コロナ感染急増の北海道 病院、福祉施設に緊張走る 地域のとりで守れ
2020年11月14日

看護師や検査技師と診療について打ち合わせをする藤永所長(左)(13日、札幌市で)
11月に入り、新型コロナウイルスの感染拡大が急加速する北海道。地域の医療や福祉を守る最前線を担っているのが、医師や介護士らだ。感染者は札幌市だけでなく、道内の農山村地帯に広がりつつある。事態が緊迫する中、地域のとりでとして感染予防策の強化や病床確保など、懸命な対策を続けている。(洲見菜種、望月悠希)
道内では12日に1日当たりに報告された新規感染者が過去最多の236人を確認するなど、7日連続で150人を超え、感染拡大に歯止めがかからない。
道内で感染拡大が著しい札幌市のJA道厚生連札幌厚生病院共済クリニック。藤永明所長は「従業員はすさまじい緊張感の中で働いている」と話す。飛沫(ひまつ)感染を防ぐため診察室にパーテーションを設けたり、窓口にビニールシートを付けたりする。診察台や検査器具などは1日2回のアルコール消毒を徹底。従業員の会食制限もする。診療控えで3月以降、外来患者は3割ほど減り経営にも影響が出ている。藤永所長は「病院がパニックになり患者の不安をあおるわけにはいかない。冷静沈着に十分に感染対策をして必要な医療を提供したい」と話す。
札幌市の次に人口が多い旭川市。JA道厚生連旭川厚生病院は地域の他の病院と申し合わせ、重症・中症の患者を受け入れることになっている。同病院は「さらに感染者が増加した場合、軽症者を宿泊療養施設に移動させるなどの受け入れ病院の負担減や、個人防護服の不足に備えた支援が必要」とする。
酪農が盛んな釧路地方の弟子屈町。JA道厚生連特別養護老人ホーム摩周は、町内唯一の特別養護老人ホームとして町内や近隣の高齢者福祉を守っている。道内の別の特別養護老人ホームでクラスター(感染者集団)が発生しており「緊張感は高まっている」(菊地崇施設長)という。
同施設は特養で100人、ショートステイは約10人が利用する。菊地施設長は「認知症の利用者が多く面会や外出の制限などの感染対策が理解されないという苦労もある」と明かす。「3密」を避けたレクリエーションなどで対応するが、ストレスを抱える利用者への対応が課題だという。
農業と漁業が盛んな北見市常呂町で96人が入居するJA道厚生連特別養護老人ホームところは2月から、面会方法を変え、窓越しでの会話と無料通話アプリ「LINE(ライン)」を使った対応を取る。11月に入り、同市内の飲食店でクラスターが発生したが、同町とは距離があり、面会は現行対応を当分維持する方針。同施設は「一人でも職員が感染したり、濃厚接触者になったりして出勤停止になると、通常のサービス提供が難しくなる。その場合は人的支援が必要だ」とする。
JA道厚生連は「冷静に地域医療を守る対策を続けるしかない。厚生連だけでなく、地域の医療が一丸で連携したい」としている。
予防対策、態勢整備急ぐ
道内では12日に1日当たりに報告された新規感染者が過去最多の236人を確認するなど、7日連続で150人を超え、感染拡大に歯止めがかからない。
道内で感染拡大が著しい札幌市のJA道厚生連札幌厚生病院共済クリニック。藤永明所長は「従業員はすさまじい緊張感の中で働いている」と話す。飛沫(ひまつ)感染を防ぐため診察室にパーテーションを設けたり、窓口にビニールシートを付けたりする。診察台や検査器具などは1日2回のアルコール消毒を徹底。従業員の会食制限もする。診療控えで3月以降、外来患者は3割ほど減り経営にも影響が出ている。藤永所長は「病院がパニックになり患者の不安をあおるわけにはいかない。冷静沈着に十分に感染対策をして必要な医療を提供したい」と話す。
札幌市の次に人口が多い旭川市。JA道厚生連旭川厚生病院は地域の他の病院と申し合わせ、重症・中症の患者を受け入れることになっている。同病院は「さらに感染者が増加した場合、軽症者を宿泊療養施設に移動させるなどの受け入れ病院の負担減や、個人防護服の不足に備えた支援が必要」とする。
酪農が盛んな釧路地方の弟子屈町。JA道厚生連特別養護老人ホーム摩周は、町内唯一の特別養護老人ホームとして町内や近隣の高齢者福祉を守っている。道内の別の特別養護老人ホームでクラスター(感染者集団)が発生しており「緊張感は高まっている」(菊地崇施設長)という。
