各番組でエピソードを配信したり、ツイッターなどのインターネット交流サイト(SNS)でハッシュタグ「#農系ポッドキャストの日」を付けて投稿したりと盛り上げている。
鶴田さんは「雑談の中で、農家もいろいろ考えていると知ってもらうきっかけになり、番組を通じたつながりも広がっている。ぜひ農家は始めてみてほしい」と呼び掛ける。
挑戦テーマ、共感獲得 三重県四日市市 おみそしるラジオ
「おみそしるラジオ」は三重県四日市市のキュウリ農家の阿部俊樹さん(39)、ナス農家の堀田健一さん(34)、会社員の住田良平さん(33)の3人がパーソナリティーを務める。「挑戦リアリティポッドキャスト」をテーマに、それぞれの挑戦を話題に語り合う。
番組名には、それぞれの挑戦を具材に見立て「みそ汁のような熱い栄養を届けたい」という思いを込めた。阿部さんは「失敗も含めて等身大の自分たちを発信している。聞いた時に頑張ろうと思ってもらえる番組にしたい」と話す。
魅力の一つは自ら“公開作戦会議”と言うほどのオープンさ。2月上旬の配信では、阿部さんと堀田さんが小学6年生向けに行った出前授業の内容について、多くの人にも聞いてもらえるよう配信方法などを相談した。
2019年1月に番組を始め、これまでに70本以上を配信。週1回、午後8時ごろに阿部さんの自宅倉庫に集まり収録している。固定リスナーは300人、総ダウンロード数は約4万に上る。「みそなー」と呼ぶリスナーからの便りは週10通ほど届き、阿部さんや堀田さんの野菜を購入する「みそなー」も出てきた。
「消費者とのつながりが目に見えて新鮮だった」と堀田さん。農家同士のつながりも生まれ、住田さんは「農系の仲間として応援してもらっている」と実感する。
<ことば>ポッドキャスト
インターネット上に音声を配信する方法の一つで、ウェブサイトやスマートフォンアプリを通じて無料で聞ける。音声データをダウンロードしてオフラインで聞くこともできる。録音・編集環境があれば誰でも取り組め、ニュースや教育、ビジネス、歴史など多様なジャンルの番組がある。
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2021年02月20日
米需要喚起最優先に 転作財源確保も要望 自民水田議連
自民党の水田農業振興議員連盟(小野寺五典会長)は25日、2021年産米の需給緩和の懸念を受け、今後の対応方向について議論した。出席議員からは米の需要拡大に向け、輸出だけでなく、国内需要の喚起にも本腰を入れる必要があるとの声が改めて上がった。転作支援の財源確保が引き続き重要になるとの意見も相次いだ。
農水省によると、21年産米の需給均衡には、作況指数が100だった場合の20年産の生産量と比べ36万トン、面積換算で6万7000ヘクタール(5%)の減産が必要。需給と米価の安定に向け、作付面積を抑えられるか、「正念場」(野上浩太郎農相)を迎えている。
上月良祐氏は議連で、米の輸出拡大だけでは年間10万トンとされる主食用米の需要減少ペースに追い付かないとし、国内需要喚起の必要性を改めて提起した。「需要の落ちを抑えない限り、(水田農業には)未来がない」との危機感も示した。
進藤金日子氏は「安心感を与えないと、(生産者が)経営安定を図れない」と強調。今後も水田活用の直接支払交付金などの財源を確保することが重要だとし、財務省も含め「共通認識」にするべきとの考えを示した。
宮崎雅夫氏も、予算維持には国民理解が欠かせないとし、国土保全や食料安全保障への貢献といった農業の意義を説明する必要があると訴えた。
同日は、東京大学大学院の安藤光義教授が水田農業政策について講演した。転作助成金が水田の維持や規模拡大などを支えているとし、助成金の削減は「構造改革のはしごを外すことになりかねない」とした。
今後の水田農業について安藤教授は、コスト削減を基本に、輸出だけでなく国内需要拡大を進めるべきだと指摘した。低所得者への提供など、政府備蓄米の活用方法の拡大も検討課題に挙げた。
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2021年02月26日
論説の新着記事
