〈百日の説法屁(へ)一つ〉
2021年01月18日
〈百日の説法屁(へ)一つ〉。菅首相が昨年12月14日の夜、8人で会食したとの報に接し頭に浮かんだことわざである▼100日にわたり仏の教えを説いた坊さんがうっかりおならをしたことで、ありがたみが台無しになったという話。長い間の努力もわずかな失敗で無駄になることの例えである▼首相はこの日「GoToトラベル」の全国一斉停止を発表した。遅きに失したとはいえ、コロナ感染防止優先へとかじを切る姿勢を示したように見えた。その直後の会食。政府が「原則4人以下で」と呼び掛けているのを尻目に、である▼今、国会議員の会食が問われている。首相が批判された後も大人数でのそれが相次いで発覚。各党は飲食を伴う会合の自粛などを呼び掛けている。きょう召集の国会に政府は、コロナ特措法などの改正案を提出する。時短営業の要請に応じない事業者などへの罰則を設けるという。〈身をもって範を示す〉。松下幸之助の言葉である。「(そういう)気概のない指導者には、人びとは決して心からは従わない」(『松下幸之助一日一話』)▼感染対策に強制力を持たせる決定を国会が下すのであれば、自らを厳しく律していると分かる形で示すことが肝要である。そうでなければ立法府への国民の信頼が揺らぎ、法案への支持は得られまい。
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20年産米食味ランキング 特A 3年連続50超 競争激化、有利販売が鍵
日本穀物検定協会(穀検)は4日、2020年産米の食味ランキングを発表した。最高位の「特A」に格付けされた産地銘柄数は53となり、3年連続で50を超えた。北海道「ゆめぴりか」、山形「つや姫」が特Aの連続記録を伸ばした。新型コロナウイルス下で家庭用米の販売競争が激しさを増す中、特A取得を有利販売につなげられるかが焦点だ。
ランキングは今年で50回目。米の良食味競争の激しさに伴い、出品数は増加傾向にある。今回対象となったのは44道府県の154産地銘柄。このうち、特Aは53銘柄で過去最多の18年(55)や19年(54)に次ぐ高水準だった。穀検は「米の主産県は、特Aを取る代表銘柄を持っていないと競争に負けるという思いがある」と指摘する。
コロナ下で、業務用の銘柄も家庭用米市場に流入して競争は激化。特Aで良食味米のお墨付きを得て、販売に弾みをつけたい産地が多かった。
今回初めて特Aを取得したのは、愛知「ミネアサヒ」(三河中山間)、鳥取「コシヒカリ」、初出品の長崎「なつほのか」など6産地銘柄。愛知県産米の特A取得は初めて。初出品の富山「富富富」はAだった。
北海道は3産地銘柄全てで特Aを取得。「ゆめぴりか」が10年連続、「ななつぼし」が11年連続となる。山形「つや姫」は地域区分の変更はあるが、県産としては10年産のデビュー以降、連続で特Aを取得する。新潟・魚沼「コシヒカリ」も特Aを守った。県オリジナル品種としては、青森「青天の霹靂(へきれき)」、岩手「銀河のしずく」、福井「いちほまれ」、山形「雪若丸」が特Aを取得した。
高温耐性、新興勢が健闘 主力銘柄“苦戦”も
良質米の生産拡大と消費拡大を目的に始まった食味ランキングは、1989年から最高位「特A」を設けている。競争の高まりとともに出品数は年々増加。「特A」獲得を売り場やホームページなどで宣伝するなど販売ツールとしても使われ、ブランド米として販売するための必須条件ともなっている。産地は、「特A」獲得を目指して良食味米生産に取り組む。
今回は、開発されてから時間がたった品種に苦戦が見られた。「あきたこまち」は主産地の秋田で9年ぶりに「特A」を逃した。「ひとめぼれ」は生産量が多い岩手と宮城県で「特A」がゼロ。「ヒノヒカリ」は16産地が出品したが「特A」は2産地にとどまった。こうした産地では、新品種の導入が進んでいる。
存在感を示したのは高温耐性品種だ。「にこまる」は出品した5産地全てで「特A」を獲得。新品種「なつほのか」も長崎で獲得した。「つや姫」は大分では逃したが、他の産地では全て「特A」だった。
産地間や新旧品種の勢力争いは年々活発化している。新型コロナウイルス禍で家庭内消費が高まっているものの、消費者の低価格志向もあり、ブランド米市場の販売環境は厳しい。「特A」を獲得したブランドは、全体の3分の1を占める。関係者は「良食味に加え、さらに価値を訴求できるかが重要」と指摘する。
<ことば> 米の食味ランキング
