配合飼料高騰 長期化に農家恐々 負担増へ先手置き換え急ぐ 食べ残し削減徹底
2021年01月22日

飼料タンクを見上げ不安を吐露する竹村代表(北海道中標津町で)
トウモロコシや大豆など穀類相場の高騰で、国内で配合飼料の供給価格が上昇しているため、畜産現場に長期的な影響が及ぶ可能性が出てきた。JA全農によると、1~3月期の配合飼料供給価格は昨年10~12月期に比べ、全国全畜種総平均で1トン当たり3900円値上げされている。産地は、年内は高値が続く可能性があるとして、代替飼料の活用など新たな対策を模索し始めた。(関山大樹、中川達己)
北海道中標津町のTMR(完全混合飼料)センター「とうほろDairyCenter」は、配合飼料に大豆やトウモロコシなどを混ぜた混合飼料を作り、地域の酪農家の乳牛約1250頭に供給している。だが、飼料や原料を貯蔵する12個のタンクのうち現在、大豆だけが空の状態だ。
今冬、大豆を取引するメーカーに1トン当たり5000円の値上げを打診された。従来通りに飼料生産をした場合、年間400万円の負担増になる。代替策として、飼料の主要なタンパク源を加熱大豆から、タンパク含有率のやや低い「コーングルテンフィード」に置き換えた。
センターは大豆の他、トウモロコシ、しょうゆかす、配合飼料なども使う。代表の竹村聡さん(57)は「このままだと値上がりでさらに経費が増えるため、タンパク源を替えて早めに対策を打った」と説明する。
芽室町で肉用牛約4000頭を飼養する大野ファームは月700トンほど配合飼料を購入しており、飼料高騰前に比べ、毎月210万円経費がかさんでいる。代表の大野泰裕さん(56)は「配合飼料はすぐ置き換えられるものではないが、長期的に影響が続いた場合を考え、国産で置き換えられるものがあれば少しずつ替えていく」と見据える。
九州でも畜産農家が対応に苦慮する。飼養頭数50~100頭規模の養豚農家が多い宮崎県のJA都城では「豚の餌の食べこぼしを減らすなど、餌を無駄にしないこれまでの対策を継続し、徹底するよう呼び掛ける」(養豚課)としている。
穀類の国際価格の基準となるシカゴ先物相場では20日(米国現地時間)、トウモロコシが1ブッシェル5・22ドル。大豆も1ブッシェル13・70ドル。昨年1月の同相場はトウモロコシが同3ドル台、大豆は同8ドル後半~9ドル台で推移しており、今年は高値が続く。
相場高騰は昨年8月以降、南米や米国など主産地での高温乾燥や暴風雨による生育不良が原因。中国で飼料用の需要が増え、旺盛な輸入が続くことも影響した。
米国農務省が1月12日に発表した需給予測では、今年8月末の大豆の期末在庫は全需要量の3・1%と極めて低い水準に落ち込む見込み。穀類の需給逼迫(ひっぱく)が続けば、国内の配合飼料供給価格が高止まる可能性がある。
一方、1~3月期の配合飼料安定基金の補填(ほてん)額の決定は4月中旬を予定。発動されれば、5月末に支出される。
北海道中標津町のTMR(完全混合飼料)センター「とうほろDairyCenter」は、配合飼料に大豆やトウモロコシなどを混ぜた混合飼料を作り、地域の酪農家の乳牛約1250頭に供給している。だが、飼料や原料を貯蔵する12個のタンクのうち現在、大豆だけが空の状態だ。
今冬、大豆を取引するメーカーに1トン当たり5000円の値上げを打診された。従来通りに飼料生産をした場合、年間400万円の負担増になる。代替策として、飼料の主要なタンパク源を加熱大豆から、タンパク含有率のやや低い「コーングルテンフィード」に置き換えた。
センターは大豆の他、トウモロコシ、しょうゆかす、配合飼料なども使う。代表の竹村聡さん(57)は「このままだと値上がりでさらに経費が増えるため、タンパク源を替えて早めに対策を打った」と説明する。
芽室町で肉用牛約4000頭を飼養する大野ファームは月700トンほど配合飼料を購入しており、飼料高騰前に比べ、毎月210万円経費がかさんでいる。代表の大野泰裕さん(56)は「配合飼料はすぐ置き換えられるものではないが、長期的に影響が続いた場合を考え、国産で置き換えられるものがあれば少しずつ替えていく」と見据える。
