農業用ため池 防災へ補強工事を急げ
2019年11月17日
農業用水を確保するため池の防災工事がなかなか進まない。1カ月前の台風19号の豪雨でも決壊が発生し、住宅浸水をもたらした。補強工事を急ぐべきである。
ため池は全国で約16万7000カ所に上り、所有者らの情報がきちんと登録されているのは受益面積50アール以上で9万6000カ所にとどまる。7割は江戸時代以前に造られた。
多くは地元の水利組合や土地改良区、集落・農家などが管理しているが、農家の減少や高齢化から管理が行き届かず、堤の崩れや排水部の詰まりなどが指摘されている。昨年夏の西日本豪雨では2府4県で32カ所が決壊し、死傷者を出した。
政府は、今年4月にため池管理保全法を制定。都道府県に対して、警戒が必要な「特定農業用ため池」を指定し補強などを急ぐよう指導している。所有者や管理者は12月末までに県に届けを出す必要があるが、思い通りには進んでいない。
災害は待ってくれない。台風19号とその後の大雨で、127の農業用ため池が損傷し、12カ所が決壊した。幸い死傷者は出なかったが、近くの住宅が浸水被害を受けた。ため池の補強工事はこれからだった。
会計検査院はため池の耐久性を調査。豪雨を対象にした7860カ所のうち約5割で、対策工事の必要性が適切に判定されていないと指摘した。国は「200年に1回起きる洪水流量」に対応できる耐久性を求めていたが、「10年に1回起きる洪水流量」と緩い基準で判定していた県があった。地震への対応も甘い。同院は、耐震性を調査した3199カ所のうち142カ所が適切に判定されていないと指摘した。決壊時の下流域への影響が十分に検討されていないという。
会計検査院の指摘は、ため池管理保全法が成立する前のものだが、危機感の薄さを物語るものだ。ハザードマップすら作っていない市町村も多い。人的被害が頻発しているのに対応が鈍いと言わざるを得ない。農水省は指導を強めるべきだ。
2008年から10年間のため池被災は、7割が豪雨、3割が地震。一昨年夏の九州北部豪雨災害で大きな被害を受けた福岡県朝倉市では、市内にあるため池の1割が決壊した。耐久性を高め、洪水防止策を強めることは防災上欠かせないはずだ。利用する農業者も危機意識を向上させる必要がある。
農家が減る中で受益農家にかかる工事費用の負担が重く、改修工事の合意形成が容易ではないとの指摘がある。県からは「一気に補強するには財源も人も足りない。優先順位を決めて改修するしか方法がない」との声が上がっている。農水省の事業だけでは対応が難しいなら、政府全体で必要な財源を確保すべきだ。
命を守ることを最優先に、ため池の改修・補強工事を急がなければならない。
ため池は全国で約16万7000カ所に上り、所有者らの情報がきちんと登録されているのは受益面積50アール以上で9万6000カ所にとどまる。7割は江戸時代以前に造られた。
多くは地元の水利組合や土地改良区、集落・農家などが管理しているが、農家の減少や高齢化から管理が行き届かず、堤の崩れや排水部の詰まりなどが指摘されている。昨年夏の西日本豪雨では2府4県で32カ所が決壊し、死傷者を出した。
政府は、今年4月にため池管理保全法を制定。都道府県に対して、警戒が必要な「特定農業用ため池」を指定し補強などを急ぐよう指導している。所有者や管理者は12月末までに県に届けを出す必要があるが、思い通りには進んでいない。
災害は待ってくれない。台風19号とその後の大雨で、127の農業用ため池が損傷し、12カ所が決壊した。幸い死傷者は出なかったが、近くの住宅が浸水被害を受けた。ため池の補強工事はこれからだった。
会計検査院はため池の耐久性を調査。豪雨を対象にした7860カ所のうち約5割で、対策工事の必要性が適切に判定されていないと指摘した。国は「200年に1回起きる洪水流量」に対応できる耐久性を求めていたが、「10年に1回起きる洪水流量」と緩い基準で判定していた県があった。地震への対応も甘い。同院は、耐震性を調査した3199カ所のうち142カ所が適切に判定されていないと指摘した。決壊時の下流域への影響が十分に検討されていないという。
会計検査院の指摘は、ため池管理保全法が成立する前のものだが、危機感の薄さを物語るものだ。ハザードマップすら作っていない市町村も多い。人的被害が頻発しているのに対応が鈍いと言わざるを得ない。農水省は指導を強めるべきだ。
2008年から10年間のため池被災は、7割が豪雨、3割が地震。一昨年夏の九州北部豪雨災害で大きな被害を受けた福岡県朝倉市では、市内にあるため池の1割が決壊した。耐久性を高め、洪水防止策を強めることは防災上欠かせないはずだ。利用する農業者も危機意識を向上させる必要がある。
農家が減る中で受益農家にかかる工事費用の負担が重く、改修工事の合意形成が容易ではないとの指摘がある。県からは「一気に補強するには財源も人も足りない。優先順位を決めて改修するしか方法がない」との声が上がっている。農水省の事業だけでは対応が難しいなら、政府全体で必要な財源を確保すべきだ。
命を守ることを最優先に、ため池の改修・補強工事を急がなければならない。
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ハトムギで健康長寿に “お墨付き”チョコ商品化 知名度アップ狙う 栃木県小山市
栃木県小山市で、特産のハトムギを使ったチョコレートが開発され、11月から市内の「道の駅思川」で販売が始まった。生活習慣病の予防など、市はハトムギの摂取によって市民の健康長寿を目指しており、新たなスイーツで消費拡大を目指す。ハトムギの生産量も増えていて、農家は「栽培の追い風になる」と期待する。(中村元則)
