「食育菜園」で農に親しむ 自然敬い生産に感謝 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
2020年11月24日
「食育菜園」という言葉をご存じでしょうか。小中学校の子どもたちが野菜作りを通して心と体を育み、食や命、環境への理解を深める授業で、1994年、米国で地産地消(Farm to Table)運動を提唱したアリス・ウォーター氏により全米に広まりました。
カリフォルニア州バークレー市にある荒廃した中学校で、食育菜園(エディブルスクールヤード)活動を始めたところ、教師や生徒から地域の大人たちまでが一致団結し、校内外の治安が改善したというのです。
この食育菜園を日本で進めているのが、一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン(以下ESYJ)代表の堀口博子さん。2014年から東京都多摩市立愛和小学校の全学年で菜園授業を実践しています。
先日、3年生のエダマメ収穫授業にお邪魔しました。子どもたちは校庭の一角にある菜園で、エダマメの根元を丁寧に掘り返し、根の張り具合や根粒菌、さやに生える産毛まで観察し、思い思いの発見をグループごとに発表していました。
食育菜園の特徴は、5教科と連携していることで、授業は各教科の担任とESYJで訓練を受けた講師(ガーデンティーチャー)の合同で行われていますが、子どもたちはこの新しい授業を初めから受け入れたわけではありません。「なぜ草むしりをしなければいけないのか。土は汚いもの」と言って嫌がる子までいたそうです。しかし、水をやり、花を観察し、膨らんでいくエダマメの世話をするうちに、目の輝きが変わっていきました。
また、地域の生産者を訪ねる授業もあります。袋詰めした野菜に値段を付けるところでは、丹精した野菜でお金もうけができることに歓声が上がったそうです。
新型コロナウイルスの影響で食や農への関心が高まったことは、国内農業を理解してもらうまたとないチャンスです。
生産者が直接関わる「食育」としては、「酪農教育ファーム」や、農泊における農体験など手法はいくつかありますが、子どもたちが日々命の成長と生産する喜びを知る場として、野菜栽培は最も身近です。
食育菜園がもたらす変化は校内にとどまりません。知識豊富な生産者へのリスペクトが生まれ、また農家の側も誇りとプライドを再確認できるでしょう。
新たな食育推進基本計画の作成が来年予定されていますが、食育で大切なのはルールの押し付けではなく、子どもが本来持っている「センスオブワンダー(自然や生命への驚きや感動)」を育むことではないでしょうか。
カリフォルニア州バークレー市にある荒廃した中学校で、食育菜園(エディブルスクールヤード)活動を始めたところ、教師や生徒から地域の大人たちまでが一致団結し、校内外の治安が改善したというのです。
この食育菜園を日本で進めているのが、一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン(以下ESYJ)代表の堀口博子さん。2014年から東京都多摩市立愛和小学校の全学年で菜園授業を実践しています。
先日、3年生のエダマメ収穫授業にお邪魔しました。子どもたちは校庭の一角にある菜園で、エダマメの根元を丁寧に掘り返し、根の張り具合や根粒菌、さやに生える産毛まで観察し、思い思いの発見をグループごとに発表していました。
食育菜園の特徴は、5教科と連携していることで、授業は各教科の担任とESYJで訓練を受けた講師(ガーデンティーチャー)の合同で行われていますが、子どもたちはこの新しい授業を初めから受け入れたわけではありません。「なぜ草むしりをしなければいけないのか。土は汚いもの」と言って嫌がる子までいたそうです。しかし、水をやり、花を観察し、膨らんでいくエダマメの世話をするうちに、目の輝きが変わっていきました。
また、地域の生産者を訪ねる授業もあります。袋詰めした野菜に値段を付けるところでは、丹精した野菜でお金もうけができることに歓声が上がったそうです。
新型コロナウイルスの影響で食や農への関心が高まったことは、国内農業を理解してもらうまたとないチャンスです。
生産者が直接関わる「食育」としては、「酪農教育ファーム」や、農泊における農体験など手法はいくつかありますが、子どもたちが日々命の成長と生産する喜びを知る場として、野菜栽培は最も身近です。
食育菜園がもたらす変化は校内にとどまりません。知識豊富な生産者へのリスペクトが生まれ、また農家の側も誇りとプライドを再確認できるでしょう。
新たな食育推進基本計画の作成が来年予定されていますが、食育で大切なのはルールの押し付けではなく、子どもが本来持っている「センスオブワンダー(自然や生命への驚きや感動)」を育むことではないでしょうか。
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JA全国女性大会 「新たな活動」で仲間を
きょう、JA全国女性大会が開かれる。活動の灯(ひ)を消さないように、関係性を絶やさないようにと各地で模索が続く中、「Withコロナ時代の新しいJA女性組織活動」をウェブ上で語り合う。インターネット交流サイト(SNS)や動画配信、ウェブ会議など新たな手法を取り入れて活動を進め、新たな層を巻き込みたい。
