大地には異形で巨大な菌類の森が広がり、昆虫に似た大きな生物たちが生息する
2021年03月04日
大地には異形で巨大な菌類の森が広がり、昆虫に似た大きな生物たちが生息する▼宮崎駿さんの漫画版『風の谷のナウシカ』(徳間書店)は、大地から富を奪い、生命体も意のままに作り変える巨大産業文明が行き着いた世界を描いた。毒気を発する菌を避けるため、人類はマスクが手放せない。それでも、愚かな戦いを続ける。地球の未来図でもあるか▼そんな不毛の地をも連想させる映像である。米国NASAが、探査機が送ってきた火星の映像を公開した。「赤い地表」から巻き上がる砂ぼこり、風のような「音」が荒涼感を醸し出す。直径が地球の2分の1で、地球の外側の軌道で太陽を回る。以前から生き物がいたのではないかと、臆測を呼んできた。果たして生物の痕跡は見つかるのか。期待と不安が混じる▼気になるのは温暖化にむしばまれる地球である。国連機関が新たにまとめた報告書によると、世界の平均気温は2100年までに産業革命前に比べ3度上昇し、「パリ協定」が目指す水準を上回る。2度以上上がれば、ミツバチによる授粉ができなくなるとされる。グテレス国連事務総長は、「危険信号だ」と警告を発した▼このままマスクが手放せない惑星になったらどうしよう。緑豊かな地球へのいとおしさがいよいよ募る。
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米の消費拡大運動 農家自ら意義伝えよう
米の需給緩和を契機に米の消費拡大への機運が高まっている。JAグループはキャンペーンを開始。自民党は需要拡大策を検討する。農業者も需要に応じた生産・販売を進める一方で、農業や水田の大切さを自ら発信し、米をはじめ国産農産物の消費拡大に向けた国民運動につなげたい。
JAグループが始めたのは「ごはん応援キャンペーン」。役職員が、ご飯や米製品を食べる回数を増やす。また、米のプレゼント企画などで、消費者にも米を食べる機会を増やすよう呼び掛ける。
また、自民党はプロジェクトチームを立ち上げ、新たな需要創出に向けた検討を進める。企業への聞き取りなどからニーズを掘り起こし、機能性に着目した商品開発や輸出拡大などの可能性を探る。
米の消費減の傾向には歯止めがかからない。2019年度の1人当たりの消費量は53キロと1960年代に比べ半分以下に落ち込む。また、新型コロナウイルス禍で業務用米は苦戦。伸びていた家庭向け消費も失速している。好調な麺類とは対照的だ。
米の消費拡大策を考える際は、まず多様化する消費者・実需者ニーズを踏まえ、生産・販売で工夫する努力が欠かせない。例えば、それぞれのニーズに対応した価格帯や、パックご飯、米粉製品などの生産・製造と販売、輸出などが挙げられる。
米を食べる意義を消費者に改めて訴えることも重要である。米を中心とした日本型食生活は栄養バランスに優れ、粒のまま食べるので腹持ちが良く、間食を減らせるなど健康的だ。
また米は日本の気候風土に適した作物で、主食用米は100%自給できる。水田は、洪水防止や生物多様性保全などの多面的機能も備えている。米を食べることは、安定した食料の確保につながり、さまざまな役割を果たしている水田の保全にも貢献する。
まずは、農業者ら農業関係者自らが、米を食べることのこうした意義を発信していきたい。家族や親戚、知り合いとの話の折に伝えてみる。和食の料理人でつくり、米飯給食を推進する和食給食応援団の西居豊事務局長は、栄養士や子どもたちに農業について伝える際、「生産に関わる農家の言葉が一番響く」と指摘する。特に効果的なのは農業体験の場面であろう。
米の消費拡大に向けてキャンペーンを始めたJAグループにも、消費者への一層の情報発信を期待したい。
食料・農業・農村基本計画に基づき農水省は、農業への理解を広げ、国産農産物の消費拡大につなげる国民運動を始める。幅広い組織・団体が関わることが大切で、農業者や農業団体が率先して取り組み、運動の契機としたい。
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2021年04月07日
干し芋 うま~い アイデア 販売方法で“巣ごもり”消費者つかめ