全国ハトムギ生産技術協議会によると、2018年の全国のハトムギの生産面積は1122ヘクタール、生産量は1541トン。茶などで使われ、生産面積は年々、増加傾向にあるという。同市は水田転作の一環で、1991年に農家2戸で栽培がスタート。18年時点で、約10戸が作付面積80ヘクタールで188トンを生産し、国内有数の産地だという。
同市のハトムギは、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で「次世代農林水産業創造技術」の開発研究に選定された。そこで市などは18年、ハトムギの摂取が人間の体に与える影響を調べる実証実験を行った。
20~64歳の健康な市民114人にハトムギ茶や麦茶を500ミリリットル、8週間、毎日飲んでもらい血液や尿を検査した。その結果「ハトムギには動脈硬化などの生活習慣病の予防効果が示唆された」(市農政課)という。
市はハトムギの摂取を進めようと、新商品の開発を促す「アグリビジネス創出事業」を実施。ハトムギのチョコレートは、食品加工品を販売する、ラモニーヘルス(同市)が同事業を活用して、半年前から商品開発を手掛けた。
同社の篠原裕枝代表は「ハトムギを高齢者も若い人も、誰もが食べやすいものにしようと考えた時、チョコレートを思い付いた」と話す。
同社は11月中旬の2日間、東京都墨田区の商業施設「東京ソラマチ」の中にある栃木県のアンテナショップ「とちまるショップ」で試験販売をした。その後、11月下旬から道の駅思川で本格販売を始めた。
商品は「はとむぎチョコ マンディアン」と名付けられ、ハトムギを3%配合したノンシュガーのチョコレート生地に、無添加ドライフルーツを載せている。チョコレートの優しい味わいとともに、かめばかむほどハトムギの香ばしい香りが広がるのが特徴だ。
市農政課は「来年2月のバレンタインデーに健康食品として参戦する」と強調。チョコに期待を掛けている。他にもハトムギを使った商品は、ふりかけなども開発され、多様化している。
相次ぐ商品化に栽培農家も期待。ハトムギを4ヘクタールで栽培する小山はとむぎ生産組合の福田浩一組合長は「小山のハトムギの知名度が増す良い機会になる。これを契機に新規就農者を増やし、生産量を増やしたい」と意気込む。
「はとむぎチョコ マンディアン」は、ビターとミルクの2種類あり、どちらも1箱3個入り(100グラム)で1500円。
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2019年12月06日

[岡山・JA岡山西移動編集局] 水稲品種 古参に脚光 多収の晩生「アケボノ」生産拡大 業務用、酒造で引き合い
JA岡山西は、もうかる米作りの一環で、70年ほど前に育種された水稲「アケボノ」の生産拡大を進めている。古い品種だが、業務用米や酒造原料米として実需者の引き合いが強く、栽培しやすい多収性の晩生種として、生産者にも人気が高い。ポスト「コシヒカリ」をにらんだ品種開発が盛んだが、実需のニーズを見極めて古い品種にも光を当てた形だ。2018年産の集荷数量は1278トンで、品種別では主食用米の3割を占める計算だ。19年産は1440トンの集荷を目指す。
「朝日」と「農林12号」を親とする「アケボノ」は1953年に品種登録された。多収で倒れにくいのが特徴。米は、炊くと粒が大きく、歯応えがあり、あっさりした食味が楽しめる。外食や中食用として使われ、県内の卸業者は「粘りが少なく加工に向く。特にすし飯の需要が大きい」と説明する。酒造用の掛け米としても人気があり、JAの川上勝之営農部長は「生産拡大を呼び掛けているが、需要に供給が追い付かない状況だ」と話している。
同県浅口市の平喜酒造は「アケボノ」を掛け米だけでなく、こうじ米としても使う。原潔巳部長は「タンパク質が少なく、きれいなこうじができる。造った日本酒は淡麗な味わいで、料理に合う。米の品質にばらつきがないのも良い」と分析する。
生産者からの評価も高い。15ヘクタールで水稲を育てる倉敷市の山地康弘さん(59)は「費用や手間がかからず、安定して多収が見込める。晩生種のため、コシヒカリやヒノヒカリなどと作期分散しやすい」と栽培の理由を話す。
10アール当たり収量は例年、約540キロで、「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」よりも約120キロ多いという。一方、肥料代は10アール当たりで2000円ほど安い。JAの概算金は、最も高い「コシヒカリ」に比べると、18年産で60キロ当たり約1100円安いが、利益は「アケボノ」の方が大きくなる。
地域では、9月上旬から10月上旬に「あきたこまち」「コシヒカリ」「ヒノヒカリ」「にこまる」を収穫し、「アケボノ」は例年11月5日ごろに刈り取っている。山地さんは「品質が落ちないので、作業を急がずに済む」と、融通の利く特性にも満足する。「生産者にとって頼もしい品種。作り続けたい」と意気込む。
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2019年12月05日

「ごはん・お米とわたし」内閣総理大臣賞 作文・長町さん(香川) 図画・清和さん(静岡)
JA全中は9日、第44回「ごはん・お米とわたし」作文・図画コンクールの審査結果を発表した。最優秀賞の内閣総理大臣賞には、作文部門で香川県の長町そよかさん(高松市立栗林小6年)の「広がれ! お米の可能性」、図画部門で静岡県の清和羽音さん(長泉町立北中3年)の「おむすびは勉強のおとも」を選んだ。
文部科学・農水大臣賞に計12人、全中会長賞に6人を選んだ。受賞者は次の通り。
◇作文部門▽文科大臣賞=青木舞桂(山形県米沢市立北部小3年)山口哲平(茨城県小美玉市立羽鳥小6年)辻紗季(福井市足羽中3年)▽農水大臣賞=桂木花音(さいたま市立大谷場小3年)園部杏莉(山形県庄内町立余目第三小6年)大貫桜和(神奈川県厚木市立相川中1年)▽全中会長賞=小濱啓太(沖縄県石垣市立登野城小3年)野元理彩(長崎県壱岐市立霞翠小4年)麦倉惟月(栃木県宇都宮短期大学付属中1年)