「できることからはじめよう」──。JA全国女性組織協議会(JA全国女性協)とJA全中が2020年9月に作成した「Withコロナ時代における新たなJA女性組織の活動指針」では、これを合言葉として、新型コロナウイルス禍からの“再起動”を呼び掛けた。
日本農業新聞くらし面では、今大会を前に「女性部活動withコロナ」を連載。JA長野県女性協議会のSNSを活用した情報発信、愛知県JAあいち海部の自宅で受講できるオンライン教室(動画配信)などを紹介した。これらの手法は今ある関係性を深めつつ、新たな層とつながることにも有効だ。各地の事例がそれを証明している。
JA全国女性協は今年、70周年という節目の年を迎える。前身である全国農協婦人団体連絡協議会の設立が1951年。加藤和奈会長は「先輩たちも困難に打ち勝ってきた」と歴史を振り返りながら、新たな活動手法を指して「コロナ下だからできることがある」と語る。
来年度は、JA全国女性協3カ年計画(19~21年度)の最終年度。計画は、国連が定めた持続可能な開発目標(SDGs)の考え方を初めて取り入れたのが特徴だ。具体的活動として、①食を守る②農業を支える③地域を担う④仲間をつくる⑤JA運営に参画する──を示した。どれも、各地の女性組織が長い年月をかけて展開してきたものだ。
コロナ下で、とりわけ重要となるのが「仲間をつくる」ことだろう。JA全国女性協の会員は、前年比3万366人減の49万1330人(20年7月時点)と減少が続き、会員拡大が長年の課題となっている。
しかし「withコロナ」の考え方で、会員以外の層に活動の楽しさや重要性を伝えられれば、少しずつでも仲間づくりは進む。仲間づくりはひいては食を守り、農業を支え、地域を担うことにもつながるだろう。
「70年という節目」と「withコロナ」。くしくも、歴史的なタイミングが重なった。今、大会やイベントに集まれずとも、できることはある。まずは少人数からでも取り組みを始めよう。
本日の大会では「できること」から始めた各地の会員がスピーチで取り組みを発表する。参考になる手法は共有して、それぞれの地域で展開してほしい。そして、JAのトップ層は女性組織活動の意義と役割を正当に評価し、支援をしてほしい。食と農を基軸にしたJAの価値を伝える重要な担い手なのだから。
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2021年01月20日
豪州と米国 市民農園ブーム コロナ禍契機に 食材自給 注目集める
新型コロナウイルス禍を契機に、海外で市民農園が注目されている。物流が混乱しても自給自足をすれば食材調達が可能だからだ。政府支援が加わり、今後はさらに拡大しそうだ。オーストラリアと米国の事例を紹介する。
オーストラリア南東部のニューサウスウェールズ州。広さ5000ヘクタールに上る自然保護地区ウエスタンシドニーパークランズで、市民農園が徐々に増えている。州の委託で保護地区を管理するウエスタンシドニーパークランズ財団がコロナ禍対策として推し進めていることが背景にある。
同財団は、2006年に地区内の13・2ヘクタールを農地に転用し始めた。16都市から訪れた市民がキュウリなどを栽培し、同州シドニー市内の直売所などで販売。コロナ禍の拡大以降はスーパーの品ぞろえが悪かったことがあり、近隣の消費者が直売所に殺到。売り上げは通常の20倍に増えた。同財団は今後、さらに52ヘクタール分を拡大する予定だ。
食品システムに詳しい同国メルボルン大学のレイチェル・キャリー教授は「自然災害や供給チェーンの混乱に備え、都市は保険政策として都市農業能力を高めるべきだ」と指摘する。
米国東部のシアトル市では、主に黒人と先住民族の間で都市農業が流行。失業者や生活困窮者にとっての自給自足手段として広がっている。
きっかけは、黒人差別抗議運動(ブラック・ライブズ・マター=BLM)を主導する社会活動家のマーカス・ヘンダーソン氏が、小さな野菜畑を作ったことだ。畑は、20年6月に機動隊とデモ隊の衝突が頻発していたキャピトルヒル自治区(デモ隊が自治を宣言した地域)の公園内にある。同氏はBLM問題を巡り警察や機動隊と激しくぶつかり合う暴力的な日々を問題視し「殴り合いよりも、差別や失業で苦しむ黒人を助けるのが優先だ」と行動を起こした。
同氏に賛同する黒人農家らが「本格的に都市住民のための農業を興そう」と集まり、シアトル市からキング牧師記念センター敷地内の空き地を正式に借り入れた。農機具や資材はインターネットで市民から寄付を募って購入。「自分の食料を自分の手で作ろう」をスローガンに、人種差別やコロナ禍で失業した生活困窮者の参加を呼び掛けた。現在、約1ヘクタールの作業に430人以上が参加しているという。
収穫する農産物は、参加者の家族に加え、市内の生活困窮者にも配る予定だ。同氏は「シアトル市内では9人に1人が生活に困窮している。まず畑の周辺7000戸の困窮家庭のうち約半数の3500戸に提供できる量は収穫できるはずだ」とみている。
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2021年01月17日