日本穀物検定協会が1971年産から始め、今回で50回目。食味試験をし、産地銘柄ごとに「特A」「A」「A´」「B」「B´」の5段階で格付けする。複数産地の「コシヒカリ」のブレンド米を基準に、外観、香り、味、粘り、硬さ、総合評価の6項目で評価する。
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2021年03月05日

熟成黒にんにく 青森・JA十和田おいらせ
特許製法による低臭加工を施した、青森県のJA十和田おいらせのブランド「低臭プレミアムにんにく」を使っている。
JAは国内最大級のニンニク産地。健康な土づくりにこだわり、土壌診断に基づく「土の栄養バランス」を整えた畑で栽培している。粒の最深部まで熱を取り込む製法で約1カ月間熟成させた後、さらに20~30日間追熟させて仕上げる。
粒の大きさも厳選。まろやかな味わいで食べやすく、高い栄養価も期待できる。1袋(100グラム)500円という「ワンコイン」の手軽さも売りだ。
JAファーマーズ・マーケット「かだぁ~れ」で販売している。問い合わせは「かだぁ~れ」、(電)0176(51)4020。
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2021年03月03日

福島のブランド 「伊達鶏」おにぎり 香港フェア初出展
福島県のブランド鶏「伊達鶏」の製造販売を手掛ける伊達物産(伊達市)は、農林中央金庫福島支店などの支援を受け、県が県産品の販路拡大を目指す物産展「ふくしまプライド。フェアin香港」に参加し、「肉ゴロッとおにぎり」を海外初出展した。香港のスーパーで7日まで販売する。……
2021年03月05日

トマトにLED補光 日照不足解消へ試験 新潟のベジ・アビオ
トマトを施設栽培するベジ・アビオは2月中旬から、発光ダイオード(LED)を使った補光の実証試験を始めた。日本海側で9月から翌年7月にかけて栽培する同社は、冬場の日照不足が課題だった。LEDで日射を補って光合成を促すことで、収量と品質の安定を狙う。……
2021年03月03日

桃の節句 華やかに 「さげもん」作り20年 JAふくおか八女の女性部員
JAふくおか八女立花地区女性部員の甲木壽子さんは、ひな祭りに飾るつるし飾り「さげもん」を作り続けて20年以上の「手芸名人」だ。作ったさげもんは、地元の「道の駅たちばな」で販売。女性部のさげもんサークルで作り方を指導しJAのイベントで展示するなど、精力的に活動している。
さげもんは、福岡県柳川地方に伝わるつるしびな。鶴や亀、エビ、セミなどの生物をかたどった人形を、子どもの成長を願って飾る。
甲木さんが作り始めたのは、孫の誕生がきっかけだった。初節句の日に座敷に飾っていると、そのかわいさや華やかさが評判を呼び、写真を撮りに訪れる人もいたという。
素材にはちりめんを使い、着物の布でも作れるという。一針ずつ手縫いで作り「孫が健康でありますように」と願いを込める。年中作業をしており、1年に1対完成する。「縫い仕事をしていると日頃の嫌なことも忘れて夢中になれる」と甲木さん。さげもんの他にも「苦難猿」という縁起物の置物も製作している。
2月中旬に八女市のJA立花地区センターで開かれた女性部の展示会で、甲木さんや仲間が製作したさげもんが彩りを添えた。甲木さんは「いろんな種類の人形のかわいらしさと華やかさが魅力。今後も女性部の仲間と一緒に作り続けていきたい」と話す。
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2021年03月02日
四季の新着記事
いつも物忘れをする旦那たちが、集まって相談した
いつも物忘れをする旦那たちが、集まって相談した。そして忘れたことを思い出す会を開くことを決めた▼その日、会場となる金兵衛さんは、座敷をきれいにし、ごちそうも並べて待った。ところが誰も来ない。番頭さんに聞いた。「21日に思い出し会の約束をしているのに誰も集まって来ない。みんな忘れているのかもしれない。呼んで来てくれ」。すると番頭さんはあきれ顔で言った。「旦那さま、今日は、22日でございます」。ウェブの「福娘童話集」から引いた▼昔から、お年寄りの物忘れは笑いのネタになった。認知症にはなりたくないが、世界の患者は年々増加。2050年までに1億5000万人に達するものとみられる。急速に高齢化が進む日本でこそ、妙薬が待ち遠しい。そんな中で、希望が膨らむ発見である▼蚕で培養したカイコ冬虫夏草が人間の認知機能を高めることを、岩手大学発のベンチャー企業などが突き止めた。韓国ドラマ「宮廷女官チャングムの誓い」に登場した「冬虫夏草」とは違い、認知機能を高める「ナトリード」という物質が含まれる。マウスの実験では、認知機能と毛髪の改善に効果があった、という▼度重なる物忘れに頭を悩ますこのごろ。できれば記憶と髪の毛が残っているうちに、試したいものである。