九州でも畜産農家が対応に苦慮する。飼養頭数50~100頭規模の養豚農家が多い宮崎県のJA都城では「豚の餌の食べこぼしを減らすなど、餌を無駄にしないこれまでの対策を継続し、徹底するよう呼び掛ける」(養豚課)としている。
穀類の国際価格の基準となるシカゴ先物相場では20日(米国現地時間)、トウモロコシが1ブッシェル5・22ドル。大豆も1ブッシェル13・70ドル。昨年1月の同相場はトウモロコシが同3ドル台、大豆は同8ドル後半~9ドル台で推移しており、今年は高値が続く。
相場高騰は昨年8月以降、南米や米国など主産地での高温乾燥や暴風雨による生育不良が原因。中国で飼料用の需要が増え、旺盛な輸入が続くことも影響した。
米国農務省が1月12日に発表した需給予測では、今年8月末の大豆の期末在庫は全需要量の3・1%と極めて低い水準に落ち込む見込み。穀類の需給逼迫(ひっぱく)が続けば、国内の配合飼料供給価格が高止まる可能性がある。
一方、1~3月期の配合飼料安定基金の補填(ほてん)額の決定は4月中旬を予定。発動されれば、5月末に支出される。
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輸入食品 分けて販売 コロナ検出相次ぎ対策 中国
中国では、輸入食品を国産と分けて保管・販売する卸売市場やスーパーが増えている。中南米産やアジア産の冷凍食品の搬送資材や包装資材から、新型コロナウイルスが相次いで検出され、感染防止策として国家市場監督管理総局(SAMR)が呼び掛けているためだ。
海関(税関)総局の公表によると、1月14日現在、全国から129万5692件のサンプルを抽出、調査したところ、47件から新型コロナウイルスの陽性反応が出た。昨年11月の13件から3倍以上も増えた計算だ。
この動向を踏まえ、SAMRは輸入食品の管理を強化するテレビ会議を開き、食品輸入業者や農産物卸売市場、ショッピングモール、スーパー、生鮮食品の電子商取引などに対し、全面的な調査を行う必要性を強調した。感染防止策として、輸入食品に対し、入荷の専用ルートや保管場所、販売ブースの設置を呼び掛けている。
北京の農産物卸売市場の関係者は「これまで同じ品目は、仕入れ先に関係なく、同じブースに並んでいた。しかし現在は、輸入物は専用ブースで販売することになった。国産をPRする良いチャンスではないか」とみている。
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2021年02月21日
ジャンボタニシ 被害削減へ対策徹底を
2021年産の米作りに向けて、スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)対策が大きな課題となっている。地球温暖化が進む中で近年被害が拡大、20年産米では30を超える府県で確認された。寒い時期に水田を耕うんするなど今から対策を徹底し、被害を抑え込みたい。
ジャンボタニシは長い触覚とピンクの卵塊が特徴の巻き貝。田植え後3週間までの軟らかい稲を食害する。寿命は2、3年。南米原産で、食用として日本に持ち込まれ、野生化した。
被害は近年、深刻の度を増している。農水省によると、面積は分かっていないが、20年産では31府県で被害を確認した。温暖化で越冬しやすくなったことが影響しているとみている。
以前から被害があった九州や四国では対策を講じている産地も少なくない。だが、被害が少なかった地域では、まだ対策を取っていない産地もあり、被害が広がったという。
被害を減らすには何をすべきか。やはり基本的な対策の徹底が一番である。