営農指導全国大会 伝える技能を高めよう
JA全中主催の営農指導実践全国大会が、オンラインで初めて開かれた。活動と成果の発表は事前収録の動画を配信。発表内容だけではなく、動画の出来具合が視聴者の理解に影響することが改めて確認された。営農指導でオンラインや動画の活用が広がることも想定され、伝える技能の向上が求められる。
5回目の今回、最優秀賞に輝いた山形県JAおきたま営農経済部、柴田啓人士さんの発表は特に素晴らしかった。活動と成果、構成が優れていたことに加え、カメラを前にした話しぶりや目線、スライドの内容、映像の明るさなど細部にまで心配りされていた。「地域のために」は全ての発表に共通する目的だ。加えて柴田さんの発表動画は「どうしたらよく伝わるか」をより意識したように感じた。
洗練された動画はなぜできたのか、発表内容から垣間見える。日本一のブドウ「デラウェア」産地として統一規格の作成や集出荷の効率化、オリジナル商品の開発を展開。西洋梨やリンゴ、桃を合わせた4品目で販売価格を6~26%高めた。こうした成果を上げ、自信を持って収録に臨んだこともあろう。
そのための苦労も多かった。集出荷施設の再編を巡って、2年間に100回行ったという説明会。地域のシンボルでもある選果場がなくなることに組合員から「クビをかけられるのか」と詰め寄られるなど、難しい合意形成を求められた。しかし丁寧な説明を続けたことで「産地を維持するための選択」との理解が広がり、成果につながった。
審査講評ではいくつかの発表について音声の乱れが指摘された。大きなホールでの発表に適した腹から出す声も、狭い部屋での収録では聞き取りにくい場合がある。発表者が体を動かしてマイクとの距離が少し変わるだけでも同様で、発表内容が視聴者の頭に入りにくくなる。
新型コロナウイルス下では、視察も含めて研修会や会議のオンライン開催、動画の利用などが進むだろう。コロナが収束しても、離れたところからも参加できることや、動画での情報提供の分かりやすさ、利便性などから継続すると考えられる。
対面でもオンラインでも重要なのは情報の内容と理解を得ることへの熱意だ。その上で受け取る側が分かるように心を配ることが大切で、オンラインや動画では機器の使い方や撮影の仕方、話し方など新たな技能が必要になる。技術革新で映像や音声など情報量が増えるに従い、より高い技能も求められよう。
全国大会で発表した8人には、副賞として金の営農指導員バッジが贈られた。通常は白、上位資格として導入された地域営農マネージャーは銀。各地の予選を勝ち抜いたこの8人は、それほど優れた活動で高い成果を上げたということである。発表動画はJAグループ公式ホームページで公開する予定だ。発表内容と動画の質の両方から経験を学びたい。
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2021年02月26日
米検査見通し 生消・流通の理解不可欠
政府は米の農産物検査規格の見直しを進めている。年間の検査数量は500万トンで、生産量の7割に上る。生産・流通の重要なインフラで、ルール変更の影響は大きい。農家の所得向上と需要拡大に役立つよう、生産者や流通業者、消費者らの十分な理解を得ることが不可欠だ。そのために、検討や周知に必要な時間を確保すべきである。
米は外観での品質評価が難しい上、広域流通するため検査制度がある。全国統一の規格で専門の検査員が「産地・品種・産年」を確認、精米時の歩留まりを判断し1等、2等などと格付けする。農業者は品質改善の目標にし、卸など買い手は購入の判断材料として活用する。
見直しは政府の規制改革推進会議が提起したのが発端で、昨年1月に着手。政府は7月に閣議決定した規制改革実施計画に重点事項の一つとして盛り込んだ。具体的には、農業者の所得向上を目的に、検査等級区分と名称の見直しや、検査コストの低減、機械的計測への早期変更を打ち出した。また、検査米で認めている小売りでの「産地・品種・産年」の3点表示や一部補助金の交付を未検査米にも認める方向を示した。
見直しの具体案を巡っては農水省の検討会が昨秋、論議を始めた。検査等級区分などの見直しでは、従来の目視検査とは別に機械鑑定を導入する方向だ。