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2021年03月05日
大地には異形で巨大な菌類の森が広がり、昆虫に似た大きな生物たちが生息する
大地には異形で巨大な菌類の森が広がり、昆虫に似た大きな生物たちが生息する▼宮崎駿さんの漫画版『風の谷のナウシカ』(徳間書店)は、大地から富を奪い、生命体も意のままに作り変える巨大産業文明が行き着いた世界を描いた。毒気を発する菌を避けるため、人類はマスクが手放せない。それでも、愚かな戦いを続ける。地球の未来図でもあるか▼そんな不毛の地をも連想させる映像である。米国NASAが、探査機が送ってきた火星の映像を公開した。「赤い地表」から巻き上がる砂ぼこり、風のような「音」が荒涼感を醸し出す。直径が地球の2分の1で、地球の外側の軌道で太陽を回る。以前から生き物がいたのではないかと、臆測を呼んできた。果たして生物の痕跡は見つかるのか。期待と不安が混じる▼気になるのは温暖化にむしばまれる地球である。国連機関が新たにまとめた報告書によると、世界の平均気温は2100年までに産業革命前に比べ3度上昇し、「パリ協定」が目指す水準を上回る。2度以上上がれば、ミツバチによる授粉ができなくなるとされる。グテレス国連事務総長は、「危険信号だ」と警告を発した▼このままマスクが手放せない惑星になったらどうしよう。緑豊かな地球へのいとおしさがいよいよ募る。
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2021年03月04日
あかりをつけましょぼんぼりに
〈あかりをつけましょぼんぼりに お花をあげましょ桃の花〉。サトウハチローさんが作詞した童謡「うれしいひなまつり」を口ずさむ▼きょうは、桃の節句。ひな人形を飾って、女の子の健やかな成長を祈る。源流が中国の「みそぎ払い」にあるこの行事は、江戸時代から豪華なひな飾りが登場した。首都圏1都3県ではコロナ禍の緊急事態宣言が続き、家族だけでひっそりと祝う家庭も多かろう▼先の歌詞に登場する、「ぼんぼり」に当てる漢字は「雪洞」。雪のうろから漏れる淡い燭光(しょっこう)には、「優しさ」がある。そして、桃には、古来、「厄よけ」「不老長寿」の意味が込められた。いずれも、いとおしい娘に寄せる親心に通じる▼心浮き立つ祭りでも、若手俳人神野紗希さんの“解説”に、心が痛む。「女として生まれ、社会や家庭のしがらみの中で、目鼻を塞(ふさ)がれるように箱に押し込められ、それに逆らうことを知らなかった女たちの人生を、この雛(ひな)たちは暗喩的に代表している」(『女の俳句』)。童謡の短調で暗いメロディーからは、「しみじみと淡いかなしみが立ち込めてくる」▼差別など無い社会でこその、祭りであろう。女性蔑視発言が飛び出し、男女平等ランキングが世界121位では、白酒のお相伴にあずかるのも気が引ける。
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2021年03月03日
文章を一字一句違わず正しく写すのは、思った以上に難しい
文章を一字一句違わず正しく写すのは、思った以上に難しい▼昔の人は仏教の経典を書き写す写経に苦労したようで、間違いを犯した写経生には罰金を科したとの記録が残っている。ちゃんと校正係がいて、誤字脱字をチェックしていた。大事な教えを正しく伝えるには、正確な写経が欠かせなかったのだろう▼確かに1文字の違いが、真逆の意味になったりする。織田正吉さんの『ことば遊びコレクション』から引く。日本たばこ産業が専売公社時代に使ったキャッチフレーズ「きょうも元気だ、たばこがうまい」。「が」の濁点を忘れると、「きょうも元気だ、たばこ買(か)うまい」と禁煙文句に変わる▼正しく伝えることは、人の寿命にも係る。細胞にそれぞれの働きを指示する機能「エピゲノム」が混乱し、正しい指示が伝わらないと老化することが分かってきた。その“故障”を治療する研究が進んでいる。医学の最先端では、今世紀末までに寿命が150歳に延びることも夢ではない。「老化は病気だ」とする世界的科学者シンクレア氏の『ライフスパン 老いなき世界』に学ぶ▼秦(しん)の始皇帝が求めた不老不死とまではいかないが、延命薬を手にする日は、そう遠くないかも知れぬ。それが幸せにつながるかどうかは、別問題ではあるが。
