豚コレラ被害農家 再開の道険しく 従業員抱え まだ残る返済 怖い再感染

畜舎で若い従業員に話し掛け、気丈に振る舞う水野代表(右)。この1年、吐き気が収まらず精神的にきつい状況が続いているという(岐阜県恵那市で=専門家や農家の指示で、入念な衛生管理の上、取材と撮影をしています)

 豚コレラの感染が見つかった被害農家の大半が、経営再開を模索するものの、「一歩」を踏み切れずにいる。これまでの投資の返済が残り、従業員を抱えている農家は一刻も早い経営再開を望んでいる。だがそれ以上に、再感染のリスクが高く、前に進めないのが現実だ。苦渋の決断で廃業する農家も出ている。豚コレラの感染が長野や埼玉にも広がりとどまるところを知らない中、被害農家の多くが将来展望を見いだせない状況に追い込まれている。
 

経営継続「支援を」 岐阜県恵那市


 周囲が石灰で真っ白になった岐阜県恵那市の畜舎。炎天下、従業員と共に銭坂畜産の代表、水野浩孝さん(40)が畜舎の掃除に励む。だが、豚がいなくなり、静まり返った畜舎に、水野代表は一人で入ることができない。「子豚を思い出すとたまらなくなる。一人になればおかしくなりそうだ」と声を震わせる。

 同社が経営する肥育農場では4月に豚コレラの感染が発覚し、3500頭を殺処分。7月には繁殖農場でも感染が見つかり、さらに4800頭が犠牲になった。

 同県で豚コレラが発生した1年前から、作業着や長靴、手袋の着脱、車両や重機の消毒、洗浄など想定できるあらゆる衛生管理を強化、柵も設置してきた。それでも、二つの養豚場を守ることができなかった。

 発生以降、収入が途絶え資金は減る一方だ。規模拡大を続けてきた投資分の返済が残り、10人の従業員を抱える中、廃業はできない。

 現在、同社は農水省が提示した補償額との隔たりが大きいため、自分で過去の領収書、請求書など書類を全て洗い出し子豚の単価を独自で算出する作業を進める。さらに、ネズミの侵入防止など衛生管理対策を高めるため大規模な修繕工事も計画する。水野代表は「この算出方法で正しいか、この修繕工事計画で問題ないのか、役所は何も教えてくれない。途方に暮れている」と苦しい胸のうちを明かす。

 殺処分を目の当たりにして涙した従業員やその家族のためにも、同社は豚へのワクチン接種を前提に11月には再開したい考えだが、水野代表の父、良則さん(67)は「借金がかさみ、毎日生きた心地がしない。感染イノシシが多発する現状での再開には覚悟がいる。本当に苦しい」と険しい表情だ。

 再開には政治や行政の支援が欠かせない。良則さんは「農水省は農家の衛生管理の不備を強調してばかりのように思える。再開の道を模索する農家に、どうか寄り添ってほしい」と切望する。
 

やむなく廃業決断 愛知県西尾市


 養豚場が感染し、廃業を決めた農家もいる。愛知県西尾市の大橋正生さん(66)は「できるものなら再開したいが、借金をこの年で抱えるのは無理だ」と廃業理由を語る。国からの手当金で豚舎を壊せるのかも見通せず、「今後の生活が不安で仕方がない」と漏らす。

 岐阜県養豚協会によると、被害農家17戸のうち再開にこぎ着けた農家はわずか1戸。大半が再開できず、廃業の意思表示を示す農家も2戸いる。同協会は「再開した1戸も苦境にいる。肥育農場が感染し、繁殖農場が残る中、やむを得ず再開を決断した」と代弁する。

 愛知県によると、被害農家30戸のうち、経営再開は1戸、試験的に豚を導入する農家は7戸。それ以外は把握していない。

 三重県では唯一の被害農家、いなべ市の松葉ピッグファームが年内の再開に向け準備する。同社の経営者は「再感染はものすごい恐怖だが、命を懸ける覚悟で再開を目指す」と強調する。福井県の被害農家は2戸とも廃業する予定だが、畜舎の解体費用など不安が大きいという。

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