検討会では、食味に関するデータなど品質の機械計測には利点があるとする一方、機械の導入費が発生、生産者負担の増加や小売価格への転嫁などを懸念する声も上がる。機械に習熟した人材の確保や、機械と目視の検査が併存し生産・流通に混乱が生じないかといったことを不安視する意見もある。
海外市場の開拓や高付加価値化を目的に新たな日本農林規格(JAS)も検討。需要拡大への期待とともに生産コストが増えないよう求める意見が強い。
全体的に急いでいるように見える。同実施計画で示した、2021年度上期に結論を出し速やかに措置するとの期限が重しになっているのではないか。
先行した米の3点表示の規制緩和は、7月の同実施計画を受けて1月には内閣府の消費者委員会食品表示部会が未検査米でも可能とする食品表示基準の改正案を了承し、7月には施行する速さだ。同部会やパブリックコメントでは、準備・周知のために移行期間の設定を求める意見があったが、見送られた。懸念が残ることから同委員会は菅義偉首相に対する改正案答申の付帯意見で、表示監視の強化と農産物検査と改正内容の普及・啓発、周知を念押しした。
「改革」の名の下に性急かつ安易な見直しを行えば、1700の検査機関、1万9000人の検査員、80万戸の米販売農家、1億人を超す消費者に大きな影響を与える。拙速は避けるべきだ。目的に照らし最善策を慎重に検討し、見直す場合は十分な説明と周知期間が必要だ。
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2021年02月25日
農地所有法人要件 無理筋の緩和を許すな
農地所有適格法人の議決権要件緩和の是非を巡る規制改革推進会議での検討は、期限まで1カ月余りとなった。同会議が意見を聞いた農業関連法人からは、法人買収や農地転用へ懸念が指摘された。同会議には、株式上場の解禁を視野に要件緩和に誘導しようとの思惑が透けて見えるが、無理筋である。
推進会議の検討課題は、農業法人が円滑に資金を調達する方策である。政府が規制改革実施計画に盛り込み、今年度中に検討し結論を出すとした。
同適格法人の要件について推進会議では①2分の1未満としている農業関係者以外の議決権制限の緩和②株式上場の解禁──の是非が焦点化。農外出資を拡大しやすくするのが狙いだ。これらを認めれば一般企業が経営を支配し、農地を事実上取得できるのと同じになる。
農水省の調査では、農業法人の資金調達の主体は融資だった。同省は、出資による資金調達の課題として、農外議決権を2分の1未満まで認めていることと議決権のない株式の活用が知られていないことを挙げる。これは、現行制度の下でも出資を増やせることを示している。
推進会議の農林水産ワーキンググループ(WG)が昨年12月に行った農業関連法人3社からの意見聴取でも、農業は制度資金が充実し、融資で資金を調達しやすいとの見方が強かった。一方、議決権要件などを緩和すると同適格法人が買収され農地が不正転用されるケースが出てくる可能性とその対策の必要性や、外国資本に支配されれば食料安全保障上問題になることなどについて指摘があった。
WGの委員からも質問の形で、敵対的買収で外国企業に買われることや、企業撤退後の農地荒廃への懸念が示された。
しかしWG座長の佐久間総一郎日本製鉄顧問は、意見聴取後に「選択肢として、上場していく道をもう少し整備することが重要」とまとめた。親会議の推進会議でも「(制度資金は)補助金。これは長続きしない、競争力がつかない」と、出資拡大方策へのこだわりを見せた。
国家戦略特区の兵庫県養父市で認めている企業の農地取得特例の全国展開を関係閣僚の慎重論や与党の反対論を無視し、特区諮問会議の民間議員がごり押ししようとしたことと重なる。
われわれは、農家や、農業者主導の同適格法人といった地域に根差した農業経営に農地所有は限るべきだと主張してきた。農地は地域の貴重な資源であり、農地や水の利用調整をはじめ地域と調和し、農業振興や、自らの暮らしの場である農村の維持・活性化への役割発揮が所有者には求められるからだ。