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2021年03月02日
西太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁から東へ160キロ
西太平洋マーシャル諸島のビキニ環礁から東へ160キロ、1954年3月1日午前9時ごろから漁船、第五福竜丸に白い粉が降り注いだ▼乗組員23人はその晩から目まいや吐き気などに襲われ、数日後にはやけどのような症状が。そして1週間後ぐらいから髪の毛が抜けるようになった。白い粉の正体は、同環礁での米国の水爆実験で粉々になったサンゴ。きのこ雲に吸い上げられ強い放射能を帯びた「死の灰」である。他にも多くの船が被ばくしたが、全容は分かっていない。死の灰は東京・夢の島公園の第五福竜丸展示館で見ることができる▼そこでは今、最初に亡くなった久保山愛吉さん(享年40)とその家族に宛てた子どもらの手紙を公開中だ。「ほんとうにおそろしいそしてにくいすいばくです」「せんそうも、しない すいそばくだんもいらない」。核兵器廃絶への願いをつづる▼それはいまだに実現していない。そればかりか核兵器禁止条約が発効しても、被爆国の日本は背を向けたままだ。当時小3だった久保山さんの長女の作文から。「あのじっけんさえなかったらこんなことにはならなかったのに。こんなおそろしいすいばくはもうつかわないことにきめてください」▼広島・長崎から76年、ビキニ事件から67年。核の悲劇を改めて心に刻みたい。
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2021年03月01日
我田引水
我田引水。官邸の政策会議の議事録で、一般企業の農地所有を解禁したい人たちの発言を読むと、そう思えてならない▼昨年末の国家戦略特区諮問会議では、兵庫県養父市で認めている農地所有特例の扱いを議論。竹中平蔵パソナグループ会長ら民間メンバーは全国展開を強硬に主張した。「大成功」というのが根拠である▼本当か。6社が農地を取得したが、経営面積のほとんどがリースで所有は7%。しかも1社は休業中だ。民間メンバーは耕作放棄や産廃置き場になっていないと強調するが、自ら望んだ特区なのだから、そうならないよう同市が最大限努力するのは当然であろう。管理された実験室と同じである▼特例は2年の延長で決着。主戦場は規制改革推進会議での農地所有適格法人の要件を巡る議論に移った。論点は一般企業による経営支配と株式上場を認めるか。農業関連法人からの意見聴取では慎重論が相次いだ。それでも農業分野の座長、佐久間総一郎日本製鉄顧問は、まとめの発言で株式上場の重要性を指摘した▼竹中氏は、昨年4月に出した共著『日本の宿題―令和時代に解決すべき17のテーマ』に「企業の農地所有を認める」と書き、前々から答案は作成済み。しかし正答を決めるのは政府である。菅首相のブレーンとされるが、忖度(そんたく)は御法度。
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2021年02月28日
〈役人の骨っぽいのは猪牙(ちょき)に乗せ〉という川柳がある
〈役人の骨っぽいのは猪牙(ちょき)に乗せ〉という川柳がある。猪牙は吉原に通うのに使った足の速い小舟のこと。お堅い役人も色で骨抜きになるということらしい▼色ならぬ飲食接待で籠絡できるとみられたか。鶏卵生産大手の前代表から接待を受けたとして、農水省の枝元事務次官らが国家公務員倫理規程違反で処分された。次官は、代金は「大臣(同席していた吉川元農相)が支払ったと思っていた」と話していたが、実際には利害関係者である前代表が負担した▼倫理規程ができたきっかけは、23年前に発覚し、大蔵官僚の接待汚職が暴かれた「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」。官僚の皆さんに〈李下(りか)に冠を正さず〉という言葉を贈ろうと思ったが、直近の総務省をはじめ、倫理規程ができた後も違法接待は繰り返され、問われるはむしろ学習能力か▼元農相と前代表の関係は贈収賄事件に発展。政官業の癒着で鶏卵行政がゆがめられたのではないか。国民の厳しい目が農水省に注がれている。心配なのは農政全体に不信感が広がること。政策遂行に支障が出れば農家にも影響が及びかねない▼元農相の在職中の政策決定過程を農水省は検証中だ。傷を治すにはうみを出し切ることが先決である。そして政策で成果を上げる。国民共通の願いは食料自給率の向上だろう。
