群馬・養蚕農家群 文化財登録進むが… 観光期待も誘客できず
2020年11月07日

蚕の生育で通風を良くした天窓から望む景色を案内する田島さん。建物は今年度中に国の登録有形文化財への登録を目指す(群馬県伊勢崎市で)
群馬県の養蚕農家住居群が残る地区で、歴史や景観を次の世代へ残そうと、文化財登録が進む。観光資源としての価値の高まりに機運が高まる一方、新型コロナウイルスの感染拡大で、思うように誘客できない状況が出てきた。観光資源に頼りがちな文化財をコロナ禍でどう守るのか。課題を探った。(木村泰之)
2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」として世界文化遺産に登録された構成遺産のうち、同県伊勢崎市境島村地区には、住居兼蚕室に天窓を設けるなどして風通しを良くした「清涼育」を考案した、田島弥平旧宅がある。周辺の4戸(1戸は隣接する埼玉県本庄市内)が今年、登録有形文化財として申請した。
申請した一人、田島一栄さん(64)の住居は、江戸時代末期に建てられ、50年ほど前まで蚕を育てていた。地元養蚕の歴史を知ってもらおうと7年ほど前から月に1度、住居内を無料で公開しており、一日に約70人が訪れる。文化財のお墨付きを得ることで、一層のPRを目指す。4戸の取り組みを受け、その他の所有者も登録を希望。田島さんは「地域全体で取り組めば発信力はより高まる。登録戸数を増やしたい」と意欲的だ。
ただ、コロナ禍で新たな懸念が生まれた。養蚕農家住居に暮らす人は、高齢者が大半。観光客の増加による感染拡大に不安を抱き、住居の開放に消極的な人も出てきた。田島さんも90代の父と同居しており、集客増加を目指す半面、感染予防対策に頭を悩ませる。
同県中之条町赤岩地区は、養蚕農家住居群が昔のまま残っていることから、06年に重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に登録された。築年数がたった外観の修繕に1000万円以上かかる事例もあるが、国・自治体の支援や農泊の収入を充て、景観を守る。
現在40戸。高齢化と過疎化は深刻だが、草津温泉などを訪れた観光客を呼び込み、地域を盛り上げてきた。それがコロナ禍で一転、誘客ができなくなっている。
農家の関駒三郎さん(88)は、築360年の住居で養蚕道具などを観光客に紹介するガイドを務める。「高齢者が多い地域で、新しいことに挑戦しにくい。コロナ禍でどう客を集めたらいいものやら」と顔を曇らす。農泊を営む篠原辰夫さん(80)は「コロナで農泊も休業中。このままでは住む人がいなくなる」と、空き家の増加を心配する。
登録有形文化財制度の創設に携わった工学院大学の後藤治理事長は「新型コロナ禍は、建物の維持や継承を見つめる機会」と指摘する。
成功している地区は、遠方から多くの観光客を呼び込むより地元リピーターを重視しているという。後藤理事長は「地元ファンを増やすには、母屋以外にも、景観を損なうトタン製の納屋を周囲になじませるなどの改修も大事。行政支援が薄い場合は、所有者を中心にした組織がインターネットで募った資金を修繕費に充てる方法もある。できることから取り組んでほしい」と提起する。
築50年がたった建造物のうち、外部の改修に対し、指導・助言といった緩やかな規制で保護する制度。内装改修や一部の外観変更に届け出が不要で、国が保存や修理の設計監理費の半分を補助する。
歴史的な集落などを、自治体の支援を受けながら保存するのが伝統的建造物群保存地区。国が認めた地区を重伝建地区にする。重伝建には国の支援も加わり、改修や保存費用9割が補助されたり、固定資産税が減免されたりする。
コロナ対策 悩みの種
2014年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」として世界文化遺産に登録された構成遺産のうち、同県伊勢崎市境島村地区には、住居兼蚕室に天窓を設けるなどして風通しを良くした「清涼育」を考案した、田島弥平旧宅がある。周辺の4戸(1戸は隣接する埼玉県本庄市内)が今年、登録有形文化財として申請した。
申請した一人、田島一栄さん(64)の住居は、江戸時代末期に建てられ、50年ほど前まで蚕を育てていた。地元養蚕の歴史を知ってもらおうと7年ほど前から月に1度、住居内を無料で公開しており、一日に約70人が訪れる。文化財のお墨付きを得ることで、一層のPRを目指す。4戸の取り組みを受け、その他の所有者も登録を希望。田島さんは「地域全体で取り組めば発信力はより高まる。登録戸数を増やしたい」と意欲的だ。
ただ、コロナ禍で新たな懸念が生まれた。養蚕農家住居に暮らす人は、高齢者が大半。観光客の増加による感染拡大に不安を抱き、住居の開放に消極的な人も出てきた。田島さんも90代の父と同居しており、集客増加を目指す半面、感染予防対策に頭を悩ませる。
同県中之条町赤岩地区は、養蚕農家住居群が昔のまま残っていることから、06年に重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に登録された。築年数がたった外観の修繕に1000万円以上かかる事例もあるが、国・自治体の支援や農泊の収入を充て、景観を守る。
現在40戸。高齢化と過疎化は深刻だが、草津温泉などを訪れた観光客を呼び込み、地域を盛り上げてきた。それがコロナ禍で一転、誘客ができなくなっている。
農家の関駒三郎さん(88)は、築360年の住居で養蚕道具などを観光客に紹介するガイドを務める。「高齢者が多い地域で、新しいことに挑戦しにくい。コロナ禍でどう客を集めたらいいものやら」と顔を曇らす。農泊を営む篠原辰夫さん(80)は「コロナで農泊も休業中。このままでは住む人がいなくなる」と、空き家の増加を心配する。
地元ファン増やそう
登録有形文化財制度の創設に携わった工学院大学の後藤治理事長は「新型コロナ禍は、建物の維持や継承を見つめる機会」と指摘する。
成功している地区は、遠方から多くの観光客を呼び込むより地元リピーターを重視しているという。後藤理事長は「地元ファンを増やすには、母屋以外にも、景観を損なうトタン製の納屋を周囲になじませるなどの改修も大事。行政支援が薄い場合は、所有者を中心にした組織がインターネットで募った資金を修繕費に充てる方法もある。できることから取り組んでほしい」と提起する。
<ことば> 登録有形文化財
築50年がたった建造物のうち、外部の改修に対し、指導・助言といった緩やかな規制で保護する制度。内装改修や一部の外観変更に届け出が不要で、国が保存や修理の設計監理費の半分を補助する。
<ことば> 重要伝統的建造物群保存地区
歴史的な集落などを、自治体の支援を受けながら保存するのが伝統的建造物群保存地区。国が認めた地区を重伝建地区にする。重伝建には国の支援も加わり、改修や保存費用9割が補助されたり、固定資産税が減免されたりする。
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奈良・明日香村移住者へ 「農+観光業」を提案 収入安定し放棄地も解消
奈良県明日香村は、観光業を営むために村に移住した人などを対象に、耕作放棄地を活用して農業に取り組んでもらうプロジェクトを2021年度から本格的に始める。初心者でもできるように、耕作放棄地を整備して貸し出し、作業も手厚く支援する。より収入が安定する「農業+観光業」の暮らしを提案し、移住の加速と耕作放棄地解消につなげる。
整備後に貸し出し
明日香村には飛鳥時代の史跡が多く残され、年間約80万人が訪れるなど観光が盛ん。……
2021年01月23日