サツマイモを蒸して乾燥させた干し芋が、新型コロナウイルスの感染拡大による巣ごもり需要で売り上げを伸ばす。干し芋を手掛ける茨城や栃木の農家は、新たに接触を避ける消費者に向けて自動販売機を活用したり、筋トレ愛好者向けの独自商品を開発したりするなどして消費者の心をつかんでいる。(木村泰之)
自販機設置 売り上げ増 接触少ない買い物
飲み物と干し芋が買える自動販売機。黒澤さんが商品を整理していた(茨城県ひたちなか市で)
農水省によると、2019年産の茨城県の干し芋の生産量は3万2118トンで、全国の87%を占める。中でも400戸以上の干し芋農家がいるひたちなか市でサツマイモ「べにはるか」を約5ヘクタール作る黒澤太加志さん(43)は、国道245号沿いに1月から自動販売機で干し芋を売る。黒澤さんは「干し芋と飲み物が一緒に買える自動販売機は他にないだろう」と胸を張る。飲み物の缶やペットボトルの他、平干しと丸干しの2種類が選べる。透明なカップや箱に入った140グラム入りと170グラム入りが、1個650円で購入できる。
自販機を置いた国道沿いは、観光地の国営ひたち海浜公園に近い。黒澤さんは、店舗の営業時間外でも往来客が買うと見込んだ。赤と黒に塗られた目を引く自販機で売る干し芋は売り上げを伸ばし、観光客だけでなくコロナ禍で、人との接触を減らした買い物を望む客などが訪れる。3月中旬の時点で約90個売れて、1日に2回補充することもあった。
自販機設置を機に観光客が買うようになり、リピーターとなって通販でも購入したことで、20年は前年比1・5倍の3000万円を売り上げた。「茨城の人にとって干し芋は冬の食べ物。だが、全国では年中食べるものになってきた。以前は5月で加工を終えていたが、あまりの売れ行きに周年で加工したい」と話す。
筋トレの“相棒” 購買層絞り商品開発
購買層を限定した干し芋も生まれた。栃木県壬生町の約4ヘクタールで「べにはるか」を有機栽培する戸崎農園は、トレーニングをする人向けの干し芋「フィジーモ」を2月から販売する。農園の戸崎泰秀さん(46)は「干し芋フェアを開いた時、筋肉質な人が続々と買っていった。そんな人向けに売れるのでは」と企画の経緯を話す。干し芋は、糖の吸収が穏やかで血糖値の急上昇を抑えられるといわれる。
ダンベルを上げながら干し芋を口にする中川さん。「かみ応えがある干し芋はトレーニングに最高でもはや主食」と語る(栃木県壬生町で)
1袋50グラム入りを6袋1400円で販売する「フィジーモ」は、鍛えた肉体のバランスの美しさを競う競技のフィジークに由来する。購入した栃木市の中川博登さん(46)は「干し芋を筋トレの相棒にしてから便通が良くなり、100キロあった体重が78キロになった。糖質制限をしながら固形物が食べたいときに干し芋はぴったり」と勧める。
筋トレに励む人の声を踏まえたフィジーモは、かむ回数を増やそうと乾燥時間を長くした。カロリーコントロールや保存のしやすさを考え、チャック付きの小分け包装にした。
戸崎さんは、コロナ太りの解消でスイーツを自粛する層に受け入れられてきたとして、「20年は干し芋だけで年間2000万円を売り、昨年の2倍増だった。売り方を工夫すれば干し芋は挑戦しがいある品目だ」と力を込める。
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2021年04月08日
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた。ビギナーズラックは、訪れなかった▼当時、お世話になっていた日系2世のおばさんは、そのスロットマシンで遊ぶ休暇を楽しみに毎日農園で働いていた。ラッキー7を求め、全米、いや世界から観光客が押し寄せ、歓喜と落胆が不夜城の街を支配した。おけらになろうが、大金持ちになろうが運次第▼人間界はそれで済むが、ウイルス界となるとそうもいかない。ウイルスが生き延びるため変異を繰り返すことは、新型コロナで学習したばかり。ウイルスもまたスロットマシンのように、レバーを引くたびに遺伝子の配列が変わる。多くは「小当たり」「中当たり」だが、問題はいつ人類を危機に陥れる「大当たり」が出ても不思議でないこと▼そう警告したのは、8年前に刊行された『人類が絶滅する6のシナリオ』(フレッド・グテル著)。同書は、「スーパーウイルス」を筆頭に「気候変動」や「食料危機」などを挙げ、「滅亡の淵」に立つ人類に最悪の事態に備えよと呼び掛けた▼変異を繰り返す新型コロナウイルスが「大当たり」を引き当てる前に、人類の英知は働くのだろうか。運を天に任せるギャンブラーの気分である。