雪害復旧へ援農隊 イチゴハウスの撤去支援 JA鳥取いなば
昨年12月中旬からの大雪で管内のハウスや農業施設が被災したJA鳥取いなばは19日、鳥取農業改良普及所と協力して倒壊したパイプハウスの撤去など早期復旧に向けた援農隊の派遣を始めた。この日は、JAと普及所の職員の他、市とボランティアの農家など約30人が参加し、鳥取市青谷町でイチゴを栽培する井上智朗さん(38)のパイプハウス2棟の撤去を支援した。……
2021年01月20日
首相、輸出拡大に意欲 初の施政方針 産地支援を強調 通常国会召集
第204通常国会が18日、召集された。就任後初の施政方針演説に臨んだ菅義偉首相は、農業政策の柱に農林水産物・食品の輸出を改めて提起し、「27の重点品目を選定し、国別に目標金額を定めて、産地を支援する」と強調。2030年に輸出額を5兆円とする政府目標に向けた実行戦略の着実な推進に意欲を示した。
昨年9月に就任した菅首相にとって、初の通常国会。新型コロナウイルスの感染拡大防止や、農業を含めコロナで影響を受けた経済への対策が論戦の最大の焦点となる。
首相は演説で、地方活性化に向けた政策の柱に農林水産業の成長産業化を提起した。「地域をリードする成長産業とすべく、改革を進める」と強調。輸出拡大策の他、主食用米から高収益作物への転換などを挙げた。農業分野の規制改革については言及しなかった。
農産物輸出については20年の輸出額が「新型コロナの影響にもかかわらず、過去最高となった19年に迫る水準」と述べ、今後の拡大に向けた自信を示した。実行戦略の推進に加え、「農業に対する資金供給の仕組みも変えていく」とも語った。政府は通常国会で輸出への投資が進むよう、「農業法人投資円滑化特別措置法」を改正し、同法の対象を現行の農業法人以外にも広げる方針だ。
外交を巡っては、通常国会に承認案を提出する地域的な包括的経済連携(RCEP)や、今年1月に発効した日英経済連携協定(EPA)を成果として強調。21年は日本が環太平洋連携協定(TPP)議長国であることを踏まえ「着実な実施と拡大に向けた議論を主導していく」と述べた。20日に就任する米国のバイデン次期大統領については「早い時期に会い、日米の結束をさらに強固にする」と語った。
通常国会の会期は6月16日までの150日間。施政方針演説など政府4演説に対する代表質問は、20日の衆院本会議から始まる。
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2021年01月19日

「BUZZ MAFF」 Jリーグとコラボ動画 若者に農業PR 農水省
農水省は15日、公式ユーチューブチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」で、サッカーJリーグと連携した動画の投稿を始めた。地域の農業への理解や関心を深めてもらうため、Jリーグチームの行う農林水産業の取り組みを同省職員の「ユーチューバー」が発信する。第1弾としてJ2の松本山雅FC(長野県)、J3の福島ユナイテッドFC、ガイナーレ鳥取との動画を投稿した。
「ばずまふ」は、職員の個性や発想を生かした動画を投稿し、農業への関心が薄い若者を含めて広く情報を発信している。 現在、動画の総再生回数は620万回以上。スポーツチームと連携してPRに取り組むのは初めて。
松本山雅FCと連携した動画では、黒ずくめのばずまふユーチューバーが登場。休耕地で地域の住民と連携して1トンの青大豆を生産する取り組みを紹介し、青大豆を使った新しいスイーツの開発に挑戦する。
選手が生産した農産物を販売する「農業部」がある福島ユナイテッドFCとの動画では、選手が自ら作った米をPRする。東北農政局の職員が米を食べ、自作の応援ソングも披露する。ガイナーレ鳥取と連携した動画では、中国四国農政局の職員が、チームの職員と地域の休耕地を利用して芝生を生産・販売する取り組みについて語り合う。
今後も、全国のチームと連携した動画を配信していく。同省は「農業に取り組むクラブは他にもある。地域の農業への理解が深まれば」(広報評価課)と期待を寄せる。
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2021年01月16日
コラム 今よみ~政治・経済・農業の新着記事
生産国の穀類輸出制限 食料貿易 波乱の兆し 特別編集委員 山田優
新型コロナウイルス禍で「お正月はおとそ気分」とはなかなかならなかったが、食料貿易の現場も今年は緊張感の漂う年末年始だった。
きっかけはロシア。12月半ばに政府が突然「国内のパン価格を安定させるため輸出量を制限し、小麦、ライ麦、大麦、トウモロコシに輸出税を課す」と発表した。官報によると、2月15日から6月いっぱい、小麦の輸出に1トン当たり25ユーロ(1ユーロ約125円)徴収することになった。
さらに先週金曜日になると、同50ユーロと倍額への引き上げが決まった。「25ユーロでは効果が小さいとロシア政府が判断したようだ」と穀物業界関係者は解説する。ここ数年、ロシアは毎年3000万トン以上を輸出する、ぶっちぎりで世界一の小麦輸出国だ。当然、世界に激震が走った。