[あんぐる] 売り切れ御免秘伝の甘味 日本最北限のサトウキビ畑と「よこすかしろ」(静岡県掛川市)
日本最北限のサトウキビ栽培地とされる静岡県掛川市南部(旧大須賀町横須賀)で、地砂糖「よこすかしろ(横須賀白)」の製糖が続いている。11月下旬から2月までしか作られない希少品で、起源は江戸時代にさかのぼる。戦後になって衰退するが、「伝統産業をもう一度」と願う有志らが1989年に復活させ、今では毎年20トンの製造が見込めるようになった。
風力発電施設を臨む畑で刈り取られるサトウキビ。風が強い一帯で2メートルほどにまで育つため、農地の防風にも利用されていたという
よこすかしろは、高級砂糖「和三盆」の原料にもなる白下糖(しろしたとう)。横須賀藩の武士が18世紀末に身分を隠して四国へ渡り、秘伝とされていた製糖技術を習得するとともに、サトウキビの苗を持ち帰って広めたと伝えられる。以来、産業として地元に根差すが、1950年代半ばになると、安価な輸入砂糖に押され、庭先に残されたわずかなサトウキビが、各家庭で消費されるほどになってしまった。
有志たちはまず、地域に残ったわずかなサトウキビから苗を育てて7アールの畑に作付けし、辛うじて製法を知る高齢者から技術を学んだ。年々耕作地を拡張し、今では作付けを40アールにまで広げ、2013年には製法を伝承するための「よこすかしろ保存会」を発足させた。19年からは大須賀物産センター「サンサンファーム」の一角で製糖を続ける。
200グラム800円。サトウキビから取れる砂糖は約8%のため、10キロから800グラム程度しか取れない。しかも、よこすかしろの製糖は全て手作業のため、1回4時間をかけて作れるのは25キロ未満。だが、保存会の松本幹次さん(68)は「収益性を上げるより、地域の文化を後世に残すことこそが目的」と話す。
コーヒーや紅茶に入れても、煮物や菓子に使っても上質な甘さが好評だが、そのまま口に入れるのが一番のお勧め。試食すると、甘さの中にほんのりとした塩味や独特の風味が感じられ、素材の味が広がる。よこすかしろと、それを使った製品は「売り切れ御免」。サンサンファームの他、市内の道の駅や老舗菓子店でも販売される。(仙波理)
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2021年01月18日