◇図画部門▽文科大臣賞=今鹿倉由羽(大阪府堺市立野田小3年)菊永優介(同市立東百舌鳥小5年)皆川泉(宮城県涌谷町立涌谷中2年)▽農水大臣賞=川原田すみれ(佐賀県小城市立桜岡小2年)石松祐(松江市立乃木小6年)荒木音羽(佐賀県伊万里市立国見中2年)▽全中会長賞=右近敏明(高松市立古高松小2年)白浜早也花(佐賀市立鍋島小5年)桝本陸斗(広島市立井口台中1年)
コンクールは「みんなのよい食プロジェクト」の一環。子どもに農業の学びを深めてもらい、ご飯や米の重要性を周知する。全国の小中学生から、作文5万660点と図画6万767点の応募があった。
表彰式は2020年1月11日に東京・大手町のJAビルで開く。
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2019年12月10日

果樹以外も“引き”強く 昨年の7倍販売 PBのこぎり好評 JAあいち豊田
愛知県のJAあいち豊田が今年度から販売を始めたプライベートブランド(PB)商品「こめったくんノコギリ」が好評だ。4月からの半年で、昨年ののこぎり販売数の7倍以上に当たる264本を販売。剪定(せんてい)作業に使う果樹農家だけでなく、一般農家にも購入が広がっている。
JAがPBのこぎりの販売を始めたのは、組合員の声がきっかけ。全国の桃生産者が集まる場で、JA桃部会の林金吾さん(67)が長野県にあるメーカーの説明を受け使い始め、良い商品だとJA営農資材課に紹介した。
当初は通常商品として果樹農家向けに販売。2、3年使った農家から高い評価を得たことから、PB化の検討を始めた。同課の職員がメーカーを訪ね、細部まで品質を確認。長期間使っても切れ味が落ちず、果樹農家だけでなく、幅広い目的で使えるよう、グリップの形状なども考慮し選定。4月からPB商品として販売を始めた。
購入価格を抑えるため、JAでは事前注文のキャンペーンを春と秋に実施し、通常より15%ほど安くした。替え刃も用意し、既に購入した組合員の要望にも応えている。
PBのこぎりを愛用する林さんは「他の物とは切れ味が違い、長持ちもするので手放せない。庭木の剪定など一般の人にも使ってほしい」と太鼓判を押す。
JA営農資材課の兵藤仁課長は「組合員の声を形にすることで、営農をサポートし期待に応えたい」と話す。
JAは、2016年3月から組合員の声を取り入れたPB商品を開発、販売している。少量規格の肥料や刈り払い機のチップソー、軽トラックの荷台に取り付けるほろなどを販売し、好評だ。
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2019年12月05日
ヨーグルト減速 多様な効能 消費反転へ
乳酸菌などの機能性と健康効果が広く知られ、急成長を続けてきたヨーグルトの消費がこの2、3年減っている。機能性をうたう食品が数多く登場し、需要の一部が流れているためだ。酪農振興のためにも、業界ぐるみでヨーグルトの多様な効能をアピールし、消費の定着と拡大につなげるべきだ。
ヨーグルトの生産量は、この10年で1・4倍以上に拡大した。乳業メーカーの推計では、ピーク時の2016年の市場規模は4000億円を超えた。総務省の家計調査(2人以上世帯)でも同年までは右肩上がりで、年間支出額は1万3495円と09年より6割以上増えた。
急成長の最大の要因は、乳酸菌やビフィズス菌の機能性と健康効果が広く知られたことだ。手軽なドリンクタイプが増えて消費増を後押しした。だが、市場規模は17年から減少に転じ、17、18年はいずれも前年比2%減。家計調査でも18年の支出額は1万3203円となった。
なぜ消費が頭打ちになったのか。機能性や健康効果をうたう食品が増えたためだ。同じ乳製品でも高い栄養価を売りにチーズが消費を伸ばした。乳酸菌市場で消費者の選択の幅も広がった。非乳業の大手食品メーカーも乳酸菌に注目し、飲料や菓子など乳製品以外の売り場に乳酸菌入り商品が増えた。
ヨーグルト消費の後退を食い止め、再び伸ばすことは可能だろう。この間、業界ぐるみで「人の健康に有益に働く生きた微生物(=プロバイオティクス)」の役割を広く発信し、腸内環境を「善玉菌」で整えることや、「腸活」の考え方を定着させてきた。健康管理の新たな知識を消費者に浸透させたのは画期的であり、ヨーグルト消費の土台をつくった。
民間調査会社の富士経済は乳酸菌・ビフィズス菌含有食品市場とのくくりで市場規模をまとめた。ヨーグルト消費が減少しても右肩上がりで、16年度の7400億円から18年度は7800億円に増加。20年度には8000億円に達する有望市場と捉える。その中にはヨーグルト以外の食品も含まれるが、腸活につながる消費行動が今後も活発化する可能性を示している。
大手乳業メーカーのヨーグルトの新たな提案にも注目したい。ビフィズス菌の効果を訴えるため森永乳業は、製薬会社や、大腸で同菌の餌となる水溶性食物繊維の製造会社と共同で「大腸活」の情報発信を始めた。雪印メグミルクは、目や鼻のアレルギー反応を緩和する「乳酸菌ヘルベ」入りヨーグルトを来年1月に発売する。機能性タイプで市場をけん引してきた乳業最大手の明治は、低カロリーのヨーグルトに商機を見る。
原料は近年、脱脂粉乳から風味の良い脱脂濃縮乳に移りつつある。だがパンや飲料など他の食品にも使われ需要に供給が追い付かない。ヨーグルト市場を拡大し酪農振興につなげるには、生乳の増産対策が不可欠だ。
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2019年12月10日
論説の新着記事
