新型コロナ対応 国民の信頼絶対条件 新潟食料農業大学教授 武本俊彦

武本俊彦氏

 新型コロナウイルスとの闘いでは、国民の政府への信頼が絶対条件となる。

 例えば食生活を例に挙げると、信頼なくしては成り立たないことが分かる。そもそも生産者との顔の見える関係があればあえて信頼の有無を問うことはない。だが共働き世帯が多数を占め、農産物は加工・流通を経て消費されるようになり、農場から食卓までの距離が遠くなり、顔の見えない関係となった。そのようなシステム下であっても人々は農産物を安心して購入する。食の安全基準や表示ルールによって保たれている信頼があるからだ。

 信頼の前提となるのは、食の安全問題が生じた場合に政府が必要な情報を開示し、適切に説明責任を果たすことだ。
 

情報開示が鍵に


 今から20年前に起きた牛海綿状脳症(BSE)を参考にして考えてみよう。BSEが国内で発生した時、農水省は初期対応に失敗し、多くの国民は念のために牛肉を買い控える行動に出た。その結果、国内の牛肉産業は崩壊の瀬戸際に追い込まれたが、当時の武部勤農相は、直ちにBSEの原因とみられていた肉骨粉の国内生産と輸入を禁止し、牛の全頭検査を実施。トレーサビリティー(生産・流通履歴を追跡する仕組み)の導入により危険性のない牛の生産流通システムを確立した他、食品安全行政を確立する第三者委員会を立ち上げ、会議と資料を公表した。委員による報告書の作成により、国民の安全・安心と信頼を回復することに成功した。

 ところが、新型コロナウイルスに対する政府の対応は、十分な検査をせず、感染が疑われても病院でたらい回しにし、重症患者専用の病棟建設もしない。それどころか、危機的状況に対して専門家の意見を全く聞かず、政治家の「やってる感」で対策を打ち出しているだけだ。残念だが、この政権には、危機に際し、国民の命を最優先で守る気概も能力もないように見える。
 

根深い政権不信


 その背景は根深いように思う。モリカケ問題、桜を見る会、検事長定年延長問題など自分の仲間や身内の利益確保に一生懸命で、「身の丈」発言に象徴される格差問題には国民に自己責任を求めているなどの事態により、多くの国民があきれ果て、政府に対する信頼をなくしている。これまでの問題は、多くの国民に直接被害が及ばなかったことから大きな反対もなく、野党がオルタナティブ(代案)を示せないこともこの政権に高い支持率をもたらしていた。

 しかし、今回は国民一人一人の命に直結している問題だけに放置できない。政府の情報開示や説明責任もないので、国民が自力で命を守ろうとして、マスクなどの買いだめに走らざるを得ないのである。

 これでは日本の社会は持たないだろう。この政権が今やるべきことは、これまでの責任を明確にし、信頼される専門家のリーダーシップを確立して国民の命を守るために万全の措置を講じることではないだろうか。

 たけもと・としひこ 1952年生まれ。東京大学法学部卒、76年に農水省入省。ウルグアイラウンド農業交渉やBSE問題などに関わった。農林水産政策研究所長などを歴任し、食と農の政策アナリストとして活動。2018年4月から現職。
 

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