同施設は特養で100人、ショートステイは約10人が利用する。菊地施設長は「認知症の利用者が多く面会や外出の制限などの感染対策が理解されないという苦労もある」と明かす。「3密」を避けたレクリエーションなどで対応するが、ストレスを抱える利用者への対応が課題だという。
農業と漁業が盛んな北見市常呂町で96人が入居するJA道厚生連特別養護老人ホームところは2月から、面会方法を変え、窓越しでの会話と無料通話アプリ「LINE(ライン)」を使った対応を取る。11月に入り、同市内の飲食店でクラスターが発生したが、同町とは距離があり、面会は現行対応を当分維持する方針。同施設は「一人でも職員が感染したり、濃厚接触者になったりして出勤停止になると、通常のサービス提供が難しくなる。その場合は人的支援が必要だ」とする。
JA道厚生連は「冷静に地域医療を守る対策を続けるしかない。厚生連だけでなく、地域の医療が一丸で連携したい」としている。
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ベテランの技、JA出荷データ… クラウドへ集約し経営に“最適解” 高知で始動
高知県は20日、産官学で連携して構築を進めてきた「IoPクラウド(愛称=サワチ)」を始動させたと発表した。農家の栽培ハウスから得られる園芸作物データや環境データの他、JAからの出荷データなどを集約。人工知能(AI)を使って地域に最適な栽培モデルを示し、営農指導に役立てる。収穫量予測もでき、作物の販売にも活用する。
脱・経験依存、収穫予測も
IoPは、ナスやピーマン、キュウリなど園芸作物の生理・生育情報をAIで“見える化”するもの。2018年から構築を目指し、JAグループ高知や県内各大学、農研機構、東京大学大学院、九州大学、NTTドコモなどと連携している。
県は当面、①データ収集に協力する農家約30戸の作物の花数、実数、肥大日数などの作物データ②約200戸のハウスの温湿度、二酸化炭素濃度などの環境データ③園芸作物主要6品目の全農家約3000戸の過去3年の出荷データ──などを収集し活用する。
農家はスマホやパソコンから、クラウドに送られたハウスの環境データだけでなく、異常の監視と警報、ボイラーやかん水など機械類の稼働状況に加え、出荷状況などが確認できる。県やJAの指導員も、戸別の経営診断や産地全体の経営分析などに生かす。
22年からの本格運用を目指しており、最終的には、県内の園芸農家約6000戸のデータを連係させる。県は、「経験と勘の農業」からデータを活用した農業への転換を進めるとしている。
クラウドは県内の営農者、利活用を希望する企業などが利用できるが、まずはデータの収集に協力している約200戸の農家から利用を始める。3月末から、新規利用の申し込みができる予定だ。
農家がクラウドの機能を活用するのは無料。通信分野でシステム構築に協力したNTTドコモは希望者に対し、JAなどに出向いた「IoP教室」を開く。
JA高知県の竹吉功常務は「営農、販売でいかに活用できるかがポイント。技術の継承、出荷予測などにも使える。農家に還元できるよう、十分生かしていきたい」と強調する。
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2021年01月21日
次期全国大会議案 大転換期のJA像示せ
世界と日本を取り巻く情勢は新型コロナウイルスで激変した。そうした中でJAグループは10月、第29回JA全国大会を開き、中期指針を打ち出す。大転換期になくてはならない協同組合の存在感を示す「目指すJA像」を発信すべきだ。
ピーター・ドラッカーが半世紀前に書いた『断絶の時代』を改めて読み直したい。われわれが今直面している状況と重なる点が多い。彼は四つの「地殻変動」が始まったことを挙げ、これまでの経済・社会とは「非連続」の時代の到来を展望した。その一つ目は新技術・産業の出現。二つ目は経済のグローバル化。三つ目は政治と社会の多元化。四つ目は知識社会の到来。知識は情報と置き換えていいかもしれない。
まさにその時代を生きてきたわれわれは、インターネットなどの情報技術が劇的に私たちの暮らしや経済を変えたことを知っている。世界は近づき、国境の壁は取り外され、そして農産物輸入大国の日本が輸出拡大の旗を振っている。グローバル化は一方で、ウイルスや細菌といった病原体があっという間に世界を席巻するリスクを高めた。
