〈役人の骨っぽいのは猪牙(ちょき)に乗せ〉という川柳がある
2021年02月27日
〈役人の骨っぽいのは猪牙(ちょき)に乗せ〉という川柳がある。猪牙は吉原に通うのに使った足の速い小舟のこと。お堅い役人も色で骨抜きになるということらしい▼色ならぬ飲食接待で籠絡できるとみられたか。鶏卵生産大手の前代表から接待を受けたとして、農水省の枝元事務次官らが国家公務員倫理規程違反で処分された。次官は、代金は「大臣(同席していた吉川元農相)が支払ったと思っていた」と話していたが、実際には利害関係者である前代表が負担した▼倫理規程ができたきっかけは、23年前に発覚し、大蔵官僚の接待汚職が暴かれた「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」。官僚の皆さんに〈李下(りか)に冠を正さず〉という言葉を贈ろうと思ったが、直近の総務省をはじめ、倫理規程ができた後も違法接待は繰り返され、問われるはむしろ学習能力か▼元農相と前代表の関係は贈収賄事件に発展。政官業の癒着で鶏卵行政がゆがめられたのではないか。国民の厳しい目が農水省に注がれている。心配なのは農政全体に不信感が広がること。政策遂行に支障が出れば農家にも影響が及びかねない▼元農相の在職中の政策決定過程を農水省は検証中だ。傷を治すにはうみを出し切ることが先決である。そして政策で成果を上げる。国民共通の願いは食料自給率の向上だろう。
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米トランプ政権時に輸入 トウモロコシどこに? 275万トン→実は6万8000トン
あのトウモロコシはどこに──。
14日の衆院農林水産委員会で、2019年8月に安倍晋三首相がトランプ米大統領(ともに当時)に輸入の意向を伝えた米国産トウモロコシの行方を巡るやりとりがあった。
質問者は立憲民主党の亀井亜紀子氏。「前から疑問だが」と前置きすると、「トランプ政権の時にトウモロコシを緊急輸入したかと思うが、どこに行ったのか」と尋ねた。
これに対し葉梨康弘農水副大臣は、19年7月に国内で害虫のツマジロクサヨトウを確認し、食害による飼料不足の懸念が生じたと説明。そこで、農畜産業振興機構の「飼料穀物備蓄緊急対策事業」で米国産を手当てしたと改めて答弁した。
当該トウモロコシの行方について、葉梨副大臣は当初、「国内で保管されて、使用されたということだ」と答弁。だが、直後に「国内で保管されたということだ」と言い直し、輸入後に使われたかどうかは言葉を濁した。
本紙の取材に対し、農水省は「同事業では報告を求めているわけではないが、順次使用されたと考えている」(飼料課)と説明する。輸入量は当初、最大275万トンと想定したが、結果的に害虫の被害が懸念ほど拡大せず、約6万8000トンに収まったという。
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2021年04月15日

和牛 世界に向け発信 動画150万回再生 JFOODOの動画話題
和牛の魅力を台湾、香港の消費者に発信しようと、日本食品海外プロモーションセンター(JFOODO)が作成した動画「和牛100%.TV」が話題だ。タレントの照英さんが産地を巡り、和牛のおいしさの秘密に迫る内容で、「日本和牛こそが他国産WAGYUとは異なる本物の和牛であることを効果的に伝えたい」と狙う。
山形、滋賀、宮崎、鹿児島の生産者らが登場する産地編と、おいしい食べ方を紹介するクッキング編の計8本を動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開し、合計再生回数は約150万回に上る。特に産地編の再生回数が多く、日本の和牛生産への関心の高さがうかがえる。
各回とも5分ほどの動画で、生産者の和牛に懸ける思いや、徹底したトレーサビリティー(生産・流通履歴を追跡する仕組み)などを紹介。宮崎編では、輸出向け認定施設として和牛の食肉処理などを手掛けるミヤチクや、宮崎県立高鍋農業高校の生徒らが出演する。
台湾、香港向けの字幕付きだが、音声は日本語のため、国内の消費者も楽しめる。飼料の工夫や、子牛ごとに与える乳量を管理できる哺乳ロボットの活用など、各生産者の飼養管理も学べる。
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2021年04月18日
切り花 品目間で明暗 洋花好調、菊は葬儀用が苦戦
春の需要期が過ぎ、切り花相場は品目で明暗が分かれている。家庭用など用途の広いカーネーションやバラといった洋花は平年と比べ1~3割高で推移。一方、葬儀や供え花に使う輪菊や小菊は1~3割安と低迷する。業務用の仕向けが多い産地は、新型コロナウイルス禍の需要不振から販売が減少する中、新たな販路を模索している。(柴田真希都)