同省が昨年10月に発表した防除対策マニュアルによると、特に重要なのが1、2月の水田の耕うんだ。ジャンボタニシは寒さに弱く、土に潜って越冬する。耕うんすることで貝を壊したり、寒風にさらして殺したりすることが有効だ。また、田植え前には貝の水田への侵入を防ぐために取水口・排水溝に網を設置し、田植え後には貝の動きを鈍くするために浅水管理(水深4センチ以下)をすることなども重要である。被害を抑え込むためにしっかり取り組みたい。
ただこうした対策には一定の手間やコストがかかる。そもそも基本的な対策に必ずしも取り組めない産地もある。例えば、滋賀県認証ブランド米「魚のゆりかご水田米」を生産する野洲市などだ。生態系との共生を目指し、琵琶湖の魚が遡上(そじょう)して水田で産卵できるようにするのが特徴で、浅水管理は難しい。取水口・排水溝への網設置も、魚が入って来られなくなるため使えない。
自分たちができる対策を組み合わせ、いかに効果の高い防除体系を構築するか。被害に悩む近畿地方の各産地は相次いで試験に乗り出している。前述の野洲市では23の実証圃(ほ)を設け、冬の低速耕うんと田植え期の農薬散布を組み合わせた防除の試験を進めている。こうした産地の取り組みを政府は、被害削減の成果が上がるまで息長く支援すべきだ。
政府は20年度第3次補正予算と21年度当初予算案に、ジャンボタニシなどの病害虫対策費を計上。各地域に適した防除体系の実証に取り組む自治体やJA、農家グループなどに対し、農薬代や作業員の人件費などを半額補助する。積極的に産地に周知し、活用を促してほしい。
防除の機運を高めるには、面積をはじめ詳しい被害状況の把握が必要だ。政府には本腰を入れて調べてもらいたい。
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2021年02月19日

世界農業遺産 3地域申請 国内版7地域認定
農水省は19日、国連食糧農業機関(FAO)が認定する「世界農業遺産」に、山形県最上川流域の紅花の生産・加工、埼玉県武蔵野地域の落ち葉堆肥農法、島根県奥出雲地域の鉱山跡地での資源循環型農業の3地域を申請することを決めた。国内版の「日本農業遺産」には、4県7地域を認定した。
世界農業遺産は、伝統的な農業技術や土地景観が保全されている地域などを認定する制度。2002年から現在までに22カ国62地域が認定され、日本では中国に次いで2番目に多い10県11地域に上る。3地域については秋ごろをめどに申請し、FAOの現地調査などを経て登録の可否が決まる。同省が19年10月に申請した3地域も審査中という。
山形県最上川流域は、紅花の生産と染色用素材への加工技術を約450年間受け継いできた。埼玉県武蔵野地域では平地に林を作り、落ち葉を集めて堆肥とすることで特徴的な景観と生物多様性を育んでいる。
島根県奥出雲地域は鉱山跡地を棚田として再生し、独自の土地利用で複合的な農業経営を行っている。いずれも18年度までに日本農業遺産に認定された。
野上浩太郎農相は同日の閣議後記者会見で、今回の申請・認定が「地域の皆さんの自信や誇りにつながる」と期待した。
農相が認定する日本農業遺産は、今回を合わせて16県22地域となった。同遺産に認定された地域は次の通り。
▽富山県氷見地域(持続可能な定置網漁業)▽兵庫県丹波篠山地域(丹波篠山の黒大豆栽培)▽兵庫県南あわじ地域(水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム)▽和歌山県高野・花園・清水地域(聖地高野山と有田川上流域を結ぶ持続的農林業システム)▽和歌山県有田地域(みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム)▽宮崎県日南市(造船材を産出した飫肥林業と結びつく「日南かつお一本釣り漁業」)▽宮崎県田野・清武地域(宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム)
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2021年02月20日