コロナ禍が生活、経済、人々の意識に本質的な変化をもたらすかは見定める必要があるが、テレワーク、オンライン会議、ネットショッピングといったスタイルは収束後も定着すると考えられる。東京から地方への転出、田園回帰の流れが続く可能性も高い。これを一層太いものにすることが求められている。
また、コロナ禍が加速させた格差の拡大、社会の分断をどう乗り越えていくか。新自由主義的な経済から持続可能な経済への転換、地球温暖化防止といった地球的課題への関心も高まりつつある。今、転換期に立つとの意識を持つべきである。
こうした大きな視座から、協同組合の中核であるJAグループは何をすべきか。「食と農を基軸に、地域に根差した協同組合」が持つ資源とヒューマンパワーで何ができるか。次期大会議案づくりでは、今日的な課題への骨太の構想を示すべきだ。「地域になくてはならないJA」の具体的な姿と、そのための行動を提示してもらいたい。
過去2回の大会議案は、官邸主導の農協改革への対応に追われ、JA自己改革を前面に打ち出した。具体的には農業者所得の増大、農業生産の拡大、地域の活性化。これらは成果を上げたが、JAの原点として引き続き実践の手を緩めてはならない。同時に、協同組合の側から、大転換期に日本はどう対応すべきか前向きなメッセージを発信してほしい。
世界の協同組合はその存在意義が問われている。国際協同組合同盟(ICA)が掲げた「2020~30年戦略計画」の主題は、アイデンティティーの強化・深化である。あまり内向き志向にならず、協同組合らしさの発揮を組織の内外に伝える議案にすべきである。
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2021年01月18日

米輸出拡大 弁当から、香港に炊飯設備 全農
JA全農の米輸出拡大の一環で、全農インターナショナル香港は、現地企業に設備投資して国産米専用の炊飯設備を設置し、2月から販売を本格化する。おいしく炊く技術や設備を整え、米の輸出を加速する狙いだ。これを活用して日本食の弁当を製造し1日当たり約300食まで販売が拡大。今後は、飲食店や給食用への炊飯米も販売し、販路を広げる計画だ。
全農は輸出拡大に向けた政府の関係閣僚会議などで、海外の小売りなどとの関係構築が重要と訴えている。今回の連携は自らこれを実践する。
現地の食品会社、四洲集団の食品工場内に昨年、日本メーカー製のガス炊飯設備や洗米機器を設置した。費用約5000万円は、2社で出し合った。香港ではタイ米などの利用が多く、国産米をおいしく炊くには専用設備が有効と判断した。四洲集団も、日本と同じレベルのものを提供したいと意欲的という。
設備は1時間に2000食(1食200グラム)を炊く能力がある。全農子会社で給食事業を手掛ける全国農協食品が協力し技術指導や衛生管理、メニューの選定などを支援。全農グループのバックアップで、四洲集団が製造、販売する。
工場では昨年10月から製造体制の試験を兼ね、から揚げや焼き魚、筑前煮など和食を盛り込んだ「和(なごみ)弁当」を製造する。現地の宅配サービスを通じ、香港中心部のオフィス街などに販売し、売れ行きを伸ばしている。
2月以降、さらに販売を強化する計画だ。弁当だけでなく炊飯米を飲食店やスーパー向け、小・中学校の給食で使ってもらえるよう働き掛ける。地価の高い香港は調理場の狭い飲食店が多く、炊飯米は需要がある。全農側は四洲集団を通した米の販売拡大をきっかけに、現地で人気の日本の鶏卵、和牛や青果なども併せてPRしていく。
全農インターナショナル香港の金築道弘社長は「米の輸出拡大は極めて重要な課題。日本で食べたご飯のおいしさを褒める現地の人は多く、炊く技術を広げて米の輸出を盛り上げたい」と説明する。
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2021年01月23日
内閣支持が急落 コロナ対策で成果必要
日本農業新聞の農政モニター調査で菅義偉内閣の支持率が急落し、政権発足から3カ月余りで不支持率が上回った。新型コロナウイルス感染拡大防止対策と農業政策ともに評価が低いことが反映した。支持の回復には、感染防止と、農家を含む事業者の経営支援を最優先し、成果を上げることが不可欠だ。