同適格法人の議決権要件などの緩和は、一般企業による経営支配に加え、農地の資産価値に基づく投機の対象化や、実質的経営者が分からなくなることなどにつながる恐れがある。資金調達の方策は、法人の要件とは分けて論議すべきである。
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2021年02月24日
国連食料サミット 国民合意の日本提案に
国連食料システムサミットが9月、米国ニューヨークで開かれる。新型コロナウイルス禍で脆弱(ぜいじゃく)性を露呈した食料の生産供給網の再構築や、気候変動対応などがメインテーマになる。今後の貿易ルールに影響を及ぼすことが考えられる。日本は国民合意の提案を策定し、積極的に関与すべきだ。
同サミットは持続可能な開発目標(SDGs)を2030年までに達成するための「行動の10年」の一環。グテレス国連事務総長が主催する。各国の首脳や閣僚、有識者、科学者、市民代表らが参加する。
SDGsには17の目標があるが、「貧国をなくす」と「飢餓の撲滅」はコロナ禍で達成が危ぶまれる状況だ。飢餓人口は増加に転じた。国連は同サミットを「全てのSDGsを達成するための世界の旅の分岐点になる」と協力を呼び掛ける。
主な課題は①量・質両面からの食料安全保障②食品ロスの削減など食料消費の持続可能性③環境に調和した農業生産の推進④農村地域の収入確保⑤食料供給システムの強靭(きょうじん)化──だ。それぞれでゲームチェンジャー(状況を変える突破口)となる提案を各国に求めている。日本は現在、農水省が「みどりの食料システム戦略」の取りまとめ作業を進める。夏にローマで開かれる準備会合に向け、5月の策定を目指す。
多岐にわたる課題の中で、特に注視すべきなのは環境対応だ。地球温暖化の国際ルール「パリ協定」と連動する形で、農業・食料分野での積極的な貢献を意識した議論になりそうだ。米国の同協定復帰や日米の温室効果ガス「2050年実質ゼロ」表明により弾みがつき、その波は農業にも及ぶとみるべきだ。世界の同ガス排出量の4分の1を農林業関連が占めている。
気候変動対応で世界をリードする欧州連合(EU)の動きが出色だ。昨年5月、「農場から食卓へ(Farm to Fork)」と題した新戦略を打ち出した。肥料農薬の使用抑制や畜産飼料の脱輸入依存、有機農業の拡大などで数値目標を設定、一段と環境重視型農政にかじを切った。「地球の健康を守りながら食の安全を保障する新しいシステム」(欧州保健衛生・食の安全総局)とし、市民の支持を得られると自信を見せる。
EUはこうした規律を2国間貿易協定などに適用する姿勢だ。これに対し米国は「農業生産を低下させ小売価格の上昇をもたらす」(農務省)と批判、さや当てが始まっている。日本も「諸外国が環境や健康に関する戦略を策定し、国際ルールに反映させる動きが見られる」(農水省)と注視。みどりの食料システム戦略づくりを急ぐ。
その際重要なのは、国民の関心の高まりだ。政府は農業者、消費者、企業、市民社会を巻き込んで、望ましい食料生産流通の将来像について合意形成に尽くすべきだ。それでこそ日本の提案に「魂」が入るだろう。
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2021年02月23日
国産麦に過剰感 増産に出口戦略不可欠
食料自給率の向上を目指して政府は、小麦など国産麦類の増産の旗を振る。しかし2年連続の豊作で過剰感があり、価格にも影響が出ている。麦作の安定には、新たな需要を開拓する出口対策が急がれる。
農水省によると4麦(小麦、二条大麦、六条大麦、裸麦)の作付面積はこの数年微減または横ばいだが、2019年産は豊作で、収穫量は小麦が前年産比36%増の103万7000トン、大麦・裸麦が同27%増の22万3000トンだった。20年産も豊作で、例年より国産在庫が多い。
過剰感は価格にも影響。全国米麦改良協会のまとめによると昨年9月の21年産国産小麦の播種(はしゅ)前入札では、平均落札価格が前年産比12・8%安と、上げ基調から一転した。輸入麦の価格低下にも引っ張られた。大麦・裸麦も販売で苦戦。二条大麦も、1月時点で「精麦業者などが19年産の在庫を抱え、20年産の荷がまだ動いていない」(JA関係者)という。