優良品種 流出防ぐ 知財戦略見直し 農水省
農水省は、品種やブランド、技術といった農業分野の知的財産の保護や有効利用に向け、2021年度からの5年間の戦略を作る。国産農産物の輸出拡大を進める中、日本の優良品種の海外流出対策を柱とする方針。海外に持ち出された品種が日本に入ってきたり、海外市場で競合相手となったりするのを防ぐ。4月の策定に向け、有識者による検討を進める。
同戦略は07年に策定して以来、おおむね5年ごとに見直している。現行戦略は、特定産地のブランドを知的財産として守る地理的表示(GI)保護制度や海外市場での模倣品対策などが柱。今回は3度目の見直しで、有識者による戦略検討会(座長=渡部俊也東京大学未来ビジョン研究センター教授)の初会合を19日に開き、新戦略の方向性について意見を交わした。
新戦略では、日本の優れた品種や家畜の遺伝資源の海外流出対策に重点を置く方針。政府は農林水産物・食品の輸出額を30年までに5兆円とする目標を掲げるが、輸出がさらに増えれば、優良品種の流出や日本産の模倣品が出回る可能性も高まると同省はみるためだ。
具体策として、4月に一部施行される改正種苗法や、昨年に施行された改正家畜改良増殖法や家畜遺伝資源の不正競争防止法による優良品種や和牛遺伝資源の保護を盛り込む方向で検討。制度開始から5年間で104産品の登録にとどまるGIの一層の普及、スマート農業技術の保護、知的財産に関わる人材の育成なども盛り込む方針だ。
検討会の初会合で委員からは、現場の農家にも施策の重要性を理解してもらえるよう、戦略の周知にも重点を置くべきだとする意見が出た。
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2021年02月24日
「サステナブル」
「サステナブル」。数年前、欧州の若い農家にどんな農業をしたいのかと本紙記者が尋ねた時、大概の人からこの言葉が返ってきた▼国連のSDGsのSで「持続可能な」と訳される。何にでもくっつく便利な形容詞であり、行政やビジネスの世界でもよく目にする。政治家が「持続可能な農業」と訴えたら、それらしく聞こえるから不思議だ。昔の「断固農業を守ります」が大挙引っ越してきた感がある。試しに年内に行われる衆院選をご覧あれ▼このサステナブルにEU農政がかじを切った。昨年5月、〈農場から食卓へ〉の新戦略を打ち出した。商品のキャッチコピーみたいだが、掲げた数値目標が農業者を大いに刺激している。2030年までに化学農薬を50%、肥料を20%減らす、有機農業を全農地の25%に拡大する。昆虫やマメ科植物の飼料利用を進める。これはアマゾンの森林を開発して生産した輸入大豆への依存をやめるという意思表示である▼欧州ではサステナブルは明確に環境とつながっている。この考えから食料の生産流通に新たな規律を設けようとの国際潮流がある。9月には国連食料システムサミットがニューヨークで開かれる▼米国がパリ協定に復帰。農業も巻き込んで世界は動く。遅れているのは男女平等だけではない。
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2021年02月23日
農政の新着記事

[米のミライ](1) 低コスト稲作 生産費 60キロで1万円 全面積直播、効率を追求 岩手県一関市 おくたま農産
米の生産費削減は稲作農家に共通する課題だ。持続的な稲作経営に欠かせない。政府は2023年までに、担い手の米生産費を11年平均の60キロ1万6000円から9600円へと、4割削減する目標を掲げている。生産現場では作業方法の見直しや、直播(ちょくは)などの技術を駆使してコスト削減に奮闘する。
岩手県一関市で水稲を約128ヘクタール栽培する農事組合法人おくたま農産は、米の生産費60キロ1万円を達成する。……
2021年02月24日

優良品種 流出防ぐ 知財戦略見直し 農水省