直近の取引があった14日の日農平均価格(全国大手7卸のデータを集計)は、カーネーションやバラ、ガーベラが平年比2、3割高。いずれも小幅だが3営業日連続の上昇で、この時期には異例の高値基調だった。「家庭での普段使いの他、開店の祝い花や装飾など用途が広く、売れ行きが良い」(大田花き)。
今年の切り花全体の相場を見ると、1、2月は大きく下落した。大都市圏の緊急事態宣言再発令と低温が直撃し、月別の日農平均価格は平年比2割安の1本当たり53円と低迷。一方、3月は送別会や彼岸向けの仕入れが進んだことから70円と高水準で、販売量も過去2年を上回り、活発な取引となった。
しかし、彼岸が明け通常期に戻ると、菊類などが再び平年を下回る展開に。輪菊は彼岸後から11営業日連続で平年比1、2割安で推移し、14日は39円と2カ月ぶりに40円を割った。小菊も8営業日連続で平年を1~3割下回る。「量販店の仏花束の動きが鈍い。新型コロナの感染再拡大によって、主要な購入層の高齢者が店に行く頻度が減っている」(同)。
通常であれば、小売りや加工業者が前もって多めに仕入れるケースも多いが、コロナ下では消費の先行きが不透明なため、仕入れを必要最小減に抑える傾向だ。物日向けは間際に足りない分をせりで買う業者が増え、せりよりも高く売れるはずの注文販売分があおりを受け、苦戦している。
輪菊の主産地、JA愛知みなみ(田原市)では、今年度の注文の年間契約分が大きく減った。「コロナ禍による葬儀縮小で上位等級の減少が大きい」(同JA)。減少分を補うため、従来輸入品を使っていた業者に置き換えを提案したり、5月の「母の日」に向けた墓参り需要(母の日参り)を当て込み、積極的に注文を取るなど、新たな販路の開拓に努めている。
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2021年04月16日
きょうは「雨生百穀」の穀雨
きょうは「雨生百穀」の穀雨。この時季に降る雨は、作物を育て恵みをもたらす。事前に種まきを済ませておくといいそうだ。しかし2010年の宮崎県では、時候のあいさつをしている場合ではなかった▼〈牧場が戦場となる現実を挨拶(あいさつ)として一日始まる〉。同県の歌人伊藤一彦さんが当時を詠んだ。家畜伝染病の口蹄疫(こうていえき)が発生し、この日を境に県内の畜産関係者は、戦場さながらの闘いを余儀なくされた▼殺処分で埋却などをされた家畜は30万頭近くにもなる。〈親と子は同じリボンを付け置きて一緒に埋むるを頼むもゐたり〉。同じく伊藤さんの歌。せめて親子を近くにという農家の心情が伝わる▼国内では今も豚熱や高病原性鳥インフルエンザといった感染症が発生し続けている。この経験を風化させず、知恵を語り継がなければならない。千葉県旭市で養豚管理獣医師を務め、地域の防疫体制づくりにも取り組む早川結子さんは、防疫で人間側の最大の武器は、人と人がつながって生まれる集合体としての「知」なのだという▼一人一人は小さな存在でも、知恵を集め共有し、語り継げば大きな力になる。穀雨の恵みを受けるように、あらかじめ知恵の種を集め、まいておかないと、地域防疫の体制は育たない。
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2021年04月20日
野菜の需給調整 価格安定へ産地連携を
農水省は、主要野菜の緊急需給調整事業を大幅に見直した。価格低落時の生産者への補填(ほてん)水準を引き上げ、資金の生産者負担割合は軽減した。需給安定には多くの産地の事業参加が不可欠である。全国の産地が協調・連携して取り組むよう、同省は内容を周知徹底すべきだ。
同事業は、天候の影響を受けやすく、作柄・価格の変動も大きく、消費量が多いダイコン、ニンジン、キャベツ、レタス、ハクサイ、タマネギの6品目を対象に実施している。市場価格が、過去の市場平均価格の80%以下に低落した場合、または50%以上に高騰した場合が発動の目安だ。
価格低落時の対策としてこれまでは、出荷の後送りには過去の平均市場価格の3割、加工用への切り替えや土壌還元には4割を補填していた。しかし補填水準が低く生産者のメリットが小さいとして、事業の活用を巡る合意形成が難しいとの指摘があった。実際、過去10年間で最も野菜価格が低迷した2019年(日農平均価格で1キロ130円)も活用はなく、低調だった。
そこで同省は21年度から、価格低落時対策の全メニューの補填水準を平均市場価格の7割に引き上げた。また国と生産者が1対1で造成してきた資金の負担割合を4対1とし、生産者負担を20%に引き下げた。