一方、食用麦は小麦で約9割、大麦・裸麦で約8割を輸入している。食料・農業・農村基本計画で政府は、30年度までに小麦を108万トン(18年度76万トン)に、大麦・裸麦を23万トン(同17万トン)に増やすとの生産目標を定めている。しかし、21年産でも過剰感が解消されなければ、今秋播種する22年産の作付けに影響しかねない。官民挙げて、輸入麦から国産への切り替えを強力に進めるべきだ。それには需要と供給のミスマッチの解消が求められる。
例えば小麦。タンパク質含有量の高い順にパン用(強力粉)、中華麺用(準強力粉)、うどんなど日本麺用(中力粉)、菓子用(薄力粉)に分かれる。国産は8割強で中力粉、薄力粉向け品種が栽培され、消費量の多い強力粉、準強力粉向けは少ない。輸入麦との価格勝負は難しく、需要に応えられる生産・供給体制の構築が必要だ。
中華麺用の福岡県の硬質小麦「ラー麦」(品種名=「ちくしW2号」)は、実需と一体で県や産地が栽培技術を確立したことで新たな需要を開拓した。生産が拡大するパン用小麦も同様だ。健康志向の高まりで裸麦やもち性大麦(もち麦)の需要も伸びている。需要を見極めた品種・品目の選定と、それに応じた栽培技術の導入が麦作経営を安定させる常道である。
西日本では、米麦・大豆を柱とする土地利用型農業を集落営農組織が担う地域が多い。21年産米では主食用米からの品目転換に加え、酒造好適米の減産も重くのしかかる。過剰感から麦類の生産意欲も低下することになれば、大規模な不作付けが起こりかねない。
政府は、需要を捉えた生産拡大と安定供給の実現に向けて「麦・大豆増産プロジェクト」を推進。団地化と営農技術の新規導入、備蓄倉庫の整備、産地と実需とのマッチングや新商品開発などを支援する。成果を早期に上げることが重要だ。
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2021年02月22日
地域包括ケア “JA版”の構築急ごう
介護保険制度の2021年度介護報酬改定では、高齢者が住み慣れた地域で暮らし続けられるように支援する地域包括ケアシステムを推進する。JAには、総合力を生かしてシステムの構築をけん引し、地域の安全と安心を守る役割を果たすことを期待したい。
20年の要介護(要支援を含む)認定者は669万人で、00年の介護保険制度創設時と比べて3倍に増加した。団塊の世代の全てが75歳以上となる“2025年問題”に向けて、制度の強化・充実は待ったなしである。しかし、社会保障財政の逼迫(ひっぱく)や、介護業界の慢性的な人手不足など課題は山積している。
20年は、新型コロナウイルスの流行による利用控えの影響から、介護サービス事業者の倒産件数が118件と過去最多となった。こうした状況を踏まえ、21年度の介護報酬は0・7%引き上げるプラス改定とし、事業者を支援する。
今回の介護報酬改定で力を入れるのが、地域包括ケアシステムの構築である。地域の中、いわゆる日常生活圏域内で、住まい、医療、介護、予防、生活支援を総合的に提供する体制をつくる。
健康なときは体操教室や老人クラブなどに参加して介護予防をし、介護が必要になったらデイサービスなど介護保険事業を利用、病気になったらかかりつけ医へ、そして退院後は訪問診療・看護を自宅で受けられるようにする。高齢者の心身の調子は変化しやすい。いつ、どんな状況になっても、住み慣れた場所で暮らせる仕組みで、安全と安心を守る。
この仕組みづくりではJAが核となり、“JA版地域包括ケアシステム”の実現を急いでほしい。厚生連から、女性部や助け合い組織を中心としたボランティア活動まで、JAはシステムを構築できる体制と人材を持っているからだ。
同システムを既に実践しているJAもある。JA山口県グループ会社のJA協同サポート山口は、訪問介護やデイサービスなどの介護保険サービスを提供するのと併せて、JAの支所を拠点とした体操教室などで地域住民の交流の場をつくる。各施設の整備には、統合で廃止となった支店を活用することでコストを抑える。また、介護保険事業で少しでも収益を出し、収益の出ない活動を支えている。JAならではの総合力を柔軟に発揮することで、運営を維持する好例といえる。
