三遊亭好楽さん(落語家) 旬の逸品 土地と人との縁

三遊亭好楽さん

 おかげさまで全国各地で落語をさせていただき、47都道府県全て足を運んだ経験があります。

 昔は週末になれば、夜行寝台列車で地方に行ったものです。日曜の朝に向こうに着いて、午後1時と6時の2回公演して、終わってから宴会をやって夜行寝台列車で帰って来る。私たち若手は、師匠のかばん持ちです。師匠たちはA寝台で、私たちは3段ベッドの車両で。若手は全く眠りませんでしたね。上野駅で酒とつまみを買って、車中では飲んでしゃべって。他のおじさんたちに「うるせえ」と怒られることもしょっちゅうでした。

 だんだん寝台列車がなくなって、新幹線と飛行機の時代になっていったでしょう。良くないです。沖縄でも日帰りなんですよ。
 

「最高」の岩のり


 地方で食べたもので最高においしかったのは、山形県鶴岡市でのおにぎりです。「竹の露」という造り酒屋がありまして、毎年4月の新酒発表会の時期に呼ばれて行ってるんです。20年くらい前ですかね。社長さんと市内の居酒屋を3軒くらい回り、ちょっと小腹がすいた頃に、社長が店の主人に「あれ出してよ」と頼んだんです。

 出てきたのは、岩のりのおむすび。生まれて初めて食べました。山形だから米はおいしい。それだけでおいしいのに、ご飯をくるむ岩のりの濃厚なうま味が加わって。岩場にくっついたのりは、波が運ぶいろんな養分を吸収するわけでしょう。厚さは普通ののりの2、3倍くらいあったねえ。岩のりを採るのって、命懸けなんですって。帰ってから、岩のりを採りに行って岩から落ちて亡くなったというニュースを見ました。鶴岡は先の地震で被災しました。一刻も早い復興をお祈りします。

 他に思い出すのは、北海道の十勝で食べた焼き肉とビール。というのもその日は、(古今亭)志ん朝師匠、(林家)こん平師匠と3人で飲み食いしたからです。尊敬するお二人とワーワー言いながら冗談話をする。で、ビールをグイグイ飲んで、肉を食べる。この組み合わせが良かったんです。
 

毛ガニを前に…


 北海道と言えば、札幌での打ち上げですごかったのがあります。師匠から前座まで、全員に1匹ずつ毛ガニが出されたんです。ちょうど旬の時期で、ずっしりとみそが詰まって重いカニ。普段はおしゃべりな落語家が、誰も何も話さない。全員黙々と下を向いて毛ガニを食べる。不思議な光景で、今思い出しても笑っちゃいます。

 あと富山のホタルイカも良かったですねえ。私、富山のラジオにレギュラーで出ていた時期があって、ずっと通っていたんです。ある日の帰り際、相手役のアナウンサーが列車まで持って来てくれたんですよ。「これは生だから、早く刺し身で食べて」って。ホタルイカは足が早いので、ボイルしたものしか流通しない。生をいただくのは、それが初めてでした。夜行列車で酒を飲みながら食べたら、独特の食感と風味で、こんなにうまかったんだと感心しました。

 今は取り寄せを利用して全国から送ってもらえますけど、本当においしい旬の逸品は、その土地に行った上で、地元の人との縁がないと出合えないんですよ。おいしいものと出合うというのは、結局のところ人間同士の付き合いのたまものなんだと思います。

 新幹線と飛行機で日帰りばかりしていると、人間関係が希薄になるし、おいしいものにも出合えないんです。不便な時代になってしまったと感じています。(聞き手・菊地武顕)

 さんゆうてい・こうらく 1946年、東京都生まれ。66年に8代目林家正蔵(のち彦六)に入門。81年に真打ち昇進。師匠の死後、5代目三遊亭圓楽門下に移籍し、近年は会長として円楽一門会を率いる。テレビ「笑点」のメンバーとしても活躍。2013年に寄席「池之端しのぶ亭」を開き、後進の育成にも力を注いでいる。

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