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2021年02月27日
〈男は黙って…〉。かつてのビールの宣言文句もいまなら物議を醸すかも
〈男は黙って…〉。かつてのビールの宣言文句もいまなら物議を醸すかも。ことさら男を強調するのはいかがなものかと▼おしゃべりな人、口数少ない人。人それぞれ。別段男だから女だからと限定するのはおかしい。もちろん女性だから会議での話が長いわけでもない。ただコロナ禍で会話が減っているのは確か。知人は、長いマスク生活で「声が出にくくなった」とこぼしていた▼会話を極力しないことが良しとされるご時世である。「黙食にご協力ください」と呼び掛ける飲食店も現れた。食事の楽しさは、気心の知れた人との会話も調味料になる。例えば恋人同士が、2重マスクとアクリル板越しに、黙々と箸を運ぶ。時折、スマホのLINEで“筆談”。これではどんなごちそうでも味気ないだろう▼「賢者は黙して語らず」のことわざが示すように、日本では往々にして沈黙は美徳とされる。「沈思黙考」は、黙して熟慮するさま。不平不満を言わず黙々と働く人も好まれる。しかし「沈黙は金」も時と場合による。菅首相のご子息に絡む接待疑惑の渦中にある総務省幹部は当初「黙秘」を決め込み、会話記録が出ると「記憶力不足」と釈明した▼永田町や霞が関の住人たちには、政権を守るため沈黙を守り通せば出世する「黙約」でもあるのだろうか。
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2021年02月26日
きょうは茂吉忌
きょうは茂吉忌。医者にしてわが国を代表する歌人である。斎藤茂吉の代表作は「死にたまふ母」の連作であろう▼〈みちのくの母のいのちを一目見ん一目みんとぞただにいそげる〉。山形県の農家の三男に生まれ、早くして養子に出された。東京で精神科医として名を成したが、母への思慕はやみ難い。母危篤の知らせを受け詠んだ歌である。死の床にある母への絶唱歌は〈死に近き母に添寢のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる〉。カエルの鳴き声は茂吉の慟哭(どうこく)である▼コロナ禍で、親の死に目にも会えない人の心中はいかばかりか。茂吉は若い頃、スペイン風邪にかかった。発熱や肺炎に加え、せきや倦怠(けんたい)感の後遺症に悩まされた。同郷の歌人に宛てた手紙は医者らしい予防策をつづる。「直接病人に近づかざること」に始まり、マスク着用、塩水うがいなどを列挙。熱が出たら絶対安静とある▼茂吉のもう一つの顔が旺盛な食欲。作家の嵐山光三郎さんは「もの食う歌人」と称した。大のウナギ好きで知られた。病院の焼失、夫婦関係など私生活では苦労が絶えなかった。嵐山さんは、食べることを生きる力に変えたと書く▼〈あたたかき飯(いい)くふことをたのしみて今しばらくは生きざらめやも〉。食べて生きて歌に昇華させた70年の人生だった。
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2021年02月25日
若い頃、援農先で「ヒヤリ・ハット」を経験した
若い頃、援農先で「ヒヤリ・ハット」を経験した▼耕運機で畑を耕していた。慣れない作業、注意はしていたつもりだ。折り返そうとした時、バランスを崩し耕運機ごと横転した。幸い擦り傷で済んだが、一歩間違えれば沢に落ちるところだった。あの時、転落や下敷きで大けがを負っていたら。そう思うといまでもあわ立つ▼3月からの春の農作業安全運動を前に、農水省が初の試みで、農林水産業、食品産業が一体となった「作業安全推進Week」を26日まで開いている。シンポなどで多くの先進事例を聞けたが、痛ましい報告もあった。71歳の男性は昨年5月、離れた農地にトラクターで向かう途中、8メートル下の沢に転落し命を落とした▼2019年、農作業事故で死亡した人は281人。9割近くが高齢者で、農機事故死が65%を占める。毎年300人前後が農作業事故で亡くなっている。この半世紀変わらぬ日本農業の現実だ。数字も重いが、愛する者にとってはかけがえのない1人だ。数字の背後にある家族の悲嘆、経営の危機、地域の損失を思う時、暗たんとなる▼農水省が掲げたポスターに「『安全』こそ、何よりの収穫だ」の言葉がある。命を守る経営は全てに優先する。「ただいま」「おかえり」。毎日がそんな言葉で終われますように。
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2021年02月24日