介護保険事業だけを受け皿にするのではなく、地域を挙げて包括的なケアシステムをつくるには、組合員や地域住民とつながりが深いJAが先頭に立つことが求められよう。地元の高齢者を守るJAは、その家族である次世代にとっても魅力的に受け止められるだろう。超高齢化が進む農村にとってなくてはならない存在になるには、介護分野の強化が鍵を握る。
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2021年02月21日
命守る経営 安全は全てに優先する
春の農作業安全運動が始まる。毎日平均1人が農作業で命を落とす状況が半世紀も続く。異常事態だ。農水省は、高齢者の農機事故に焦点を当て、業界ぐるみで事故撲滅を目指す。あなたと家族のために、命を守る経営を全てに優先しよう。
同省は3月からの農作業安全確認運動を前に、今年初めて「農林水産業・食品産業 作業安全推進Week」(16~26日)を開催。分野を横断し、作業安全の優良事例や新技術を業界ぐるみで発信する。背景には他業種に比べ安全対策が遅れている農業界の実態がある。
それを裏付けるように、農作業での犠牲者が後を絶たない。2019年の死者は281人で前年より7人増えた。65歳以上の高齢者が9割近くを占め、調査開始以来最大となった。乗用型トラクターの転落・転倒などの農機事故死が184人と最も多い。同省は、農機事故による死者を17年比で22年に半減させ105人とする目標を掲げているが、このままでは達成は厳しい状況だ。
深刻なのは、高齢化、人手不足など農業の構造問題も相まって、10万人当たりの死亡者が16・7人と調査開始以降最も高くなったことだ。建設業の実に3倍、全産業平均の1・3人と比べいかに異常かが分かる。
人為的なミスをゼロにすることはできない。事故を減らすには、事前に危険箇所や手順を洗い出し、原因を取り除くリスク管理の徹底しかない。事故情報の収集・一元化と現場へのフィードバックが基本となる。
同省の働き掛けもあり、都道府県や農機メーカーからの20年分の事故報告件数は326件と前年から倍増した。情報は農研機構革新工学センターで分析し、現場での注意喚起に役立てられる。また官民一体で普及啓発を進める農作業安全推進協議会の設置は9割の県に及ぶが、全県普及を急ぐべきだ。安全指導員の育成にも期待したい。
今年の運動方針の特徴は、交通事故分析などを基に、シートベルトやヘルメットの着用徹底、作業機を付け公道走行する際の灯火器設置を集中的に働き掛けることだ。安全フレームやシートベルトが装備されていないトラクターへの追加取り付けも引き続き強化する。農機メーカーも格安で安全フレームの後付けを行っており、所有者自身も身を守るために追加装備や買い替えを急いでほしい。労災保険特別加入も待ったなしだ。
安全管理は、農業者や経営者が「自分ごと」として取り組んでこそ意味がある。同省が農業者や農業団体などに向け策定した作業安全のための規範が役立つ。安全管理の基本原則を定めた共通規範、分野ごとの具体例を示した個別規範、生産現場で使うチェックシートなどが用意されるので、それぞれの経営や生産実態に合わせ活用してほしい。「いのちを守る作業安全は全てに優先する」。規範の大原則をいま一度肝に銘じたい。
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2021年02月20日
ジャンボタニシ 被害削減へ対策徹底を
2021年産の米作りに向けて、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)対策が大きな課題となっている。地球温暖化が進む中で近年被害が拡大、20年産米では30を超える府県で確認された。寒い時期に水田を耕うんするなど今から対策を徹底し、被害を抑え込みたい。
ジャンボタニシは長い触覚とピンクの卵塊が特徴の巻き貝。田植え後3週間までの軟らかい稲を食害する。寿命は2、3年。南米原産で、食用として日本に持ち込まれ、野生化した。