ベテランの技、JA出荷データ… クラウドへ集約し経営に“最適解” 高知で始動
高知県は20日、産官学で連携して構築を進めてきた「IoPクラウド(愛称=サワチ)」を始動させたと発表した。農家の栽培ハウスから得られる園芸作物データや環境データの他、JAからの出荷データなどを集約。人工知能(AI)を使って地域に最適な栽培モデルを示し、営農指導に役立てる。収穫量予測もでき、作物の販売にも活用する。
脱・経験依存、収穫予測も
IoPは、ナスやピーマン、キュウリなど園芸作物の生理・生育情報をAIで“見える化”するもの。2018年から構築を目指し、JAグループ高知や県内各大学、農研機構、東京大学大学院、九州大学、NTTドコモなどと連携している。
県は当面、①データ収集に協力する農家約30戸の作物の花数、実数、肥大日数などの作物データ②約200戸のハウスの温湿度、二酸化炭素濃度などの環境データ③園芸作物主要6品目の全農家約3000戸の過去3年の出荷データ──などを収集し活用する。
農家はスマホやパソコンから、クラウドに送られたハウスの環境データだけでなく、異常の監視と警報、ボイラーやかん水など機械類の稼働状況に加え、出荷状況などが確認できる。県やJAの指導員も、戸別の経営診断や産地全体の経営分析などに生かす。
22年からの本格運用を目指しており、最終的には、県内の園芸農家約6000戸のデータを連係させる。県は、「経験と勘の農業」からデータを活用した農業への転換を進めるとしている。
クラウドは県内の営農者、利活用を希望する企業などが利用できるが、まずはデータの収集に協力している約200戸の農家から利用を始める。3月末から、新規利用の申し込みができる予定だ。
農家がクラウドの機能を活用するのは無料。通信分野でシステム構築に協力したNTTドコモは希望者に対し、JAなどに出向いた「IoP教室」を開く。
JA高知県の竹吉功常務は「営農、販売でいかに活用できるかがポイント。技術の継承、出荷予測などにも使える。農家に還元できるよう、十分生かしていきたい」と強調する。
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2021年01月21日

特定生産緑地移行 都市農業振興へ勝負の一年 行政と連携集中対応 JAグループ
30年間の営農継続などの条件で税制優遇措置を受ける生産緑地の多くが2022年に指定30年を迎える。JAグループは都市農業振興に向け、同措置を引き続き受けられる特定生産緑地への移行を進める考え。指定30年を過ぎると移行はできないため「21年の取り組みが鍵を握る」とし、JAに集中的な対応を呼び掛ける。神奈川県のJAはだのは管内の農地保全を目指し、申請支援に力を入れる。(石川知世)
秦野市内の生産緑地は約100ヘクタール。……
2021年01月21日

ジンジャーしろっぷ JA福井県
JA福井県女性部福井支部の部員5人でつくる加工品製造グループ「里山食(く)うらぶ」が製造・販売する。同支部はショウガの産地化に力を入れており、規格外品を活用しようと商品化した。
炭酸水に入れれば簡単にジンジャーエールができ、コーヒーや紅茶に入れても風味を楽しめる。ショウガの働きで飲むと体が温まり、免疫力の向上や冷え性の改善などが期待できる。
1本(220グラム)500円(税別)。JAの直売所「喜ね舎(や)愛菜館」(福井市)やAコープなどで販売。
問い合わせは「里山食うらぶ」の池田美子代表、(電)090(1635)3463。
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2021年01月20日
新型コロナの新着記事