農水省は、品種やブランド、技術といった農業分野の知的財産の保護や有効利用に向け、2021年度からの5年間の戦略を作る。国産農産物の輸出拡大を進める中、日本の優良品種の海外流出対策を柱とする方針。海外に持ち出された品種が日本に入ってきたり、海外市場で競合相手となったりするのを防ぐ。4月の策定に向け、有識者による検討を進める。
同戦略は07年に策定して以来、おおむね5年ごとに見直している。現行戦略は、特定産地のブランドを知的財産として守る地理的表示(GI)保護制度や海外市場での模倣品対策などが柱。今回は3度目の見直しで、有識者による戦略検討会(座長=渡部俊也東京大学未来ビジョン研究センター教授)の初会合を19日に開き、新戦略の方向性について意見を交わした。
新戦略では、日本の優れた品種や家畜の遺伝資源の海外流出対策に重点を置く方針。政府は農林水産物・食品の輸出額を30年までに5兆円とする目標を掲げるが、輸出がさらに増えれば、優良品種の流出や日本産の模倣品が出回る可能性も高まると同省はみるためだ。
具体策として、4月に一部施行される改正種苗法や、昨年に施行された改正家畜改良増殖法や家畜遺伝資源の不正競争防止法による優良品種や和牛遺伝資源の保護を盛り込む方向で検討。制度開始から5年間で104産品の登録にとどまるGIの一層の普及、スマート農業技術の保護、知的財産に関わる人材の育成なども盛り込む方針だ。
検討会の初会合で委員からは、現場の農家にも施策の重要性を理解してもらえるよう、戦略の周知にも重点を置くべきだとする意見が出た。
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2021年02月24日

林・福 連携で需要を喚起 障害ある人が木工品作り 国産材で小物から家具まで
林業の労働力不足解消と障害のある人の就労促進を目指す「林福連携」が注目を集めている。障害者が木工品などの加工に携わり、国産材の需要を喚起することで、障害者の社会参画につながっている。林野庁では2021年度に初めて予算を確保するなど、取り組みを後押しする。(宮浦晃希)
経済循環、就労促進も
埼玉県深谷市の社会福祉法人幸仁会・川本園では、知的障害を持つ40人が働く。加工する木は地元の森林組合から丸太で仕入れ、ティッシュペーパーケースなどの小物から家具といった大物まで、注文に応じた木工品を生産する。売り上げは法人全体で年間7000万円を計上する。
「どう工夫すれば、障害を持っている彼らが仕事をできるようになるのかを常に考えている」と話すのは、同法人の田中初男理事長。現場では一人一人に仕事の持ち場があり、責任感ややりがいにつながっているという。地域の木材を使うことで「地域経済にも良い循環が流れ、林福連携の効果を実感している」という。
木材加工を通じて、通所者の行動にも変化が表れた。施設への通勤には電車を使い、作業場と休憩所が分かれている場所で働くことで、社会性が身に付いたという。
地域での林福連携の認知も広がっている。これまでの注文は行政中心だったが、ここ数年は個人からも注文が来るようになった。田中理事長は「木を通じて、良い商品を作り、彼らが活躍できる場をつくっていきたい」と力を込める。
東京都日の出町の就労継続支援B型事業所「就労日の出舎」で働く20~80代の通所者25人の多くは、身体障害者だ。同事業所でも木工品を作っており、加工する木材の9割は地元多摩産のヒノキを使う。
「一人一人の長所を生かした人員配置に力を入れている」と話すのは、同事業所の加藤圭介支援課長。「木工品には穴開けや磨きなどさまざまな工程があり、障害の種類や程度に応じて、個々の長所を生かすことができる」と林業に携わるメリットを話す。
ニーズに応じた生産にも力を入れる。今年度は、新型コロナウイルス感染対策の飛沫(ひまつ)防止パーテーションの木枠を200台作り、病院などに納品した。ノベルティー資材なども大量生産できるよう設備を整えているという。