今回の輸出規制は、昨年11月ごろから通貨のルーブル安が進み、国内のインフレ圧力が高まったことが理由とされる。食べ物の恨みは政治不安につながる。プーチン大統領が「食料の輸出を減らし国内に回せ」と首相に指示した。
トウモロコシや大豆でも波乱が起きた。アルゼンチン政府は年末ぎりぎりにトウモロコシの輸出制限を決めた。やはり国内消費者を優先させたいというのが理由とされる。こちらも3000万トンを超す大輸出国だけに騒ぎとなった。その後、農家の反発を受け、1日当たり3万トンまでの輸出を認めるなど同政府の迷走が続いている。
ワシントンにある国際食料政策研究所によると、昨年、19カ国が食料の輸出制限措置を発動した。その大半が世界貿易機関(WTO)への通報をせず、突然導入された。主に新型コロナウイルス感染の混乱防止が目的で、夏には解除されたところが多い。だが、今年になってロシアやアルゼンチンなど伏兵が現れた。
年明け、シカゴ先物相場はさらに急騰した。先週の米農務省発表で、米国内でトウモロコシや大豆の在庫が、市場予想を下回ったことが主な原因とされる。中国の旺盛な輸入意欲も一因だ。火に油を注いだのが、輸出大国による輸出規制であることは間違いない。
「ロシアなどの輸出規制によるわが国への影響は現時点で確認されていない」と農水省食料安全保障室の久納寛子室長は話す。確かに日本はこれらの国からあまり穀類を輸入していない。しかし、輸出規制が広がれば国際相場が値上がりし、日本へも影響は及ぶ。年明けから食料貿易に波乱の兆しだ。
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2021年01月19日
予算編成プロセス 活性化へ有効活用を 元農水省官房長 荒川隆氏
年末にかけて、税制改正、補正予算、翌年度予算が閣議決定されると、年中無休の永田町・霞が関かいわいにも年越しの静寂が訪れる。かつて、大蔵原案の一次内示から、課長折衝、局長折衝、次官折衝という事務折衝の後に、与党政調会長も交えた大蔵大臣室での大臣折衝へと続く一連の予算編成プロセスは、年末の風物詩だった。御用納めの12月28日までに終わることはなく、閣議決定後の端数整理で生ずる残額の割り付けのための「落穂拾い」と呼ばれる作業を終えて役人たちが家路に就く頃には、紅白歌合戦が始まっていたものだ。
自らの関連予算を一円でも上積みしようと、業界関係者が全国から地元の名物を携えて上京し、手分けして役所や国会議員に陳情を繰り返す。与党各部会は、連日早朝から会議を開き、折衝状況を聴いて役人を叱咤(しった)激励する。最終段階では、大臣折衝に赴く農水大臣を与党部会全員で送り出し、折衝から戻った大臣からその赫赫(かっかく)たる成果を聴取し、同席する業界団体代表たちがお礼言上を行う。一連の政治ショーはこんな形で進む。
昭和が平成に変わった頃から、このプロセスは簡素化されていった。年末ギリギリだった閣議決定日がしだいに前倒しされ、いつしか天皇誕生日の前には終わるようになった。倫理規程のおかげで業界からの差し入れもなくなり、半ばお祭り騒ぎだった省内も、予算担当者を中心とした地味なものに変わっている。
働き方改革のご時世だから、プロセスの簡素化に越したことはないし、新型コロナウイルス禍の今回は例年以上に静かだったようだが、編成された予算総額は過去最大となった。農政関連では、すったもんだの末に第3次補正コロナ対策として盛り込まれた次期作支援対策に1300億円余りが計上された。米価下落が懸念された2020年産米対応や大幅な深掘りが必要となる21年産米対策も、補正予算に350億円、当初予算に対前年同額の3050億円が確保された。「コンクリートから人へ」の被害者でもあった農業農村整備事業も、当初予算額をさらに伸ばして全国の事業要望に十分応えられる水準となったようだ。新基本計画で打ち上げられた「食と農の国民運動の推進」も、4億円と金額は少ないものの運動のはずみ車としての芽出しはできた。
これらの予算編成作業は、日の当たる政治プロセスの陰で黒衣(くろご)として働く霞が関の役人たちが、厳しい予算制約の中で知恵を絞り粘り強く財政当局と折衝した生みの苦しみのたまものだ。農業関係者におかれては、予算事業を有効活用し経営改善や地域活性化に努力するとともに、都市住民・消費者・経済界など各界各層を巻き込み、この国の農業・農村への理解を深める運動に取り組んでいただきたい。
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2021年01月13日
外国頼み危うい観光 経済構造転換が必要 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
GoToトラベル事業を巡る議論には、経済社会の構造そのものをどう転換するか、という視点が欠如している。GoToトラベルは都市部の3密構造をそのままにして、感染を全国に広げて帰ってくるだけだ。
GoToトラベルはあくまで観光であり、観光に依存した地域振興はそのままである。つまり、根本的には、都市人口集中という3密構造そのものを改め、地域を豊かにし、地域経済が観光や外需に過度に依存しないで地域の中で回る循環構造を強化する必要がある。