農村政策の再構築 農水省は司令塔役 担え
農山村を支援する研究者や実務家らでつくるNPO法人中山間地域フォーラムが、新たな食料・農業・農村基本計画への提言を農水省に提出した。農村の振興には生産面、生活面などの政策を総合的に推進する必要があるとして、同省に政府全体の司令塔となるよう提起した。その本気度が問われている。
提言は「総合的な農村政策の再構築を!」との名称だ。農村政策として農水省は、中山間地域直接支払いなどを実施。それらは、農業の多面的機能を発揮するために農地や水路、農道などを維持する資源管理政策になっていると分析した。しかし、中山間地域を中心に活動を担う農家や住民らが減少している。
そこで提言は、農業経営が成り立ち地域社会が持続してこそ同機能は発揮されると指摘。農村、特に中山間地域の今後の姿として①地域特性ごとに、どんな農業経営や農業と他の仕事との組み合わせで経営体として生き残れるか②移住者や農家以外の人と共に、地域経済と持続可能なコミュニティーをどうやって維持できるか――ビジョンを示すよう農水省に求めた。その上で、生きがいを持って仕事を続け、必要な所得を得て、安心して住み続けられるようにする総合的な政策の構想と体系化、府省の連携促進を訴えている。
農水省の「農村地域人口と農業集落の将来予測結果」によると、山間農業地域では2045年までの30年間に人口が半減し、過半が65歳以上の高齢者になる。また、約14万の農業集落のうち存続が危惧されるのが同年は約1万集落になり、9割近くを中山間地域が占める。
各府省が農村政策に取り組むが、施策が「バラバラに行われている」(提言)。生活サービスや地域活動の場を小学校区などを単位にまとめ暮らしを支える小さな拠点や、住民を中心に地域の課題解決に取り組む地域運営組織、過疎地などに都会から移住して地域活性化に携わる地域おこし協力隊など他府省の施策も、農業・農村振興の観点での再編成が必要だろう。
食料・農業・農村基本法は、「農村の総合的な振興」のために農業生産の基盤と生活環境の整備などを総合的に推進するよう国が必要な施策を講ずると定める。そして農水省設置法で総合的な政策の企画・立案・推進を同省の役割と規定。提言は、同省に「リーダーシップを発揮し、積極的な役割をはたすべき」とし、その姿勢を基本計画で明らかにするよう迫る。
農水省は、まず農村の実態把握と分析で政府内でのリーダーシップを取ると表明している。しかし農村振興は待ったなし。府省横断での政策立案や、現場での使い勝手をよくする仕組み作りまで踏み込むよう求める。
基本計画は閣議決定し政府全体の方針になる。今国会で農林水産物・食品輸出促進法が成立し、政府の司令塔組織を農水省に創設する。農村政策でもその役割を同計画に明記すべきだ。
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2019年12月11日
ヨーグルト減速 多様な効能 消費反転へ
乳酸菌などの機能性と健康効果が広く知られ、急成長を続けてきたヨーグルトの消費がこの2、3年減っている。機能性をうたう食品が数多く登場し、需要の一部が流れているためだ。酪農振興のためにも、業界ぐるみでヨーグルトの多様な効能をアピールし、消費の定着と拡大につなげるべきだ。
ヨーグルトの生産量は、この10年で1・4倍以上に拡大した。乳業メーカーの推計では、ピーク時の2016年の市場規模は4000億円を超えた。総務省の家計調査(2人以上世帯)でも同年までは右肩上がりで、年間支出額は1万3495円と09年より6割以上増えた。
急成長の最大の要因は、乳酸菌やビフィズス菌の機能性と健康効果が広く知られたことだ。手軽なドリンクタイプが増えて消費増を後押しした。だが、市場規模は17年から減少に転じ、17、18年はいずれも前年比2%減。家計調査でも18年の支出額は1万3203円となった。
なぜ消費が頭打ちになったのか。機能性や健康効果をうたう食品が増えたためだ。同じ乳製品でも高い栄養価を売りにチーズが消費を伸ばした。乳酸菌市場で消費者の選択の幅も広がった。非乳業の大手食品メーカーも乳酸菌に注目し、飲料や菓子など乳製品以外の売り場に乳酸菌入り商品が増えた。
ヨーグルト消費の後退を食い止め、再び伸ばすことは可能だろう。この間、業界ぐるみで「人の健康に有益に働く生きた微生物(=プロバイオティクス)」の役割を広く発信し、腸内環境を「善玉菌」で整えることや、「腸活」の考え方を定着させてきた。健康管理の新たな知識を消費者に浸透させたのは画期的であり、ヨーグルト消費の土台をつくった。
民間調査会社の富士経済は乳酸菌・ビフィズス菌含有食品市場とのくくりで市場規模をまとめた。ヨーグルト消費が減少しても右肩上がりで、16年度の7400億円から18年度は7800億円に増加。20年度には8000億円に達する有望市場と捉える。その中にはヨーグルト以外の食品も含まれるが、腸活につながる消費行動が今後も活発化する可能性を示している。
大手乳業メーカーのヨーグルトの新たな提案にも注目したい。ビフィズス菌の効果を訴えるため森永乳業は、製薬会社や、大腸で同菌の餌となる水溶性食物繊維の製造会社と共同で「大腸活」の情報発信を始めた。雪印メグミルクは、目や鼻のアレルギー反応を緩和する「乳酸菌ヘルベ」入りヨーグルトを来年1月に発売する。機能性タイプで市場をけん引してきた乳業最大手の明治は、低カロリーのヨーグルトに商機を見る。
原料は近年、脱脂粉乳から風味の良い脱脂濃縮乳に移りつつある。だがパンや飲料など他の食品にも使われ需要に供給が追い付かない。ヨーグルト市場を拡大し酪農振興につなげるには、生乳の増産対策が不可欠だ。
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2019年12月10日