こうした工夫で、自治体や企業などの取引先からは「福祉施設でここまでできるのか」と驚く声が寄せられるという。福祉の力が徐々に社会に知られるようになってきたと手応えを感じる。
加藤支援課長は、「ヒノキの良い香りが通所者の精神安定にもつながっているのではないか。将来は林業の一端を担える人材の育成を目指していきたい」と話す。
林野庁が来年度予算化 製品開発を支援
林野庁は、2021年度に700万円を投じ、優れた木材製品の開発をソフト面から支援する計画だ。国産材需要の拡大に力を入れ、障害者の雇用拡大を後押しする。
具体的には①優れた地域材製品の開発②情報発信──を想定し、2、3課題を選ぶ予定だ。国産材を使って福祉関係者や林業・木材産業者、デザイナーなどが連携し、優れた木工品の製作を進め、ウェブサイトなどで周知することを要件としている。
同庁によると、国産材の需要喚起が課題。同庁木材利用課は「優れた木工品を作ることが、国産材の良さを広め、福祉の働く場の創出にもつながる」と林福連携の取り組みを後押ししていく方針だ。
多様な人材が活躍
JA共済総研の濱田健司主席研究員は「林福連携は、モデルをつくり、これから広げていく段階。連携を通じて、林業で地域を元気にし、障害者の経済的な自立支援にもつながる。生活困窮者や高齢者など多様な人材が活躍できるきっかけにもなる。障害者に対するイメージの変化が今回の予算確保につながったのではないか」と分析する。
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2021年02月24日

20年産サツマイモ収穫量 過去最低 基腐病拡大が深刻 農水省が対策予算拡充
2020年産のサツマイモの収穫量が68万7600トンとなり、農水省が統計を取り始めて以来、最も少なくなったことが分かった。4年連続の減少で、前年比では6万1100トン(8%)減。主産地の鹿児島や宮崎でのサツマイモ基腐病の拡大が影響した。同省は20年度第3次補正予算で同病への対策を拡充し、生産継続を後押しする。
鹿児島の収穫量は21万4700トンで全国1位だったが、前年比では4万6300トン(18%)減。同4位の宮崎は6万9100トンで、1万1500トン(14%)減った。同2位の茨城は18万2000トンで、1万3900トン(8%)増えた。
全国の作付面積は3万3100ヘクタールで、農家の高齢化に伴う作付け中止や品目転換があったが、前年より3%減にとどまった。
一方、全国の10アール当たり収量は前年から5%減の2080キロで、27年ぶりに2100キロを下回った。鹿児島は1970キロで同15%減、宮崎は2310キロで4%減った。
鹿児島や宮崎での収穫量の減少について、同省は生育期間の日照不足に加え、サツマイモ基腐病の拡大があったためだとする。
同病は、サツマイモに寄生する糸状菌が原因で、発病すれば根やつるなどが腐敗する。18年に沖縄で初確認後、鹿児島、宮崎、福岡、熊本、長崎、高知、静岡、岐阜の9県に広がっている。
被害の拡大を受け、同省は20年度第3次補正予算の「甘味資源作物生産性向上緊急対策事業」で、農家への支援策に20億円を確保。鹿児島県全域と宮崎県串間市を対象に、昨年の畑の被害率が3割以上なら10アール当たり2万円、3割未満なら同1万円を支払う。20年度当初予算だけでは足りず、補正で積み増して対応する。
同事業は、JAや複数の農家でつくるグループを対象とする。①病害対策を実施した上で今年もサツマイモを作付けする②焼酎、でんぷん工場など、加工業者と植え付け前に販売契約を結ぶ③市町村やJAから収入保険の説明を受ける──ことが条件。交付金は「20年度内に支払えるようにしたい」(地域作物課)という。
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2021年02月24日
米の主産県 転作独自支援広がる