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2021年04月08日

栗山千明さん(女優) レンコン映画に悪戦苦闘
私が生まれ育った茨城県は、レンコンの生産日本一なんです。
でもそのことを知ったのは、大人になってから。私の住んでいたところに農地はなく、ちょっと遠出してレンコン畑があると、親から「落ちたらダメだよ」と言われたことを覚えています。
今回、加賀レンコンを題材にした映画『種まく旅人~華蓮のかがやき~』に出演させていただきました。レンコン農家の生き方を描く作品で、畑に入っての撮影シーンもありました。
覚悟はしていたんです。埋まってしまう、思うように動けない。事前に知っていましたので、これは大変だぞと思いながら入ったんですが、やっぱり。
このせりふを言う時にはこの動きを……と思って体を動かすんですが、いざやってもできないもどかしさが。
農家の苦労実感
畑の真ん中で、撮影のセッティングを待つこともありました。普通なら一回上がって待つのでしょうけど、端まで行くのが大変なんです。ですからスタッフの方に「私はここにいます」と言って残るんですが、どんどん足が埋まっていって動けなくなってしまうんです。それを防ぐため、たまにもじもじ動いてみたり。農家の方のご苦労に頭が下がりました。
私は初めて畑に入るという設定の役でしたから、慣れていなくても成立します。私のあたふたしている様子が、ナチュラルに映っていると思います。
金沢での撮影というと、夜はおいしい魚を食べたんだろうと思われるでしょうが、残念なことに違うんです。夜のシーンの撮影がたくさんありましたし、宿泊しているところから繁華街が遠い上、朝早くから撮影が始まりましたので、食べに行けませんでした。前に舞台で金沢に行った時は、いろいろ食べられたんですが。
地元野菜を堪能
その代わり今回は、地元の方々がレンコンをはじめ野菜を使った料理を振る舞ってくださいました。面白い上においしかったのは、レンコンをすりおろしてお好み焼きに入れたもの。他にも、言われないとレンコンだと分からない料理がいくつも出てきました。
子ども時代は、レンコンはきんぴらとか煮物とかでしか食べたことがなかったんです。おいしい食べ方がいろいろあるんだと、初めて知りました。
『種まく旅人』はシリーズ化され、今回が4作目。私が出演するのは2作目ですけど、おかげで食に対する探究心が強まりました。
もともと日本食派なんです。ご飯が大好き。おそば、うどんも好き。茨城生まれですから、納豆は常に冷蔵庫に入っています。あと、生ものが好きなんですよね。魚、貝、鶏のささ身。野菜もそのまま生で食べるのが好きです。セロリとかは、マヨネーズも何も付けずにバリバリと食べます。
生でいただくのが好きだから、料理が上達しないという欠点があるんですが。
仕事で海外に行くことはあっても、海外旅行には興味を持てません。観光は楽しめても、長くいられないんです。「あー和食を食べたい」という気持ちになるから。日本に帰ってきたら、真っ先に刺し身を食べたくなります。
以前、舞台の仕事で金沢に行った時は、おいしい刺し身に感動しました。今回は加賀野菜の素晴らしさを知ることができました。次に金沢に行くことがあったら。ゆっくりと魚と野菜をいただきたいと思っています。(聞き手=菊地武顕)
くりやま・ちあき 1984年茨城県生まれ。モデルを経て、99年に映画『死国』で女優デビュー。『バトル・ロワイヤル』(2000年)での演技がクエンティン・タランティーノ監督を魅了し、同監督の『キル・ビルVol.1』(03年)に出演した。『種まく旅人~華蓮のかがやき~』は3月26日石川県先行上映、4月2日公開。