農政モニター調査は昨年12月中下旬に行った。内閣支持率は44%で、発足直後の9月の前回調査から18ポイント下落し、不支持率は56%で同20ポイント上昇した。不支持は、首相の指導力のなさや信頼できないことなどが理由だ。新型コロナの感染拡大防止に向けた対応を「評価しない」との割合も高まり、7割になった。経済回復を重視し、感染防止対策が後手に回ったと国民から見られているといえそうだ。
農業政策でも「評価しない」(45%)が「評価する」(26%)を上回る。新型コロナ対策の経営支援も「評価しない」が6割で、評価するの2倍近い。
年が明けても感染拡大に歯止めがかからず、政府は11都府県に緊急事態宣言を再発令するに至った。飲食店の営業時間の短縮などで農畜産物の需要減少が心配され、すでに花きや高級果実は値を下げている。政権への信頼の低下が感染防止対策の不徹底につながり、感染者の増加が政権への不信感を生む。
こうした負の連鎖の中で農業経営も打撃を受けている。調査では、農業生産をしている人のうち、感染拡大の影響が続いているとの回答が5割を超えた。
負の連鎖を断ち切るには、時短営業を行う飲食店などへの十分な支援を含め感染防止対策に最優先で取り組み、併せて農畜産物の需要減少などで影響を受けた農家を徹底して支え、目に見える成果を出す必要がある。
首相肝いりの農林水産物・食品の輸出額5兆円目標の達成を巡っては「達成できない」と「過大だ」が4割を超え、やや懐疑的といえる。一方で「対策次第」が3分の1だった。輸出に農家が積極的になれるかどうかは、政策にかかっている。
日米貿易協定や環太平洋連携協定(TPP)、日欧経済連携協定(EPA)といった大型貿易協定については、程度に違いがあっても、9割近くが国内農業に「マイナスの影響がある」と予想する。影響の把握・分析をきめ細かく行い、必要に応じて対策を拡充・強化しなければ農政不信につながりかねない。
また、21年産主食用米の需給対策について「評価する」は1割強にとどまり、「課題があり見直しが必要」が4割近かった。米政策の改善では、転作推進のメリット拡充や生産費を補う所得政策の確立、生産資材の価格引き下げと米の消費喚起を求める声が強い。過去最大規模の6・7万ヘクタールの作付け転換を実現するには、米価下落への危機感の共有と対策の丁寧な説明で農家の理解を得ることが重要だ。併せて、農家視点での現行政策の検証も求められる。
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2021年01月21日
米、輸出へ「新JAS」 23年産めざし検討会議 農水省
農水省は20日、農産物検査規格・米穀の取引に関する検討会を開き、農産物検査や米の流通に関する見直し項目について、今後の具体的な検討の進め方を示した。米の輸出拡大や高付加価値販売に向けた新しい日本農林規格(JAS)の制定については、2023年産米からの実現を目指して、検討会議を設ける。……
2021年01月21日
新型コロナの新着記事

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(下) 引きこもり生活一変 新たな居場所 たくましく歩む
「自信はまだないけれど、怖いほど迷いがない。きっと僕は農業が好きなんだと思う」。新型コロナウイルス禍の2020年度に日本農業実践学園に入校した18人の中で最年少、28歳の雙田貴晃さんが、ナスを促成栽培する温床を作ろうと土壌を掘り返しながら、白い歯を見せた。
挫折からしばらく引きこもりの生活が続いた。外の世界に連れ出してくれたのが農業だった。
諦めた司法試験
「理系一家」の末っ子だ。……
2021年01月21日

メロン・大葉 相場低迷 再発令 時短営業響く
緊急事態宣言の再発令に伴う飲食店の時短営業や休業を受け、一部青果物の相場低迷が加速している。メロン「アールス」の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)は平年の3割安を付け、前回発令された4月上旬と同水準に落ち込む。刺し身のつま物に欠かせない大葉も、業務需要が減って平年の3割安に低迷。小売りでの販売にも勢いがなく、相場を下支えできていない。