規模拡大に限界感 家族農業 生かす政策を
担い手の規模拡大に限界感が見え始めている。生産基盤を維持していく上で憂慮すべき事態だ。担い手の規模拡大によって農地を守るシナリオを描いてきた農政の再検討が欠かせない。多様な担い手として家族農業の育成方向を明確にするとともに、実態にそぐわない農地集積目標なども見直しが必要だ。
食料・農業・農村基本計画の見直し論議で、家族農業や中小規模農家への支援強化を求める声が広がっている。JAグループは政策提案の中で、基幹的農業従事者や農業法人だけでなく、多様な農業経営が持続的に維持・発展できる政策を強く求めた。与党からも「家族農業、中小農家を支えることが重要」「地域を守る家族農業の将来像もしっかり示すべきだ」などの意見が相次ぐ。
家族農業の現状は、2019年は経営体数115万で、この5年間に2割近い28万以上が減った。恐ろしい減少スピードであるにもかかわらず、いまの農政の中で家族農業は位置付けを落としている。
05年の基本計画と併せて策定された「農業構造の展望」では、担い手になり得る効率的で安定的な家族経営を10年後までに33万~37万戸育てる青写真を描いていた。民主党政権時代の10年の構造展望では「家族農業経営の活性化」を柱として打ち立て、販売農家の減少にブレーキをかける考えを示した。しかし政策効果は表れず、15年の現行構造展望には家族農業の記述すらなくなった。
家族農業軽視は、いまの農政が産業政策に過度にシフトしたことによる。担い手育成の政策目標として、農地利用の集積率を10年間に5割から8割に引き上げることを掲げたが、これは従来の集積スピードを一気に1・5倍に引き上げるというもの。だが現実は、中間年に当たる18年は56%にとどまった。利用が低調な農地中間管理機構(農地集積バンク)をてこ入れする法改正はしたものの、実現はほぼ不可能といっていい。
もはや、集積目標自体が妥当か考え直す時だろう。「構造政策が進み過ぎ、畦畔(けいはん)管理などが担い手の負担になっている」「農地を頼まれても、これ以上は増やせない」といった声が既に上がっている。この状況で無理に集積を加速すれば、担い手は受け止め切れず農地の遊休化につながる恐れすらある。受け手のない農地があふれないよう、中小規模の農家の離農をできるだけ食い止めることが先決だ。
家族農業を重視する流れは、国連が定めた「家族農業の10年」とも通じる。グローバリゼーションが進み、飢餓撲滅や食料安全保障の確保といった国際的な目標の実現に不安が増してきたことを受けた動きである。食料自給率が37%にとどまる日本にとってこそ切実な問題だ。国民の食を守るためにも、国内の生産基盤を支えてきた家族農業の支援策が強く求められる。
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2019年12月08日
日米協定の宿題 不安除く責任 国会にも
日米貿易協定の元日発効が確実になった。大型自由貿易協定(メガFTA)によるかつてない自由化との闘いを農家は迫られている。臨時国会は9日が会期末だが、政府と国会が責任を果すのはこれからだ。通常国会が来月にも始まる。十分な国内対策をはじめ農家の不安払拭(ふっしょく)へ熟議を求める。
議論が深まらないまま国会は日米協定を承認した。審議時間が短過ぎた。その上、環太平洋連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)も合わせた農林水産品の影響試算など、野党の資料請求に政府・与党は応じなかった。政府の答弁も踏み込み不足が目立った。所信表明演説で安倍晋三首相は「農家の皆さんの不安にもしっかり向き合う」と述べた。政府・国会ともに、不安払拭策は「継続審議」になったと認識すべきだ。
不安払拭はまず国内対策にかかっている。政府はTPP等関連政策大綱を改定し、大小問わず意欲的な農家を支援する方針を示した。対策費3250億円を盛り込んだ今年度補正予算案も決めた。予算規模を含め、同演説で首相が約束した「生産基盤の強化など十分な対策」になっているか。その検証は、日米協定を承認した国会の責務だ。
日米協定とTPPを合わせた農林水産物の生産減少額を政府は最大2000億円と試算。国内対策で農業所得と生産量が減らないことが前提だ。なら、対策は最低でも所得などを維持できる内容でなければならない。そうなる理由の説明責任もある。
国内対策には食料自給率向上の観点も必要だ。45%の目標を盛り込んだ食料・農業・農村基本計画は閣議決定しており、目標達成に必要な生産基盤の確保は政府の責務である。来年度当初予算案を含めて検討が必要だ。来年3月の閣議決定を予定している新たな基本計画も、メガFTA時代に、日本の農業・農村の持続的発展をどのようにして確保し、自給率を向上させるかが問われる。
国内対策が十分かを検証するには適正な影響試算が必要だ。政府は野党が要求した資料を作り示すべきだ。対策を前提に試算をするのは逆立ちした論理である。国の財政は厳しい。生産がこれだけ減るから、それを防ぎ、さらに自給率を引き上げるにはこうした対策が必要だ。こうした分かりやすい筋立ての方が、国民の理解も得られる。
国内対策を抜いた日米協定の試算を東京大学大学院の鈴木宣弘教授が行い、参考人とし国会で説明。価格が下がれば生産も減るとして、農産物の生産額が9500億円程度減少する可能性を示した。参考にすべきだ。
米国は追加交渉の予備協議に来年早々に入ると表明した。対象について政府の国会答弁は「農産品は想定していない」にとどまる。自由化が一層進むのではないかと農家は不安だ。払拭のために、農業を対象にするよう米国から要求されても「断固拒否する」と明言すべきだ。
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2019年12月07日