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2021年03月06日

巧みに牛をさばく「技」絶やさず継承 マイスター制度設立 兵庫県食肉卸事業協同組合
和牛の流通を陰で支える「食肉処理技術」の継承に、兵庫県の業界団体が乗りだした。県食肉卸事業協同組合は、枝肉を各部位に切り分けるこの技術で特に優れた“職人”を認定する「兵庫県牛肉マイスター」制度を設立。高齢化などで人材不足が全国的な課題となる中“職人技”を次代につなぐ中核的人材を育てる。組合によると、食肉処理技術者の認定制度を都道府県単位で設けるのは全国で初めて。(北坂公紀)
中核人材の確保・育成へ
牛肉は、大きく分けて3段階で切り分けられる。まず、卸売市場で枝肉に加工。その後、食肉卸などに販売され、食肉処理技術者がヒレやモモなどの各部位に切り分ける。最終的には薄切り肉やブロック肉に加工され、スーパーや飲食店で提供される。
組合によると、県内の食肉処理技術者の数は長らく減少傾向にあり、高齢化も進んでいる。中尾徳弘理事長は「食肉処理技術の継承が危ぶまれた。いくら農家が高品質な牛を育てても、牛肉が食卓に並ばなくなる恐れがあった」と振り返る。
そこで組合は2018年度、県内の食肉処理技術者を対象に同制度を創設した。マイスターを若手の指導に当たる中核的人材に位置付け、業界の技術の底上げにつなげたい考えだ。
認定を受けるには、技術と知識が必要となる。食肉産業に携わる人材を育成する全国食肉学校の実技・筆記試験や県が実施する「神戸ビーフ」「但馬牛」に関する筆記試験に合格する必要がある。
この他、指導方法を学ぶため、同学校の講師を招いた3日間の講習を受ける必要がある。実技指導を交えて枝肉のさばき方をどう教えると分かりやすいのかを学ぶ。
20年度までの3年間で計9人が認定された。今年3月に認定された食肉卸・エスフーズ(西宮市)の高島和也さん(34)は「どう教えたらうまく伝わるのかを学べた。後輩の指導に生かしたい」と意欲的だ。
組合は、マイスターが持つ技術の継承に向けた取り組みも進める。マイスターを講師に招いたセミナーを定期的に開き、県内の食肉処理技術者が“職人技”を学べる機会を設けている。
中尾理事長は「食肉処理技術者は和牛流通を支える“縁の下の力持ち”だ。これからも技術を継承していきたい」と語る。
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2021年04月07日
四季の新着記事
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝
ユダヤ難民にビザを発給して6000人の命を救った杉原千畝。その生涯を一人芝居で伝え続ける俳優の水澤心吾さんが、新作「賀川豊彦物語」を完成させた▼東京・新宿の淀橋教会で初披露の舞台を見た。新型コロナウイルス対策で限られた人だけの催しだったが、賀川の魂が乗り移ったかのような熱演に引き込まれた。この協同組合運動の巨人の根っこにはキリスト教の信仰があると改めて実感させられた▼水澤さんは2007年の初演以来、「決断・命のビザ~SEMPO杉原千畝物語」の公演を続けてきた。国家の命にそむいても、目の前で救いの手を伸ばす人々の命を優先した杉原は、日本よりも海外の方が「東洋のシンドラー」として知られる。米国や勤務したリトアニアなどで公演し深い感動を与えた▼賀川の存在を意識したのは3年ほど前という。「個の力ではなく、協同組合で理想社会を追求した。実践力がすごい。若い世代に知ってほしい」。賀川は「愛は私の一切である」との言葉を残している。朗読劇を見終わって、助け合いは〈助け愛〉と確信した▼協同組合に新人が仲間入り。百の座学より先達(せんだつ)の息吹に触れるのが響こう。コロナ禍が落ち着いたら、朗読劇を体感してはどうか。
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2021年04月11日
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉
〈女性の力の及ぶところ はじめて平和の光あらん〉。女性参政権の必要性を訴える「婦選の歌」の一節である。与謝野晶子が作詞し、1930年に発表された▼女性を含む普通選挙の実施はその16年後、敗戦翌年4月10日の衆院選である。きょうで75周年。39人の女性議員が誕生した。紅露みつもその一人。学徒出陣で息子を失い、反戦への強い思いで立候補した。『新しき明日の来るを信ず―はじめての女性代議士たち』(岩尾光代著)で知る。「あとにつづくお母さんたちにこの悲しみをさせてはならない」。紅露の言葉だ▼榊原千代は女性差別に憤り「政界と家庭の浄化」を訴えた。暴力で家庭に君臨したり、愛人を妻と同居させたりする男性も少なくない状況に我慢ならなかった。同書にそうある。人口の半分は女性。その意見を政治に反映させる一歩だった▼その後の歩みは遅い。国会議員に占める女性の割合は、今年1月が日本は9・9%(衆院)で190カ国中166位。候補者男女均等法が3年前に施行され、男女数の「できる限り均等」を目指す▼「婦選の歌」には〈男子に偏る国の政治 久しき不正を洗い去らん〉との歌詞も。秋までに衆院選がある。「政治を洗濯」できるか。各党が問われる。
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2021年04月10日
時は、米自由化問題に揺れていた頃
時は、米自由化問題に揺れていた頃。その人の話を聞きたくて、舞台開演前の楽屋に押し掛けた▼劇作家で小説家として名をはせていたが、米問題の大家であった。しかも自由化反対の急先鋒(せんぽう)。ついでながら本紙の厳しい読者でもあった。約束の1時間、とにかく語る語る。その熱量と知識量に気おされた。きょうが忌日の井上ひさしさんである。没して11年。警告はいまに生きる▼創作の根っこに「米」や「農村」があった。『吉里吉里人』執筆の動機を「このままでは、日本の農村は壊滅してしまう」と考え、「現代版農民一揆を書いた」とある(『コメの話』)。筆先は、「大旦那アメリカからのご命令」をひたすら拝聴し、つき従う日本にも向けられた。「わたしたちは本当に自立しているのであろうか」と▼自ら考え、行動する力を磨くために日本語を鍛え直せとも言った。「日本語という思考の根拠地」をなくした国民に未来はないという警句を胸に置く。「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく、おもしろいことをまじめに…」。井上文学の神髄である▼米と日本語を粗末にするこの国の行く末を案じた作家のことを思い起こす時代が、再び巡って来た。
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2021年04月09日
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた
その昔、カジノの本場、米国ラスベガスでスロットマシンに興じた。ビギナーズラックは、訪れなかった▼当時、お世話になっていた日系2世のおばさんは、そのスロットマシンで遊ぶ休暇を楽しみに毎日農園で働いていた。ラッキー7を求め、全米、いや世界から観光客が押し寄せ、歓喜と落胆が不夜城の街を支配した。おけらになろうが、大金持ちになろうが運次第▼人間界はそれで済むが、ウイルス界となるとそうもいかない。ウイルスが生き延びるため変異を繰り返すことは、新型コロナで学習したばかり。ウイルスもまたスロットマシンのように、レバーを引くたびに遺伝子の配列が変わる。多くは「小当たり」「中当たり」だが、問題はいつ人類を危機に陥れる「大当たり」が出ても不思議でないこと▼そう警告したのは、8年前に刊行された『人類が絶滅する6のシナリオ』(フレッド・グテル著)。同書は、「スーパーウイルス」を筆頭に「気候変動」や「食料危機」などを挙げ、「滅亡の淵」に立つ人類に最悪の事態に備えよと呼び掛けた▼変異を繰り返す新型コロナウイルスが「大当たり」を引き当てる前に、人類の英知は働くのだろうか。運を天に任せるギャンブラーの気分である。
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2021年04月08日