小売りも勢い欠く
メロン「アールス」は12月、「GoToキャンペーン」の活況により、上位等級を中心に引き合いが強まり、歳暮需要も加わり高値で推移。だが、年が明けて環境は一変した。中旬(19日まで)の日農平均価格は1キロ799円と平年の32%安で、同4割安を付けた日もある。東京都中央卸売市場大田市場では、初市以降、静岡産の高値が1キロ4320円と止め市の半値に急落し、一時は同3240円まで下げた。
卸売会社は「正月に百貨店や果実専門店に客足が向かず弱含みとなる中、再発令が重なった。ホテルやレストランが営業縮小し、売り先がない。低価格帯を中心にスーパーに売り込むが、上位等級と下位等級の価格差が縮まっていく」と厳しい展開を見通す。
加温にコストがかさむ厳寒期の軟調相場に、産地からは嘆息が漏れる。主産地の静岡県温室農業協同組合によると、交配から収穫までは、 50日程度。収穫時期をずらすことができず、供給の調整は難しい。「コストをかけ、丹精したものに値段が付かないのはつらい。スーパーなどへの販売を通し、家庭での消費拡大に期待したい」と話す。
小物商材も厳しい販売を強いられている。大葉は、1月中旬の日農平均価格が1キロ1690円。元々需要が減る時期ではあるものの、平年の28%安と低迷が顕著だ。
産地は前回の宣言時、巣ごもり需要で好調だったスーパーに販路を切り替えた。ただ、「今回はスーパーからの注文は勢いを欠き、相場を下支えし切れない」(卸売会社)情勢だ。
主産地を抱えるJAあいち経済連は「業務筋が大半を占める契約取引分の販路を新たに確保しないといけない」と説明。春の需要期の販売も見据え、コロナの早期収束を望んでいる。
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2021年01月20日

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(中) 国際協力から転身 「まず農家に」 地に足着け精進
吹き抜ける風が肌寒さを増した2020年11月下旬、水戸市にある日本農業実践学園の講義用あずまやで、多品目の野菜農家を目指す吉田誠也さん(30)が、パソコンに野菜の生育データを打ち込んでいた。背後には自身で種から育てた10品目の畑が広がる。
東京大学大学院で植物のバイオテクノロジーや分子生物学を修め、昨春から海外で農業の国際協力に携わるつもりだった。「半年前まではここにいるとは想像できなかった。でも、本当はこれが本来の順序。急がば回れで、新型コロナウイルス禍で僕は農家への道に踏み出す決断ができた」
入校者数が右肩下がりを続けていた実践学園は、研修生がゼロとなった19年度と打って変わり、20年度は18人が入校した。
2021年01月20日

[農と食のこれから 二つの学校から]後編(上) コロナで体感「農業っていい」 多業種から入校生 日本農業実践学園
0度近くまで冷え込んだ晩秋、丘陵地のビニールハウスの中は春のような暖かさで、イチゴの白い花の周りには蜜蜂の羽音が響いていた。「蜂が近くに来ても払わないで。攻撃されるかもしれないから」。水戸市の郊外、新規就農者の専門学校「日本農業実践学園」の研修施設。2カ月前に入校し、1年後にイチゴ農家として独立を目指す小林克彰さん(39)が、実習作業の手伝いに来た妻の瞳さん(37)に語り掛けた。
克彰さんは、芸能人のホームページやコンサート情報を制作していた自営のウェブデザイナーだった。会社員だった30歳の頃、副業として会社が認めていた個人受注が増え、独立を決意した。2年前に工業デザイナーの瞳さんと結婚し、埼玉県三郷市に居を構えた。克彰さんが自宅で仕事、瞳さんが会社勤め、2人の生活は順風だった。
2021年01月19日

緊急事態下、切り花低迷 葬儀縮小し輪菊平年の半値
政府の緊急事態宣言再発令を受け、業務や仏花で使う切り花の相場が大きく下落している。主力の輪菊は平年の半値近くで、カーネーションやスターチスなど他の仏花商材も低迷する。都内卸は「葬儀の縮小が加速して業者からの引き合いが弱く、小売店の荷動きも鈍い」とし、販売苦戦の長期化を警戒する。