同事業の実効性が課題となる中で生産者のメリットが高まり、市場価格が大幅に下落する前の事業活用が促されるとみられる。野菜相場の安定につながる見直しとして評価したい。
また、社会的要請が高まる食品ロスの削減に向けて事業のメニューも再編。加工、飼料化、フードバンクへの提供など、有効利用を促す性格が強まった。しかし、有効利用には受け入れ先の手配などの仕組みが必要となるため、産地が取り組みやすい実効性のある体制の充実が重要だ。
同事業とともに生産基盤を支えてきたのが、価格低落時の収入減少を補う野菜価格安定制度だ。しかし、政府内には、青色申告を行う農家が対象の収入保険制度への一本化を検討すべきだとの意見があり、21年度に論議が予定されている。野菜価格安定制度と同事業は、野菜の産地づくりや安定供給に貢献しているとの評価が高い。多くの農家が加入できるセーフティーネット(安全網)は必要である。
食料・農業・農村基本計画では、野菜の生産量を18年度比で、30年度までに15%増やす目標を設定。「豊作時の価格低落や不作時の価格高騰を防止・緩和する具体策を検討する」と明記した。消費者への安定供給が目的だ。今回の見直しを機に同省には、多くの産地が需給安定に取り組む態勢づくりが求められる。
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2021年04月15日
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きょうは「雨生百穀」の穀雨
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2021年04月20日
政府は、東京電力福島第1原子力発電所にたまっている
政府は、東京電力福島第1原子力発電所にたまっている放射性物質を含む水を、海洋に放出することを決めた。地元の漁業関係者は納得していない。風評被害も心配だ。ここに至るまでの紆余(うよ)曲折と、今後に要する時間と経費、不安を考えると、原子力が夢の技術と思われていた頃がうそのようだ▼1960年代に人気だった鉄腕アトムは、原子力で動く設定だった。漫画雑誌には原子力ロケットや超音速機の想像図が載り、当時の少年は原子力に夢を託した▼原子力開発は、ギリシャ神話のプロメテウスによく例えられる。ゼウスに背き、天界から火を盗んで人間にもたらしたプロメテウスは、罰として岩山に縛り付けられる。毎朝飛んでくるワシに生き肝をついばまれるが、死ねない体は、毎日苦痛だけを味わい続ける▼火を手にして人間は、夜の闇や冬の寒さに立ち向かう力を得たが、火災の恐怖にもさらされる。制御が厄介な力はもろ刃の剣だ▼原発をもたらしたプロメテウスは誰だろう。政治家か電力会社か。毎日痛みを感じているのだろうか。得をしたワシは誰か。ワシはしばしば米国の象徴として描かれる。日本の原発は当初、米国の技術だった。ワシは今もおいしい思いをしているだろうか。
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2021年04月19日
日本近海で地震が続いている
日本近海で地震が続いている。一方で北欧の島国アイスランドで800年ぶりに火山が噴火したとの報道があった。地震と噴火に直接の因果関係はないのだろうが、地球科学の視点で見ると両国の関係は近い▼地球表面はプレートという十数枚の岩盤で覆われている。この岩盤はゆっくり動き、ぶつかったり離れたりすることで境界近くで噴火や地震が起きやすい▼アイスランドではプレートが離れる方向に動き、大地にできた巨大な裂け目が年々広がっている。東に進むのがユーラシアプレートで地球を半周した先に西日本が、西に進む北米プレートも地球を半周し反対側に東日本がのる。2隻の船の船首と船尾に両国がまたがって立っているかのようだ▼アイスランドにできた巨大な裂け目は、ユネスコの世界遺産になっている。930年に世界初の国会が、ここで開かれたことに由来する。集落代表が全国から集い、法律を作っていった▼両国は同じプレートにのり、火山と地震が多い点も似ている。しかし、こと国会に関してはどうか。最古の国会は大自然の中で熱い討論を重ねたと想像できる。話し合いで課題を解決しようとの彼らの熱意が、同じプレートにのる日本の国会にも伝わってほしいものだ。
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2021年04月18日
〈よく見ればなずな花咲く垣根かな〉