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(下) 引きこもり生活一変 新たな居場所 たくましく歩む
「自信はまだないけれど、怖いほど迷いがない。きっと僕は農業が好きなんだと思う」。新型コロナウイルス禍の2020年度に日本農業実践学園に入校した18人の中で最年少、28歳の雙田貴晃さんが、ナスを促成栽培する温床を作ろうと土壌を掘り返しながら、白い歯を見せた。
挫折からしばらく引きこもりの生活が続いた。外の世界に連れ出してくれたのが農業だった。
諦めた司法試験
「理系一家」の末っ子だ。……
2021年01月21日

メロン・大葉 相場低迷 再発令 時短営業響く
緊急事態宣言の再発令に伴う飲食店の時短営業や休業を受け、一部青果物の相場低迷が加速している。メロン「アールス」の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は平年の3割安を付け、前回発令された4月上旬と同水準に落ち込む。刺し身のつま物に欠かせない大葉も、業務需要が減って平年の3割安に低迷。小売りでの販売にも勢いがなく、相場を下支えできていない。
小売りも勢い欠く
メロン「アールス」は12月、「GoToキャンペーン」の活況により、上位等級を中心に引き合いが強まり、歳暮需要も加わり高値で推移。だが、年が明けて環境は一変した。中旬(19日まで)の日農平均価格は1キロ799円と平年の32%安で、同4割安を付けた日もある。東京都中央卸売市場大田市場では、初市以降、静岡産の高値が1キロ4320円と止め市の半値に急落し、一時は同3240円まで下げた。
卸売会社は「正月に百貨店や果実専門店に客足が向かず弱含みとなる中、再発令が重なった。ホテルやレストランが営業縮小し、売り先がない。低価格帯を中心にスーパーに売り込むが、上位等級と下位等級の価格差が縮まっていく」と厳しい展開を見通す。
加温にコストがかさむ厳寒期の軟調相場に、産地からは嘆息が漏れる。主産地の静岡県温室農業協同組合によると、交配から収穫までは、 50日程度。収穫時期をずらすことができず、供給の調整は難しい。「コストをかけ、丹精したものに値段が付かないのはつらい。スーパーなどへの販売を通し、家庭での消費拡大に期待したい」と話す。
小物商材も厳しい販売を強いられている。大葉は、1月中旬の日農平均価格が1キロ1690円。元々需要が減る時期ではあるものの、平年の28%安と低迷が顕著だ。
産地は前回の宣言時、巣ごもり需要で好調だったスーパーに販路を切り替えた。ただ、「今回はスーパーからの注文は勢いを欠き、相場を下支えし切れない」(卸売会社)情勢だ。
主産地を抱えるJAあいち経済連は「業務筋が大半を占める契約取引分の販路を新たに確保しないといけない」と説明。春の需要期の販売も見据え、コロナの早期収束を望んでいる。
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2021年01月20日

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(中) 国際協力から転身 「まず農家に」 地に足着け精進
吹き抜ける風が肌寒さを増した2020年11月下旬、水戸市にある日本農業実践学園の講義用あずまやで、多品目の野菜農家を目指す吉田誠也さん(30)が、パソコンに野菜の生育データを打ち込んでいた。背後には自身で種から育てた10品目の畑が広がる。
東京大学大学院で植物のバイオテクノロジーや分子生物学を修め、昨春から海外で農業の国際協力に携わるつもりだった。「半年前まではここにいるとは想像できなかった。でも、本当はこれが本来の順序。急がば回れで、新型コロナウイルス禍で僕は農家への道に踏み出す決断ができた」
入校者数が右肩下がりを続けていた実践学園は、研修生がゼロとなった19年度と打って変わり、20年度は18人が入校した。
2021年01月20日