2021年産米の需給安定に向け、主産県で独自の転作支援策を講じる動きが広がっている。主食用米の作付面積が多い上位10道県のうち7県が、都道府県と同額を上乗せ助成する農水省の新たな支援策を活用し、独自支援に取り組む方針だ。飼料用米などに転作を拡大した分の助成を手厚くし、農家の転作意欲を高める。
国の上乗せ活用“深掘り”後押し
同省は、転作助成金に当たる水田活用の直接支払交付金に、21年産から「都道府県連携型助成」を新設する。……
2021年02月23日
消費拡大へ国民運動 SNSや交流催し 農水省
農水省は2021年度から、農業・農村への理解を広げ、国産農産物の消費拡大につなげる新たな国民運動を官民で始める。昨年改定した食料・農業・農村基本計画を受けた取り組み。地域で頑張る農家の姿や農業の魅力をインターネット交流サイト(SNS)で発信し、消費者との距離を縮める交流イベントも開く。応援団として消費者に国産品を積極的に選んでもらい、食料自給率向上にもつなげたい考えだ。
「国民運動総合推進事業」として、20年度第3次補正予算、21年度当初予算案で計11億1400万円を確保した。基本計画には「農産物・食品の生産に込められた思いや創意工夫などについての理解を深めつつ、食と農とのつながりの深化に着目した新たな国民運動を展開する」と明記。これを具体化する格好だ。
同省はこれまでも、地域の魅力ある農産品の発掘・表彰などを通じ、国産農産物の消費拡大を呼び掛けてきた。新たな国民運動では、消費の呼び掛けよりも、日本の食や環境を支える農業・農村の重要性を理解してもらうことに重点を置く。「生産者の頑張る姿を見てもらうことで、国産農産物を買って農業・農村を支えていこうという機運を高めたい」(政策課)。
同事業では、SNSやテレビなどを通じ、子どもから大人までの幅広い世代に、頑張る農家の取り組みを発信する。具体的には、地域の農産物を使った加工品やメニュー開発、農業現場に障害者や高齢者雇用を受け入れる「農福連携」などを想定する。
地域の農業・農村の価値や農産物の魅力を伝える交流イベントも実施する。オンラインの収穫体験や、農村に滞在して農業体験などを行う農泊、農産物の販売フェアといったイベントを想定。消費者と農家の距離を縮めることを目指す。こうした取り組みは、JAや食品関連企業などとも連携し、官民で進める。
事業では、取り組みの人件費や広告費、イベント開催費など支払う。20年度内に事業実施主体を公募し、採択した民間団体に業務を委託する。
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2021年02月23日
自立支援に農業“有効” 生活困窮者 自然触れて汗流し 8割「好影響」 会話力改善も 共済総研調査
生活困窮者の自立支援で、農作業を体験してもらうと、心身の状況やコミュニケーション力が改善したとの調査結果を、JA共済総合研究所がまとめた。厚生労働省の就労準備支援事業を受託する社会福祉法人やNPO法人などに、支援を受けた人の変化を質問。精神の状況が良くなったとの回答が8割に上るなど、農業の効果が高いことを裏付ける結果となった。
事業は引きこもりや障害などを抱える生活困窮者の就労に向けて、自治体や社会福祉法人などが就労体験の場を提供し、基礎的な能力の習得を支援している。調査は、この事業を受託する201件に行い、このうち活動に農業を取り入れた77件に支援を受けた人の変化を質問。中間集計として取りまとめた。
農作業をして良くなったとの回答が最も多かったのは、精神の状況で77%を占めた。この他、体の状況が65%、生活リズムが64%で続いた。コミュニケーション力も58%と多く、生活困窮者の自立支援に農業の効果が高いことが分かった。
調査した共済総研の濱田健司主席研究員は「農業は自然に触れながら、育てた作物が成長し、販売される過程を体験できることが良い影響を与えるのだろう」と話す。共同作業が多いため、コミュニケーション力も習得できると指摘する。