ラグビー菊池寛賞 ワンチームに学び改革
ラグビー・ワールドカップ(W杯)でベスト8に輝いた日本代表チームが菊池寛賞を受賞した。日本代表の活躍は、改めて「ワンチーム」で組織が一丸となれば難局を突破できる勇気を国民に与えた。JA自己改革などでも参考にできる「スクラム型組織論」を学びたい。
菊池寛賞は、文化活動で創造的業績を上げた個人、団体に贈る。6日の贈呈式で日本代表も表彰される。受賞理由は、ワンチームで強豪国を破る姿が「日本中に勇気を与えた」ことだ。果敢なタックルで立ち向かい、スピードを生かし得点を重ねる姿に感銘を受けた。停滞感が覆う日本人に「前を向く」大切さをも示した。
同賞は昨年、ユーミンこと松任谷由実さんが受賞し話題となった。「日本人の新たな心象風景をつくった」ことが評価された。代表曲の一つ「ノーサイド」は、全国高校ラグビー決勝での激戦を題材にした。この中に〈何をゴールに決めて 何を犠牲にしたの 誰も知らず〉の歌詞がある。今回の日本代表からも「多くの事を犠牲にしラグビーに打ち込んできた」の言葉が何度も出た。同賞とユーミンとラグビーの結び付きを思う。
ラグビーの持つ戦術と精神に学ぶものが多い。象徴的な用語は、流行語大賞に選ばれた「ワンチーム」と「スクラム」「ノーサイド」。加えて日本代表には三つの“わ”があった。「和」「話」「輪」だ。チームの和を最も尊び、相互理解する話し合いを深め、大きな輪となり、相手を打ち砕く塊となる。
JA改革にも共通する。例えば、経済事業改革を進めるJA全農の新3カ年計画のスローガン「全力結集で挑戦し、未来を創る」はラグビーの勝利の方程式でもあろう。「一人はみんなのために、みんなは一人のために」の精神は、協同組合の相互扶助、助け合いとも重なる。
組織には野球型とラグビー型の二つがあるという。野球型はトップが人を駒として動かす。監督が試合中にも指示を欠かさない。いわば上意下達の仕組み。一方で、ラグビー型は統一した明確な戦術の下に個々が考えて臨機応変に動く。今は先が読めない不確実性の時代で、ラグビーの戦術を今後の組織戦略に生かす経営トップも多い。違った専門性を持つ社員が力を合わせる「スクラム型組織」こそ、難局打開の突破口を開くとの考えからだ。日本代表のうち外国出身者は半数近い。「多様性」を弱点でなく強さに変え、勝ち抜くのも「スクラム型組織」の特色と言えよう。
経済界トップに加え政治家、農業界にもラガーマン出身が存在感を持つ。強い責任感、自己犠牲、耐え抜く精神力、勝利へのこだわり。底流には、思いを一つにしてみんなで努力すれば巨象をも倒せるとの「ワンチーム」への信念と確信がある。今回の日本代表の菊池寛賞受賞の意味を、JA改革断行にも役立てたい。
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2019年12月06日
国際植物防疫年 日本の指導力発揮 期待
2020年は国連が定めた国際植物防疫年(IYPH)。病害虫や雑草の対策が重要だとの認識を、世界的に高める機会となる。優れた技術・対策を持つ日本が国際的なリーダーシップを取るべきだ。東京五輪・パラリンピックで日本への侵入リスクが高まる。市民を巻き込み水際対策も強化したい。
国境を越えて侵入する病害虫は食料安全保障にとって脅威だ。水稲に吸汁被害を与えるトビイロウンカが今年、西日本を中心に記録的な発生となった。米の作況指数(10月15日現在)は九州が「87」、四国と沖縄が「94」、中国が「97」だった。
また、飼料用トウモロコシなどを加害するツマジロクサヨトウは、7月に国内で初めて確認されてから農場での発生が瞬く間に21府県に拡大した。地球温暖化の影響で定着する恐れがあり、生産現場では農家らが懸命の防除対策を進める。
来年は東京五輪・パラリンピックが開催される。病害虫は人や物の移動でも侵入する。植物検疫の重要性を市民に訴え、土付きの植物を持ち込まないなど水際対策への協力を得たい。
IYPHの根底には、持続可能な開発目標(SDGs)である飢餓や貧困の解消、環境の保護、経済発展に、病害虫のまん延防止は欠かせないとの考えがある。ニューヨークとローマでの年末のキックオフセレモニーを皮切りに、来年の閣僚会合や国際シンポジウムなどを通じ、市民や政治家、行政の担当者、企業の社員らに理解を広げる。
IYPHでの国際的なリーダーシップの発揮には、20カ国・地域(G20)の会合との関連で茨城県つくば市で11月に開かれた、病害虫研究者による二つの国際会合の経験が生きる。
市民も参加した国際農林水産業研究センター(国際農研)のシンポジウムでは、講演やパネルディスカッションを通じ、各国が連携して対策・研究に当たることが重要だとの認識で一致した。SDGsの達成や食料安保につながることも確認した。
専門研究者らが中心の農水省主催のワークショップでは、かんきつグリーニング病など八つの病害虫について研究成果や防除方法を共有。今後の研究連携の在り方を話し合った。海外の研究者らは、日本の植物防疫の仕組みやミバエを撲滅した経験などに強い関心を示していた。
二つの会合ともに、日本の研究者らが開催国として議論をリード。防除対策や研究成果の共有、研究者のネットワークづくり、国際的な研究連携の進め方などで成果を得た。
その成果を生かし日本は国際的な行動を起こすべきだ。診断技術や疫学調査、越境防止措置、予防・防除技術を提供したり、研究連携の輪を広げたり、国際的な監視体制を強化したりすることで、持続的な食料生産に貢献できる。病害虫のまん延防止への協力は越境性病害虫の国内への侵入を防ぐことになり、食料安保にもつながる。
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2019年12月05日
多面的機能の維持 中山間守る国民論議を