被害は近年、深刻の度を増している。農水省によると、面積は分かっていないが、20年産では31府県で被害を確認した。温暖化で越冬しやすくなったことが影響しているとみている。
以前から被害があった九州や四国では対策を講じている産地も少なくない。だが、被害が少なかった地域では、まだ対策を取っていない産地もあり、被害が広がったという。
被害を減らすには何をすべきか。やはり基本的な対策の徹底が一番である。
同省が昨年10月に発表した防除対策マニュアルによると、特に重要なのが1、2月の水田の耕うんだ。ジャンボタニシは寒さに弱く、土に潜って越冬する。耕うんすることで貝を壊したり、寒風にさらして殺したりすることが有効だ。また、田植え前には貝の水田への侵入を防ぐために取水口・排水溝に網を設置し、田植え後には貝の動きを鈍くするために浅水管理(水深4センチ以下)をすることなども重要である。被害を抑え込むためにしっかり取り組みたい。
ただこうした対策には一定の手間やコストがかかる。そもそも基本的な対策に必ずしも取り組めない産地もある。例えば、滋賀県認証ブランド米「魚のゆりかご水田米」を生産する野洲市などだ。生態系との共生を目指し、琵琶湖の魚が遡上(そじょう)して水田で産卵できるようにするのが特徴で、浅水管理は難しい。取水口・排水溝への網設置も、魚が入って来られなくなるため使えない。
自分たちができる対策を組み合わせ、いかに効果の高い防除体系を構築するか。被害に悩む近畿地方の各産地は相次いで試験に乗り出している。前述の野洲市では23の実証圃(ほ)を設け、冬の低速耕うんと田植え期の農薬散布を組み合わせた防除の試験を進めている。こうした産地の取り組みを政府は、被害削減の成果が上がるまで息長く支援すべきだ。
政府は20年度第3次補正予算と21年度当初予算案に、ジャンボタニシなどの病害虫対策費を計上。各地域に適した防除体系の実証に取り組む自治体やJA、農家グループなどに対し、農薬代や作業員の人件費などを半額補助する。積極的に産地に周知し、活用を促してほしい。
防除の機運を高めるには、面積をはじめ詳しい被害状況の把握が必要だ。政府には本腰を入れて調べてもらいたい。
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2021年02月19日
WTO新事務局長 貿易ルールの改善望む
世界貿易機関(WTO)の新事務局長にナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相が決まった。通商交渉などでWTOは機能不全に陥っており、立て直しが課題。地球温暖化の防止や貧困と飢餓の撲滅など、持続可能な経済・社会の構築に貢献する貿易ルールづくりを望む。
WTOは貿易ルールを制定・運用する国際機関で、1995年に発足した。新ルールの策定を目指したドーハラウンド(多角的貿易交渉)が行き詰まり、各国は2国間や地域の貿易協定重視にかじを切った。また紛争処理を担う上級委員会は委員を補充できず、機能が停止。存在意義を示せなくなった。
こうした中で、要となる事務局長は約半年にわたり不在だった。米国と中国の貿易紛争が激化する恐れがあり、加えて新型コロナウイルス禍で貿易が混乱している。選出を歓迎したい。
しかし前途は多難だ。まずは紛争処理機能の回復を急ぐべきだ。上級委員の補充に米国が反対してきたが、紛争処理の長期化や委員が協定を勝手に解釈する越権行為などへの不満が理由だ。加盟国・地域と課題を共有し、紛争処理制度を改革する必要がある。米中貿易紛争の解決にも影響力を発揮してほしい。
貿易ルールの見直しも求める。WTO協定は関税など貿易の障害の軽減、つまり貿易自由化の促進を目指す内容だ。しかしWTO発足から四半世紀がたち、地球温暖化をはじめとした環境悪化、食料生産の不安定化、経済格差の拡大などが深刻化した。世界が直面するこうした課題を解決し、誰一人取り残さない、より良い社会を実現しようと国連は2015年、「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択した。気候変動対策や貧困と飢餓の撲滅、国内と国家間の不平等の是正など17の目標の達成を目指す。貿易ルールを通じWTOも貢献すべきだ。