地域に働く場をつくり、生産したものを消費に結び付けて循環経済をつくるには、農林水産業が核になるはずである。農林水産業が元気で地域の環境や文化が守られなくては、観光も成り立たない。ましてや、輸出5兆円が実現できるわけがない。足元を見ずに、観光だ、インバウンド(訪日外国人)だ、輸出だ、と騒ぐのは本末転倒だ。
政府が何に力を入れていくべきかは明らかだ。地域の実態は厳しさを増している。集落営農組織ができていても、平均70歳を超え、基幹的作業従事者の年収が200万円程度で後継者がおらず、年齢をプラス10すれば、10年後の崩壊リスクが高い集落が全国的に激増している。また、農家の1時間当たり所得は平均で961円。後継者を確保しろとは酷である。
飼料の海外依存度を考慮すると、牛肉(豚肉)の自給率は現状でも11%(6%)、このままだと、2035年には2%(1%)、種の海外依存度を考慮すると、野菜の自給率は現状でも8%、35年には3%と、信じ難い低水準に陥る可能性さえある。国産率96%の鶏も飼料とひなの海外依存度を考慮したら自給率はほぼ0%だ。これでは地域コミュニティーを維持できるわけがないし、不測の事態に地域の住民や国民への量的・質的な食料安全保障の確保は到底できない。
GoTo事業のもう一つの問題は、経済を回して迂回(うかい)的に支援する仕組みにある。経済は回さずに必要な人に直接所得補償をすべきだ。感染抑止になるし、必要な人に支援が届くまでの中間で予算が雲散霧消する構造を打破できる。
予算の「雲散霧消」は今に始まったことではない。例えば、08年の餌危機には、国は緊急予算を3000億~4000億円手当てした。それを、そのまま緊急的な乳価補填(ほてん)などに使えば、機動的に畜産・酪農所得を支えられたが、乳価補填には100億円程度しか使われなかった。
大部分はどこへ行ったのか。なぜ、もっと直接的に農家の所得補償ができないのかと、食料・農業・農村審議会の畜産部会や農畜産業振興機構の第三者委員会において疑問を呈したのは消費者側委員だった。生産者と消費者は運命共同体だ。
今こそ、国の予算もシンプルで現場にダイレクトに届くように構造転換すべきときだ。
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2021年01月05日
心に与える価値見直し 農へのハードル低く 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
年末は自宅で紅白を見る人も多いでしょう。2020年最後のメッセージは何か、出場歌手の選曲に注目が集まりますが、国民的アーティストの松任谷由実さんは「守ってあげたい」を歌うそうです。ユーミンはライブ活動の場を失った音楽家たちの応援プロジェクト大使も務めています。そのインタビューでの言葉が印象的でした。
「アーティストがステージに立つのは、誰かに何かをしてもらうよりも、自分が誰かを喜ばせる方が、エネルギーがみなぎるから。こういう世の中だからこそ笑顔と親切を人にあげることができたなら、それは自分自身の力になる」
人に何かを供給してもらうのが消費者(ファン)ならば、生み出し与える人は、生産者(アーティスト)に他なりません。音楽や芸術が人の暮らしに豊かさをもたらすように、農も食料生産だけでなく、人の心に与える価値が見直されています。
筆者の住む東京・世田谷の農園では、コロナ禍で近隣の人の散歩が増え、収穫体験や庭先販売への需要も増し、都市農業への重要性が再認識されました。
また、静岡県浜松市引佐町にある「久留女木の棚田」では市民向けに棚田塾を開いていますが、自粛期間中、遠出をできない人たちが「何か手伝うことはないか」とこぞってやって来て、まさかの労働力過剰になったそうです。人は食べ物のみに生きるにあらず。息抜きや安らぎの場が必要なのです。
都市農業も中山間地も小規模で非効率ですが、多様な人が関わる居場所、癒やしやイベント空間としての需要はますます高まっています。農の現場に必要なのはそうした細やかなニーズを受け止めるセンスとマッチングではないでしょうか。
JA全農では12月から、旅行大手のJTBと提携して「副業」としての農作業の人材確保に取り組み始めました。職を失った観光業界の従業員に働く場を提供すれば、本人にも地域経済にも喜ばれます。既に70人の従業員が、かんきつの収穫作業に従事しているそうです。
受け入れのハードルを下げ、多様な農への関わり方を提案し、働く側の視点でマッチングすれば、農は都市の受け皿になり得ます。関わる人が増えれば、そこから本格的に農業を志す人も出てくるかもしれません。農ライフへ若者を(中高年でも)いざなう半農半Xや農福連携といった細やかなアプローチに来年は期待します。
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2020年12月29日
好調な米国の農家経済 補助金が支える意義 特別編集委員 山田優
米国の農家は今年、ウハウハの状態で年末に帯を結べるようだ。中国などとの貿易摩擦で農産物輸出に陰りが出たり、新型コロナウイルス感染の広がりで肉畜の出荷が滞ったりしたが、夏以降、穀物相場が予想以上に回復して挽回した。今月初めの米農務省の発表によると、食料危機で相場が高騰した2013年以来の現金収入が見込める。