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(上) コロナで体感「農業っていい」 多業種から入校生 日本農業実践学園
0度近くまで冷え込んだ晩秋、丘陵地のビニールハウスの中は春のような暖かさで、イチゴの白い花の周りには蜜蜂の羽音が響いていた。「蜂が近くに来ても払わないで。攻撃されるかもしれないから」。水戸市の郊外、新規就農者の専門学校「日本農業実践学園」の研修施設。2カ月前に入校し、1年後にイチゴ農家として独立を目指す小林克彰さん(39)が、実習作業の手伝いに来た妻の瞳さん(37)に語り掛けた。
克彰さんは、芸能人のホームページやコンサート情報を制作していた自営のウェブデザイナーだった。会社員だった30歳の頃、副業として会社が認めていた個人受注が増え、独立を決意した。2年前に工業デザイナーの瞳さんと結婚し、埼玉県三郷市に居を構えた。克彰さんが自宅で仕事、瞳さんが会社勤め、2人の生活は順風だった。
2021年01月19日

緊急事態下、切り花低迷 葬儀縮小し輪菊平年の半値
政府の緊急事態宣言再発令を受け、業務や仏花で使う切り花の相場が大きく下落している。主力の輪菊は平年の半値近くで、カーネーションやスターチスなど他の仏花商材も低迷する。都内卸は「葬儀の縮小が加速して業者からの引き合いが弱く、小売店の荷動きも鈍い」とし、販売苦戦の長期化を警戒する。
日農平均価格(全国大手7卸のデータを集計)を見ると、年明けから軟調だった輪菊の相場は、東京など4都県で緊急事態宣言が発令された後の11日以降、一段と下げが進んだ。11都府県への拡大が決まった13日には1本当たり28円と、昨年4月の宣言発令時以来、9カ月ぶりに30円を割った。15日は35円とやや戻したが、平年(過去5年平均)比28円(45%)安と振るわない。
15日の市場ごとの相場も、前市から小幅に反発した東京こそ39円だったが、大阪と名古屋で27円となるなど、大消費地を抱える宣言発令地域での低迷が目立つ。
輪菊の主産地のJA愛知みなみは「上位等級の値が付かず、平均すると平年より1本当たり30~40円安い。需要の落ち込んだ状況が続けば、来年度は定期契約で販売できる量が減り、作型の変更も検討しなければならない」と訴える。
黄菊の主産県のJAおきなわも「直近まで冷え込みが強く、例年より出荷量が少ないのに相場は上向かない」と、白菊の低迷が黄菊にも影響していると実感する。
スーパーの加工束向けも低調だ。「花持ちする時季で、店の仕入れも進まない」(都内卸)。スターチスは平年比3割安、カーネーションやLAユリは同2割安など、仏花の相場低迷が深刻だ。切り花全体の平均価格も56円と過去5年で最安水準で推移。入荷量は平年以下だが、行事の中止や縮小で需要が減少し供給過多となっている。
別の都内卸は「輪菊は供給量が落ち着けば相場をやや戻す。しかし需要は当面戻らないので、安値の展開は避けられない」と、苦しい販売環境を見通す。
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2021年01月16日
農業分野の技能実習生 1~3月2000人予定 人手不足を懸念 入国停止で農相
野上浩太郎農相は15日の閣議後記者会見で、1~3月に来日を予定していた農業分野の外国人技能実習生らが約2000人に上ると明らかにした。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、技能実習生を含む外国人の新規入国は停止中で、生産現場の人手不足が問題となる可能性がある。野上農相は影響を注視しつつ、代替人材の確保を後押しする考えを示した。
昨年12月末時点で今年1~3月に来日予定だった技能実習生らの数を、都道府県やJAなどに聞き取ってまとめた。昨年もコロナ禍による入国制限で3~9月に技能実習生ら約2900人が来日できず、人手不足となる農業経営が出ている。
野上農相は会見で「今後、日本にいる技能実習生らの在留延長や他産業からの雇用などによる代替人材の確保が必要になっていく」と指摘。代わりの人材の確保に必要な経費を支援する「農業労働力確保緊急支援事業」を通じて、生産現場を支える考えを示した。
政府は14日から緊急事態宣言の解除まで、例外的に認めていた技能実習生らビジネス関係者も含めて外国人の新規入国を一時停止している。
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2021年01月16日