太宰治風に言えば「恥の多い記者人生を送ってきた」
太宰治風に言えば「恥の多い記者人生を送ってきた」。新人の皆さんに掛ける言葉など持ち合わせていない▼新米時代の失敗談は数知れず。畜産の取材で繁殖農家の言う「子取り」が分からず、「小鳥を飼ってるんですか」と聞き直したり、国産レモンの栽培農家に「立派なレモンですね」と感心したら、「それは早生ミカンだ」とあきれられたり▼自戒を込めて言うが、「あいさつ」と「質問」は思いの外、君を高めてくれる。あいさつは、最も短く有効なコミュニケーション手段だ。タレントの松村邦洋さんの金言に「あいさつにスランプなし」がある。仕事はうまくいかなくても、気持ちを込めたあいさつはできる。いいあいさつには、人と運気を呼び込む力があると信じている▼質問力も侮れない。これができれば、仕事の質や人間関係は深まる。「見ることは愛情で、聞くことは敬いだ」とはコピーライター・糸井重里さんの言葉だ。「聞かれるだけで、相手はこころを開いていく」。その通りだ。フランスの哲学者ボルテールは、人の判断基準を「答え」より「問い」に置けと教えた▼元気よくあいさつして、分からないことは何でも聞こう。小学生並みと笑うなかれ。1年後にその成果は必ず出る。
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2021年04月07日
正直な政治家を探すのは、八百屋で魚を求めるがごとし
正直な政治家を探すのは、八百屋で魚を求めるがごとし。いや、いました。麻生太郎副総理が▼よく失言でたたかれるが、自分に正直過ぎるからポロリと本音が漏れるのではないか。例えば、若者と新聞に関するこの発言。「10代、20代、30代というのは一番新聞を読まない世代だ。新聞を読まない人は全部自民党(支持)であり、新聞を取るのに協力しないほうがよい」。3年前、自派閥の会合でそう語った▼若者の保守化と新聞購読の相関関係は分からぬが、いまや新聞離れは若者に止まらない。10年で約1400万部、この1年だけで約270万部も減った。麻生理論でいけば、自民党の支持はいよいよ盤石であろう。だから数々の不祥事も余裕で受け流しているのか▼今日は日付に絡めて「新聞をヨム日」。紙離れの中、援軍もいる。昨年亡くなった英文学者の外山滋比古さんが提唱したのが「新聞大学」。以前、小欄で紹介すると、「ぜひ、入学したい」と問い合わせがあった。「新聞大学」とは、自宅にいながら毎日、最新情報が得られる新聞こそ最良の知のテキストだということ。いささかこそばゆいが、糧にしたい▼当欄も若者からご年配まで入学してもらえるような「コラム学科」でありたい。
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2021年04月06日
イソップ寓話に「ガチョウと黄金の卵」がある
イソップ寓話に「ガチョウと黄金の卵」がある。貧しい男の飼うガチョウがある日、金の卵を産む▼それから毎日1個ずつ産み、男は貧乏の身から脱出した。だが1日1個しか産まないのが物足りなくなる。腹の中に金塊があるに違いないと妄想が膨らみ、ついには腹を切り裂いてしまう。ガチョウは死に、男は元の貧乏に戻った▼欲張るとろくなことはないの教えはいくつもある。それでも抑えられないのが人のさがというものだ。立川談志さんは「落語とは人間の業の肯定である」との名言を残した。熊さん、八っつぁんの業なら許されても、新自由主義の格差拡大はさすがに抑制の空気が本家の米国にも生まれている▼この思想に染まった経済政策に欧米が転換し始めたころ、真逆の世界観を信条とした政治家が首相になった。岩手出身の鈴木善幸氏である。「足らざるを憂えるより、等しからざるを憂える」と就任直後の会見で述べた。新自由主義の大家ハイエクを教えていた某教授が「古いこと持ち出すなあ」とぼやいたのを思い出す。地味で根回しを得意とした。今、再評価されていい政治家の一人である▼こちらは渦中のオリンピアン。義母に「金の卵を産む鶏」と褒められたら、皆さんはどう思う。
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2021年04月05日