順調な農家経済の背景には、膨大な補助金の存在もある。11月の大統領選挙を意識したトランプ政権は、貿易摩擦や新型コロナの尻拭いのため、今年、空前の約5兆円を農家に直接ばらまいた。同省の試算では政府補助金が農家の利益の39%を占めるというから、半端ではない。多くの農家が選挙でトランプ氏を熱狂的に支持した理由が分かる気がする。
手厚い共通農業政策が続いている欧州では、米国以上に補助金が農家経営の下支えになっている。例えば加盟国の一つフランスの場合、農業収入に占める直接支払いの割合は3割で、32万戸の対象農家の平均受取額は280万円になる(2018年)。サラリーマンで言えば、基本給に相当するような額だ。
「日本の農業は補助金で成り立っている」という批判を見掛ける。だが、桁外れの大規模農業が可能なオーストラリアやアルゼンチンなど一部の新興国を除き、先進国の多くで農業保護は当たり前だ。補助金で農家を支えないと、多くの家族経営が行き詰まる。農地が荒れ食料供給が滞り、地域のにぎわいも消える。農業が持っている多面的な機能が失われれば、国全体に大きな悪影響を及ぼす。
一方で、世界各地で近年農業保護の在り方に鋭い目が注がれるようになってきた。米国と欧州は来年、長期農業政策の見直しが本格化する。どちらも大規模な企業型農業に対する支援を削って家族農業の取り分を増やし、環境への貢献に応じた補助金に大胆に衣替えするべきだなどの議論が出ている。
国家財政の逼迫(ひっぱく)や経済格差の広がりが背景にある。かつて社会の弱者だった先進国の農家の多くは都会の低所得者に比べて豊かな生活を営むようになった。
「なぜ農業が大切なのか」。限りある税金から農業を支えることの理由が、これまで以上に世界中で問われている。
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2020年12月15日
組織改正と行政力 食料産業発展に期待 元農水省官房長 荒川隆氏
師走の声を聞き、来年度予算編成も大詰めだ。予算の陰に隠れ目立たないが、役所にとって負けず劣らず重要なのが、組織定員要求だ。組織の形を定め、その格付けごとの定員(級別定数)を決める組織定員要求は、役人にとって自らの処遇や組織の格にも関わる大事だ。
橋本内閣が道筋をつけた2001年の省庁再編により、1府22省庁の中央官庁が再編され、現在につながる1府12省庁(当時)体制が導入された。役所の数を減らすだけでなく、各省庁の内部部局も一律に1局削減するとともに、全省庁を通じて局の数に上限が設定された。国土交通省や総務省など統合省にあっては、内局の数も多く問題はなかったろうが、単独省として存続した農水省では、どの局が削減されるか大議論になった。定員の割に局の数が少ない農水省で、5局(当時)を4局(当時)に再編することは難題で、結局、「畜産局」が廃止され耕種部門(農産園芸局)と統合し「生産局」が設置された。
今、その「畜産局」が復活するかどうかのヤマ場を迎えている。「生産金額では米を凌駕(りょうが)している」「今後の輸出拡大の目玉だ」など理屈はいろいろあろうが、それはそれで、「昔の名前で出ています」の感がなくもない。5兆円の新たな目標に向かい、今後本格化するだろう輸出攻勢を担う「輸出・国際局」の新設と「合わせ一本」ということだろう。
この組織改正の陰で見逃せないのが、飲食料品産業や外食産業などを所掌する部局の位置付けの変更だ。現在はその名の通り「食料産業局」が設置されているが、新組織案では、大臣官房に「新事業・食品産業部」なるものが設置されるらしい。わが国の食料・農林水産業の売り上げは100兆円で、そのうち農業が8兆円、林業・水産業は4兆円、残りは全て広義の食料産業部門だ。その食料産業部門を国の行政組織としてどう扱うかは、農水省の組織改正の歴史上、悩ましい問題だった。とかく1次産業偏重、農業偏重といわれてきたこの役所で、1972年に「企業流通部」が局に格上げされ、現在の「食料産業局」の前身である「食品流通局」が設置された。食料産業関係者の悲願が実現したのだ。
あれから50年、今般の組織改正が、よもや食料産業の格下げではないと信じたいが、はたからはそんな懸念も聞こえてくる。多忙な官房長が新たなこの部を直接指揮監督するのは難しかろうから、何らかの総括整理職が設置されるのだろう。それにより、「輸出・国際局」や作物原局(農産局、畜産局、林野庁、水産庁)との連携が今以上に図られ、食料産業のますますの発展につながる組織改正となることを期待したい。
凡人の懸念が杞憂(きゆう)で終わりますように。
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2020年12月08日
自家増殖制限と種の海外依存 公共的支援枠組みを 東京大学大学院教授 鈴木宣弘氏
種苗の自家増殖を制限する種苗法改定の目的は種苗の海外流出の防止とされてきたが、その説明は破綻した。農家の自家増殖が海外流出につながった事例は確認されておらず、「海外流出の防止のために自家増殖制限が必要」とは言えない。