〈よく見ればなずな花咲く垣根かな〉。松尾芭蕉は、一生懸命に咲くナズナの白い小さな花のいとおしさを句にしたためた▼一見個性に乏しい地味な存在も、よく観察し、唯一無二の良さを見いだすことの大切さを詠(うた)う。この季節、片や桜が華やかに咲き誇り、地味なナズナに凡人の関心はなかなか向かないのだが▼視線を上げると、春の夜空は寂しい。日没後に南天に浮かぶかに座はとりわけ目立たず、ギリシャ神話でも英雄ヘラクレスにいとも簡単に踏みつぶされる残念な役回り。ただ、甲羅の辺りに目を凝らすと、光のもやが見つかる。プレセぺと呼ばれる美しい散開星団で、よく観察しないと出合えない春の星空の宝石である▼派手さに目を奪われ、足元の大切な存在が見えていないのは、政治の世界もそう。特にこの間の官邸主導の農政は、商才にたけた担い手ばかり褒めそやし、地域を支える家族農業を軽視してきた。規制改革の議論では企業の農地取得に道を開こうと躍起だ▼強欲な人が通った後には「ぺんぺん草も生えない」という。企業の撤退後に不毛な景色が広がることにならないか、懸念が付きまとう。ぺんぺん草はナズナの別名。路傍の小さな花にも目を向ける農政であってほしい。
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2021年04月17日
東西冷戦後の世界秩序で最も深刻な脅威は、文明と文明の断層である
東西冷戦後の世界秩序で最も深刻な脅威は、文明と文明の断層である▼米国の政治学者のハンチントンが、著書『文明の衝突』で指摘した。世界中を震撼(しんかん)させた「9・11」の同時多発テロは、キリスト文明とイスラム文明の対立の激しさを物語った。あれから20年、今度は、中華文明との激突である。米国が中国との対決姿勢を鮮明にし始めた▼大統領に就任したバイデン氏は、「21世紀における民主主義の有用性と専制主義との闘い」と言い放った。米議会も少数民族ウイグル族への虐待は、「ジェノサイド(大量虐殺)」とする。敵味方をはっきりさせたい国柄ではあるが、トランプ前政権を上回るような強硬姿勢に、中国は敵対心むき出しに▼両国の緊張が高まる中である。菅首相が訪米し、ワシントンでの首脳会談に臨む。台湾問題や、東・南シナ海で活発化する中国の海上覇権活動に対抗する包囲網が話される。それはそれで重要だが、米軍への「思いやり予算」が増額されたり、牛肉のセーフガードの緩和などで農畜産物をこれ以上買わされたりするのは、勘弁願いたい▼地理上も文化的にも、米中に挟まれる日本。断層の懸け橋になるくらいの覚悟なら、世界から見直されるかも。菅外交やいかに。
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2021年04月16日
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる
気の利いた言葉を残せたら、後悔だらけの人生も少しは救われる▼「北の国から」(フジテレビ)で主役を演じ、先月88歳で亡くなった田中邦衛さんのせりふが、胸を打つ。「金なんか望むな。倖(しあわ)せだけを見ろ。ここには何もないが自然だけはある。自然はお前らを死なない程度には充分毎年喰(く)わしてくれる。自然から頂戴しろ。そして謙虚に、つつましく生きろ。それが父さんの、お前らへの遺言だ」(『北の国から2002遺言』)▼北海道勤務時代、舞台となった富良野市に何回足を運んだろう。東京が嫌になった男が故郷に帰って、自然の中で生きる。脚本を書いた倉本聰さんから、「一番情けない」印象だったことで主役の黒板五郎役に選ばれた。あまりにぴったりの役だった。今も憧れる▼昭和という時代がどんどん遠ざかる。大きな足跡を残し、訃報が続く。NHK連続テレビ小説「おしん」の脚本を書いた橋田寿賀子さんが、今月亡くなった。享年95。貧乏のどん底からはい上がる女性一代記の名は、「辛抱のしん」などから生まれたと聞く。両親と別れ、筏(いかだ)に乗って最上川を下る場面は、涙が止まらなかった▼きょうは遺言の日。どんな言葉を残そうかと考えながら、お二人のご冥福を祈る。
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2021年04月15日
左右とも底に穴が開いた革靴
左右とも底に穴が開いた革靴。あしなが育英会の昨年度の活動報告書に写真が載っていた。病気などで親を亡くした子どもたちを、奨学金で支える民間非営利団体である▼同会から緊急支援金を受け取った奨学生の親から届いた。添えられた手紙には、そのお金で靴を買ったとあり、それまでは「娘もわが家の家計を理解しているので(略)ガムテープを貼って履いていました」▼緊急支援金は全奨学生に、昨年2回給付した。コロナ禍で収入が減り、食費や光熱費も払えず、人生を悲観する保護者が出始めていた。経済格差は教育格差を生み、将来の所得格差をもたらす。菅首相は国民にまずは「自助」を求めたが、その条件を整えるのが政治の仕事である。街頭募金ができない中、同会は寄付を呼び掛け、総額が前年度を上回った。他にも各地で、食の支援を含め、多くの「共助」が生まれた▼ふたり親を含め、政府は低所得の子育て世帯に特別給付金を支給する。「命と暮らしを守り抜く」。首相はそう表明している。子どもの状況に応じて継続的に支援してほしい▼子どもの7人に1人が貧困状態にある。子どもたちが、衣食足りて、安心して勉学に励めるよう、もっと「公助」を、平時から。そう望みたい