飢餓撲滅のためにSDGsは、食料安全保障と栄養の改善を実現し、持続可能な農業を促進するよう求めている。食料安保を巡って日本は、WTO農業交渉の提案で、食料需給の不安定性や飢餓・栄養不足問題を考慮すれば「国内生産が基本であることに十分な配慮がなされること」を提起した。貿易ルールに反映させるべきである。
日本では、米のミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)などに不満が高まっている。コロナ禍で需要が減っているのに「義務輸入は実行しなければならない」(農水省)からだ。飢餓撲滅の面からも、国内で余っているものを輸入せざるを得ないのは硬直的と言える。
農産物貿易での長距離輸送による二酸化炭素(CO2)の排出や環境破壊を伴う生産、農場での低賃金労働や児童労働などをどう抑制するかも課題だ。
日本は貿易総額が世界4位で、農産物では世界有数の純輸入国である。持続可能性を理念とした貿易ルールへの転換に、率先して取り組むべきだ。
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2021年02月18日
JA全国青年大会 困難ばねに活動強化を
第67回JA全国青年大会が16日、初のオンラインで開かれた。新型コロナウイルスの流行で制約が多い中でも、農業経営や地域の課題に向き合い、創意工夫し活動を続けた部員の熱い思いが伝わった。発表した青年組織の情熱と経験を、全国各地で活動を強化する糧にしよう。
今大会のスローガンは「Let’s think!大地とともに未来をひらけ~今こそ絆が試される~」。コロナ禍で青年組織の活動が制限され、経営も大きな影響を受ける苦しい状況が続いているからこそ、未来を見据え、協同の力が必要だという思いを込めた。主催する全国農協青年組織協議会(JA全青協)の田中圭介会長は「現実を見つめ直し、10年後の未来に描く農業を考えるきっかけにして、新たな挑戦への足掛かりにしてほしい」と訴えた。
JA青年の主張とJA青年組織活動実績発表の全国大会は感染防止のために、発表者の地元で事前に収録した動画を配信する形で実施。多くの発表者が、新型コロナの影響と、それをどう乗り越えたかに触れた。
活動実績発表で関東・甲信越代表、JA東京むさし国分寺地区青壮年部の内藤宏和さんは、学校給食向けの野菜の納品がキャンセルになった際、JAに相談して市民向けの即売会を開くなどして約2トンの野菜を販売したことを報告した。
コロナ禍の下での活動を主題に据えたのが中国・四国代表、JA晴れの国岡山つやま青壮年部東部支部の仁木紹祐さんだ。集まるのが難しい中、LINEで仕事や補助金、中古農機具などの情報交換を継続し、栽培の悩みなどの解決にも役立った。
また学童農園を中止する一方で、田んぼの様子や、地元農産物を使った料理レシピをフェイスブックなどを通じて発信した。仁木さんは、食育や、消費者への情報発信で地元農産物を選ぶ人が増えると国産の需要が高まり、担い手の確保や生産能力の維持につながると指摘。「青壮年部の活動は立ち止まってはいけない。この苦しい現状の中でも、きっと活路は見い出せるはずだ」と呼び掛けた。
9人の発表者に共通するのは、仲間と力を合わせることで経営や地域の課題を一つ一つ解決してきた経験と自信だ。
全青協加盟の青年組織の部員は2020年4月現在で5万5613人。前年より約1000人減った。足元の地域でも高齢化や担い手・労働力不足など生産基盤が弱体化、人口減や過疎化も進んでいる。こうした課題が山積しているからこそ「挑戦し、進み続ける」とのメッセージが発表に通底していた。それは、モニターで配信映像を見ていた全国の部員にも共通する思いだったのではないか。
大会で共有した各地の事例から、それぞれの青年組織で何が生かせるか話し合おう。そこから活動のアイデアも生まれる。その成果を、都道府県から始まる次の発表大会に持ち寄ろう。
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2021年02月17日