むしろ、「種子法廃止→農業競争力強化支援法8条4項→種苗法改定」で、米・麦・大豆の公共の種事業をやめさせ、その知見を海外も含む民間企業へ譲渡せよと要請し、次に自家増殖を制限したら、企業に渡った種を買わざるを得ない状況をつくる。つまり、自家増殖制限は種の海外依存を促進しかねない。
種苗法改定の最大の目的は知財権の強化による企業利益の増大である。環太平洋連携協定(TPP)では製薬会社から莫大(ばくだい)な献金をもらった米国共和党議員が新薬のデータ保護期間を延長して薬価を高く維持しようとした。基本構造は同じである。
また、農家の権利を制限して企業利益の増大につなげようとするのは、人の山を勝手に切ってバイオマス発電したもうけは企業のものにし、漁民から漁業権を取り上げて企業が洋上風力発電でもうける道具にするという農林漁業の一連の法律改定とも同根である。
そして、議論が許諾料の水準にすり替えられた。問題は、公共の種が企業に移れば自家増殖を許諾してもらえず、毎年買わざるを得なくなることだ。
また、登録品種は1割程度しかないから影響ないというデータの根拠も怪しいと判明した。かつ、在来種に新しい形質(ゲノム編集も)を加えて登録品種にしようとする誘因が高まるから、それが広がれば、在来種が駆逐されていき、多様性も安全性も失われ、種の価格も上がり、災害にも脆弱(ぜいじゃく)になる。
ただし、農水省を責めるのは酷である。自らの意思と別次元からの指令で決まったことに苦しい理由付けと説明をさせられているのが農水省の担当部局である。畜安法改定、漁業法改定、森林の新法も同じで、良識ある官僚は断腸の思いだろう。
安全保障の要の食料の、その源は種である。野菜の種は日本の種苗会社が主流とはいえ、種採りの9割は外国の圃場(ほじょう)だ。種までさかのぼると野菜の自給率は8割でなく8%しかない。新型コロナウイルス禍で海外からの種の供給にも不安が生じた。さらに、米・麦・大豆も含めて自家増殖が制限され、海外依存が進めば、種=食料確保への不安が高まる。
何千年も皆で守り育ててきた種は地域の共有資源であり、それを「今だけ、自分だけ、金だけ」の企業が勝手に改良して登録してもうけるのは「ただ乗り」による利益の独り占めだ。地域の多様な種を守り、活用し、循環させ、食文化の維持と食料の安全保障につなげるために、ジーンバンク、参加型認証システム、有機給食などの種の保存・利用活動を支え、育種家・種採り農家・栽培農家・消費者が共に繁栄できる公共的支援の枠組みが求められている。
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2020年12月01日
「食育菜園」で農に親しむ 自然敬い生産に感謝 農業ジャーナリスト 小谷あゆみ氏
「食育菜園」という言葉をご存じでしょうか。小中学校の子どもたちが野菜作りを通して心と体を育み、食や命、環境への理解を深める授業で、1994年、米国で地産地消(Farm to Table)運動を提唱したアリス・ウォーター氏により全米に広まりました。
カリフォルニア州バークレー市にある荒廃した中学校で、食育菜園(エディブルスクールヤード)活動を始めたところ、教師や生徒から地域の大人たちまでが一致団結し、校内外の治安が改善したというのです。
この食育菜園を日本で進めているのが、一般社団法人エディブル・スクールヤード・ジャパン(以下ESYJ)代表の堀口博子さん。2014年から東京都多摩市立愛和小学校の全学年で菜園授業を実践しています。
先日、3年生のエダマメ収穫授業にお邪魔しました。子どもたちは校庭の一角にある菜園で、エダマメの根元を丁寧に掘り返し、根の張り具合や根粒菌、さやに生える産毛まで観察し、思い思いの発見をグループごとに発表していました。
食育菜園の特徴は、5教科と連携していることで、授業は各教科の担任とESYJで訓練を受けた講師(ガーデンティーチャー)の合同で行われていますが、子どもたちはこの新しい授業を初めから受け入れたわけではありません。「なぜ草むしりをしなければいけないのか。土は汚いもの」と言って嫌がる子までいたそうです。しかし、水をやり、花を観察し、膨らんでいくエダマメの世話をするうちに、目の輝きが変わっていきました。
また、地域の生産者を訪ねる授業もあります。袋詰めした野菜に値段を付けるところでは、丹精した野菜でお金もうけができることに歓声が上がったそうです。
新型コロナウイルスの影響で食や農への関心が高まったことは、国内農業を理解してもらうまたとないチャンスです。
生産者が直接関わる「食育」としては、「酪農教育ファーム」や、農泊における農体験など手法はいくつかありますが、子どもたちが日々命の成長と生産する喜びを知る場として、野菜栽培は最も身近です。
食育菜園がもたらす変化は校内にとどまりません。知識豊富な生産者へのリスペクトが生まれ、また農家の側も誇りとプライドを再確認できるでしょう。
新たな食育推進基本計画の作成が来年予定されていますが、食育で大切なのはルールの押し付けではなく、子どもが本来持っている「センスオブワンダー(自然や生命への驚きや感動)」を育むことではないでしょうか。
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2020年11月24日