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2021年04月14日
なんという精神力だろう
なんという精神力だろう。世界が見詰めるひのき舞台での堂々たる姿が、誇らしい▼米ジョージア州オーガスタで開かれた、男子ゴルフのマスターズ・トーナメントで優勝した松山英樹選手である。日本男子のメジャー大会優勝は初めての偉業。優勝者のみに与えられるグリーンジャケットに袖を通した時の顔には、大仕事をやり遂げた満足感が満ちていた▼最終日首位でのスタートだったが、決して楽なゲームではなかった。勝負どころの15番ホール。当たりが良過ぎた1打は、無情にもグリーンを越えて池に。並の選手であれば、ずるずると後退する場面である。気持ちを切らさず踏ん張り、栄冠を手繰り寄せた。ハラハラドキドキの連続は、テレビ観戦しているこちらの眠気をも奪った▼松山市生まれの29歳。アマチュアだった東北福祉大学(仙台市)の学生の時に、初めて出場権を得たが、大会目前で東日本大震災が発生。迷った末に、被災者の声に押されて出場した。苦節10年。あの時背中を押してくれた、東北への感謝は忘れない▼コロナ感染が広まる中、高齢者へのワクチン接種が始まった。そんな初日の朗報は、沈みがちな心に勇気と感動をもたらす。おめでとう、そして、ありがとう。
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2021年04月13日
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝。その生涯を一人芝居で伝え続ける俳優の水澤心吾さんが、新作「賀川豊彦物語」を完成させた▼東京・新宿の淀橋教会で初披露の舞台を見た。新型コロナウイルス対策で限られた人だけの催しだったが、賀川の魂が乗り移ったかのような熱演に引き込まれた。この協同組合運動の巨人の根っこにはキリスト教の信仰があると改めて実感させられた▼水澤さんは2007年の初演以来、「決断・命のビザ~SEMPO杉原千畝物語」の公演を続けてきた。国家の命にそむいても、目の前で救いの手を伸ばす人々の命を優先した杉原は、日本よりも海外の方が「東洋のシンドラー」として知られる。米国や勤務したリトアニアなどで公演し深い感動を与えた▼賀川の存在を意識したのは3年ほど前という。「個の力ではなく、協同組合で理想社会を追求した。実践力がすごい。若い世代に知ってほしい」。賀川は「愛は私の一切である」との言葉を残している。朗読劇を見終わって、助け合いは〈助け愛〉と確信した▼協同組合に新人が仲間入り。百の座学より先達(せんだつ)の息吹に触れるのが響こう。コロナ禍が落ち着いたら、朗読劇を体感してはどうか。
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2021年04月11日
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉。女性参政権の必要性を訴える「婦選の歌」の一節である。与謝野晶子が作詞し、1930年に発表された▼女性を含む普通選挙の実施はその16年後、敗戦翌年4月10日の衆院選である。きょうで75周年。39人の女性議員が誕生した。紅露みつもその一人。学徒出陣で息子を失い、反戦への強い思いで立候補した。『新しき明日の来るを信ず―はじめての女性代議士たち』(岩尾光代著)で知る。「あとにつづくお母さんたちにこの悲しみをさせてはならない」。紅露の言葉だ▼榊原千代は女性差別に憤り「政界と家庭の浄化」を訴えた。暴力で家庭に君臨したり、愛人を妻と同居させたりする男性も少なくない状況に我慢ならなかった。同書にそうある。人口の半分は女性。その意見を政治に反映させる一歩だった▼その後の歩みは遅い。国会議員に占める女性の割合は、今年1月が日本は9・9%(衆院)で190カ国中166位。候補者男女均等法が3年前に施行され、男女数の「できる限り均等」を目指す▼「婦選の歌」には〈男子に偏る国の政治 久しき不正を洗い去らん〉との歌詞も。秋までに衆院選がある。「政治を洗濯」できるか。各党が問われる。
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2021年04月10日