食料・農業・農村基本計画の見直し検討が進んでいる。生産基盤の再建に向け、政府は担い手の農地集積や規模拡大に力を入れる。平場より生産性は劣るが、中山間地域の総土地面積は7割で農業産出額や農家数の割合は4割。同地域をどう守るか、国民的な議論を深めるべきだ。
日本農業新聞は10月、企画「ゆらぐ基(もとい)~危機のシグナル」と題し生産基盤の実態を追った。日本棚田百選に選ばれる宮崎県の集落が、棚田オーナー制度などで集落外の住民との交流に力を入れるものの存続の危機に直面している事例や、農地の受け皿となってきた集落営農組織が解散に追い込まれたことなどを取り上げた。
厳しい状況は数字からも読み取れる。農水省が行う2018年度の中山間地域等直接支払いの交付面積は約66万4000ヘクタール。14年度に過去最大の約68万7000ヘクタールに達したが、伸び悩んでいる。農業・農村を支えてきた団塊世代の高齢化や人口減少の中で、国民全体で守る仕組み作りは待ったなしの課題だ。
農水省は、農業・農村の多面的機能や棚田に対する国民の意向調査をまとめた。同機能で重要な役割を複数回答で聞いたところ、「雨水を一時的にためて洪水を防ぐ」(57%)「作物や水田にためられた水が土砂の流出を防ぐ」(37%)「日々の作業を通じて土砂崩れを防ぐ」(36%)といった治水・治山機能の評価が高い。また「棚田を将来に残したいか」を尋ねたところ、8割が残したいと答えた。理由は「澄んだ空気や水、四季の変化などが癒やしと安らぎをもたらす」「農地や農作物などがきれいな景色を作る」がいずれも37%と最も多かった。
一方で、「棚田の維持や保全のために何かしたいか」との問いに「したいと思わない」が34%。また「棚田を残したいか」について「荒れてしまうのは仕方がない」(19%)、「棚田がすべてなくなっても構わない」(6%)という回答もあった。
治水・治山や癒やしなどの多面的機能は国民にこそ多くの恩恵をもたらしている。農業・農村の役割と魅力について、国民理解をもっと広げる必要がある。
現行の基本計画は、担い手を中心とした産業政策と地域政策を車の両輪と位置付け、魅力ある農村づくりの取り組みには、規模や経営形態の異なる農業者、地域住民、農村外の人材などの幅広い参画が重要だと指摘する。しかし、農村の疲弊を訴える現場の声は強まっている。
最初の基本計画は20世紀最後の年に策定された。10年間を見通した同計画の5年ごとの見直しは「食料や農業・農村について消費者や自治体を含め、さまざまな階層が参加して議論する場で、20世紀農政から受け取った宝物」(小田切徳美明治大学教授)と言える。基本計画見直し検討への幅広い層の参画により、外部人材も含めた多様な担い手で農業・農村を支える実効ある政策を作る必要がある。
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2019年12月04日
20年度畜酪対策 中小支援で基盤維持を
2020年度畜産・酪農政策価格、関連対策で、政府・与党の本格論議が今週始まる。最大の焦点は生産基盤維持・強化だ。特に都府県の中小規模の家族経営を含め生産の底上げ策が問われる。今後10年間の展望を示す酪農肉用牛近代化方針(酪肉近)とも密接に絡むだけに、生産意欲を促す価格、政策決定が必要だ。
まず、論議すべきは、改正畜産経営安定法の下で酪農家の生乳出荷を巡り「いいとこ取り」が横行し、飲用向けが増え用途別需給取引に支障が出かねない現状の是正だ。法改正に伴い、指定生乳生産者団体の一元集荷体制が廃止された。結果的に酪農家全体の所得が減る事態になれば、「何のための法改正だったのか」との疑問がさらに大きくなる。農水省は、生産者の公平性確保を前提に適正な制度運用と指導を徹底すべきだ。
今回の最大の焦点は、生産基盤の弱体化を食い止め、どう経営を立て直すか。これには大規模経営ばかりでなく、家族農業が中心の都府県の中小経営への支援拡充も欠かせない。
問われるのは、従来にも増して将来の展望が持てる政策価格と関連対策だ。日米貿易協定承認案の国会審議も大詰めを迎える中で、相次ぐ大型自由貿易協定に生産者の将来の不安も募る。今回の畜酪政策価格、関連対策は、こうした自由化進展への対応や酪肉近論議の方向性を示す“発射台”の意味合いも持つ。
特に酪肉近では、国産乳製品の需要の強さを受け、現行約730万トンの1割増、最大800万トンを目指すべきだ、との具体的な提案も出ている。生産者団体と乳業メーカーなどで構成するJミルクの将来ビジョンでも、10年後の生乳生産を775万~800万トンとしている。大前提は、生乳全体の55%を占める北海道の増産傾向が続き、都府県の減産に歯止めがかかることだ。チーズ、液状乳製品の需要増を想定している。同時に酪農所得対策の議論も必要だ。
畜酪農家戸数の減少が続く中で、規模拡大などを支援する畜産クラスター事業では一層柔軟な対応が求められる。中小経営を念頭に具体的な条件緩和などが必要だ。高齢者から若手への円滑な経営継承も大切だ。放置すれば離農につながりかねない畜産環境対策や、ふん尿処理施設の更新支援も欠かせない。
政策価格では、加工原料乳生産者補給金と集送乳調整金が大きな課題だ。配合飼料価格の値下がりなどから補給金単価算定では下げ要素も多いとされるが、生産意欲の観点から特段の配慮が必要だ。決定水準によっては20年度飲用乳価交渉への悪影響も懸念される。また、指定団体を対象とした集送乳調整金には物流コスト高を反映すべきだ。同調整金の引き上げは酪農家の結集を促し、用途別需給調整にも結び付く。
政府・与党の折衝は、農業団体の意向を十分踏まえ、酪肉近論議など今後の展望を開く決着にすべきだ。
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2019年12月03日