生涯に500社の設立運営に関わった渋沢栄一
生涯に500社の設立運営に関わった渋沢栄一。その一つに箱根の荒地を切り開いた大型牧場があった。耕牧舎という▼三井物産社長の益田孝らと興した。富士山に魅せられ避暑に訪れる外国人に牛乳を提供し、バターの製造販売もした。明治初期、日本は牧場ブームで政府高官、実業家、帰農士族らが競って原野にくわを入れた▼その後ろ盾は明治政府最大の実力者・大久保利通である。内務卿として勧農政策の柱に牧畜を据えた。渋沢は財政で大久保と衝突したが、牧畜に将来性を見る点では一致した。しかし大久保の暗殺で推進力はそがれ、誕生したばかりの農商務省は米麦増産の伝統的な農政に回帰する。旧農業基本法まで続いた▼各地の牧場が経営に苦戦する中、耕牧舎は東京進出を果たした。辣腕(らつわん)を振るったのが長州出身の新原敏三。後に独立し築地で牧場を営み、帝国ホテルや海軍関係に納めた。その長男が芥川龍之介である。『点鬼簿』で芥川は「僕の父は牛乳屋であり、小さい成功者の一人らしかった」と控えめに書いたが、明治の代表的な経営者だった▼東京・王子の渋沢資料館は耕牧舎の事績を展示する。大河ドラマが徳川斉昭の愛した「農人形」の次に牧場を取り上げたら、うれしい。
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2021年04月04日
文書に押す朱印は織田信長が多用して広まったという
文書に押す朱印は織田信長が多用して広まったという。国立公文書館デジタルアーカイブで信長が使った朱印が見られる▼印文は有名な「天下布武」の4文字。近江国の朽木元綱に与えたもので、朝倉攻めに失敗して京都に撤退する際に道案内した武将だ。信長は朱印、黒印どちらも使ったが、重要な文書には朱印を押した。徳川家康は海外貿易の許可に朱印を使い、朱印船貿易の呼び名が付いた▼時代は下って神社仏閣の御朱印が平成の大ブームに。これ狙いで信心深くもないのにまめに神社巡りをする人は多い。筆者宅にも10冊近くある。何が魅力かと言えば、身なり正しい坊さんや宮司が寺社名と参拝日を筆書きし、念入りに朱印を押すのを見届ける瞬間だろう。書き置きは味気ない▼最近は〈御城印〉といって城を見学した証しにくれるものもある。地元高校生がデザインしたローカル鉄道版の〈鉄印〉も登場した。「三陸鉄道リアス線」「わたらせ渓谷鉄道」など、名称だけでも旅情が湧く。「乗り鉄・撮り鉄」の鉄道ファンに新しい形態が生まれたらいい。コロナ禍の鉄道会社への打撃は甚大である▼第3波の収束がないまま第4波。山が一段高くなるとの予測もあり、警戒を。神頼みの気持ちになる。
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2021年04月03日
柔道やボクシングなど体重による「階級制」を採る競技では
柔道やボクシングなど体重による「階級制」を採る競技では、減量に取り組む選手が多い▼自分のパワーと体格を生かす、有利な階級を目指すためである。もともと均整の取れた体を、さらに絞り込むのだからつらい。水を飲むことも我慢し、脱水症状が出てしまう選手もあるという。「相手との対戦以上に苦しい闘いだ」とも聞く▼アジア人初の五輪3連覇を果たした柔道の野村忠宏さんは、風呂に2回入るだけで減量できるという「野村都市伝説」が出回るほど簡単に減らせた。ところが、シドニー五輪前後からは63~63・5キロで安定し、3キロ前後の減量が必要だった。食事を制限しながら、練習で絞る。3連覇には、人知れぬ苦労があったことだろう。著書『戦う理由』(Gakken)で知った▼減量にも似た取り組みである。本紙はきのう付から活字を大きくした。多くの読者に目の負担を少しでも軽くしていただくためだが、その代わりに、1ページの文字数が減った。当欄も521字から502字に。かといって、情報の質と量を落とすわけにはいかない。腕の見せどころである▼できるだけ無駄を省き、心の琴線に触れるみずみずしい文章で喜怒哀楽をつづる。これまで以上の切れ味で、お届けしたい。
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2021年04月02日