日農平均価格(全国大手7卸のデータを集計)を見ると、年明けから軟調だった輪菊の相場は、東京など4都県で緊急事態宣言が発令された後の11日以降、一段と下げが進んだ。11都府県への拡大が決まった13日には1本当たり28円と、昨年4月の宣言発令時以来、9カ月ぶりに30円を割った。15日は35円とやや戻したが、平年(過去5年平均)比28円(45%)安と振るわない。
15日の市場ごとの相場も、前市から小幅に反発した東京こそ39円だったが、大阪と名古屋で27円となるなど、大消費地を抱える宣言発令地域での低迷が目立つ。
輪菊の主産地のJA愛知みなみは「上位等級の値が付かず、平均すると平年より1本当たり30~40円安い。需要の落ち込んだ状況が続けば、来年度は定期契約で販売できる量が減り、作型の変更も検討しなければならない」と訴える。
黄菊の主産県のJAおきなわも「直近まで冷え込みが強く、例年より出荷量が少ないのに相場は上向かない」と、白菊の低迷が黄菊にも影響していると実感する。
スーパーの加工束向けも低調だ。「花持ちする時季で、店の仕入れも進まない」(都内卸)。スターチスは平年比3割安、カーネーションやLAユリは同2割安など、仏花の相場低迷が深刻だ。切り花全体の平均価格も56円と過去5年で最安水準で推移。入荷量は平年以下だが、行事の中止や縮小で需要が減少し供給過多となっている。
別の都内卸は「輪菊は供給量が落ち着けば相場をやや戻す。しかし需要は当面戻らないので、安値の展開は避けられない」と、苦しい販売環境を見通す。
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2021年01月16日
農業分野の技能実習生 1~3月2000人予定 人手不足を懸念 入国停止で農相
野上浩太郎農相は15日の閣議後記者会見で、1~3月に来日を予定していた農業分野の外国人技能実習生らが約2000人に上ると明らかにした。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、技能実習生を含む外国人の新規入国は停止中で、生産現場の人手不足が問題となる可能性がある。野上農相は影響を注視しつつ、代替人材の確保を後押しする考えを示した。
昨年12月末時点で今年1~3月に来日予定だった技能実習生らの数を、都道府県やJAなどに聞き取ってまとめた。昨年もコロナ禍による入国制限で3~9月に技能実習生ら約2900人が来日できず、人手不足となる農業経営が出ている。
野上農相は会見で「今後、日本にいる技能実習生らの在留延長や他産業からの雇用などによる代替人材の確保が必要になっていく」と指摘。代わりの人材の確保に必要な経費を支援する「農業労働力確保緊急支援事業」を通じて、生産現場を支える考えを示した。
政府は14日から緊急事態宣言の解除まで、例外的に認めていた技能実習生らビジネス関係者も含めて外国人の新規入国を一時停止している。
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2021年01月16日

実習生ら対象 外国人入国停止 人手不足深刻化も
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府は14日、ビジネス関係者らに例外的に認めていた外国人の新規入国を一時停止した。この例外措置の対象には技能実習生も含まれており、昨年11月から今月10日までにベトナム、中国などから実習生約4万人が入国していた。入国制限で生産現場の人手不足に拍車がかかる可能性があり、農水省は影響を注視している。
農水省 支援活用促す
政府は、コロナの水際対策の入国制限を昨年10月に緩和し、全世界からのビジネス関係者らの入国を再開。感染再拡大を受けて12月28日には一時停止したが、中国や韓国、ベトナム、ミャンマーなど11カ国・地域のビジネス関係者らの入国は例外的に認めていた。だがこの措置も14日から、宣言解除予定の2月7日まで停止した。
この例外措置の対象には技能実習生も含まれる。出入国在留管理庁の統計によると、例外措置で入国したのは、昨年11月から今年1月10日までに10万9262人。うち技能実習生は4万808人で、全体の37%を占める。留学などを上回り、在留資格別で最多だった。