田舎のトランプ熱 大統領選示した不満 特別編集委員 山田優
「ようやく道化師がサーカスから追放されたよ」。主要メディアがバイデン氏が第46代大統領に当選を固めたと報じた8日、古い友人であるジェームズ・シンプソン米フロリダ大学名誉教授からメールが届いた。
うそつきで傲慢(ごうまん)。人種差別主義者で自意識過剰のトランプ大統領は、月曜日の段階でまだ敗北を認めていないが、ホワイトハウスの主人には、バイデン氏が就任する見通しだ。
何といっても米大統領は世界最強の権力者。核兵器の発射ボタンも押せるだけに、道化師が去ってくれることにほっとする。バイデン氏に投票した多くの有権者も同じ気持ちだろう。
一方で、「なぜだろう」という疑問も抑えることができない。
トランプ大統領は、敗者として過去最高の7000万票をかき集め、農村部ではバイデン氏を圧倒した。地方ニュースを扱う米デイリー・ヨンダー紙の地域別の投票分析では、田舎に行けば行くほど有権者はトランプ支持が当たり前になる。トランプ氏の集票率は主要大都市中心部では35%しかない(バイデン氏集票率は63%)ものの、一番田舎に分類される所では79%に跳ね上がる(同20%)。驚かされるのは4年前に比べ、田舎と分類される地域ではいずれもトランプ氏の集票率が少しずつアップしていることだ。
農家を含めた地方在住者は、徹底した米国第一、保護主義を唱えたトランプ氏に期待を掛けた。巨額の農業補助金や減税などは間違いなく要因の一つだが、田舎のトランプ熱はそれだけではないような気がする。
農家を回ると、企業の海外進出や廃業によって、安定した雇用の場所が失われ、町から活気が失われたという声をよく聞いた。巨大企業や都会の富裕層はますます豊かになり、田舎の疲弊が止まらない。雇用を奪う中国への反感は強い。グローバリゼーションを錦の御旗にする既存政治に対する不満が、トランプ氏を魅力的に映す背景になった。
米国と日本の田舎が直面する課題には、共通するところがある。グローバリゼーションや規制緩和を振りかざす政治は問題の解決策ではなくて原因だ。米国の田舎は、米国第一を掲げた道化師を支持し続けることで自らの意思を示した。日本版トランプの登場は願い下げだが、日本の田舎も声を上げる時ではないだろうか。
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2020年11月10日
「文化の日」に寄せて… 公益貢献 競馬の勧め 元農水省官房長 荒川隆氏
今日は文化の日だ。新型コロナウイルス禍ではあるが、GoToキャンペーンなども活用して工夫を凝らしたさまざまな観光・文化活動が行われている。そんな熱心で生真面目な国民に、欧米流の文化的で豊かなリゾートを提供しようという考えなのか、特定複合観光施設(IR)なるものの整備が進められようとしている。長年民業によるばくちはご法度だったこの国で、合法民間カジノ施設の整備・運営を可能とする法整備が2年前に行われ、立地自治体や事業者選定のプロセスが進められているようだ。
現在日本には、通称「公営ギャンブル」と呼ばれる合法賭博類似事業が4種類存在している。競馬、競輪、競艇、オートレースだ。戦前からの軍馬育成と祭事競馬の伝統を持つ由緒正しいわれらが競馬(農水省の所管)以外は、戦後、競馬の馬産振興・畜産振興を参考に、機械産業振興や船舶振興を目的とすることで立法化されたものだ。
賭博類似行為だから下手を打たない限り胴元はもうかる仕組みで、その上がりを勝手気ままに乱用しないよう、胴元を公的団体に限定するなどの法規制が行われている。もちろん、賭博に付きものの「八百長」排除の観点から、競馬で言えば実際の競走に従事する騎手、調教師、厩務(きゅうむ)員、馬主などの関係者は免許や登録など厳格な統制下にある。
そんな公正確保措置を講じた上で、多くのファンに勝馬投票券(馬券)を購入してもらうためには、興行として楽しめる工夫も必要だ。今年は無観客興行を余儀なくされたが、全国各地の地域色豊かな競馬場で季節の移ろいを感じられる物語性のあるレース体系が構築されている。もちろん馬券のうまみもファンにとっての醍醐味(だいごみ)であり、1着馬を当てる単勝など低配当の3種類の時代が長く続いたが、今や9種類に拡充され、一獲千金も夢ではない。
こんな関係者の努力の結果、生み出された財源は、国や地方自治体に納付され公共施設の整備などに充当されるとともに、畜産・酪農の振興にも活用されている。全ては、数百万人の競馬ファンが投じる馬券購入資金がその源泉であり、これからもファンに大いに楽しんでもらいつつ公益にも貢献する競馬が公正に施行されることが大切だ。まさに、競馬は一つの文化だ。
今年は、無敗の3歳馬が、牝牡(ひんぼ)ともに三冠を制するという快挙が成し遂げられた記念すべき年となった。また、今日は大井競馬場で地方競馬の祭典JBC(ジャパンブリーダーズカップ)競走が行われる。われらが競馬ファンにおかれては、他の娯楽に浮気することなく、秋競馬から年末の有馬記念・東京大賞典へと続く絶好の競馬シーズンに、大いに競馬文化を楽しみ、安心して馬券を購入し、公益貢献していただきたい。
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2020年11月03日