農業と地球温暖化対策 欠かせぬ自給率向上 農林中金総合研究所客員研究員 田家康

田家康氏

 「農畜産物の輸入は隠れた水の輸入だ」と、東京大学の沖大幹教授は長年訴えている。農業生産には多くの水が必要であり、農産物の国際取引とは「仮想水」の輸出入と考えるからだ。沖教授の研究によれば、2000年時の日本の仮想水の輸入は、米国、オーストラリア、カナダ、ブラジルなどから640億立方メートルであり、国内の近年での農業用水量約590億立法メートルを上回るという。日本は年間平均降水量が1700ミリと真水に恵まれた国でありながら、人口増加や異常気象による水不足に苦悩する海外の国々から仮想水を輸入していることに、沖教授は警鐘を鳴らしている。

 来月にはスペインのマドリードで気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)が開かれる。15年のパリ協定で地球温暖化対策が全て決まった印象を受けるが、その後の締約国会議で実施規則が議題となっている。20年以降、加盟国は合意した実施規則に沿って、気温上昇は2度を十分に下回る水準に抑制すべく長期目標を立て、実行していくことになる。
 

産業別では4位


 温室効果ガスの排出量を産業別に見ると、農業部門も相応の割合にある。世界全体で見ると11%で、電気・暖房の31%、運輸の15%、製造業の12%に次ぐ割合だ。各国の農業部門の排出割合は産業構造によって異なるが、米国も欧州も共に9%と世界全体に近い水準にある。

 一方、日本での温室効果ガス排出量の産業別割合を見ると、16年時点で農業部門は2・6%だ。排出量そのものは1990年から一貫して減少が続いており削減努力を見て取れるが、産業別の割合の小ささ自体は農産物の多くを輸入しているからだ。
 

輸入=排出移転


 仮想水の考え方を引用すれば、農産物の輸入とは、自給自足の農業であれば国内で排出していた温室効果ガスを海外に移転していることになる。

 先に見たように、海外からの輸入仮想水は国内の農業用水を上回っている。生産額ベースで見た18年の食料自給率は66%であり、国内で消費する食料のおおむね半分を輸入していると仮定できよう。自給自足であれば、日本の農業部門の温室効果ガスの排出量は現在の2倍程度という計算になる。

 パリ協定では、先進国だけでなく全ての加盟国に対して、温室効果ガスの削減を求めている。開発途上国であっても排出量を減らす実績を上げなければならない。日本が農産物を今まで通りに輸入し続ければ、いずれは自国で対処すべき温室効果ガスを海外移転していると国際的な非難が起きる恐れがあるのではないか。

 国内農業は施設園芸での省エネなどにより、温室効果ガス削減対策の成果は着実に積み上がっている。輸入に頼らず食料自給率を高めることは、地球温暖化対策として国際的に胸を張れるに違いない。

  たんげ・やすし 1959年生まれ。農林中央金庫森林担当部長などを経て、農林中金総合研究所客員研究員。2001年気象予報士資格を取得し、日本気象予報士会東京支部長。著書は『気候文明史』『気候で読む日本史』など。
 

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