国別に見ると、ベトナムが3万6343人、中国が3万5106人で、うち技能実習生はベトナムが2万911人、中国が9322人。農業分野の技能実習生も含まれるとみられる。11カ国・地域に限定後の12月28日~1月10日にも、技能実習生として計9927人が入国している。
農水省は、農業にも影響が及ぶ可能性があるとみる。昨年3~9月は2900人の技能実習生らが来日できず、人手不足が問題となった。今年の見通しは不透明だが、「外国人を受け入れている経営は全国的に多い」(就農・女性課)として状況を注視する。一方、同省は技能実習生の代替人材を雇用したり、作業委託したりする際の労賃などを一定の水準で支援する「農業労働力確保緊急支援事業」の対象期間を3月末まで延長。農家らに活用を呼び掛ける方針だ。
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2021年01月15日
[新型コロナ] 緊急事態追加発令 7府県、栃木・福岡も 政府決定
政府は13日、新型コロナウイルス感染症対策本部を首相官邸で開き、コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言の対象に栃木、岐阜、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡の7府県を追加することを決めた。発令済みの首都圏4都県と合わせ11都府県に拡大。発令地域の人口は7000万人超で、飲食店への営業時間短縮要請による農産物の需要減少などの影響が広がる可能性がある。
全国拡大には慎重
首都圏4都県以外の都市部でも感染拡大が止まらないことを踏まえた。……
2021年01月14日
[新型コロナ] 営業短縮飲食店の取引先 最大40万円支援
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言の再発令を受け、梶山弘志経済産業相は12日の閣議後記者会見で、営業時間の短縮要請に応じた飲食店の取引先に給付金を支給すると発表した。時短の影響などで1月か2月の売上高が前年同月比で半分以下に減った場合に、中堅・中小企業は40万円、個人は20万円を上限に支払う。JAや卸売業者などを通じて間接的に取引する農家も対象に想定する。……
2021年01月13日

緊急事態宣言 ガイドライン順守を コロナ感染防止で農水省
農水省は緊急事態宣言の再発令を受け、農家に新型コロナウイルス感染拡大防止に向けた業種別ガイドラインの順守を呼び掛ける。ガイドラインは大日本農会のホームページに掲載。日々の検温や屋内作業時のマスク着用、距離の確保などの対策をまとめている。感染者が出ても業務を継続できるよう、地域であらかじめ作業の代替要員リストを作ることも求める。
ガイドラインは①感染予防対策②感染者が出た場合の対応③業務の継続──などが柱。予防対策では、従業員を含めて日々の検温を実施・記録し、発熱があれば自宅待機を求める。4日以上症状が続く場合は保健所に連絡する。
ハウスや事務所など、屋内で作業する場合はマスクを着用し、人と人の間隔は2メートルを目安に空ける。機械換気か、室温が下がらない範囲で窓を開け、常時換気をすることもポイントだ。畑など屋外でも複数で作業する場合は、マスク着用や距離の確保を求める。
作業開始の前後や作業場への入退場時には手洗いや手指の消毒を求めている。人が頻繁に触れるドアノブやスイッチ、手すりなどはふき取り清掃をする。多くの従業員が使う休憩スペースや、更衣室は感染リスクが比較的高いことから、一度の入室人数を減らすと共に、対面での会話や食事をしないなどの対応を求める。
感染者が出た場合は、保健所に報告し、指導を受けるよう要請。保健所が濃厚接触者と判断した農業関係者には、14日間の自宅待機を求める。保健所の指示に従い、施設などの消毒も行う。
感染者が出ても業務を継続できるよう、あらかじめ地域の関係者で連携することも求める。JAの生産部会、農業法人などのグループ単位での実施を想定。①連絡窓口の設置②農作業代替要員のリスト作成③代行する作業の明確化④代替要員が確保できない場合の最低限の維持管理──などの準備を求める。
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2021年01月09日