実習生ら対象 外国人入国停止 人手不足深刻化も
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は14日、ビジネス関係者らに例外的に認めていた外国人の新規入国を一時停止した。この例外措置の対象には技能実習生も含まれており、昨年11月から今月10日までにベトナム、中国などから実習生約4万人が入国していた。入国制限で生産現場の人手不足に拍車がかかる可能性があり、農水省は影響を注視している。
農水省 支援活用促す
政府は、コロナの水際対策の入国制限を昨年10月に緩和し、全世界からのビジネス関係者らの入国を再開。感染再拡大を受けて12月28日には一時停止したが、中国や韓国、ベトナム、ミャンマーなど11カ国・地域のビジネス関係者らの入国は例外的に認めていた。だがこの措置も14日から、宣言解除予定の2月7日まで停止した。
この例外措置の対象には技能実習生も含まれる。出入国在留管理庁の統計によると、例外措置で入国したのは、昨年11月から今年1月10日までに10万9262人。うち技能実習生は4万808人で、全体の37%を占める。留学などを上回り、在留資格別で最多だった。
国別に見ると、ベトナムが3万6343人、中国が3万5106人で、うち技能実習生はベトナムが2万911人、中国が9322人。農業分野の技能実習生も含まれるとみられる。11カ国・地域に限定後の12月28日~1月10日にも、技能実習生として計9927人が入国している。
農水省は、農業にも影響が及ぶ可能性があるとみる。昨年3~9月は2900人の技能実習生らが来日できず、人手不足が問題となった。今年の見通しは不透明だが、「外国人を受け入れている経営は全国的に多い」(就農・女性課)として状況を注視する。一方、同省は技能実習生の代替人材を雇用したり、作業委託したりする際の労賃などを一定の水準で支援する「農業労働力確保緊急支援事業」の対象期間を3月末まで延長。農家らに活用を呼び掛ける方針だ。
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2021年01月15日
[新型コロナ] 緊急事態追加発令 7府県、栃木・福岡も 政府決定
政府は13日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を追加することを決めた。発令済みの首都圏4都県と合わせ11都府県に拡大。発令地域の人口は7000万人超で、飲食店への営業時間短縮要請による農産物の需要減少などの影響が広がる可能性がある。
全国拡大には慎重
首都圏4都県以外の都市部でも感染拡大が止まらないことを踏まえた。……
2021年01月14日
[新型コロナ] 営業短縮飲食店の取引先 最大40万円支援
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の再発令を受け、梶山弘志経済産業相は12日の閣議後記者会見で、営業時間の短縮要請に応じた飲食店の取引先に給付金を支給すると発表した。時短の影響などで1月か2月の売上高が前年同月比で半分以下に減った場合に、中堅・中小企業は40万円、個人は20万円を上限に支払う。JAや卸売業者などを通じて間接的に取引する農家も対象に想定する。……
2021年01月13日

緊急事態宣言 ガイドライン順守を コロナ感染防止で農水省
農水省は緊急事態宣言の再発令を受け、農家に新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた業種別ガイドラインの順守を呼び掛ける。ガイドラインは大日本農会のホームページに掲載。日々の検温や屋内作業時のマスク着用、距離の確保などの対策をまとめている。感染者が出ても業務を継続できるよう、地域であらかじめ作業の代替要員リストを作ることも求める。
ガイドラインは①感染予防対策②感染者が出た場合の対応③業務の継続──などが柱。予防対策では、従業員を含めて日々の検温を実施・記録し、発熱があれば自宅待機を求める。4日以上症状が続く場合は保健所に連絡する。
ハウスや事務所など、屋内で作業する場合はマスクを着用し、人と人の間隔は2メートルを目安に空ける。機械換気か、室温が下がらない範囲で窓を開け、常時換気をすることもポイントだ。畑など屋外でも複数で作業する場合は、マスク着用や距離の確保を求める。
作業開始の前後や作業場への入退場時には手洗いや手指の消毒を求めている。人が頻繁に触れるドアノブやスイッチ、手すりなどはふき取り清掃をする。多くの従業員が使う休憩スペースや、更衣室は感染リスクが比較的高いことから、一度の入室人数を減らすと共に、対面での会話や食事をしないなどの対応を求める。
感染者が出た場合は、保健所に報告し、指導を受けるよう要請。保健所が濃厚接触者と判断した農業関係者には、14日間の自宅待機を求める。保健所の指示に従い、施設などの消毒も行う。
感染者が出ても業務を継続できるよう、あらかじめ地域の関係者で連携することも求める。JAの生産部会、農業法人などのグループ単位での実施を想定。①連絡窓口の設置②農作業代替要員のリスト作成③代行する作業の明確化④代替要員が確保できない場合の最低限の維持管理──などの準備を求める。
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2021年01月09日