メガFTAと食肉 影響見据え対策加速を
大型自由貿易協定(メガFTA)の影響が心配される食肉の動向から目が離せない。輸入の増加は依然として続き、国産の相場は弱含みで推移している。関税引き下げの影響が出るのはまだ先だとみられていたが、生産者・産地と政府、業界は警戒を強め、生産・販売対策を加速させる必要がある。
環太平洋連携協定(TPP)は昨年末に発効し、今年2月には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効した。牛肉、豚肉などの食肉は、関税引き下げによる国内への影響が最も心配された分野だ。深刻になるのは税率の下げ幅が大きくなる5年後、10年後との見方もあるが、そう悠長に構えてはいられない状況が出始めている。
最大の要因は食肉輸入の増加が止まらないことだ。豚肉は、2017年に93万トンと過去最高を記録し、昨年も横ばいの高い水準だったが、今年は10月までの累計で17年同期を既に4万トン上回った。過去最高を更新するのは確実な情勢だ。TPP、EPAともに2回の引き下げで従価税が1・9%へと2・4ポイント削減されたが、予想を超える輸入ラッシュとなった。
背景には、日本市場でのシェア争いが早くも始まっていることがあるとみられる。特に、この10年で対日輸出量を2倍に増やし、シェアを3割に高めたEUが今年の増加の一因だ。TPP、日欧EPA加盟国はいずれも、前年を上回っており、最大の輸出国の米国だけが前年を下回っている。
輸入が増えているのは豚肉だけではない。牛肉も、10月までの累計が、この20年間で最も多かった18年をわずかとはいえ上回っている。従来9割を占めてきたオーストラリアと米国の二大輸出国が前年を下回る中で、TPP加盟のカナダ、ニュージーランドなど新興国が追い上げている。鶏肉も10月累計で過去最高水準の輸入量となった。
食肉輸入の増加は、国産の枝肉相場に影響を及ぼし始めている。豚肉は1年ほど前から国産豚の生産回復に輸入の増加が追い打ちを掛け相場低迷となった。今年は回復の兆しが見え始めたが、夏場から輸入増で、再び弱含みの展開となっている。鶏肉相場、和牛相場も似たような構図だ。
これまで枝肉相場を大きく左右してきたのは国内の景気動向だ。この10年ほどでは、リーマン・ショック、東日本大震災が相場低迷の要因となった。この5年ほど大きな景気後退もなく、相場は安定するはずなのだが、輸入の増加で相場はますます不安定なものとなっている。
TPP、EPAに加え来年1月には日米貿易協定も発効の見通しだ。抑制効果を発揮してきた牛肉のセーフガード(緊急輸入制限措置)は、TPPからの米国離脱でほとんど期待できない。関税という防波堤が低くなる中、それを越えて食肉輸入が増えるのは先のことではない。始まっているとみるべきだ。
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2019年12月02日
農山村と関係人口 「関わりしろ」広げ育もう
住んでいなくても地域や住民といろいろな形で継続して関わる「関係人口」。三大都市圏では居住者の4分の1近くに上る。この流れを確かなものにするため、地域と関わる伸びしろ、「関わりしろ」を広げていこう。地域外の人との交流を育み、関係人口を農山村の担い手や応援団につなげたい。
国土交通省は11月、首都圏、近畿圏、中京圏に住む2万9254人にインターネットで行った関係人口に関するアンケート結果を公表した。関係人口に当たる「日常生活圏や通勤圏以外に、定期的、継続的に関わりのある地域を訪れている」と答えた人は24%。「地縁、血縁先の訪問」10%、「盆や正月に帰省」3%だった。
地域との関わり方は多様だ。調査結果から同省は、買い物や趣味を楽しむ「余暇型」、住民との交流や体験に参加する「参加交流型」、農林水産業への従事や副業など「就労型」、地域づくりへの参画など「直接寄与型」に分類。地域を訪れなくても、首都圏での販売促進を手伝うといった関わり方もある。
農山村には、この流れをどう捉えるかが問われる。訪れる人が気軽に農家と話せる場をつくったり、祭りや運動会への参加を呼び掛けたりするなど、都市住民が地域を訪れ、住民と出会う機会を増やし、関心を寄せる層を広げる仕掛けが必要だ。
離れた場所に住む人が草刈りや祭りを担うなど、地域に欠かせない存在になっている小規模集落もある。例えば、世界遺産で有名な石川県輪島市の「白米千枚田」。地元農家はわずか1戸で、周辺住民、行政やJA、大学生や都市住民らが協働で棚田を守り続けている。
地域側が注意したい点は、関係人口は「人口」という言葉が付いているものの、人数を増やすことにとらわれると対策を間違えるということだ。住民がおもてなしをするだけで終われば、地域は疲弊してしまう。地域に共感し行動する人になってもらえるよう、一人一人との関わりを大切にしたい。
一方で、農山村を訪れる都市住民も、棚田や里山などの感動する景色は、脈々と続く人々の日々の営みがあるからだということに思いをはせてほしい。地域住民と関係人口が理解し合うことが欠かせない。
関係人口を育むことは地域農業やJAにとっても重要だ。就農を目指さなくても、農業に関心を持っている若者との接点づくりを始めよう。専業農家以外の若者と関わるJAには、気付きを得たり新たな発想や交流が生まれたりしている。
国交省の調査では、特定の地域と関わりのない人のうち3割が、居住地以外の地域と何らかの形で関わりたいと希望していた。「関わりしろ」を求めていることがわかる。
人手不足、担い手不足が農業・農村の課題だ。関係人口を育む、その視点が農山村再生の鍵になる。
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2019年12月01日