栽培する品目は野菜が中心で、作業は収穫や草取り、苗植えが多い。形式は作業請負や自主運営する農園か、その両方を組み合わせている。今後の意向では、現状維持(48%)や拡大したい(34%)と、前向きな回答が多かった。
一方、農作業などの活動を79件が「取り組んでいない」「取り組むつもりはない」と回答した。その理由としては技術がない(43%)、農地などの確保が困難(39%)、施設や機具がない(38%)ことが挙がっている。
生活困窮者の自立支援で農作業をしてもらう取り組みを広めるため、濱田主席研究員は「現場の人材育成や生活困窮者と農業をつなぐ組織への政策支援が必要だ」と指摘する。
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2021年02月21日

世界農業遺産 3地域申請 国内版7地域認定
農水省は19日、国連食糧農業機関(FAO)が認定する「世界農業遺産」に、山形県最上川流域の紅花の生産・加工、埼玉県武蔵野地域の落ち葉堆肥農法、島根県奥出雲地域の鉱山跡地での資源循環型農業の3地域を申請することを決めた。国内版の「日本農業遺産」には、4県7地域を認定した。
世界農業遺産は、伝統的な農業技術や土地景観が保全されている地域などを認定する制度。2002年から現在までに22カ国62地域が認定され、日本では中国に次いで2番目に多い10県11地域に上る。3地域については秋ごろをめどに申請し、FAOの現地調査などを経て登録の可否が決まる。同省が19年10月に申請した3地域も審査中という。
山形県最上川流域は、紅花の生産と染色用素材への加工技術を約450年間受け継いできた。埼玉県武蔵野地域では平地に林を作り、落ち葉を集めて堆肥とすることで特徴的な景観と生物多様性を育んでいる。
島根県奥出雲地域は鉱山跡地を棚田として再生し、独自の土地利用で複合的な農業経営を行っている。いずれも18年度までに日本農業遺産に認定された。
野上浩太郎農相は同日の閣議後記者会見で、今回の申請・認定が「地域の皆さんの自信や誇りにつながる」と期待した。
農相が認定する日本農業遺産は、今回を合わせて16県22地域となった。同遺産に認定された地域は次の通り。
▽富山県氷見地域(持続可能な定置網漁業)▽兵庫県丹波篠山地域(丹波篠山の黒大豆栽培)▽兵庫県南あわじ地域(水稲・たまねぎ・畜産の生産循環システム)▽和歌山県高野・花園・清水地域(聖地高野山と有田川上流域を結ぶ持続的農林業システム)▽和歌山県有田地域(みかん栽培の礎を築いた有田みかんシステム)▽宮崎県日南市(造船材を産出した飫肥林業と結びつく「日南かつお一本釣り漁業」)▽宮崎県田野・清武地域(宮崎の太陽と風が育む「干し野菜」と露地畑作の高度利用システム)
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2021年02月20日
鳥インフル管理点検結果 大規模「順守」97%超 農水省
農水省は19日、鳥インフルエンザの多発を受けて全国一斉に実施している飼養衛生管理の自己点検の3回目の結果を公表した。今回から鶏で100羽以上を中・大規模農家、同羽未満を小規模農家として区分。合計1万4633農場のうち、中・大規模農家の約7377農場で全7項目の順守率が97~99%となり、いずれもこれまでより改善した。全農場での順守へ向け調査を続ける。
調査は12月から毎月行っている。……
2021年02月20日
基盤、感染症の対策を 食料安保で初会合 農水省有識者委
農水省は19日、食料安全保障の強化に向けた施策を策定するため、有識者でつくる「食料安全保障アドバイザリーボード」の初会合を開いた。国内外の食料需給の変化や新型コロナウイルスの影響などを受けて設置。6月までに取りまとめる。同日は、国内の生産基盤の強化や、人と家畜に共通する感染症への備えが必要との意見が出た。
政府は昨年末、農政改革の基本方針「農林水産業・地域の活力創造プラン」を改訂。……
2021年02月20日